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スポットライトリサーチ

ポケットにいれて持ち運べる高分子型水素キャリアの開発

第71回目となるスポットライトリサーチは早稲田大学理工学術院先進理工学専攻高分子研究室(西出・小柳津・須賀研究室)の加藤 遼さんにお願いいたしました。同研究室では共役系に特徴づけられる有機高分子の一群を創製し、新しい分子機能を開拓しています。なかでもラジカル高分子の合成・高分子ポルフィリン錯体と酸素濃縮膜・水素キャリア高分子の開発を中心として次世代の光電変換素子、蓄電デバイス、エネルギーキャリアなどに関わる、新しい機能性高分子の創成を目指しています。その中で加藤さんが開発した「持ち運べる高分子型水素キャリア」が早稲田大学からプレスリリースされましたので、この度インタビューをお願いいたしました。

研究室を主宰される西出教授は、本研究をこう評しておられます。

有機高分子を電極とする蓄電池を研究室では展開してます。ふつうは禁水ですが、負電荷を貯めた芳香族ケトンが、一滴の水を加えると瞬時にプロトン付加、すなわち水添することを見出した幸運が切っ掛けです。もちろん粘り強い実験量が背景です。

それでは加藤さんの研究結果とその経緯についてのインタビューを御覧ください。

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?

水素を貯めている状態でも手で触ることができる、安全でコンパクトな新しい形式の「高分子型水素キャリア」をはじめて創り出しました。

水素は高圧ボンベなどでの保管・運搬や爆発の危険など課題が多く、安全で効率の良い水素運搬体の開発が水素社会の実現に望まれていました。

今回の研究では、成型加工もできるフルオレノンポリマーを水に浸して電解還元すると、水素付加体であるフルオレノールポリマーが定量的に生成することを見い出しました。このフルオレノールポリマーを少量の触媒とともに80℃で加温すると水素ガスを放出し、水素の固定と放出のサイクルを簡易に繰り返せることが分かりました。2016-11-28_14-09-05

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

非プロトン性の溶媒、例えばアセトニトリル電解液中での電気化学測定ではフルオレノンは二段階の可逆な酸化還元波を示します。しかし、この電解液に水を少量滴下するとフルオレノンの還元体がプロトネーションにより水素付加体を形成するため酸化波のみが消失します。この反応を見い出せたことが一連の研究にもつながったので、特に思い入れが強い実験です。

また、親水性の高いポリマーを設計・合成することも非常に困難でした。ポリマーの構造単位に選択した水溶性のフルオレノン誘導体が期待通りの電気化学特性を示した時、あとは写真にもあるシート状のポリマーが実際に合成できた時、嬉しさのあまり実験室で叫んでしまったのをよく覚えています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

気体の水素を扱うのはうちの研究室でも初めての試みで、測定法や条件を新たに一から確立する必要がありました。何度も何度も試行錯誤を繰り返し、時には水素の扱い方について学ぶため別の研究室に行き、また時には測定法を習いに企業訪問したこともありました。

すべてが手探りで道に迷うことも多かったのですが、“迷ったときは行動を起こす”を信念に突き進みました。今思うと少しずつでも前進できていたのかな、と思います。

また、何よりもこの研究は本当に多くの人に助けられて形にすることができました。一緒に切磋琢磨した学生、御指導いただいた先生方、支えてくれた皆さんに改めて感謝の思いを伝えたいです。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

今回の研究では正直辛い部分もかなり多かったですが、そんな中でも新しい形の水素キャリアを自分が提案する!というチャレンジ精神を持ち続けることができ、改めて研究の楽しさを実感できた内容でもありました。今後も挑戦心や化学を楽しむ感性を大切にしつつ研究を続けていきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究は一人ではできない、このことを今回の研究を通して痛感しました。

様々な分野の人とディスカッションすることでたくさんのヒントが得られますし、仲間がいれば悩んだときに一緒に支えあうことができます。もちろん個人の知識や技術は必要不可欠ですが、人とのつながりもとても重要だと思います。

これも折角の機会なので、少しでもこの研究に興味を持っていただける方がいたらぜひお声をかけていただけたら幸いです。

研究者の略歴

2016-11-28_14-13-17加藤 遼 (カトウ リョウ)

所属:早稲田大学先進理工学専攻 高分子(西出・小柳津)研究室 一貫制博士課程5年 リーディング理工学博士プログラム一期生

研究テーマ:電解水素添加を用いた高分子型水素キャリアの創出

経歴:
2012年 3月 早稲田大学先進理工学部応用化学科 卒業
2014年 3月 早稲田大学大学院先進理工学研究科応用化学専攻 修了
現在 早稲田大学大学院先進理工学研究科一貫制博士課程先進理工学専攻 在学中

 

本結果が掲載された論文

  • “A ketone/alcohol polymer for cycle of electrolytic hydrogen-fixing with water and releasing under mild conditions” Kato, R.; Yoshimasa, K.; Egashira, T.; Oya, T.; Oyaizu, K.; Nishide, H. Nat Commun 20167, 13032. DOI: 10.1038/ncomms13032
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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院准教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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