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カーボンニュートラルの考えに基づいた商品開発

 

名前 T.Hさん
年齢 40
所属 某石油化学会社開発センター研究所員
研究分野 均一触媒、環境化学
最終学歴 大阪大学大学院前期課程
趣味・特技 スノーボード
格言 天才は1%の努力と99%の天分である

(by ニコラ.テスラ)

 

第六回目は石油化学会社で研究員をなさっているT.Hさんにお話を聞いてきました。現在の石油製品に変わる天然樹脂の開発に携わっている方です。幅広い知識と興味をお持ちで面白いお話をお聞きすることができました。

 

インタビュー内容

この道を選んだ理由

研究に関して

研究 環境・生活について(次ページ)

学習とインターネット(次ページ)

目標、アドバイス (次ページ)

 

 

ブレビ:それでははじめさせていただきます。研究だけでなく研究者の生活という意味でもいろいろな話をお聞きしたいと思います。よろしくお願い致します。はじめに、まあ趣味とか、なにか得意なものとか、好きなこととかそういうことからお聞きしてよろしいでしょうか?

 

T.H:球技は不得手なので滑り系(スキー、スケート、スノボ系)が好きです。ただし最近目方の関係であまりうまく滑れません。遊び中心なのでバッジテストとかには興味ありません。

 

  好きな事で特筆すべきは私は典型的なトレッキーであると言う事です。最近ケーブルテレビを解約したのでダイスキなエンタープライズが見られなくなって非常に悲しい思いをしています。早くビデオ(我家にはまだDVDなる文明の利器がありません)がでないかなあと待っている所です。そう言えば去年、最近はやりの食玩でE型エンタープライズ>(ソヴェリン級、シークレット)があたり子供が寝静まった夜中にこっそり出>しては眺めて楽しんでいます。

 

  得意な事はおこがましい様ですがまあ化学全般です。有機,無機を問わず合成から分析、評価まで一通りこなせます。歌って踊れるではなく創って観れる化学者を標榜しております。特に得意と言うか好きなのは金属錯体の合成とそのNMR測定 、解析です。基本的に実動が好きな言わば武闘派なんですけれど最近年齢のせいか事務仕事が多く悶々としています。

ブレビ:ありがとうございます。トレッキーというのはスタートレックの事ですか?昔よく夜中 やっていた記憶があります。あまり詳しくないので何とも言えませんが相当はまっているようですね(笑)。

T.H: その通りです(笑)。

ブレビ:得意ごとは化学ですか。やっぱり動くのが良いですよね。私も、実験が好きです。といっても、 最近は人が少ないためデスクワークが倍増し、なかなか疲れます。しかも狭いため夜中に実験を一気に行うことが多いです。化学の内容に関してはまた後ほど聞かせていただくため、この辺にしまして本題に入っていきたいと思います。よろしくお願い致します。

 


ブレビ:それでははじめに研究者を選んだ理由と大学、大学院時代の生活、研究内容について教えてください。

T.H: 好きこそものの上手なれと言う諺があります。良く母にいわれたものです。この年まで研究をやらせてもらっているのもひとえに好きだからだと思います。

 

  大学時代は不斉均一系触媒の研究をしていまして、かの有名な野依先生のBINAP(図1)に対抗するような(と思っていた)不斉P(リン)配位子の研究を1人でしていました。研究はかなり面白い所まで進んで螺旋不 斉1)を有するP配位子を合成し、金属錯体を合成まで行ったのですが、配位子がラセミ化してしまう欠点が見つかり対抗策を模索している段階で就職してしまいました。マスターに仕事は引き継いだのですがその後の展開はうまく行かなかったみたいです。少々心残りですね。

図1

 

  生活はアパートと大学をせっせと往復する毎日でした。たまに講師の方とマージャンして映画の只券をせしめる位ですかね。M2になったら学会発表や就職やらでものすごく忙しかったと記憶しています。私がいた研究室はドクターおらずM2が最上級だったため4年の面倒とかもみなくてはならなかったせいもあります。あと大学生活で記憶に残っているのは、M1の時助手の方が癌でなくなられた事です。大きな声では言えませんが教授によればベンゼンやクロロホルムなどでカラムにかけて精製する作業が多かったそうです。当時の大学は今よりまして劣悪な環境でしたので化学物質に対する脅威を思い知らされた感がありました。

ブレビ:不斉配位子の合成ですか。金属を配位させるとラセミ化してしまうのですか?あのころは全世界で不斉配位子の研究が行われていて、ものすごい競争であったと聞きます。現在でも行われていますが、1つ当てれば大きいですがなかなか難しいものですよね。


             助手の方が癌で亡くなられたということはかなり衝撃的ですね。大学の研究室ではいまでもドラフトが少なく溶媒の匂いがプンプンします。気をつけたいと思います。

 


ブレビ:現在の話に戻します。今までのお仕事に関して簡単に教えていただけますか?バイオマス

T.H: 就職してからはいろいろな事を経験させられました。自社工場のトラブル対応、新触媒の開発、等、テーマとして5つか6つあったと記憶しています。現在は環境対応化学の研究を展開しています。昨今はやりのカーボンニュートラル2)(植物由来ならば燃やしても大気中の炭酸ガスは増加しない)の考えを使った商品開発です。食物繊維中のセルロース、トウモロコシからできるポリ乳酸、納豆からはポリグルタミン酸、将来は芋からできるといわれているポリアルキルエステル類、現在の汎用樹脂はこれらに取って代られると言われています。石油から作られる樹脂は様々な所に使われており,その物性、性能も様々です。しかしながら現在入手できる天然由来の樹脂は限られており、とても石油化学からの樹脂と同等の性能は出せていません。そこで私の研究ですが、この使いにくい天然由来の樹脂を何とかして使いこなす方法を見つけ出す事なのです。大学や他の企業さんでも同様の研究を行なっていらっしゃいます。私は私なりの切口で何とかこの事業に噛みこんでいきたいと日や画策を続けているのです。

ブレビ:ありがとうございます。世の中では新たな資源としてバイオマスが注目されていますよ ね3)。また、現在の原油価格の高騰によりこのような研究はますます重要視されると思います。具体的には天然由来の樹脂をどのようにして利用できるものにするのでしょうか?また、これらの天然樹脂を実際扱ってみて、特に何が石油由来の樹脂に比べて劣るのか教えてください。漠然とした質問で申し訳ございません。

T.H:現在、良く行なわれている事に天然樹脂とのコンパウンド4)があります。例えばケナフなどの繊維を樹脂に練りこむとかです。天然樹脂の使い勝手は一般的に悪く硬くて脆いと言う事です。また、耐熱性能が低い事もあげられます。天然樹脂は親水性官能基(水酸基)が多く、モノマー内で分極している為重合した後も水素結合でガチガチになる事に所以しています。


          この欠点を克服する為セルロースなどは部分的にエステル化して水素結合しにくくしたグレードもあります。天然ではありませんがPVA(ポリビニルアルコール)も完全けん化品は水素結合で水溶性が乏しいため部分けん化品が主に用いられている事と同義です。性能的には石油由来の樹脂に遠く及ぶものではないと言うのが現在の天然樹脂の性能ですが時勢の流れで仕方なく使っているのが現状です。ですが現在の汎用樹脂も出始めの頃はいろいろと問題がありそれを克服して木材とか天然繊維を駆逐してきた歴史があります。つまりこの分野でも歴史が繰返されていると言えるわけです。

ブレビ:そうですね。合成樹脂でさえそれぞれ多くの欠点を持っていますし、天然樹脂を扱った研究はまだまだこれからですからいろいろと苦労があると思われます。
 

ブレビT.Hさんが研究を行っていて、これが面白いとか、こういう点が難しい、苦労したなどいうことがあれば教えてください。
 

T.H:研究行為についてはどんな分野であれ論理展開のしかたは同じだと考えます。そういった訳で何かしら実験事実があり、それについて理詰めで解明していくと言う行為は分野を問わず面白いと思います。


         難しいのは人が関わってくる問題です。先に述べた実験事実、これに人のファクターが絡んでくるとややこしい事になりがちです。どこの組織でも同じでしょうが怪しい事をバンバン喋る人と無口だが確実な事しか言わない人がいます。
研究をマネージメントする人に化学の素養が少なかった場合、情報の多い方を採用しがちになりますのでその研究所では怪しい研究がバンバン行なわれてしまいます。これでは下々のものはたまった物ではありません。
具体的には書く事はできませんが、このような研究の方向性の決定方法についてはかなり議論をした覚えがあります。
本当に疲れる作業でした。でも重要な事柄だったと認識しております。


ブレビ:怪しい研究とは内容はわかりませんが、ものすごい言い方ですね(笑)。例えば過去に同じようなあったり、目的がはっきりしない研究であったり、またあまり利益につながらない研究ということでしょうか?


 研究で議論することは多々ありますね。化学的な議論をしていればよいのですが、その相手がわかっていない場合は非常に大変というか労力がかかりますよね。うまく素人でも簡単に、と言ってもなかなか伝えたいことが伝わらないことも多々あります。難しいですね。

 

T.H:化学だけでなく自然科学では物事を多面的に見る事が要求されます。私が言う怪しさはその多面的視野に欠ける事象です。実例を示さずに言うのはなかなか困難なのですが、強いて例をあげるとしたらNMRで単一物質に見えてもGPCでみるとオリゴマーであるとかです。前者だけの視点(NMRの視点)で社内のかなり上のレベルまで了解を取っておいてよくよくしらべると後者のような事実(GPCの視点)が浮かび上がってくる事が何度かありました。

 

ブレビ:確かにそのようなことは私も覚えがあります。ある条件では全く取れなかったためできないとまわり、特に上の人が思い込み、それが真実となってしまって、実際少し条件を変えると、さっと反応が進行してしまったり(苦笑)。

 

ブレビ: ですが、実験は楽しいですよね。私も、やりたいことがたくさんあります。しかし、これは面白い現象、作用等と思っても、研究の内容と異なる場合はどうなさるのでしょうか?そういうご経験はございませんか?

 

T.H:そう言う経験は多々あります。たいていの場合上司に泣き付いてでもやってしまいます。良い事かどうか判りませんがそう言う事が許される風土がうちの研究所にはあります。

 

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語句説明

 

1) 螺旋不斉: 自然界に存在するDNAのように螺旋構造を有する分子には右巻き、左巻きに由来する不斉を有していること。

 

2) カーボンニュートラル:バイオマス(生物資源)には多くの有機物質が含まれていてそれが燃焼すれば現在の化石燃料と同じように二酸化炭素を発生します。しかしバイオマスは成長段階で二酸化炭素を光合成にて吸収しているため、最終的に見れば二酸化炭素が増加していることにはならないということ。つまりカーボン(炭素)がニュートラル(中性)であるということ。

 

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4) 樹脂コンパウンド:樹脂に加える着色剤、各種添加剤のこと。

 

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