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超音波有機合成

 

化学反応における光や熱の影響は古くから知られており、良く理解しているところであろう。超音波が化学反応を加速することは60年以上も前から知られてはいたが、最近まで合成化学者の注目を浴びることはなかった。

 これは、初期の研究対象がほとんどすべて水溶液中の反応に限られていたという歴史的背景、また、適当な装置が入手できなかったためもある。

 1980年代の初頭以来、合成化学者の直接の興味を引くような報告が数多くなされ、この分野は急速に発展してきている。

 ここでは、その超音波反応・合成を例をあげて簡単に説明してみよう。

 

 

超音波と化学反応

 

 超音波がどのような機構で化学反応を引き起こすか?についてその詳細はよくわかっていない。

しかし、超音波によって生じるキャビテーション(空洞化現象)というものが深く関係しているということは、間違いないようである。

 超音波の化学的効果は、音のエネルギーが分子レベルで反応種を直接に励起することによるのではない。

水に関する物理的データを一見してもこのことは明らかである。水中での音速は1500m/sであり、超音波の周波数範囲は20〜10000kHzである。したがって振動の波長は7.5-0.0015cmということになる。すなわち、直接の励起は化学反応を引き起こすのに十分でないことを意味している。電磁スペクトルと直接比較してみると、超音波のエネルギーは長波長のラジオ波に相当する(図1)

 

 

 

図1 音響スペクトル

 

  超音波の顕著な効果は事実上、媒体中での伝播の仕方に起因している。

 液体中で分子が縦方向(波の進行方向に対して)に振動することにより高密度と低密度の状態、すなわち、高圧域と低圧域が発生する。低圧状態になったときに溶媒分子での圧力がその蒸気圧より十分低くなった部分でキャビティー(空洞)が形成される。そのため(溶存)ガスや溶媒蒸気を含む気泡が生じ、さまざまな過程を経て変化していく。きわめて小さい気泡は生じてもすぐに溶解してしまう。大きな気泡は音波の周期に比べて長い寿命を持ってはいるが、音波にあわせて収縮・膨張するだけで超音波の化学効果には関与していない。このようなキャビテーションを”安定キャビテーション”と呼ぶ。

 

 

図2 過度的キャビテーションの発生・圧壊過程の模式図

 

 化学反応を引き起こす過程は小さい気泡の挙動によると考えられる。それらは図2のように生成・圧壊する。この圧壊によって発生する圧力と温度はきわめて大きい。この過程は”過度的キャビテーション”と呼ばれ、目に見える化学的効果は直接この現象に起因する。

 超音波の化学作用を、このようなキャビテーションが圧壊するときに生じる”ホットスポット”での熱分解に帰す説(ホットスポット説)が1950年に提唱され、これが一般的に受け入れられるようになってきているが、他にも多数説がある。

 

合成・反応例

 

 代表的な反応で超音波を使用した例をあげてみよう。

(a)Wittig反応(図表a)

 

 

脱プロトン化条件

ジエンの収率

シス・トランス比

nBuLi,室温,20h

8%

1:1

LDA,室温,2h

79%

1:2.3

nBuLi,1h,超音波

91%

2:3

図表a Wittig反応(Low CMR(1986)PhD Thesis,Imperial College,Unversity of London)

 

 通常のWittig反応での共役ジエンの収率を大幅に改善するために超音波が使用できることを示した。

原料のホスホニウム塩のn-BuLiによる脱プロトン化は非常に遅く、ベンズアルデヒドPhCHOとの反応では収率はわずか8%。LDAを用いると収率はずっと高くなる(79%)。この反応はホスホニウム塩がTHFに溶けにくいことがWittig試薬の生成にとって主要な障壁となっている。そこで、最初の反応を超音波照射下で行ってみたところ、リンイリドの生成は1時間で完結した。これにベンズアルデヒドを加えるとなんと91%の収率で生成物を与えた。

 

(b)2級アルコールの酸化(図表b)

 

条件

収率

攪拌

16%

超音波

86%

 

条件

収率

バイブレーション

3%

超音波

93%

 図表b 過マンガン酸カリウムによる2級アルコールの酸化(Yamazaki J, Sumi S al. Chem.Lett.379.1983)

 

 2級アルコールの酸化も炭化水素系溶媒中で過マンガン酸カリウムを用いて良い収率で行うことが出来る。この反応を攪拌条件で行った場合、強い溶媒効果が見られるが、超音波照射下ではほとんどみられないことが報告されている。

 

(c)糖アセタール合成(図表c)

 

 

条件

時間

収率

攪拌

5h

12%

超音波

50-60min

62%

図表c 糖アセタール合成 (Schmidt OT(1963)Methods Carbohydr.Chem.2,318)

 

  超音波を用いて有機反応の操作を簡略化できる例として、種々の糖アセタール合成があげられる。これらの化合物は、糖とアセトンから酸触媒の反応で合成されるが、超音波を使用すると、熱反応に比べて反応時間が大幅に短縮される。また、ジアセタールの収率は20〜30%高くなる場合が多い。

 

 このように超音波を使うと反応時間の短縮または収率の向上につながる反応は他にもたくさんある。

詳しく知りたい方は参考文献を見てほしい。

 

有機って面白いよね!!                                

(by ブレビコミン 2000/8/25 )

参考、関連文献

 

超音波有機合成―基礎から応用例まで

超音波技術の合成化学的な可能性に興味を持つ人向けの入門書。合成化学者と超音波技術との関わりに主眼を置き、超音波を用いる反応を行う場合の実践面に関する章も設けてある。

【用語ミニ解説】

 

キャビテーション

 

流動している液体の圧力が局部的に低下して、蒸気や含有気体を含む気泡が発生する現象。圧力がその液体の飽和圧力以下になることにより発生する。

 

 

 

 

 

超音波の利用

 

胎児を確認する超音波検診から、金属などの内部にある有害な傷を検出する超音波検査、魚群を探査する超音波探知機、また、自動ドアのセンサー、パンの発酵などにも使われている。

 

近年ではさらに幅を広げ一般的な利用も多くある。例えば、メガネ屋さんで見られるの超音波洗浄機、 洗濯機に利用された超音波洗濯機、ご飯を炊く超音波炊飯器、さらには超音波歯ブラシなどがあげられる。

 

 EUPA 超音波洗浄器 TSI-UC2800
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 東レ 電動歯ブラシ ウルティマ超音波 スタンダードタイプ RC-300UJ
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イリド

 

正電荷のヘテロ原子と炭素アニオンが隣接する活性化学種で,各ヘテロ原子の特性に基づき種々の反応に用いられています。

 

例、リンイリド、硫黄イリド