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スポットライトリサーチ

近赤外光を青色の光に変換するアップコンバージョン-ナノ粒子の開発

第94回となるスポットライトリサーチ。今回は青山学院大学 理工学部 化学・生命科学科 長谷川美貴研究室石井あゆみ助教の研究にスポットライトを当てました。

石井助教の所属する長谷川美貴研究室では「金属錯体」、「光化学」、「分子間相互作用」をキーワードに、エネルギー効率化のための分子素子・基板材料の開発を目指しています。現在は、「金属錯体の発光」、「膜内での偏光発光」、「光が関わる複合体」を大きな柱としてそれぞれ研究を進めています。

今回は最近の研究成果である「近赤外光を青色の光に変換するアップコンバージョン-ナノ粒子の開発」に関してプレスリリースされていましたので、インタビューを依頼させていただきました。既に論文も報告されております。

Solar-Pumping Upconversion of Interfacial Coordination Nanoparticles
Ishii, A.; Hasegawa, M. Sci. Rep. 2017, 7, 41446. DOI: 10.1038/srep41446

今回の研究結果と石井助教の人となりに関して、主宰教授である長谷川先生から以下のようなメッセージをいただきました!

石井さんは学部の学生の頃からかれこれ15年を超えて付き合っておりますが、まさに元気印の研究者。

博士課程を修了後は、民間企業を経由しましたが、私の予想通りあっという間にアカデミアに戻ってきました(笑)。前任の桐蔭横浜大学宮坂力研究室での基板への無機材料成長と電気化学を新たな技術として身に着けました。
今も学生の頃と変わらず、「これ!」と思ったことにはとことん突き進みます。
有機合成をせずに精密に研究を計画して配位子をうまく希土類と組み合わせ、高い確率で新しい視点を見出し実験で証明していく。独自の希土類錯体合成に取り組んでいる様子は私も大変刺激を受けております。
希土類というと、大学の無機化学の講義においてもあまり時間を割いて教えられていないカテゴリーだと思います。私は研究者人口が少ないであろうところに目を付けて、そしてもともと分子分光学と錯体化学の融合に挑戦したい思いを持って
研究室を主宰してきております。資源のsaveと光の利活用、そして自然科学に基づく分子の自己集合能が私どものキーワードです。「アップコンバージョン発光」は光化学に携わる研究者であれば、誰もが一度は挑戦したい課題の一つです。これを
従来の分野のカテゴリーを超えた新たな素材となりうる視点で手に取ることができたのは本当に幸せで石井さんと大いに喜びました。これからも彼女の活躍に大変期待しているところです。

では今回の成果に関するインタビューを御覧ください!

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回の研究のポイントは2つあります。まず、近赤外光を可視光に変換するアップコンバージョン機能の発現を錯形成によるナノ粒子の表面改質により実現できたことです。

さらに、アップコンバージョンを促すための励起光源には、通常、レーザーなどの光密度が高い光を使うのに対し、本系では太陽光レベルの光密度が極めて低い光でもアップコンバージョンを発現させることに成功しました。

この粒子は、ツリウム(Tm)酸化物のナノ粒子を核として用い、層状に別の希土類イオン(ここではイッテルビウム(Yb))で包み、さらにインジゴ系有機色素を結合させたコアシェル型の構造です(図1)。

図1 希土類錯体を含むアップコンバージョンナノ粒子の模式図

アップコンバージョンとは、低いエネルギーの光が高いエネルギーに変換される現象であり、光エネルギーの高効率利用の観点から広く研究が行なわれています。

一方で、アップコンバージョン発光はレーザーなどの強い励起光源を必要とするため、エネルギー的な損失は大きく、また太陽光レベルの微弱な光源では観測することが困難とされてきました。

希土類元素を用いたアップコンバージョン材料は多く報告されておりますが、そのほとんどが無機誘電体に金属イオンをドープした複雑な構造で、環境負荷の高い合成プロセスが必要です。またこの場合、禁制遷移である希土類自身の吸収帯を励起する必要があるため、非常に強い光(レーザー光)が必要であり、エネルギー変換効率も非常に低いものとなります。

これに対して、本系では、高い光吸収能を持つ有機色素を酸化物ナノ粒子界面で希土類イオンと錯形成させることで、太陽光よりも微弱な近赤外領域の光照射により、青色のアップコンバージョン発光を促すことができます。

希土類化合物は酸化物が最も安定であり、取扱いも容易です。有機分子には、食用タール色素に分類される合成着色料であるインジゴ色素を用いており、Tm酸化物ナノ粒子表面のYbイオンと配位します。配位したインジゴ色素は、640nmより長波長の光を効率よく吸収し、さらにそのエネルギーはYbイオンに高効率で移動します。この界面での有機分子との錯形成により、ナノ粒子は、太陽光の1/10以下の光強度の近赤外光の照射でも、475nmに発光を示すことが明らかとなりました(図2)。

図2 希土類錯体を含むアップコンバージョンナノ粒子の640nmで光励起した際の発光スペクトルと励起光強度の依存性

これは、酸化物ナノ粒子と有機分子の界面における錯形成により生じた現象です。

太陽光は再生可能で豊富なエネルギー源であり、全波長領域の光を効率よく利用するためのシステムの開発は重要な課題です。

例えば単接合の太陽電池の場合、活性材料のバンドギャップ以下の光エネルギー(特に近赤外光領域)は吸収することができず、その変換効率は、Shockley-Queisser限界を適応すると約32%が限界となります。太陽光の中でもエネルギーとしての利用が難しい近赤外領域の微弱な光を可視光に変換できれば、将来的に太陽電池や人工光合成、光センサーなどにおける太陽光の利用効率(エネルギー変換効率)の飛躍的な向上が期待されます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

微弱な光エネルギーをいかに捉え、いかに利用するか、といった観点から、これまで研究を進めてきました。

たとえば、分子レベルの光センシングは、生態系における光合成や人間の目の網膜に代表されるように、微量な光でさえも、エネルギーや信号として高効率で変換されます。

これらの特徴は、一分子が一光子を吸収して形成した励起状態を利用し、分子やその集合体の配列や組み合わせが鍵となり、光が新たな機能やエネルギーに変換されるといった点にあります。

本研究のポイントは、このような有機分子(色素)の優れた光学特性と希土類のアップコンバージョン特性を配位結合により界面で融合した点にあります。有機と無機の異種化合物からなる界面は、作りこみが不十分であると特性を悪化させてしまいます。この界面を化学結合(配位結合)により複合体化したことが、今回の成功につながりました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

界面構造のデザインと有機色素の選定には、じっくり時間をかけました。

一見するととてもシンプルな構造ですが、界面における有機色素と無機ナノ粒子との錯形成が機能発現の鍵となる本系では、シンプルが故に、その界面の作りこみには試行錯誤の繰り返しが必要で時間がかかりました。

有機分子と無機化合物のから形成させる界面は、その特異的な環境によりこれまでにない化学・物理学的物性の発現が期待されますが、異種化合物間の界面形成が不十分であると、特性に悪影響を及ぼし、エネルギーロスを伴います。

たとえば、希土類酸化物は水分子を吸着しやすく、それをうまくケアしないと、表面での化学結合形成が妨げられ、発光も失活してしまいます。また、数多く存在する有機色素のうち、希土類イオンのエネルギー準位に適した電子状態と配位部位を持つものを選定すること、さらにその中でも熱や光に弱いものが多いので、安定性を向上させるための条件を見いだす必要があります。

これらの問題を解決してくれたのが、古代から用いられてきた青色染料であるマヤブルーの構造です。マヤブルーは粘土鉱物(パリゴスカイト)とインジゴ色素のハイブリッド構造から成り、インジゴ色素が粘土中のAlイオンと結合することで安定化されます。本系では、有機色素を無機化合物と融合した古代マヤブルーの構造にヒントを得、インジゴ系の色素を希土類酸化物ナノ粒子に配位結合させた界面構造を作ることで、微弱光でもアップコンバージョン発光を促すことができました。

アップコンバージョンは、昔からチャレンジしたかったテーマの一つでした。楽しくワクワクしながら研究を進めた結果、いい成果につながったのだと思います。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

無限で不変のエネルギー源である光を、新たなエネルギーに変換するシステムを創製することで、将来の科学技術の発展に貢献するとともに、明るく輝く社会の創成につなげていきたいと考えています。

これまでの化学的基盤や知識をもとに、異種分野との融合にもチャレンジし、新しい物性・エネルギーを導くような物質系を提案していきたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

資源が少ない日本の場合、科学技術とそれに携わる人材が社会全体を豊かに元気にする原動力になると思います。

未来の社会を担っているという自覚と意識をもって、真摯に研究や学問にとりくむ姿勢が大切であり、明るく楽しく元気よく!それを実行することにより、新しい発想や成果は生み出されるのだと思います。

関連リンク

研究者のご略歴

名前: 石井あゆみ

所属:青山学院大学 理工学部 化学・生命科学科 長谷川美貴研究室
研究テーマ:希土類錯体を用いた光機能性ナノ材料の開発
略歴:
2008年3月 青山学院大学大学院理工学研究科博士後期課程修了(博士(理学))
2008年4月~ 2011年1月 ソニー株式会社先端マテリアル研究所研究員
2011年2月~ 2014年3月 桐蔭横浜大学大学院工学研究科助教
2014年4月~ 現在     青山学院大学理工学部化学・生命科学科助教

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院准教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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