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セミナー資料で最先端の化学を学ぼう! 〜有機合成化学編〜
Let's study the frontier of chemistry from seminar handouts!

 

 

 近頃はどこの研究室でも、業績や研究内容をアピールする手段としてのホームページを作成・公開することが一般的になってきました。 国内海外に限らず、大変綺麗なページを作っているところも少なくありません。資金が潤沢な研究室の中には、専門の業者に管理委託しているケースすらあるようです。 見やすさやレイアウトなども確かに重要ですが、気になるのはやはりその内容でしょう。メンバー構成や論文リストなど最低限の情報しか公開していないページもあれば、かなり充実した内容のページもあり、考え方は多種多彩・十人十色と言えそうです。

 

中には、研究室で作成したいろんな資料を公開することで役立てて欲しいと考え、インターネットというメディアを通じて積極的に情報発信している研究室があります。たとえば大学の院生・ポスドク達が定期的に開催する勉強会や雑誌会がありますが、そのプレゼンで使用された資料(レジュメ・Handout)を公開している研究室があります。最先端の知識を日夜詰め込んでいる研究生達が、特定のテーマに沿って研究内容を簡潔にまとめているため、読むだけで勉強になるものも少なくありません。筆者などもそうですが、良くできたものは研究室外の研究者も欲しがるのではないでしょうか。

 

ここでは、勉強会資料やお役立ち情報などを配布・公開している研究室ホームページを紹介してみたいと思います。今回は有機合成化学領域のページをメインに紹介します。


セミナー資料を公開しているラボ〜海外編〜

 

【David A. Evans研】(ハーバード大学)

 

 有機合成化学における大御所・Evans研では、2005年頃までのセミナー資料をPDFファイルで公開しています。内容は天然物の全合成研究や有機合成方法論に関するものが主です。セミナー資料の他にも、化合物の酸性度(pKa)一覧表(PDF)や、Advanced Problems in Organic Chemistry(有機合成問題集)へのリンクも載せてあり、情報価値の大変高いページです。レイアウトも綺麗で見やすく、情報発信のための良いお手本となってくれるでしょう。

 

【Andrew G. Myers研】(ハーバード大学)

 

天然物の全合成研究を行っているMyers研。化学コースで使われているレジュメをPDF形式で公開しています。有機合成の方法論に関するものですが、よくまとまっていて参考文献もしっかり書かれており、有機合成を研究する人にとって、大変重宝する情報ばかりです。

 

【Phil.S.Baran研】(スクリプス研究所)

 

近年独創的なルートの天然物合成研究で脚光を浴びているライジングスター・Baran研。内容はやはり天然物合成とその方法論が中心です。Baran博士はまだ29歳と若く独立してから日が浅いはずなのですが、公開資料から推し量られるメンバーのレベルの高さには驚嘆するばかりです。

 

【David W.C. MacMillan研】(プリンストン大学)

 

独自にデザインした不斉有機分子触媒を用いる、革新的な有機合成手法の開発で一躍名をあげたMacMillan研。2000-2005年度のセミナー資料を公開しています。内容は反応開発研究に関するものが多いですが、天然物合成や有名化学者の研究経歴紹介、基礎化学なども取り上げているようです。

 

【Brian M.Stoltz研】(カリフォルニア工科大学)

 

 

 

天然物合成研究で有名なStoltz研。問題会や雑誌会の資料は勿論ですが、化学系Webサイトのリンク集がかなり充実しておりとても便利です。珍しい情報としては合成実験テクニック集(フォーラム形式)なども公開されており、情報発信にかなり意欲的に取り組んでいる研究室の一つといえます。

【Richmond Sarpong研】(カリフォルニア大学バークレイ校)

 

 

 

白金などを使った反応開発を行っているSarpong研。問題会と雑誌会で用いた資料を公開しています。Group DocumentコーナーではChemDrawテンプレートや実験関連などの一風変わった資料が置いてあります。

【Peter Wipf研】(ピッツバーグ大学)

 

 

有機金属試薬の開発や天然物合成で著名なWipf研。ページ下部のリンクからセミナーPDf資料を公開しているページに入れます。取り上げている内容は天然物合成・有機反応から医薬指向型化学まで幅広い分野にわたっています。

 

セミナー資料を公開しているラボ〜国内編〜

 

【福山透 研】(東京大学・薬学系研究科)

 

 日本で天然物合成といえばまずはこの研究室だ、というぐらいの福山研です。以前から問題会の資料は継続的に公開されていましたが、最近ではグループミーティング資料の公開も始められています。特定の化学者の研究内容をまとめた内容になっています。トップページからは実験テクニックに関するPDF資料などもダウンロードでき、日本語で読める役立つ情報が満載のサイトです。

 

【柴崎正勝 研】(東京大学・薬学系研究科)

 

 

 

不斉触媒反応開発研究で、世界的に有名な柴崎研。2006年以降のセミナー資料が公開されています。内容は基礎化学や有機合成化学に始まり、超分子・生物有機化学・医薬化学などの極めて幅広い範囲にまで及んでいます。また、お手製の周期表やデータ収集用シートなど、便利な文書類も公開されています。

 

おわりに

 

 日々の研究活動が忙しいためか、「ネットを通じて情報発信する」というコトに積極的な化学系研究室は現在のところそれほど多くないように感じます。雑誌会や勉強会などはどこの研究室でも日常的に開催されているものと思います。インターネットという開かれたメディアを通じて、最先端の内容を世界中の研究者達と共有できれば、お互い得るものも少なくないことでしょう。
  最先端の研究者が何を考え、どういう情報を活用して日々過ごしているのかを積極的に発信していく姿勢は、それだけで内外の研究者達にとって有益・刺激的なものになるのではないでしょうか。日本ではまだまだそういう意識が育っていないような気もしますので、このような試みはもっと増えていって欲しいものだ、と筆者などは思います。

資料公開をしている他の研究室について、皆さん情報をお持ちでしたら、是非教えていただきたいと思います。

 

(2007.6.10. cosine)

 

参考、関連文献

 

関連リンク

 

有機って面白いよね!関連内容

ポッドキャスティングで化学
役立つホームページ(海外編)
化学のサイト

 

その他の有用情報サイト(有機合成編)

 

有機合成データベースODOOS : 有機反応・文献に関する情報が得られます。
Not Voodoo (英語) : 化学実験を行う上で留意すべき基本事項や、実験上のテクニック、HowToが満載のサイト。
OrganicChenmistryInfo (英語) : 人名反応リスト、データ集、実験テクニック集など盛りだくさん。
organic-chemistry.org (英語):海外有機化学ポータルサイトの一つ。 最近の研究内容紹介を初め、様々な情報が提供されています。
Al's Notebook (英語):基本的な合成実験手順や略語表、TLC発色試薬調製法など、合成化学者に有益な情報が掲載されています。
Organic Synthesis (英語):Organic Synthesis掲載前には、複数の化学者によって追試が行われます。大量合成可能で信頼性の高い実験手順が多いです。

 

【用語ミニ解説】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全合成

Total Synthesis。最小単位の原料から天然生理活性物質(天然物)を合成することを意味します。

 

Classics in Total Synthesis

Classics in Total Synthesis

1995年までの全合成研究の中で、芸術作品と呼ぶべき一流の成果、有機合成化学的マイルストーンとなる選りすぐりの研究を紹介している。

 

天然物の全合成―Total synthesis of natural products

 

約50人の日本の研究者達が自薦した天然物の全合成を収録。本文は構造図、化学式、英文で構成。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不斉触媒反応

Asymmetric Catalysis。触媒量のキラル源によって、エナンチオ選択的に生成物を得るための手法。不斉合成法としてはもっとも効率の良い反応形式になります。