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スポットライトリサーチ

世界初!反転層型ダイヤMOSFETの動作実証に成功

第59回目のスポットライトリサーチは、金沢大学理工研究域電子情報学系薄膜電子工学研究室(猪熊孝夫教授、徳田規夫准教授)の松本翼助教です。現在の主流の半導体であるシリコンには、性能限界があると言われています。世界中で多くの科学者が新たな半導体材料を生み出そうと躍起になっている中、今回松本助教らは、『ダイヤモンド半導体』の歴史に新たなページを刻む快挙を成し遂げられました。金沢大学国立研究開発法人産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センターダイヤモンドデバイス研究チーム、および株式会社デンソーによる共同研究になります。先月Scientific Reports誌に発表された論文、およびプレスリリースを見て、ぜひご寄稿いただきたいと思い、お願いさせていただきました!

Inversion channel diamond metal-oxide-semiconductor field-effect transistor with normally off characteristics
(ノーマリーオフ特性を有する反転層チャネルダイヤモンドMOSFETの開発)

T. Matsumoto, H. Kato, K. Oyama, T. Makino, M. Ogura, D. Takeuchi, T. Inokuma, N. Tokuda, and S. Yamasaki, Scientific Reports 2016. DOI: 10.1038/srep31585

徳田准教授から、今回の成果ならびに松本助教に対するコメントをいただきました。

今回の成果は、私の研究者人生をかけても得られるかどうか分からないと思っていたテーマでしたが、彼が着任してから数か月後に得られました。この一文だけで、彼の研究者としての素質を理解していただけると思います。

それでは、松本助教による研究紹介をお楽しみください!

 

Q1.今回のプレスリリース対象となったのはどんな研究ですか?

ダイヤモンドは宝石として広く知られていますが、高い熱伝導率、絶縁破壊電界、キャリア移動度等を有することから、究極の半導体材料としても期待されています。現在主流の半導体はSiであり、電力制御用半導体素子(パワーデバイス)として、空調設備やパワコン、鉄道車両、自動車などに使われており、消費電力の低減に貢献しています。このパワーデバイスは、主に反転層チャネルMOS構造を持つMOSFETやIGBTで構成されています。これは、反転層チャネルが低消費電力動作に必要な低電圧駆動であることや、フェールセーフの観点から必要なノーマリーオフ特性を有しているためです。しかし、Siパワーデバイスは物性値で決まる性能限界を迎えています。そこでSiを超えるパワーデバイス材料として、SiCやGaN、Ga2O3、ダイヤモンドといったワイドバンドギャップ半導体が研究開発されています。SiCやGaNでは主力である反転層チャネルMOSFETが既に報告されており、これらの材料に続く形で、今回、ダイヤモンドを用いた反転層チャネルMOSFETの作製(図1参照)、動作実証に世界で初めて成功しました。

図1. 作製した反転層チャネルダイヤモンドMOSFET。基板には高温高圧法で作製されたイエローダイヤモンドを用いた。窒素を含むためイエローに見える。

図1. 作製した反転層チャネルダイヤモンドMOSFET。基板には高温高圧法で作製されたイエローダイヤモンドを用いた。窒素を含むためイエローに見える。

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本成果には、共著者はもちろんのこと、これまでダイヤモンド半導体の研究に携わってこられた多くの研究者の成果がいくつも含まれています。反転層チャネルダイヤモンドMOSFETは、決して一人では達成できない結果であり、各ポイントにそれぞれの思い入れがあります。一つ挙げるとすれば、ダイヤモンドと酸化膜の界面制御には金沢大学独自のダイヤモンド表面の終端化技術を採用しており、従来の方法(硫酸+硝酸)では実現できなかった理想的な界面を、ウェットアニール処理(高温水蒸気によるダイヤモンド表面のOH終端化)によって実現しました(図2参照)。

松本先生_図2a

図2. 熱混酸処理(上)とウェットアニール処理(下)によるダイヤモンドと酸化膜界面の結合の違い。

図2. 熱混酸処理(上)とウェットアニール処理(下)によるダイヤモンドと酸化膜界面の結合の違い。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

長年の課題であった反転層チャネルの形成がやはり難しいところだと思います。反転層チャネルは、基板本体(図3の場合:n型層)に対して、同極性(同:負)の電圧をゲートに印加することで、少数キャリア(同:正孔)を界面に集め、基板に対して極性を反転させた導電層を指します。一般的に反転層チャネルは、MOSキャパシタの容量-電圧特性について低周波数で測定し、逆バイアス印加時に酸化膜容量(反転層容量)が見えるかどうかで判断します。しかし、ダイヤモンドは元々がワイドギャップの絶縁体であるため、少数キャリアがほとんど存在せず、これまでいくつものダイヤモンドMOSキャパシタが報告されてきましたが、明確に反転層チャネルを証明したものはありません。今回は、少数キャリアの供給源としてソース・ドレイン領域を形成し、これまでMOSキャパシタの研究で積み重ねてきた産総研の高品質n型ダイヤモンド層成膜技術と金沢大学のダイヤモンド/酸化膜界面制御技術を組み合わせることによってMOSFETを作製し、FET動作を実証することで反転層動作を証明しました(図3参照)。

図3. MOSFETにおける反転層チャネル形成(左)と実際にダイヤモンドMOSFETで得られたドレイン電流-ドレイン電圧の理想的な出力特性。

図3. MOSFETにおける反転層チャネル形成(左)と実際にダイヤモンドMOSFETで得られたドレイン電流-ドレイン電圧の理想的な出力特性。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

ダイヤモンドの成長からデバイス作製まで、化学は欠かすことができません。しかし、私自身、化学は専門外です。もちろん必要最低限の化学については学び、今後も深めていきたいと考えていますが、ダイヤモンドの成長や終端構造に興味のある化学のスペシャリストの方は力を貸していただくか、先導を切って新しいダイヤモンド化学を切り開いていただけると幸いです。私からすると異分野というイメージのある化学ですが、分野問わず積極的に絡んでダイヤモンドで低炭素化社会の実現に貢献していきたいと考えています

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

ダイヤモンドは化学的・物理的安定性を有するがゆえ、加工の難しさがありますが、一度デバイスを作ってしまえば、その安定性ゆえ長い間輝き続けることができます。まだまだダイヤモンド研究コミュニティは大きくありません。ダイヤモンドはときに絶縁体、ときに半導体、金属的、超伝導体であり、宝石としてはもちろんのこと、パワーデバイスとしても働くかと思えば、研磨・加工材、放熱材、LED、電子放出源、量子情報デバイスとしても働く、とてもおもしろい材料です。この機会にダイヤモンドについて研究したい方、興味のある方がいれば、進学や編入学、共同研究等大歓迎です。一緒にダイヤモンドを使って、未来を永遠に輝かせましょう。

 

外部リンク

 

研究者の略歴

松本先生_本人図

松本 翼 (まつもと つばさ)

(写真は4月に生まれた二男とマタニティクリニックにて。研究の息抜きは二人の息子[2歳1ヶ月と3ヶ月]の子育て)

所属:金沢大学理工研究域電子情報学系

薄膜電子工学研究室 助教(テニュアトラック)

受賞:2015年 第56回真空に関する連合講演会「優秀ポスター賞」受賞、2016年 第38回応用物理学会論文賞受賞

専門:電子工学

略歴:1986年熊本生まれ

2009年3月 熊本電波工業高等専門学校電子情報システム工学専攻修了

2011年3月 筑波大学大学院数理物質科学研究科博士前期課程修了

2014年3月 筑波大学大学院数理物質科学研究科博士後期課程修了

同 博士(工学)取得

2014年4月~2015年3月 産業技術総合研究所エネルギー技術研究部門産総研特別研究員 兼 産総研イノベーションスクール

2015年4月~2015年9月 産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センター産総研特別研究員(改組による)

2015年10月~現職

 

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めぐ

めぐ

博士(理学)。大学教員。相変わらず分子の世界に思いを馳せる日々。

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