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シード/リード化合物の合成 ぶらうんさん(A製薬会社) |
第二回目はA製薬会社で医薬品開拓の研究員をなさっている、ぶらうんさんにお話を聞いてきました。学生時代からバレーボールをやっていて現在も地域のクラブチームで現役選手だそうです。30才のころからスポーツだけではと、ピアノを習い始めたというとても多趣味な方です。とても参考になる多くの話を聞かせていただきました。
インタビュー内容
B&B:まず最初にお聞きしたいのですが、大学時代はどのような研究をなさっていたのですか。
ぶらうんさん:天然物の合成をする研究室にいました。あまりたいしたことはできなかったんですけど・・・。原料合成が中心でしたね。
B&B:それでは大学院の方までいかれたのですか?
ぶらうんさん:いや、ちょうどバブルの時代ということもあって、今通っている会社が大学院の前にきてくれということで。もう一社求人があって大学院の奨学金を出すからその後来てくれ、というところもあったのですが父親の定年ということもあって今の会社に入りました。でも、最初のころは大変でした。
B&B:回りの方も大卒だったのですか?
ぶらうんさん:いや、後にも先にも私だけですね。
B&B:それでは大学時代は完全に合成に携わっていたのですね。
ぶらうんさん:はい。でも本当に面白いというところまで研究はできませんでしたね。なんとなしで入ってしまいました。
B&B:次に、なぜこの有機合成という道を選んだのですか?
ぶらうんさん:ちょっと動機が不純なのですが(笑)。大学2年の時に有機化学は大嫌いだったんですよ。覚えること多いですし、その割には経験則のようなものも多いですし。それで有機化学の単位を落としてしまったんです。それをとらなければ留年してしまうということで、3ヶ月くらい一生懸命勉強したんです。そこでこんな面白いものはないと感じました。追試を受けたのにその先生が優をくれたんですよ。それで、その先生が優をくれたんだからその研究室へ行こうと。研究室に行き始めて、実験も結構面白かったんですよ。紙の上で学んだことを実際に体験できるのがうれしかったです。
B&B:私たちもぶらうんさんと同じ考えです。2年の時有機化学を落として難しいなあと思いながらも勉強してみたら面白くて。
ぶらうんさん:はまりますよね。
B&B:はまりますね。実験はそのころから面白いと思ってやってました。また、論文で天然物合成等を読んでいる時も1つで完結するので面白く感じます。わからないことがたくさんあるのでもっと知りたいという気持ちをかきたてられる感じです。
ぶらうんさん:結果がありますからね。
B&B:そこで進んでみて理想と現実のギャップというのはありますか?
ぶらうんさん:やっぱり、これを最終的に他の目的の手段に使っているんですよね。だから最初のうちは逆みたいな。結局、商売であるということに慣れるまでにはこのギャップがありました。特に製薬会社なので。例えば、いい反応が見つかったとして「こんなすばらしい反応はない」ということがあって、発表すればかなり話題になるのではないかというものも商売にはならなければ必要ないということなんですよ。
B&B:え!だめなんですか?
ぶらうんさん:それを発表するとこれ(研究内容)をやっているとわかってしまうから。終わった後の3年後に出してもしょうがないですよね。
B&B:あーそうなんですか(B&Bショック!)
ぶらうんさん:論文にするにはある程度の実験をしなければならないですか。それができないんですよ。
B&B:これはやらしてもらえないのですか?それとも何か?
ぶらうんさん:いや、やっている時間がないですね。仕事はどんどんきますから。自分ひとりだったらできるんですけどね。
B&B:できたとしても出せないんですよね。
ぶらうんさん:会社で出したものは知的財産のこともあって会社のものになってしまうんですよ。特に合成の方は出せないと思います。その合成反応を原薬合成に使っているので。年に1個や2個は「あれ、これは変な反応だなっ」と言うのがあるんですよ。ちょっとやってみたいなと思ってもほとんどできないんです。
B&B:もしかしたらすごい反応かもって思ってもできず、興味のほうに向かっていけない。売れるものを作っていかなければならないということですね。
ぶらうんさん:そうですね。だから合成は道具の一つとして考えています。
B&B:そういうこともあるんですか。それでは大学などとは全然違いますね。
ぶらうんさん:違います。着目しているところは一緒でも流れる方向は全然違いますから。
B&B:それでは考え方なども変わってきませんか?
ぶらうんさん:変わりますね。また、会社に入ってもその考えについていけずやめてしまう人も結構います。でも、それは裏返してみると論文を出してこれを誰が使っているのだろうと考えた時に、それよりは私がつくったこの薬を飲んでいる人がいるという方がいいですね。喜びの感じ方の違いですね。
B&B:これは本当に知らなかったことです。
B&B:それでは、学習についてお聞きしたいと思います。普段はどのような本を読んでいるのですか?仕事関係でもそれ以外でも何かありますか?
ぶらうんさん:20代のころは結構いろいろ読みました。海賊本を買いあさってハウスから始まる技術的な本をまず全部読んで、特にボランの酸化好きだったのでこの辺は結構読みました。それと今は、英語をできるようにならなければならない、まあ読み書きはある程度は大丈夫なのですが、しゃべれるようにならなければいけないので。
B&B:そうですね。
ぶらうんさん:論文の英語等は技術英語なので偏っていますよね。だから、いざ普通に話そうとしたときにうまく話せないんですよ。だから最近は英字新聞をちょこちょこ読みながら日常的な単語を覚えるようにしています。
B&B:それでは論文などはどのようなものを読んでいるのですか?
ぶらうんさん:みんなたぶん一緒だと思うんですけど、J.A.C.S.、J.O.C.、Synthesis、GMC、TL、J.Med.Chem等は読んでいます。全部斜め読みですけど。
B&B:そうですか。わかりました。
B&B:それでは研究についてですけれども、今は簡単に言ってどのようなことをやっていらっしゃるのですか?
ぶらうんさん:製薬会社なので最終的には良く売れるものを作ろうとしています。今やっているのは最初の種であるシード・リード化合物の合成をしたり、最後のLead Optimization(最適化)を行うこともあります。
B&B:研究の範囲はあまり決まっていないのですか?テーマごとに決まってくるということですか?
ぶらうんさん:そうですね。最初のうちはここまでと部分ごとにやっていくのですが、人もあまり多くないのでそのまま流れて研究していくこともあります。
B&B:その上で生物の知識というのは必要になってきますか?
ぶらうんさん:必要です。会議の中でも合成の話は1割も出てきません。「君達は合成のプロなんだからやってあたりまえなんだ」「炭素に手が五本生えない限り君達は何でも作れる(笑)」と言われますね。よい反応であるとかそういうことも関係ありません。ただどうやったらこういう活性のものを作れるのかということを会議しています。
B&B:それは、とりあえず効果のある薬を合成しなさいということですか?
ぶらうんさん:そうですね。そのための手段は何でもいいから、という感じですね。
B&B:その後には薬理的な知識なども必要になってくるのでしょうか?
ぶらうんさん:そうですね。しかし、大学を出てすぐに薬理関係の知識もあり、合成も全部できるという方はいないですよ ね。
B&B:はい。そうですね。
ぶらうんさん:28位までに合成のほうはわからなかったら自分で調べて合成できるようになった時点で、薬理的な知識を付ければいいです。これは私の意見ですが、はっきり言って合成よりも薬理関係の方が紙の上で勉強しやすいと思うんですよ。
B&B:確かに、合成には技術が関わってきますからね。
ぶらうんさん:例えば、合成は3年やっても何もできないじゃないですか。知識に加えて技術・経験を必要としますよね。でも、合成で必要な薬理のほうは知識だけで何とかなるということもあるので。
B&B:最近、ゲノム等いろいろあってホームページなどを見ていても難しく感じるのですけれども。
ぶらうんさん:ゲノムインフォマティックスというのは、企業の創薬上ではどのような物質がシードになるか探しているだけなんですよ。その後の流れは今と変わらないんです。だから、この次に必要になってくるのはケムインフォマティックス、合成の人がもう10年くらいしたら脚光を浴びるんじゃないんでしょうか。情報だけで薬は作れないですから。
ぶらうんさん:そのころは自分が合成したものをネズミに注射してもらえるだけでうれしかったんです。2、3年してくると自分が考えて合成ものが効いたりすると、とてもうれしかったです。今、一番よかったと思うのは、28歳の時に合成したもののステージが上がっていってるんですよ。薬なのですぐにというわけにはいかないですが、じわじわ上がってきて自分のものが製品になっていくというのが嬉しいですね。
参考2 臨床試験(治験)の流れ
B&B:そうですよね。それでは逆に失敗したというのはありますか?
ぶらうんさん:まあ失敗のほうが多いですよ。合成したものが、思ったより活性がなかったり、実験上の大きな失敗もはじめのころはありました。公開すると問題がある内容もあるので、言えないですけれど。(笑)
B&B:(笑)。
ぶらうんさん:唯一した事がないのは違うものを作ったことがないことですね。NMR(核磁気共鳴スペクトル)、IR(赤外線吸収スペクトル)、MS(マススペクトル)だけでは、完全には同定できないですよね。出した後でその構造を していなかったとかいうことはよくあることなんですよ。でも、私はこういう失敗だけはしたことがないんですよ。実際、部下にもその失敗をしたらここを去れと注意しています(笑)
B&B:すごいですね!でも、それは重要なことですよね。それではその中での1日のスケジュールというのはどういう感じなのでしょうか?
ぶらうんさん:大学とかでは深夜までやることがあるようですが、それは絶対にしません。
B&B:どうしてですか?
ぶらうんさん:そのようにしている方もいますけれど、そんなに人の気力って続かないですよね。スポーツやっている時もそうなんですが時間が限られていれば必死になってその時間にやるんですよ。その方が絶対にいいと思います。だから、少なくとも9時までには帰ります。特許などの関係で期限があり、どうしようもない時は12時までやることもありますが、それ以外の創意工夫が入るところではやりません。
B&B:わかりました。
B&B:それでは、コンピュータ関連についてお聞きしたいと思います。今の研究にコンピュータは必要だと思いますか?
ぶらうんさん:うーん、必要じゃないことはないですね。
B&B:必要じゃないことはない?
ぶらうんさん:でも、積極的に必要ではないですね。というのは、データベースといった意味では必要だと思うんですが、反応のモデリングさせながら反応性を予測したり、この薬を作ったのだから効くのではないか、ということがまだコンピュータには出来ていません。
B&B:そうですね。それでは、もしそこまでいったら必要だと思いますか?
ぶらうんさん:そうですね、使います。コンピュータは何でも出来るといった風潮がありますが、人は何かを考えることが出来るけれどもコンピュータは出来ない、ただ、数式を一瞬でとくようなことは人間には出来ない。そういったところは十分使うべきだと思うんだけれどもそれが人間の柔軟な考えに置き換わることはまだないと思います。それがここ10年で出来るようになるかといったらそれもないと思います。コンピュータが出来ることをしっかり認識しその上で使うんであればいいのではないでしょうか。
B&B:そうですね。それでは、今は具体的にどのように使われていますか?
ぶらうんさん:今は化合物データベースとして使っています。一回作ったものは中間体を含めてすべてストックしてあります。次にこういう母格をもった物を作ろうといった時に探すのは大変なのでコンピュータを使っています。あと、1番使うのは論文化する時です。
B&B:そうですか。それでは現在通われている会社はWindous(以下Win)ですか?それともMackintosh(以下Mac)ですか?
ぶらうんさん:両方使っています。
B&B:これは使い分けとかなさっているのですか?
ぶらうんさん:いや、特に使い分けはしていないですね。たまたま近くにあるものを使っています。
B&B:それでは自宅の方は?
ぶらうんさん:Macです。
B&B:それはどうしてですか。
ぶらうんさん:会社入ったばかりのころは構造式を書くソフトがMacしかなかったんですよ。それで最初はMacでしたね。
B&B:Mac派ですね。
ぶらうんさん:両方あればMac使いますからね。
B&B:操作性がなれているからですか?
ぶらうんさん:はい。壊れてもMacなら何とかなりますがWinは動かなくなったらわからない・・・。ただ、会社の中ではWinのほうが多いですね。Macがあるのは構造式を書くところと画像管理しているところくらいですね。
B&B:そうなんですか。それでは、インターネットはどのように使っているのですか?
ぶらうんさん:チャット関係が多いです。休みの日にはチャットを良くやっています。化学関係のところ行ったり。あと、他には通販で本を買ったりしています。
B&B:ありがとうございました。それでは最後になりますけど目標とか夢といったものはありますか?
ぶらうんさん:定年になるまでにもう一つ位自分で合成したものを出してみたいです。製薬会社は行って定年までに一つ薬が出せたら幸運なんですよ。5000個化合物をつくって1個製品化されればいいとよく言われています。
B&B:そうなんですか。厳しいですね。
ぶらうんさん:前向きに考えている人のほうが何個も何個も出しています。ここで引っかっかったとどうしようといってぐる ぐる回っている人はやっぱりどこかで引っかかってしまうんですよ。
B&B:あーそうですか。
ぶらうんさん:それは感じますね。
B&B:それではもう一つ出したいと。
ぶらうんさん:出したいですねー!
B&B:それではこれから化学の道に進む人に対してアドバイスなどをいただけますか?
ぶらうんさん:なんでも一生懸命やれば結果はついてくるということです。必要になればそのときやるので、今やるべきこと、やらなければならないことを一生懸命やればそれなりの結果がついてきます。そうすれば、今度はあれをやらなければという状態になるのでまたそこでがんばればいいと思います。若い時からあれもこれもと手を出さないほうがいいと思います。
B&B:それではぶらうんさん本当にありがとうございました。
※インタビューさせていただいた内容を、こちらで編集・構成いたしました。それをご本人に公開の許可をいただきました。 ※図、仕事の内容につきましてはインタビュー時点の内容です。 ※会社名、名前は本人の希望により仮名にさせていただきました。 |