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スポットライトリサーチ

機械的刺激による結晶間相転移に基づく発光性メカノクロミズム

第103回のスポットライトリサーチは、北海道大学総合化学院有機元素化学研究室(伊藤肇研究室)博士後期過程2年の陳 旻究 (ジン ミング)さんにお願いしました。

伊藤研究室ではこれまでに、様々な元素を駆使することで新規かつ斬新な触媒反応や機能性材料の開発が行われてきました。メンバーのみなさんは有機金属化学や錯体化学、構造有機化学と幅広い分野で活躍されております。

伊藤先生は研究者としてだけでなく素晴らしい教育者としてもとても有名で、学生から信頼がとても厚い先生、というのが筆者のもつ伊藤先生の印象です。

そんな伊藤研に所属する陳さんは、昨年度末に開催された日本化学会第97春季年会にて学生講演賞を受賞されました。受賞内容が記されている論文はこちら(↓)です。

Mechano-Responsive Luminescence via Crystal-to-Crystal Phase Transitions between Chiral and Non-Chiral Space Groups

Mingoo Jin, Tomohiro Seki, and Hajime Ito

J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 7452.  DOI: 10.1021/jacs.7b04073

陳さんに関し、伊藤先生から以下のコメントを頂いております。

ミング君は実は居合道の達人で、五段、指導者としての活躍もしていました。日本に来てから道場の門をたたいて入門、ゼロから努力してそこまで到達したと聞きます。うちのラボに彼が「入れてください」と来たときもまさに「道場破りがやってきた!」そんな感じでした。今やうちのラボの中心メンバーです。UCLAのGarcia-Garibay 先生へも「突撃」して大変気に入られているようです。とても元気で物理の素養もあり将来楽しみです。これからもどんどん突撃してほしいと思います。

学生講演賞受賞おめでとうございます!それではインタビューをお楽しみください!

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?

「機械的刺激によるキラル結晶からアキラル結晶への相転移に基づく発光性メカノクロミズムの発見」です。

機械的刺激により、固体や液晶材料の発光特性が変化する現象を発光性メカノクロミズムと言います。この現象を示す材料は、力を検知するセンサーやバイオイメージングなど高機能性材料への応用が期待されています。発光性メカノクロミズムにおいて発光特性が変化する要因は、その材料を構成している分子の配列が変化することに起因しています。しかし、固体材料の場合、その分子配列を制御することが非常に困難であるため、外部刺激により分子配列の変化を制御できる固体材料の設計は未だ挑戦的な研究課題であります。

本研究では、ビフェニル基を有するアキラルな金(I)イソシアニド錯体1に機械的刺激を与えると、キラル空間群 (P212121) である結晶 (キラル結晶) が、反転中心を持ち空間群がP-1である結晶 (アキラル結晶) へ相転移し、発光性メカノクロミズムを示すことを見出しました (図aとc)。

有機結晶の分野でWallach’s ruleという経験則が知られており、これは、ある分子がキラル結晶とアキラル結晶を形成する場合に、キラル結晶のほうが熱力学的に不安定な場合が多い、というものであります (図b)。Wallach’s ruleに従う結晶系において、機械的刺激による結晶−結晶相転移が進行した点が今回の発光性メカノクロミズムの鍵となっております。本研究を通して、発光性メカノクロミズムだけではなく、結晶のキラリティー変化に基づく機能性固体材料の設計 という適用範囲の広い分子設計の概念を提示できたと僕たちは考えております。

図. a) ビフェニル基を有する金(I)イソシアニド錯体 1の分子構造とそのキラル構造 (M-1およびP-1)。b) Wallach’s rule、及び本研究における相転移の模式図。 c) 機械的刺激によるキラル結晶からアキラル結晶への相転移と発光変化の様子

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

発光性メカノクロミック材料を含め、多くの刺激応答性固体材料の分子設計は、その分子配列が外部刺激によってどのように変化するかを予測するのが鍵となります。自分なりに工夫したのは、その「分子設計」です。錯体1は、ビフェニル部位を有しており、軸不斉(M1およびP1) が考えられます。最初ははっきりとした根拠はありませんでしたが、この様な分子を結晶化すれば、キラル結晶とアキラル結晶の両方得られるのではないかと考えました。そうすれば、Wallach’s ruleに基づき、キラル結晶がアキラル結晶よりも不安定相となるはずです。その結果、機械的刺激によってキラル結晶からアキラル結晶へ切り替えることができ、面白そう!と考えました。大まかには以上のように考えていましたが、1の合成・評価の後、この分子設計がうまくいってくれたことがわかりました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

キラル結晶とアキラル結晶のどちらかを選択的に得る方法を見つけることが実験的に一番苦労しました。

錯体1を合成し精製すると、オレンジ色の発光を示す粘性のオイルが得られます。このオイルを針で突くと、そこから結晶化が開始され、オイル全体に結晶化が進行し、キラル結晶もしくはアキラル結晶が得られました。ここで問題だったのは、同じ実験操作を行っても、ある時はキラル結晶、またある時はアキラル結晶が形成されてしまうことです。そこで思いついたのが、「オイルに結晶核を接触させ、この結晶核から結晶成長させる」という方法でした。つまり、少量得られていた結晶をseedとして、オイルから結晶化させるseeding法によって、キラル結晶もしくはアキラル結晶のうち、望みの結晶を選択的に得ることができました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

「新しい概念を提案し続ける化学者」になりたいです。

自分が思う化学の魅力は、「想像したモノを実際作り、そのモノから新たな知見を広げる」ことができるという点です。想像したモノを作れた!という喜びを感じる、またそのモノを通して、今までは知らなかった新しい概念および現象を見つけ出すということを、今後もとことん続けて行きたいと思います。

また化学のみではなく、様々な分野に挑戦しながら、科学全般に関わるような研究も行っていきたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

「新しいことに挑戦するのを怖がらずに一歩踏み込んでみましょう!」

何事も、新しいことに挑戦しようとすると、知らないことから訪れる不安や恐怖があるかと思います。しかし、その挑戦の向こうには「新たな人との出会いと未知の知見の発見」という予想もしていないほど大切なものが待っていることが多いと思います。特に研究に関しては、このことはとても大事なことだと考えています。

上記のことを強く感じたのは、日本とアメリカでの留学と研究生活においてです。韓国から外国に最初に出てみようと決断したのは、二十歳のときでした。全く新しい文化をこの目で直接見たいという強い思いがあり、また、日本韓国理工系学部国費留学プログラムという非常に良い機会に出会えたので、当時は、迷わずに母国を離れ日本での留学を決断しました。しかし、日本での生活が始まった当初は毎日が不安でした。予想していたよりも、言語の壁が最初は大きかったです。幸いなことに、様々な友人や恩人に出会えたお陰で、現在日本で研究生活基盤を作ることができました。また、アメリカでの留学のきっかけは、ある国際学会に一人で参加した際に、Miguel A. Garcia-Garibay 教授 (University of California Los Angeles) と交流できたことから始まりました。当時、Miguel 先生の講演を聞き、あまりにも興味深い研究内容だったため、講演の後 Miguel 先生に突撃(?)し、先生の研究に関して様々なお話しを聞きました。以前から、アメリカで研究してみたいという考えを持っていたので、その場でMiguel 先生に短期訪問をお願いしたところ、Welcome !という返事をいただきました。その10ヶ月後には、実際にMiguel 研でのアメリカ留学が実現しました。この時も、言語や文化の壁に何度もぶつかりましたが、アメリカでも様々な人々の助けてもらいました。その結果、3ヶ月の留学期間で、韓国や日本では得られない大きな世界を経験することができました。さらに、留学期間での共同研究により、予想していたよりも多くの実験成果が得られたため、大きな達成感が得られました。この研究成果は、現在論文にまとめている段階であります。

新しいことに挑戦する気持ちを忘れずに研究を行えば、その過程やそれを乗り越えた結果として、大切な友人・恩人や未知の発見が得られると思います。皆さん、色々挑戦しながら、化学を通して共に新たな知見を広げて行きましょう!

今回の研究を含め、私の研究全般に関してご指導をくださっている関 朋宏助教および伊藤 肇教授、また、私のアメリカ留学と自分のテーマを元にした共同研究を受け入れてくださった Miguel A. Garcia-Garibay 教授に、この場を借りてお礼を申し上げます。最後に、日本とアメリカに留学することができたのは、日本韓国理工系学部国費留学プログラム(日韓プログラム)、北海道大学ALPリーディングプログラムおよび日本学術振興会 特別研究員制度のご支援のお陰であり、深く感謝いたします。

研究者の略歴

名前:陳 旻究 (ジン ミング), Mingoo Jin

所属:北海道大学 総合化学院 有機元素化学研究室 伊藤肇研究室 博士後期過程2年 (日本学術振興会特別研究員 DC2)

研究テーマ:金(I)錯体を用いた新規の発光性メカノクロミズムの開発

経歴:1989年韓国Suwon市生まれ。2006年韓国物理オリンピック国家代表選抜教育過程修了。2009年日本韓国理工系学部国費留学プログラム(10期生)に採用。2012年全日本居合道段別競争大会 男子三段の部 優勝。2015年北海道大学ALPリーディングプログラム(1期生)。2015年NTU-HU Joint Materials Science Workshop Best Oral Presentation Award。第5回CSJ化学フェスタ2015 優秀ポスター賞受賞。2016年Hokkaido University-University of California, Berkeley Joint Symposium on Chemical Sciences and Engineering Best Poster Presentation Award。2016年第16回北海道大学若手研究者交流会 最優秀ポスター発表賞受賞。米国 University of California, Los Angeles (Prof. Miguel A. Garcia-Garibay) Visiting Graduate Researcher (2016年9−12月)。2017年日本化学会第97回春季年会 学生講演賞受賞。

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めぐ

めぐ

博士(理学)。大学教員。相変わらず分子の世界に思いを馳せる日々。

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