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化学者のつぶやき

分子があつまる力を利用したオリゴマーのプログラム合成法

 

プログラム通りにモノマーを組み合わせてポリマーを合成する方法の開発は、合成化学分野における究極の目標の一つです。その実現を目指したひとつのアプローチとして、生体を模倣した合成法が試されています。例えば、生体内でリボソームはmRNAに記録された情報を正確に読み取り、タンパク質を精密に合成できます(図1)。

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図1 リポソームによるタンパク質合成

 

このようなリボソームの働きを人工的に再現し、配列が制御されたオリゴマー分子を合成する試みがなされてきました。代表的研究は米国ハーバード大学のDavid Liu教授らによるDNA-templated synthesis (DTS)です(図2)[1]。テンプレートとして用いるDNAの末端にあらかじめ反応基質を導入しておき、このテンプレートDNAに相補的な配列を用いて次の反応基質を空間的に近接させることで、テンプレートDNAの末端にモノマーユニットを連結させることができます。

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図2 DNA-templated synthesis (DTS)

 

一方、英国オックスフォード大学のTurberfield教授らはDNAモーターを基盤としたプログラム合成法を報告しています(図3)[2]

DNAモーターは、二本鎖の安定性の違いを利用してDNAの鎖交換を誘起する手法で、これを動力源とした分子機械に応用されています。図 3のように、テンプレートDNAに対して部分的に相補鎖を形成できるDNAを用いて反応基質同士を反応させたのち、加えたDNAと完全に相補鎖を形成できるDNAを用いてテンプレートDNAを遊離させます。この操作を繰り返し行うことで逐次的に、DNAテンプレートの末端に順番を制御しながらモノマーユニットを連結させることが可能です。

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図3 DNAモーターを基盤としたプログラム合成法

 

しかしこの2つの方法も、リボソームとは異なり外部から反応剤を逐次的に投入する必要がありました。そこで最近、Turberfield教授らは、DNAの自己集合をうまく利用することで、配列の制御されたオリゴマー分子を混合系の中で自律的に合成する手法を開発しました。今回はこの論文を紹介したいと思います。

 

“An autonomous molecular assembler for programmable chemical synthesis”

Meng, W.; Muscat, R. A.; McKee, M. L.; Milnes, P. J.; El-Sagheer, A. H.; Bath, J.; Davis, B. G.; Brown, T.; O’Reilly, R. K.; Turberfield, A. J. Nature Chem 2016, 8, 542.  DOI: 10.1038/nchem.2495

 

本手法の原理

本手法は3種類のDNA、

  1. 開始DNA
  2. 仲介DNA
  3. 連結DNA

から構築されています(図4)。同じ色の部分は互いに相補的な2本鎖を形成できることを示しています。

図4 3種類のDNA

図4 3種類のDNA

これらの分子を混ぜ合わせると、まず開始DNAと仲介DNAがそれぞれ黄色と橙色で示した部分で2本鎖を形成し、ホリデイ構造を作ります(図5)。

その後、DNA鎖が相互に組み変わることで、仲介DNAの青色で示した塩基配列が露出します。

露出した塩基配列に対して、連結DNAの青色で示した部分が2本鎖を形成し、再びホリデイ構造を作ります。

このとき、開始DNAの末端に導入していたアルデヒド官能基と連結DNAの末端に導入していたリンイリドが空間的に近接するため、Wittig反応が効率よく進行します。これにより、開始DNAの末端で連結DNA上のモノマーユニットが連結されます。

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図5 反応機構

 

Wittig反応の進行後、DNA鎖が相互に組み変わると、今度は紫色で示した塩基配列が露出します。このとき、図6のような別の仲介DNAと連結DNAが系中に存在していると、引き続き反応が進行し、DNA鎖の伸長に伴って開始DNAの末端でWittig反応によるさらなる連結が起こります。

図5 別の仲介DNA、連結DNA

図6 別の仲介DNA、連結DNA

 

DNAの配列特異的な2本鎖形成を利用しているため、開始DNAと数種類の仲介DNA、連結DNAが混在していても、設計された順番でDNA鎖が伸長していきます。

これに伴い、開始DNAの末端に導入していたアルデヒドに順番に連結DNAのモノマーユニットがWittig反応を起こしていくため、配列が制御されたオリゴマーが合成されることとなります。

 

オリゴマー合成・解析

著者らは本手法を用いることで、異なる4種類のモノマーユニットをデザインした順番で連結することに成功しました。

望まない配列のオリゴマーはほとんど得られておらず、本手法が配列制御されたオリゴマーの合成に有効であることがわかります。また、この方法はコンビナトリアル合成にも応用可能で、反応終了後のDNAの配列を調べることで、モノマーの連結した順番を同定できます。

 

まとめ

今回著者らは自律的分子集合を用いることで、配列が制御されたオリゴマーのプログラム合成法を開発しました。これにより逐次的に反応剤を導入することなく配列の制御されたオリゴマー分子の合成が可能になりました。本手法は長鎖テンプレートDNAを用いず、DNAの自律的な分子集合を利用するため、わずかな配列の違いを設計するだけで、多様な分子の合成に応用が可能となります。

関連文献

  1. He, Y.; Liu, D. R. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 9972.DOI: 10.1021/ja201361t
  2. Milnes, P. J.; McKee, M. L.; Bath, J.; Song, L.; Stulz, E.; Turberfield, A. J.; O’Reilly, R. K. Chem. Commun. 2012, 48, 5614. DOI:10.1039/C2CC31975F
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bona
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