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一般的な話題

有名研究者の論文であったとしても

今回取り上げる論文は、以前ケムステで紹介した研究「なんと!アルカリ金属触媒で進む直接シリル化反応」の続報に関するお話です。

Stoltz, Grubbsらは2015年に、触媒量のt-BuOKを用いると、ヘテロ5員環化合物とヒドロシランによる脱水素シリル化反応が進行することを発見してます(1)。最近彼らは、同触媒を利用し、末端アルキンとヒドロシランによる脱水素シリル化反応を達成しました (図1)(2)

図1

 

触媒にはt-BuOKだけでなく、KOHやNaOHも適用できるそうです。反応には種々の官能基を有するアリールアセチレンやアルキルアセチレンが利用できるうえ、操作は触媒と溶媒をまぜて加熱するだけなので、非常に手軽に行えるよい反応だと思います(論文はarticleですが、その大部分が基質適用範囲に関するもので、メカニズムに関する情報はほとんどありませんでした)。

この論文に関して強調しておきたいことがあります。末端アルキンとヒドロシランによる脱水素シリル化反応は、実は報告例があるのです。2012年、明治大学の土本晃久教授らがZn(OTf)2とピリジンを触媒として用いた同様の反応を報告しています (図2)(3)

図2

この反応は、参考文献として引用されていないわけでなく、Stoltz, Grubbsらの論文では、末端アルキンと「シリルトリフラート」の反応として紹介されていました。シリルトリフラートは高い求電子性を有するため、末端アルキンと反応してもさほど驚きはしません。土本らの論文の売りは、扱いやすく比較的求電子性の低いヒドロシランがシリル化剤として利用できる点にあります。しかも、シリルトリフラートが反応に関与するというのは、土本らの論文を読み込まないと分からないはずなので、反応の新規性を強調をしたいために、意図的に「ヒドロシラン」でなく「シリルトリフラート」と紹介をしたのでは?と疑いたくなります。

たとえ有名研究者の論文であったとしても、書いてあることを鵜呑みにしてはいけないと、改めて感じさせた論文でした。

なお、筆者は土本先生に頼まれてこの記事を書いたわけではありません。Newtonが「巨人の肩の上に立つ」という言葉を残しています。どこまでが巨人の功績で、何が自分の成果なのかをはっきりさせない姿勢は、今回取り上げた論文に限らず学会でもときどき見かけます。今回は、自戒を込めてこの記事を執筆した次第です。

追記(2017年2月25日)

Stoltz, Grubbsらは土本教授らの論文こそ引用ミス (おそらく15bと15cが逆) していましたが、脱水素シリル化反応については別途きちんと引用していました。
著者らの名誉を傷つけてしまったこと、自分の調べが甘かったこと、この場でお詫び申し上げます。指摘してくださったみなさま、ありがとうございます。
最近の一部のプレスリリースや論文、学会発表で誇大広告や明らかにわざと先行研究を無視しているな、という内容を目にすることがあり、感情的に記事を執筆してしまいました。申し訳ありませんでした。

参考文献

  1. Stoltz, B. M.; Grubbs, T. H. et al. Nature 2015, 518, 80. DOI: 10.1038/nature14126
  2.  Stoltz, B. M.; Grubbs, T. H. et al. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 1668. DOI: 10.1021/jacs.6b12114
  3. Tsuchimoto, T. et al. Adv. Synth. Catal. 2012, 354, 2959. DOI: 10.1002/adsc.201200310

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