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反応機構を書いてみよう!〜電子の矢印講座・その1〜

 

これから何回かに分けて、有機化学を学び始めた人向けに、反応機構図・電子の矢印を書くためのポイントを解説していきたいと思います。 反応機構がうまく書けない、とお困りの方は是非読んでみてください!

<その1 〜目次〜>
反応機構とは
矢印の決まりごと
電子の動かし方


反応機構とは

 

「ある反応がどのようにして起こっているか?」について記述したものが反応機構(reaction mechanism)です。一つの反応機構は、反応に関わる全ての結合の開裂・生成様式を示します。つまり、どの結合がどういう順番で切れ、どの結合がどういう順番でできるか、ということが必要十分に表現されていなくてはなりません。

有機化学では、多くの反応機構を、電子の移動を示す矢印を使って表現します。たとえば、人名反応の一つ、ホーナー・ワズワース・エモンス反応とその反応機構図は以下のようになります。
注) 現実は紙の上より複雑・多様です。実際に電子が一個単位で移動するわけではありません(非整数電荷の存在などは一般的です)。この表記で得られるものはあくまで定性的な理解です。

 



 

有機化学を学ぶ学生の多くは、まずこの矢印表記につまづきます。実験技術に長けていても、矢印の書き方が分かってない大学院生は、実はたくさんいます。確かに矢印が書けなくても実験はできます。どんな結果が期待できるかさえ知っていれば何とかなるからです。しかし、それではいつまでたっても「化学=暗記物」の図式から抜け出せませんし、実験結果を深く理解し、さらなる応用へと結びつけていくことも難しいのでは、と思えます。

 

矢印を使った反応機構を書けるようになること――これはレベルの高い有機化学研究をしたいのであれば、習得を避けては通れないスキルであるといえます。単なる「実験事実」から、「サイエンス」へと実験結果を発展させていくための"思考のツール"、つまりは一つ一つの結合変換について深く理解し、学んだ知見をさらに発展させていく目的で、大変な優れた記述法なのです。

はじめは大変かも知れませんが、ひとたびマスターすれば、化学的思考力が格段にアップすることは確実です。 是非、正しい「電子の矢印の書き方」を習得しましょう。

 

矢印の決まりごと

 

 単純には電子対(電子2つ)の動きが矢印で表現される、と捉えてもらってかまいません。電子一つの移動を表す時には、釣り針型の半矢印を使います(下図・左)。

 また、曲がった矢印内側の原子の電子数は変わらない、という決まり事があります。例えば、下図・右の様なケースを考えてみます。A-Bの共有結合電子対がCに移るケースで、極性転位反応などに多く見られるパターンです。上スキームのように破線を使って書くと、A上の電子数は変わらずに、B上の電子がCに持って行かれる、という表記になります。他方、下スキームのように書くと、B上の電子数は変わらず、A上の電子が持って行かれる、という表記になります。

 

 

一方、曲がっていない矢印は何を表しているのでしょうか?これは、化学種同士を関係づける表記です。具体的には、以下のようなものが多用されます。

 

電子の動かし方

 

電子の動きを考えるのは一見複雑そうです。しかし、実は常識的な感覚で良く、ことさら難しく捉える必要はありません。以下のポイントを押さえておけばとりあえずOKでしょう。ざっくり言ってしまえば、世にある反応機構のほとんどは、プラスとマイナスが結びつくことの繰り返しで書ける、ということです。

@矢印(電子の動き)はマイナス電荷を帯びた『求核種』から、プラス電荷を帯びた『求電子種』へ移動する。
A電子の移動しやすさ(負電荷を持つ優先度)は電気陰性度で決まる

たとえば、プラスが出にくい元素にプラスを出そうとしたり、マイナスとマイナスが反応するような機構は、間違っている可能性が高い、ということです(勿論例外はありますが)。

それでは、次回は実例を挙げつつ、反応機構をどうやって書くか?についてお話ししたいと思います。

(2008.8.7. cosine)

 

参考、関連文献

 

「電子の矢印」記法を訓練できる演習書

演習で学ぶ有機反応機構―大学院入試から最先端まで
化学同人
有機合成化学協会(編集)
発売日:2005-10
おすすめ度:5.0
おすすめ度5 有機化学の世界が広がる演習書。
おすすめ度5 お勧め
おすすめ度5 学部生から大学院生、研究者まで使える問題集
 

 
The Art of Writing Reasonable Organic Reaction Mechanisms
Springer-Verlag
発売日:2002-12-13
おすすめ度:4.5
おすすめ度5 自分の手を使って紙の上で構造を書きながら練習する事をお勧め
おすすめ度5 アートと呼ぶに相応しいテキスト
おすすめ度3 索引の充実を。
おすすめ度5 間違いなく買いでしょう。
おすすめ度4 the art of writing reasonable organic reaction mecanisms

関連リンク

 

有機化学を学び始める貴方に:オススメ教科書徹底比較!!(有機って面白いよね!)