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化学者のつぶやき

有機合成化学総合講演会@静岡県立大

 

12月17日に静岡県立大の菅敏幸先生主宰で行われた有機合成総合講演会でお話ししてきました。この講演会は化学同人で絶賛発売中の天然物合成で活躍した反応の査読委員を集めて講演会を開こうという菅先生の提案で始まったものです。筆者も含めて8人の40歳以下の若手合成化学者が全国から静岡に集まりました。とても面白く、折角なんで事後レポートをさせていただきたいと思います。

静岡県立大はどこ?

転載:静岡県立大HPより

 静岡県立大は静岡県静岡市にある大学。もうすぐ創立25年であると聞くと、比較的新しい大学であるといえます。しかし、1916年に設立された私立静岡女子薬学校を源流にし、その後静岡薬科大学となりそれを中心として1983年にできた大学なので、実は薬学に関しては100年近く歴史をもつ大学です。。ちょうど東京と名古屋の中間に位置しており、どちらからでも行きやすい、いやどちらからも行きにくいといったほうがいいのかわかりませんが、静岡という環境のよい場所にある大学です。当日も晴天で景色が大変綺麗でした(後述)。大学は草薙駅からタクシーで5分ほど。山のふもとに位置しており、キャンパスは広くはないものの、落ち着いた大学らしいよい雰囲気をもったところでした。看護や国際関係など食品など国立大学には少ない、県立大学らしい学部も存在しますが、やはり源流からいえば薬学部、薬学研究科がメインであり、有機化学の先生では医薬品製造化学講座の菅先生、薬化学講座の眞鍋先生や医薬品創製化学講座の赤井先生などが在籍しています。と紹介していますが、筆者の地元は静岡であるものの実は静岡市にはほとんどいったことはなく(静岡は広い!)、もちろん静岡県立大に訪れるのも初めてで、全く調べて来なかったので、なんとか草薙駅にたどり着いたのものどうしようかと思っていたら、化学同人のKさんがたまたま同じ電車でしたのでつれていってもらいました。

 

白熱した講演会

講演会は10時からで8人の研究者が30分発表+10分質疑応答で5時すぎまでお昼ごはん休みを挟んでほぼぶっ続け。未発表の内容も多かったので、内容はある程度ふせながらかいつまんでご紹介します。午前中は長崎大学畑山研究室の高橋圭介助教と、北海道大学谷野研究室の吉村文彦助教と筆者の3人でした。

高橋さんは「グルタミン酸受容体作用性天然物の合成研究」というタイトルで、カイトセファリンを含む3つの天然物の全合成の内容をお話ししました。PMBM基(パラメトキシベンジルオキシメチル基)やPMB基(パラメトキシベンジル基)はOverman転位の条件で外れやすいので気をつけたほうがよいこと、同天然物の合成研究で北原先生の鍵反応で行われているニトロンへの付加反応が保護基や構造が少しだけ異なる彼らの原料だと、全く反応せずルートをよりオリジナルなルートに変更したことなどを話されていました。

吉村さんは「天然物合成を指向した環上四級不斉炭素構築法の開発」というタイトル。新規な四級不斉炭素の構築法を開発してその反応を応用した天然物の合成研究を紹介されていました。条件を変えると立体選択性が変わり、1つの反応はなかなか面白い反応機構で進んでそうで興味深く聞かせていただきました。

筆者は「自在芳香環直接連結反応が拓く合成戦略」というタイトルで発表。最近自身のコンセプトに基づいてで行なっているドラグマサイジンDの合成とある化合物群の合成のために新規なNi触媒をもちいた反応をいくつか開発したことなどを発表しました。いつもどおり前日夜中に作った付け焼刃スライドで、さらに発表時間が25分で計30分しかないと勘違いしてのぞんでいましたが、なんとかよい反響を得ることができました。ただ、恩師である東京理科大の林雄二郎先生や慶応大学の庄司満先生がいる前で(2人ともは公聴会以来な気がする)発表するのは気が引けたのですが…

お昼ごはんは会議室で食べ(会議室からの富士山の景色が絶景!)、菅さんと赤井研助教の井川さんに静岡県立大を案内していただいて、見学した後、午後のセッションに突入。

 

shizooka_2011_1.png

会議室からみえた富士山

午後は、上述した慶応大学須貝研究室の庄司満准教授からはじまり、東京大学福山研究室の横島聡准教授、筑波大木越研究室の早川一郎助教、短い休憩を挟んで東北大学徳山研究室の岡野健太郎助教、東北大学平間研究室の山下修治助教の講演で終わりました。

庄司さんは「酵素・微生物を活用する天然物合成」というタイトルで、今話題のストリゴロールの合成と、皆さんよくつくっているマジンドリンAの合成をお話されました。基質にあるトリケトンの一番立体的に混んでいるものと反応する酵素反応の特異的な官能基選択性はすごいなあと改めて感心させられたのと、エチレンケタールの保護基が外れず、がんばって外してなんとか数%で形式全合成を達成、その後改良して収率大幅向上など有機合成でよく出くわす問題をうまく解決していました。

横島さんは「天然物の合成研究:多環式骨格の構築を目指して」というタイトルで、リコポディウム系の天然物の合成研究を話されました。3つの合成ルートを行いそれぞれ斬新な合成手法が含まれていて大変参考になりました。来年から近くで働けることはとても嬉しく思います。

早川さんは「抗HIV活性物質13-オキシインゲノール類の合成研究」。この日に合わせたように合成を完了させてきており、合成研究から研究がとれてました。上村大輔先生の単離した13-オキシインゲノールはユニークな inside-outside 構造をもつ、とっても合成の難しい天然物ですが、オレフィンメタセシスによる同骨格の構築、その後の官能基化も何度も何度も試み、最終的には綺麗に決まっており素晴らしい合成でした。中心となった学生はなかなか腕のある学生のようで気になりました。セレンを10段階(酸化反応を3つ含む)近く有したままもっていくという荒業(?)が印象的でした。筆者も昔やったことありますが、意外とセレン安定なんです(過酸化物、過酸以外には)。それ以外にも筑波大での地震被害から得た教訓を紹介していてためになりました(印刷してくばってはいかがでしょうか)。

さて、そろそろ疲れてきたので、岡野と山下は省略します…といいたいところですが、やっぱり面白かったので紹介します。

岡野さんは「不斉転写型ラジカル反応を基盤としたアザスピロ天然物の合成研究」ということでリパジフォルミンの全合成とヒストリオニコトキシンの合成研究を話しました。東北大学徳山研究室の前身井原研究室で開発されたラジカル反応をつかってスピロ骨格をうまく合成していました。そこから気づいた反応の性質をつかって歴史的にも著名な合成化学者が合成しているヒストリオニコトキシンの合成を行なっていまいました。いつも落ち着いた講演だけどうまく合成していて関心させられます。余談ですが、彼は阪神大震災、東関東大震災両方の経験者であり、地震の教訓(鍵を忘れない!)と、今回の地震が起きてすぐに静岡県立大の先生方がお金を出しあって、食料物資を山ほど送ってくれてうれしかったということ言っていました。すばらしいですね。

山下さんは「ラジカル反応を駆使した天然物の合成研究」で奇しくも岡野さんと似た様なタイトル。しかし、対象は全く異なり、リモノイドであるリモニンの合成研究がメインでした。マンガンアセテートの環化反応をつかって綺麗にタンデム環化を行なっていました。昔使ったことありますが、あまりうまくいかなかったので。エキソメチレンからケトンへの変換がある基質で困難で、精査した結果、エポキシド、シアン化ナトリウムでアセトニトリルで飛ばす!ことで良好な収率で行なっていたのが、今回一番合成反応に関してはびっくりしたことでした。天然物合成って複雑で普通の反応が応用できないことが多いので、こういう怪しげな反応が見つかるから面白い。

演者の紹介は以上ですが、この講演会でとりわけ印象に残ったのは静岡県立大学の学生諸君の活発さ。質疑応答でも率先してなかなかポイントをついた質問をたくさんしていて、会は大盛り上がりでした。みな切磋琢磨してよい研究者になってほしいなと思いました。

 

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昼食後の散歩のひとコマ。写ってるのは菅さん

夜も盛況

良い講演会のあとは静岡県立大学の教員とともに静岡駅付近に繰り出しおいしいお酒とお肴をいただきました。いつもどおりラーメンで「蓋」をして(なぜか家系ラーメンでしたが)終了。寝ずに望んでいたので夜はちょっと眠くなりましたが、講演会は全く眠くなることもなく久々に全部集中してきけました(いつもほどほどには集中して聞いていますよ。)。今回主宰いただいた菅さんをはじめ、静岡県立大学の教員の方々(眞鍋さん、井川さん、鈴木さん、濱島さん、松野さん、稲井さん、小西さん etc..)にこの場を借りて感謝させていただきまして、この駄文の講演レポートの「蓋」をしめたいと思います。ありがとうございました!

 

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院准教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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