|
第一回目は武田薬品工業で医薬品開拓部の研究員をなさっている、田中さんにお話を聞いてきました。車が趣味で、最近衝動買いしたというスバルの車は、車好きの私にはうらやましい限りでした。とても面白い方で、参考になる多くのお話を聞かせていただきました。
インタビュー内容
▼この道を選んだ理由
▼学習について
▼研究に関して
▼研究体制について
▼成功と失敗
▼化学とコンピュータ
▼目標、アドバイス
▼この道を選んだ理由
B&B:まずお聞きしたいのですが、田中さんは高等専門学校卒業ということですが、学生時代はどのような研究をなさっていたのですか?
田中さん:まあ研究と言うほどのものではないのですが、ポルフィリンの錯体を合成していました。結局、高専は研究できるのが午後だけなんですよ。しかも、午前は普通の授業をやっていて、午後に研究という感じなので、普通の大学の研究室で1テーマ1年ぐらいでやる作業を3年ぐらいでやるような感じですか。
B&B:高専はどこでもそのようなカリキュラムでやっているのでしょうか?
田中さん:いや、もちろん高専によっても違いますし、担当の先生によっても違いますから、私のところでいうと、このような形でした。
B&B:そうですか。それでは、この道を選んだ理由はなぜなのでしょうか?
田中さん:うーん。化学といえば合成だろうという考えがあったので。高専は4、5年に選択授業があって、その時に有機合成に近い授業をとって、5年の研究室選択の際も、卒業してからも合成をやりたいからという理由で。それに近い研究室を選びました。忙しいからみんな嫌がっていたのですけど。楽なところがいいと普通思いますよね。
B&B:そうですね。私達の大学でも同じようにみんなあまり行きたがりませんね。それでは会社の方はどのような考えで選んだのですか?
田中さん:求人が来ている所が低分子の合成系の会社がなくて、そのときコンピュータ関連の走りで求人が多かったんですよ。まあ、コンピュータ関係は一生ものの仕事ではないと、そのときは思ってやめて、化学系ならば工場ではなく研究所に行きたいと思っていたので、探していたら武田があったので、決めました。
B&B:そうですか。それでは入ってみて、理想と現実のギャップなようなものはありましたか?
田中さん:やっぱり知識の不足ですね。いまだに感じています。やっぱり高専で学んできたものではたかが知れてますから、実践で学んで、さらに自分で勉強していくしかないので。有機化学に関しては学生時代はゥなり自信があったのですが。井の中の蛙でした。
▼学習について
B&B:それでは、研究以外の学習についてお聞きしたいと思います。まず、会社などでよく読む論文はなんですか?
田中さん:通常読んでいるのは、J.Org.Chem.とかTetrahedronシリーズですね。あとはBioorganic&
Medical ChemistryとそのLetters、J.Med.Chem.とかまあ要するに薬学、有機合成の関連ジャーナルは一通り目を通しています。最近はどうしても薬理の方の知識が必要となってきているので、その関係のものも読んでいます。
B&B:例えばどのような文献なのでしょうか?
田中さん:文献というよりも基本的な教科書ですね。生化学とはちょっと違うのですが、薬学部や医学部の方が教科書に使っているようなものを読んでいます。薬を作っているので、その辺の知識は必要なのですが、有機合成だけをやってきた人はどうしてもその辺の知識が少ないですから。
B&B:そうですね。そのあたりの勉強は企業に入られてからですか?
田中さん:最近の話です。今の上司の方針が「薬を作っているのだから、薬がどう作用してるのかわからないといけな
い」ということなので、そういうテーマで週一回のセミナーをやっているんですよ。その中では化合物の構造は出てきますけれど、合成の話は出してはいけないのです。「合成で飯を食っているのだから合成を知っていて当然だ。知らないのは薬理の話であるからそれを勉強するんだ。」ということです。
B&B:そうですか。厳しいですね。みな一からのスタートというわけですか。
田中さん:そうですね。薬学出身の方はある程度の知識はあるでしょうけれど。
B&B:高専の方で、生物や薬学関係の話は学んできたのですか?
田中さん:私のいた高専では生物というのは全然やらなかったんですよ。生化学が少しやるくらいで、それも本当にさわりだけでしたので。まあ、そういう全然知識のない状態からなので、かなり大変ですね。
B&B:そうですか。わかりました。
▼研究に関して
B&B:それでは田中さんの行っている研究の内容についてお聞きしたいと思います。オーファン受容体a)研究、シード/リード化合物の創出ということなのですが、具体的にどのような研究をなさっているのでしょうか?
|
田中さん:いや、基本的には普通の大学の研究室でやっている合成と同じですよ。反応、
抽出、カラム、再結晶して・・ということです。
B&B:そうなのですか。
|
参考1:製薬の流れ |
田中さん:オーファン受容体についているリガンドb)は天然のもので、ペプチドが多いのですが、リガンドに似たものを合成してもってくれば、薬として効くものがあるだろうということで、そういうものを合成したり、ハイスループット・
スクリーニングのためのサンプルを作ったりしています。私の働いているところは医薬品の初期段階(開拓)の ところになるわけです。
B&B:ハイスループット・スクリーニングとは?
田中さん:それは、簡単に言うと人間ならば1つ1つ試験管で反応させて、受容体と結合するかどうか調べるわけです
が、それを機械に任せて、1日に何万個とかやっているんですよ。機械ならば夜通し動かしても問題ないわけですから。効率の問題ですね。
B&B:わかりました。大学にもあったらいいなあ。でも機械は高そうですね(笑)。
田中さん:高いと思いますよ(笑)。値段まではよく知りません。まあそれがハイスループット・スクリーニングの考え方で、それをやるためには1日に何万という化合物が必要なわけです。だから、それも作るのも仕事ですね。そ
れを早い時間で大量に作ろうという考えがコンビナトリアル・ケミストリーなわけです。
B&B:はい。
田中さん:仕事の流れは、初めに今話したように試験管の中で合成したものを評価するんですよ。それで、効いたものを次にさらに最適化して、今度は病気を持った動物等にその薬を飲ませて効くかどうかを見ていきます。その中で今私が担当しているのは、最適化の部分です。
B&B:効果のあるものをさらに合成して改良するわけですね。
田中さん:そうですね。しかし、実際に人間に効くか、大丈夫か、持続性はあるのかということころまで持っていくのは、その後の創薬の方の仕事になります。例えると、種を植えて芽を出すのが私達の仕事で、その後に育てて実にしようとするのは創薬の方の仕事ということです。
B&B:わかりやすいですね。それでは、その最適化やシード化合物を合成するのに使う反応は一般的な有機合成 反応なのですか?酵素等は使ったりするのですか?
田中さん:そうですよ。普通の有機合成反応です。酵素は私のところではあまり使いません。まあ、不斉反応の場合では、専門家がいますから使う場合もありますけど。
B&B:そうですか。それでは、ある程度「効く」薬ができたとしても、やっぱりコスト面で見て高いから中止ということ
はあるのでしょうか?
田中さん:たくさんありますよ。ただそういうコストがどうだと言う問題に関しては、創薬(製造法の研究)のところで問題になりますね。私のところではそういう意味のコストの問題はありません。しかし、最適化した段階で使った反応が、工業化の段階で工業化できないということはあります。まあ、医薬品なので他の化学製品ほどにはコストというところはあまり最重要視されない面もあると思います。
(補足 もちろん低コストで作ることは重要ですが。それよりも薬効や純度、安全性が最重要視されるということです)
B&B:わかりました。それでは、初めに評価して「効いた」ものをどのような方向性で改良していくのですか?
田中さん:基本的にはある程度効いたものをみて、それを自分の考えで改良していくわけですが、他の判断として1つは他社の情報があります。他社が特許やペーパーを出していれば、こういう構造をもっていれば効くのではというのは想像つきますよね。もう一つは、コンピューターを使った計算ですね。受容体は「鍵穴」とよくいわれますが、その鍵穴の形がわかれば、例えばその鍵穴にベンゼン環が1個必要なのか、2個必要なのか、どの方向に置換基を入れればよいかということがわかりますよね。そういう考えでをコンピュータやっていく方法もありますけど、まだあまり信用していません(笑)。まだ、いろいろデータが少ないことと、合成とコンピューターを専門にやっている人の考え方の違いもありますね。
B&B:(笑)そうなんですか。その話は後で聞きたいと思います。それでは例として受容体につける薬はどんなもの
があるのですか?
田中さん:うーん。例えば一番最近有名になってきているのは高血圧の薬で「アンジオテンシンII受容体」というものが
あって、その受容体拮抗薬というものがあります。まあもっとわかりやすいものでいうとヒスタミンですね。ヒスタミン受容体が一番わかりやすいと思います。最近花粉症のコマーシャル等で「鍵穴をブロックする」というのがやっていますよね。基本的な考え方はそれと同じなんですよ。
|
B&B:考え方は「ブロックする」ということでやっているのですか。刺激するという考えは? |
 |
田中さん:いや、それはものによりますね。作動薬と拮抗薬というものがありまして、もちろん病気によっては作動させ た方がいい場合もありますよね。例えば、ホルモンの分泌が悪くて病気になるという場合なら、その機構のいくつか前のところを作動させれば出るんじゃないかという考えもありますし。
B&B:そうですね。私達も論文を読んで理解しようと思ったのですけど、生物系の用語ばかりで内容はあやふやです。その辺りの考え方や機構などは理解しているのでしょうか?
田中さん:私も正直言っていまいちわかりません。当然自分の担当していた、担当している範囲ならばある程度の知識は持っているのですが、特に全くやったことのない分野になると全然わからないですね。まあ、隣の部屋で研究してることぐらいならわかりますけど。
B&B:そうですか。ちょっとほっとしました。生物系の話が主になると思っていたので。わかりました。ありがとうございます。
続きは2ページ目へどうぞ。↓
|