[スポンサーリンク]

一般的な話題

聖なる牛の尿から金を発見!(?)

「金(きん)」は人を惹きつけてやまない元素です。誰しもが沢山所有したいと願い、銅や鉛からなんとかして金を作れないかという営み、すなわち錬金術を生み出しました。結局錬金術によって金を生み出すことはできませんが、紀元前から脈々と続いた錬金術の「実験」の中で現代の化学に通じる貴重な化合物、化学反応に関する知見が積み重ねられてきたことも事実です。

そんな「金」がなんと牛の尿から採れてしまうという驚くべきニュースが飛び込んできましたので紹介したいと思います。

タイトルで半ばネタバレしておりますが、筆者はそもそもあまり信じておりませんことを最初にお断りしておきます。

さて、まずはソースです。

Holy cow! Junagadh Agricultural University scientists find gold in Gir cow urine
Junagadh: The famous Gir cow is worth its weight in gold, quite literally! After four years of extensive research, scientists at Junagadh Agricultural University (JAU) have actually found gold in the urine of Gir cows. The analysis of urine samples of 400 Gir cows done at the Food Testing Laboratory of JAU showed traces of gold ranging from three mg to 10 mg from one litre urine. The precious metal was found in ionic form, which is gold salts soluble in water.
The team of researchers led by Dr B A Golakia, head of JAU’s biotechnology department, used gas chromatography-mass spectrometry (GC-MS) method to analyze the urine samples.
“Till now, we have heard about presence of gold in cow urine from our ancient scriptures and its medicinal properties. Since there was no detailed scientific analysis to prove this, we decided to undertake a research on cow urine. We analyzed 400 samples of Gir cow urine and found traces of gold,” Golakia said.
Golakia said the gold from urine can be extracted and solidified using chemical processes. The researchers also screened urine sample of camel, buffaloes, sheep and goat but they did not find any anti-biotic elements. Of the 5,100 compounds found in Gir cow urine 388 have immense medicinal value that can cure several ailments,” said Dr B I Golakia, head of JAU’s biotechnology department. He was assisted by researchers Jaimin, Rajesh Vijay and Shraddha. They will now analyze urine samples of all 39 indigenous cow breeds of India for the same purpose.

後略

The Times of India, Jun 28, 2016, 06.21 AM IST

ソースは入念に調べたつもりですが、ネット上と動画ニュースしか見つけられませんでした。2ヶ月ほど前のソースですが、現在のところ少なくとも論文にはなっていないと思われます。同じ文面のサイトがいくつもヒットしますので、どこかの通信社からの配信だと思われます。

さてそれではニュースから化学を読み取ってみましょう。まず科学者として出てくるのがインドのジュナーガド農業大学(Junagadh Agricultural University)に所属のDr. B. A. Golakiyaです原文は誤植だと思います。Golakiya博士はDepartment of Biotechnology and Biochemistryの長をされています。論文を拝見するに、遺伝子工学がご専門のようです。その他に数名の研究者の名前が挙げられていますが、特定はできませんでした。

 

研究の内容です。

Gir cowはインド東部のグジャラート州にあるGir森林地帯で主に飼育されています。とても穏やかな牛だそうです。

cow_1

Gir cow (画像はWikipediaより)

その牛の尿400サンプルあまりをGC-MSで解析した結果、いくつかのサンプルから「」が検出されたというのが今回のトピックスになります。しかもなんと尿1 Lあたり3-10 mgもの金が含まれていたのです!0.1 ppmです!これはびっくり仰天の含有量です。良質の金鉱山で3 ppm程度、海水にも金が含まれていることはよく知られていますが、0.004 ppbほどですので、牛の尿を集める手間に比べたらとてもじゃないけどうんざりするような手間がかかりますので、世界がひっくり返ります。牛の糞からバニリンが採れたとかいう次元ではありません。

そりゃあエサに金が含まれていれば当然のごとく検出されると思いますが、それにしてもあまりに高すぎる含有量ではないでしょうか。かなり高濃度に金が含まれた土壌か、植物がある土地だと思うので、まずはその土地を調べる必要がありそうですね。とんでもない金鉱脈が近くにあるかもしれません。しかも検出された金はイオン化した化合物でした。実際はどのようなイオンかわかりませんが、高濃度のシアンでも食べているのでしょうか。

そして怪しさの極めつけは検出方法がGC-MSだということです。Department of Biotechnology and Biochemistryのページを拝見するとGC-MSを所有していることが書かれていますが、機種はわかりません。通常重金属を分析する場合ICP-MSを使うと思うのですが、その場合はGC-MSとは書かないと思うのですが・・・

気になったのは、このプロジェクトが聖書の言い伝えを元にしており、牛の尿中に金や医薬になるものが含まれているというものだということです。実際尿中に5100の化合物を検出しており、その388化合物に計り知れない医薬品としての価値があるとしています。一方でラクダ、バッファロー、羊、山羊の尿には特筆すべき抗生元素(?)は無かったとのことです。基本的にこのプロジェクトでは金を発見するのが目的というよりは、抗生物質を探すのが主題のようです。Golakiya博士はGir cowの尿をヒトや植物病原菌に対して使うことを考えているとのことです。

まとめますと、なんだかこの記事は聖書の教えが正しいのだということを都合良く示した結果のような気がするのは私だけでしょうか。

いずれにしても、査読の付いた論文誌に結果をまとめて報告していただけることを待ちたいと思います。

 

関連書籍

The following two tabs change content below.
ペリプラノン

ペリプラノン

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。
ペリプラノン

最新記事 by ペリプラノン (全て見る)

関連記事

  1. なんだこの黒さは!光触媒効率改善に向け「進撃のチタン」
  2. 計算化学:DFTって何? PartIII
  3. 遷移金属を用いない脂肪族C-H結合のホウ素化
  4. 【読者特典】第92回日本化学会付設展示会を楽しもう!PartII…
  5. 化学研究ライフハック:Twitter活用のためのテクニック
  6. イスラエルの化学ってどうよ?
  7. ChemTile GameとSpectral Game
  8. 化学オリンピックを通して考える日本の理科教育

コメント

    • art
    • 2016年 9月 03日

    海水に金が含まれているというのは有名なデマですが…

    • ペリプラノン
      • ペリプラノン
      • 2016年 9月 03日

      コメントありがとうございます。
      不勉強で申し訳ございませんが、海水に全く金は含まれていないという論文でもどこかにありますでしょうか?
      一応記事中の数字はハーバー法で知られるハーバーの著
      F. Haber, “Das Gold in Meerwasser,” Angew. Chem., 1927, 40, 303-314.
      が論拠になっているようです。
      他にもハーバーの価を下方修正して11 pptという数字を出している論文もあるようです。
      ハーバーは第一次大戦の後まじめに海水から金を集めることを検討したようですが、コスト的に無理とのことであきらめたという記録が多く見られます。
      これだけ莫大な量がある海水なので、さすがにゼロというのはなかなか証明できないかもしれませんが、何かデマと断定できる論拠となるソースがありましたらぜひご教授いただけると幸いに存じます。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

注目情報

ピックアップ記事

  1. 単一分子を検出可能な5色の高光度化学発光タンパク質の開発
  2. セレノフェン : Selenophene
  3. ノーベル化学賞を担った若き開拓者達
  4. 中嶋直敏 Nakashima Naotoshi
  5. Thieme-IUPAC Prize in Synthetic Organic Chemistry ―受賞者一覧
  6. ブーボー・ブラン還元 Bouveault-Blanc Reduction
  7. 生物に打ち勝つ人工合成?アルカロイド骨格多様化合成法の開発
  8. 文献管理のキラーアプリとなるか? 「ReadCube」
  9. 吉野 彰 Akira Yoshino
  10. The Journal of Unpublished Chemistry

注目記事

関連商品

注目情報

試薬検索:東京化成工業



最新記事

第5回慶應有機合成化学若手シンポジウム

第5回慶應有機合成化学若手シンポジウムの御案内   有機合成・反応化学、天然物化学・ケミカルバイ…

Cooking for Geeks 第2版 ――料理の科学と実践レシピ

キッチンへ足を踏み入れたそのときから、あなたは知らず知らずのうちに物理学者となり、化学者ともなっ…

光触媒が可能にする新規C-H/N-Hカップリング

こんにちは、ケムステ読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか。筆者はこの時期、化学会年会の終わりで一年の…

元素紀行

先日、こんな記事を読みました。内容を一言で申せば、筆者の前川ヤスタカさんご自身の著書タイトルである「…

日本酸素記念館

大陽日酸の記念館で、創業時にドイツから輸入した酸素分離機が展示されていて、酸素分離機は、認定化学遺産…

室温でアルカンから水素を放出させる紫外光ハイブリッド触媒系

 プリンストン大学・Eric Sorensenらは、光駆動型水素原子移動(HAT)触媒-卑金属触媒ハ…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP