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ケムステしごと

お”カネ”持ちな会社たちー2

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 だいぶ間が空いてしまいましたが、前回の続き。国外の貴金属取扱いメーカを紹介して業界の全体像を探ってみましょう。

 Tshozoです。だいぶ間が空いてしまいましたが、別に仕事で罵倒や叱責を受けたからというわけではありません。

 さて今回は「お"カネ"持ちな会社たち」国外編です。国内外を問わず世界の色々な企業を紹介していきたいという活動の一環として、今回の記事も書いてみたいと思います。

 

 ①Johnson Matthey plc

johnson_matthey.gif

 同社はイギリスに本社を置き、貴金属取扱量世界トップです。貴金属の歴史は同社が作ったと言っても過言ではないと思います。

 生産、回収、貴金属取引はもちろん化学工業用触媒への研究開発も精力的に行っています。もともとは1810年あたりに25才の青年Johnsonが始めた金の分析ビジネスが発端でした。ミリグラム単位の精度が商売の命運を分けるこの業界で、非常に信頼性の高い分析力を持っていたことからJohnsonを通す取引先が急増、結果として市場取扱いシェアを大きくすることに成功します。

 更にその半世紀後G. Mattheyによる精錬技術の革新によりその立場を盤石なものとし、現在もなおその技術力・価格影響力は世界トップクラスです。

JM_person.jpg

Johnson氏とMatthey氏・化学者としては後者の方が著名(同社の発表資料より借用

PGM_08.png

同社の事業所と範囲・英国の旧植民地に事業基盤を持つ(同上)

 また同社は貴金属生産量世界トップの米国Anglo Platinnum社の独占的取扱業者でもあります。毎年「Platinum Metal Review」という貴金属情報誌を出版しており(日本では田中貴金属殿が編纂し出版)、また試薬会社「Alfa Aeser」は同社の傘下です。Aldrich社貴金属試薬のメインプレーヤである同社の名は、合成化学に関わる人なら一度は目にしたことがあるはずです。

 なお基本的に旧イギリス領(インドを中心とする東南アジア周辺)で商売の基盤を持っていますが、近年勃興している中国・韓国ではまだまだその影響力を発揮できていないようです(実はアジアで強いのは②③の2社であり、この点は自分も調査して初めて認識しました)。どれだけ力を持っている会社でも、新興国ではその動き方一つでリーダーになるかどうかが決まるのだなと感じました。

 

 ②Umicore

Umicore_log.jpg

 ベルギーに本社を置く、回収~加工までを幅広く対応し、総売上高が1兆円を超える巨大企業で創業は1805年と非常に古いです。当時はまだ貴金属を扱っていませんでしたが、何回かの合併・統合を通して2001年に"Umicore"社に変わりました。1970年あたりまでは採掘まで取扱い、中でも亜鉛取扱量は世界No.1を争うほどでした。しかしその亜鉛産出国(現コンゴ)で主要鉱山を接収されるという憂き目に会って以降、採掘にはほとんど手を染めずに、回収以降のプロセス全てに関わるというビジネススタイルを取っています。 

 同社で注目すべきは自動車用触媒産業です。着手したのは1960年と古いですが、自動車用排ガス触媒の大手として韓国や中国で存在感を発揮しています。またホームグラウンドである欧州がメイン市場であることもあり、自動車用ディーゼル排ガス触媒に強い特徴があります。2003年にはドイツDegussa(ドイツ石炭採掘会社の化学部門)の貴金属精錬・触媒部門を買収。また2000年前後から、従来の貴金属精錬業者としてのスタンスから研究創発に重きを置いた会社づくりを進めており、排ガス触媒、電池、再生エネルギーを中心とした先端研究に力を入れているのも特徴です。アジアでは韓国のほか日本(神戸)にも日本触媒と合同で拠点を作っており、自動車触媒とエネルギー関連材料の開発を行っているようです。

PGM_09.png

Umicoreの中心事業、自動車触媒の模式図(こちらより引用)

 大量の貴金属が使われることから貴金属会社にとり「ドル箱」のアプリケーションであり, 各社が鎬を削る

PGM_10.png

同社による自動車触媒における競合他社とのシェア関係(引用元は同上/筆者が一部改変)

 

 ③BASF & N.E. Chemcat

 

PGM_13.png

 我が敬愛するBASFは貴金属・希少金属部門でもかなり前からその存在感を示しています。Fritz Haberが世界初のアンモニア高圧合成に成功した時、使用していた金属はオスミウムとウランでした。そして当時のBASF社長Heinrich Brunkは全世界のほぼ全量にあたるオスミウムを買い付けておくというバクチを打っていたのです。 もちろんCarl Bosch とAlwin Mittaschの尽力によりそのオスミウムは使用せずに済んだのですが、その際に色々な金属を混ぜて触媒として使うことが出来ることに気づき、同社は様々な金属原料を集め触媒としての用途を探ることになります(なおMittaschは硝酸合成用ビスマス-鉄系触媒開発にも成功)。この化学触媒部門のための貴金属・希少金属利用は、その開発から100年近く経った現在も同社の技術根幹を成しています。

 日本では住友金属鉱山の折半出資による、"N.E. Chemcat"という会社を作っています。もともとはEngelhaltという米国の貴金属事業会社からの技術導入を基にした住友金属鉱山会社でしたが、そのEngelhaltがBASFに買収され、その後BASFの化学触媒部門に統合されたという経緯をたどっています。上記のとおりBASFによるこの買収は触媒部門強化の一環だったのでしょう。

 

PGM_11.png

BASFの世界の触媒・環境関連技術開発 拠点一覧(こちらより引用 

 

 同社はあくまで化学合成触媒を基幹としているので、固体触媒の化学合成への展開を積極的に行っています。合成化学の分野の方は是非同社のページ(こちら)をご覧になってみてください。

 

PGM_12.png

同社の固体触媒の水素化一例(こちらより引用

 

  ・・・ということで駆け足で国内外の貴金属取扱企業を見てきましたが、国内外の会社いずれも共通して「貴金属回収業」を事業に含んでいるのが非常に興味深いことだと思います。現在「都市鉱山」という形で電子機器部品等からPGMはもちろんレアアース、レアメタルの回収プロジェクトが始まっていますが、意外とこうした取り組みから新たな次世代のビジネスが生まれてくるのかもしれません。

 ということで今回はここまで。なお、貴金属企業の大半は詳細な貴金属取引量を原則公表していないようです。 相当長期間資料を探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。唯一見つかったのは田中貴金属殿だけです。なんでかなあと思いますが、色々と大人の事情があるような気がします。

 

 【補足】

 今回生産・採掘のところをご紹介しなかった理由について。

 生産(=鉱山利権)まで持っている会社はごくまれで、実際は米国Anglo Platinum(HP)や南アフリカImpara Platinum(HP)、ロシアNorilsk社などのいわゆる「鉱山メジャー」の領域です。これは採掘という行為が国家が絡む(貴金属鉱脈は多くが政情が不安定な地域に存在するため)のに加え、問題発生時のリスクが大きく1社では到底まかなえないためです。

 例えば、難儀な交渉と高額投資の末に利権を獲得し試掘したはいいものの、予想していたより採掘量が少ない、又は労働者がストライキを起こして採掘できない、Umicoreの例のように産出国政情が悪くなり接収された、等の技術以外の問題が発生します。

 こうした不安定要因から市場までを1社で抱えてちゃあ、会社として安定経営ができない。そのために採掘はその道のプロ、資源メジャーに任せるのが商売として妥当な選択になるわけです。原油~精製~市場供給まで一貫しているケースの多い石油産業とはちょっと違いますね。

 ともかく、その採掘技術自体は非常に面白いのですが、化学の範疇を外れるために今回は記載を見送りました。ご了承ください。

Tshozo

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メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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