[スポンサーリンク]

天然物

アスパラプチン Asparaptine

[スポンサーリンク]

 

アスパラプチンは、アスパラガス(Asparagus
 officinalis
)より単離された含硫黄物質。構造的な特徴として、1,2-ジチオラン、グアニジン、カルボン酸構造を持つ。

Asparaptine_structure

含硫黄物質

アスパラガスの粗抽出物(crude extract)には血圧を下げる効果があり、このことは古くから研究されてきました。当時は、アスパラガスに含まれる含窒素化合物が活性化合物ではないかと言われていました。しかし、その後の研究によりどうやら違うらしいということがわかり、含硫黄化合物に注目が集まり始めました。

医薬品などに使われる含硫黄化合物は、血圧上昇などに関わるアンギオテンシン転換酵素(ACE)を阻害することが知られています。そのため、理化学研究所の研究グループは含硫黄化合物を生産するアスパラガスに着目し、まだ単離されていない血圧降下作用のある含硫黄化合物がアスパラガス内にあるのではないかという仮説を立てました。

 

どうやって発見されたか?

モノ取りというと「植物をすりつぶす→各種溶媒で抽出→カラムなどで単離」などの方法が一般的であると考えられますが、Asparaptine は、S-メタボロミクスにより発見されました3。著者らは、検出ピークの分解能が非常に良いFTICR-MSを用い、モノアイソトピックイオンからなる含硫黄化合物のピークを見分けるため、硫黄の安定同位体の天然存在比(32Sが95.02%、34Sが4.29%)と精密な質量比を利用しました。

S-メタボロミクスは、一つ一つ化合物を単離して構造を決めていく手法ではなく、代謝物のミクスチャーを分析して目的化合物を絞っていくという非常に強力な網羅的手法です。

 

構造決定

Asparaptine_MS

 

植物科学の世界では、NMR を使わずに MS だけで構造を決めていく方法が一般的です。その理由としては、十分な量のサンプル(植物)を用意するのが困難というのが大きいと思います。NMR と MS では必要なサンプル量の桁が違いますし。

Asparaptine もMS で構造決定されました。MS/MS により全体の構造を決め、加水分解物を LC で分析し、L-arginine と D-arginine と保持時間を比較することにより立体化学を決定しています。

今回の論文では、1H NMR, COSY, HMQC も使用していますが、非常に特徴的な新規物質だったという理由があったわけで、オミクスを軸に研究を進めていく植物化学の世界では珍しいことだと思います。

 

血圧上昇を抑える効果

Asparaptine_activity 

 in vitro での活性試験が行われました。市販薬である captopril と比べるとさすがに活性は弱いですが、それでも ACE を阻害する活性があります。

これを見るとアスパラガスを食べれば血圧が下がるかもって思ってしまいますよね!経口摂取で効果が出るかどうかについては、今後の研究に注目ですね!

 

参考文献

  1. Ryo Nakabayashi, Zhigang Yang, Tomoko Nishizawa, Tetsuya Mori, Kazuki Saito, “Top–down Targeted Metabolomics Reveals a Sulfur-containing Metabolite with Inhibitory Activity against Angiotensin-converting Enzyme in Asparagus officinalis“,J. Nat. Prod. 2015, 78, 1179−1183. DOI: 10.1021/acs.jnatprod.5b00092
  1. 理研プレスリリース
  2. 理研プレスリリース

ゼロ

投稿者の記事一覧

女の子。研究所勤務。趣味は読書とハイキング ♪
ハンドルネームは村上龍の「愛と幻想のファシズム」の登場人物にちなんでま〜す。5 分後の世界、ヒュウガ・ウイルスも好き!

関連記事

  1. サラシノール/Salacinol
  2. フィブロイン Fibroin
  3. ITO 酸化インジウム・スズ
  4. コルチスタチン /Cortistatin
  5. スピノシン Spinosyn
  6. トリクロロアニソール (2,4,6-trichloroaniso…
  7. アスタキサンチン (astaxanthin)
  8. メバスタチン /Mevastatin

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン:Benzo[1,2-b:4,5-b’]dithiophene
  2. あなたの体の中の”毒ガス”
  3. 【誤解してない?】4s軌道はいつも3d軌道より低いわけではない
  4. ヒドロホルミル化反応 Hydroformylation
  5. タンチョウ:殺虫剤フェンチオンで中毒死増加
  6. 【書籍】10分間ミステリー
  7. 2011年10大化学ニュース【前編】
  8. ナノ粒子の機能と応用 ?コロイダルシリカを中心に?【終了】
  9. かぶれたTシャツ、原因は塩化ジデシルジメチルアンモニウム
  10. 分子集合の力でマイクロスケールの器をつくる

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年6月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

十全化学株式会社ってどんな会社?

私たち十全化学は、医薬品の有効成分である原薬及び重要中間体の製造受託を担っている…

化学者と不妊治療

これは理系の夫視点で書いた、私たち夫婦の不妊治療の体験談です。ケムステ読者で不妊に悩まれている方の参…

リボフラビンを活用した光触媒製品の開発

ビタミン系光触媒ジェンタミン®は、リボフラビン(ビタミンB2)を活用した光触媒で…

紅麹を含むサプリメントで重篤な健康被害、原因物質の特定急ぐ

健康食品 (機能性表示食品) に関する重大ニュースが報じられました。血中コレステ…

ユシロ化学工業ってどんな会社?

1944年の創業から培った技術力と信頼で、こっそりセカイを変える化学屋さん。ユシロ化学の事業内容…

日本薬学会第144年会付設展示会ケムステキャンペーン

日本化学会の年会も終わりましたね。付設展示会キャンペーンもケムステイブニングミキ…

ペプチドのN末端でのピンポイント二重修飾反応を開発!

第 605回のスポットライトリサーチは、中央大学大学院 理工学研究科 応用化学専…

材料・製品開発組織における科学的考察の風土のつくりかた ー マテリアルズ・インフォマティクスを活用し最大限の成果を得るための筋の良いテーマとは ー

開催日:2024/03/27 申込みはこちら■開催概要材料開発を取り巻く競争や環境が激し…

石谷教授最終講義「人工光合成を目指して」を聴講してみた

bergです。この度は2024年3月9日(土)に東京工業大学 大岡山キャンパスにて開催された石谷教授…

リガンド効率 Ligand Efficiency

リガンド効率 (Ligand Efficacy: LE) またはリガンド効率指数…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP