[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

神経細胞の伸長方向を光で操る

第84回目のスポットライトリサーチは、東京大学理学系研究科化学専攻小澤研究室遠藤瑞己特任研究員にお願いしました。

同研究室は、 “Opto-Bioanalysis” をキャッチフレーズとして、光を利用した生体分析研究を進めており、種々の生体分子の観察や操作を行っています。小澤研究室の遠藤特任研究員は、光を用いて神経軸索の伸長方向をコントロールした業績によって、日本ケミカルバイオロジー学会でRSC MolecularBiosystems ポスター賞を受賞されており、プレスリリースも発表されています。さらに、本成果はScientific Reports に報告されました。

M. Endo, M. Hattori, H. Toriyabe, H. Ohno, H. Kamiguchi, Y. Iino & T. Ozawa

Optogenetic activation of axon guidance receptors controls direction of neurite outgrowth

Scientific Reports 20166, 23976. DOI::10.1038/srep23976

筆頭著者の遠藤さんについて、研究室の主宰者である小澤岳昌教授からコメントを頂いています。

遠藤さんは,根っからの研究者気質で,独創的な発想で課題設定し,自ら積極的に新しい知識や技術を吸収しながら,解決していく才能をもった優秀な研究者です.英語も堪能であることから,外国人とのコミュニケーションを通じて,国際交流を積極的に図っています.今後,一研究者としてさらに世界で大きく活躍されることを期待しております.

今後益々のご活躍をお祈りしております。それでは、遠藤さんの研究成果をご覧ください!

 

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?

光によって神経軸索の伸長方向を人為的に制御する技術の開発を目指しました。

軸索伸長を担う受容体タンパク質DCCは、リガンドの結合による多量体形成によって活性化することが知られていました。そこで本研究では、青色光吸収によって多量体を形成するタンパク質CRY2をDCCと融合することで、リガンドがなくても光照射によって活性化する光応答性DCCを開発しました(図1、A)。光応答性DCCを神経細胞に導入すると、青色光照射側へと屈曲する様子が観察されました(図1、B上部)。また、大学内で線虫の研究を行っている飯野研究室との共同実験で、線虫体内の神経軸索についても同様に制御可能であることが判明し、本技術を応用することで伸長途中の神経軸索の可動方向が外部の構造体によって制限されることも直接明らかにすることができました(図1、B下部)。

 

図1. 光照射による神経軸索の伸長方向の制御

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

工夫したところは、生きた線虫個体内の神経軸索が光照射方向へ誘導されたかどうかを評価する際に、新しい解析手法を考案した点です。

従来、培養神経細胞における軸索誘導実験では、伸長方向の変化を示すパラメータとして屈曲角が用いられていますが、これには実験中に十分神経が伸長していることが必要です。今回のケースでは遺伝子変異を複数導入したためか伸長速度がかなり低下した状態での実験でしたので、うまく屈曲角が定義できませんでした。

そこで本研究では、全く新しい解析手法として、成長円錐の重心軌跡から光照射側への変位量を定義し、統計的解析を行うことにしました。前例のない解析手法でしたので研究室内の方々と議論を重ね、信頼性の向上に努めたので思い入れがあります。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

難しかったのは線虫を用いた実験です。そもそも顕微鏡観察下で線虫体内の細胞を光制御する実験は前例がなかったので、どの神経細胞を標的とすべきか、どのように線虫を固定するのか、光照射条件は、解析方法は、など考慮すべき条件が多岐に渡っていました。初めはとりあえず適当な条件を思うがままに試してみたりしていたのですが、結果は芳しくありませんでした。そこで1つずつ条件を地道に検討して確定していくように方針を変えたところ、徐々に実験がうまくいきそうな感触を得ることができ、最後まで辿り着くことが出来ました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

化学の根本にあるのは、仰っている方も多いですが「ものづくり」の精神だと思います。

分析化学において、「もの」は「分析手法」であったりするわけですが、特に生命を対象とした研究では、その「分析手法」によって解明できる現象の種類・深度が非常に大きく異なります。今後も、こういった「もの=分析手法」づくりを通じて、今まで調べることのできなかった生命現象の一側面の解明に貢献できればと考えています。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

ご多用の中、ここまでお読み頂き有難うございます。身体は資本ですので、心身両面の健康に気を配りながら研究生活を楽しんで下さい。

 

【略歴】

遠藤瑞己(えんどう みずき)

所属:東京大学理学部化学科 特任研究員(小澤研究室)

研究テーマ:光制御とイメージングを用いた生命現象における時空間情報コードの解析

The following two tabs change content below.

Orthogonene

有機合成を専門にするシカゴ大学化学科PhD2年生です。 趣味はスポーツ(器械体操・筋トレ・ランニング)と読書です。 ゆくゆくはアメリカで教授になって活躍するため、日々精進中です。 http://donggroup-sites.uchicago.edu/

関連記事

  1. この窒素、まるでホウ素~ルイス酸性窒素化合物~
  2. 「シカゴとオースティンの6年間」 山本研/Krische研より
  3. 2008年ノーベル化学賞『緑色蛍光タンパクの発見と応用』
  4. アミロイド認識で活性を示す光触媒の開発:アルツハイマー病の新しい…
  5. 未来のノーベル化学賞候補者(2)
  6. Reaxys Prize 2010発表!
  7. 出発原料から学ぶ「Design and Strategy in …
  8. 荒木飛呂彦のイラストがCell誌の表紙を飾る

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

注目情報

ピックアップ記事

  1. 春の褒章2010-林民生教授紫綬褒章
  2. 抗体結合ペプチドを用いる非共有結合的抗体-薬物複合体の創製
  3. Grubbs第一世代触媒
  4. 炭素をつなげる王道反応:アルドール反応 (1)
  5. 官営八幡製鐵所関連施設
  6. 塩谷光彦 Mitsuhiko Shionoya
  7. 水素化リチウムアルミニウム Lithium Alminum Hydride (LAH)
  8. マルコフニコフ則 Markovnikov’s Rule
  9. 炭素繊維は鉄とアルミに勝るか? 2
  10. 「アニオン–π触媒の開発」–ジュネーブ大学・Matile研より

注目記事

関連商品

注目情報

試薬検索:東京化成工業



最新記事

「電子の動きを視る」ーマックス・プランク研究所・Krausz研より

「ケムステ海外研究記」の第13回目は、第6回目の志村さんのご紹介で、マックス・プランク量子光学研究所…

岩澤 伸治 Nobuharu Iwasawa

岩澤 伸治 (いわさわ のぶはる、19xx年x月x日-)は、日本の有機化学者である。東京工業大学 教…

NCL用ペプチド合成を簡便化する「MEGAリンカー法」

ワシントン大学・Champak Chatterjeeらは、独自開発した固相担持ユニット「MEGAリン…

有機合成化学協会誌2017年5月号 特集:キラリティ研究の最前線

有機合成化学に関わる方ならばおなじみの有機合成化学協会誌。有機合成化学協会の会員誌であり、様々な有機…

エッセイ「産業ポリマーと藝術ポリマーのあいだ」について

Tshozoです。先日Angewandte Chemie International Edition…

キラルアニオン相関移動-パラジウム触媒系による触媒的不斉1,1-ジアリール化反応

2016年、ユタ大学・Matthew S. Sigmanらは、電子不足末端アルケンのエナンチオ選択的…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP