(写真:三井触媒化学国際シンポジウム)
- 概要
ジャン=マリー・レーン(Jean-Marie Lehn, 1939年9月30日-)はフランスの有機化学者・超分子化学者。仏ルイ・パスツール大学教授。「超分子化学」の提唱者。
1987年のノーベル賞受賞後でも、そのバイタリティは衰えを知らず、継続的に研究論文を発表し続けている。1995年に執筆された"Supramolecular Chemistry"は超分子化学におけるバイブル的存在の書である。10年を経た現在でも全く色あせない様々な概念が記されており、彼の卓抜した先見性に触れることができる。
- 経歴
1939年9月30日、フランスのロスハイムに生まれる。 青年期は哲学に興味を持ったが、ストラスブール大学にてGuy Ourrissonに師事し、有機化学を研究することを決意する。ステロイド化合物のNMR解析研究にてPh.D.取得後、ハーバード大学R. B. Woodward研究室にてポスドクとしてビタミンB12の全合成研究を行う。
1966年にストラスブール大学にて助教のポストを得、1969年にクリプタンドの合成に成功。1970年に同大学教授となる。1980年フランス大学に招聘される。1987年ノーベル化学賞受賞。
| 年 | 経歴 |
| 1963 | ストラスブール大学・博士号取得(Guy Ourrisson教授) |
| 1964 | ハーバード大学博士研究員(R.B.Woodward教授) |
| 1966 | ストラスブール大学助教 |
| 1970 | ストラスブール大学准教授、教授 |
| 1980 | フランス大学教授 |
- 受賞歴
1987年、ドナルド・クラム、チャールズ・ペダーセンとともに、ノーベル化学賞を共同受賞。 受賞理由は「構造特異的な選択性を有する分子の開発に関する業績」。
| 年 | 賞 |
| 1987 | ノーベル化学賞 |
- 研究
・クリプタンド(Cryptand)の化学: ペダーセンによって発見されたクラウンエーテルとともに、ホスト・ゲスト化学の黎明期によく研究された分子の一つ。その名前はギリシャ語で「隠す」を意味する'crypto'に由来する。ヘテロ原子によって囲まれた空間に、様々なイオン性ゲストを取り込むことができる。環サイズや構成ヘテロ原子の違いによって、もっとも良く取り込まれるゲストの種類が異なる。今日では常識となっている、分子認識(Molecular Recognition)概念の発展に大きく寄与した研究である。レーンはクリプタンドを用いた研究展開から「超分子化学」という用語を提唱し、その功績によってノーベル化学賞を受賞した。
・らせん状分子の合成:銅-ビピリジンオリゴマー錯体は、構造的に興味深い二重らせん自己組織化構造をとる。レーンはこの二重らせん型金属錯体をヘリケート(Helicate)と命名した[1]。ヘリケートは組織化時においてらせんを自己識別する[2]など、他には見られない興味深い性質を備えることも報告されている。自然界にはDNAなどをはじめとする多重らせん分子が知られているが、それを人工的に設計・合成することは現在の技術をもってしても困難である。ヘリケートの研究は、多重らせん人工分子の合成におけるパイオニア的研究として位置づけられる。
・動的コンビナトリアル化学(Dynamic Combinatorial Chemistry)[3]:多数の構成ユニットが成す自己集合体の平衡混合物に、ホスト(ゲスト)となる鋳型(Template)を加えることで、そのホストともっとも強力に結合する特定の集合体が増幅される(ル・シャトリエの原理)。これを利用して、ホスト・ゲスト相互作用の新しい組み合わせを発見しようとする手法が動的コンビナトリアル化学であり、様々な応用展開が期待できるとされている。例えば、ホストをタンパク質、ゲストを有機小分子集合体とすれば、タンパク質に強固に結合できる有機化合物が探索可能である。これはすなわち医薬リードの探索[4]そのものといえる。
- 関連論文
[1] Lehn, J.-M. ; Rigault, A.; Siegel. J.; Harrowfield, J.; Chevrier, B.; Moras, B.Proc. Natl. Acad. Sci., USA1987,84, 2565.[PubMed]
[2] Kramer, R.; Lehn, J.-M.; Marguis-Rigault, A. Proc. Natl. Acad. Sci., USA1993,90, 5394.[PubMed]
[3] (a) Lehn, J.-M.; Eliseev, A.V.Science2001,291, 5512. DOI:10.1126/science.1060066 [PubMed](b) Corbett, P. T.; Leclaire, J.; Vial, L.; West, K. R.; Wietor, J.-L.; Sanders, J. K. M.; Otto, S.Chem. Rev.2006,106, 3652. DOI:10.1021/cr020452p
[4] Ramstrom, O.; Lehn, J.-M.Nat. Rev. Drug Discov.2002, 1, 26. [PubMed]
- コメント&その他
二回ほど講演を拝聴したことがありますが、65歳を過ぎているとは思えないほどのエネルギッシュなプレゼンから科学に関する情熱が伝わってきます。あるリスナーの『科学者として身を立てていくのに必要なことはなんですか?』という質問に、「Work Hard! 働かないと何も始まらないよ!」と答えていらしたのが印象的でした。
- 関連書籍
- 関連リンク
Jean-Marie Lehn - Autobiographyノーベル賞財団による経歴紹介
Supramolecular Chemistry - Wikipedia
有機の王冠(有機って面白いよね!)
クラウンエーテルの話(有機化学美術館)
自己集合&自己組織化(ナノエレクトロニクス.jp)
Supramolecular Chemistry Laboratoryルイ・パスツール大学レーン研究室のHP
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作成者: cosine 最終更新日時: 2007年7月27日 04:43
