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最近の論文から〜ノルゾアンタミンの全合成2〜

 

 

それでは、最近の論文から〜ノルゾアンタミンの全合成1〜に続いて実際のノルゾアンタミンの合成について説明していきましょう。まずは、ノルゾアンタミンの逆合成解析から(Scheme 1)。

 

▼ 逆合成解析

 

 

Scheme 1. ノルゾアンタミン(1)の逆合成解析

 

ノルゾアンタミン(1)の逆合成解析をScheme 1 に示します。ノルゾアンタミン(1)は26のアミノアセタール化によって得ることができます。262022のカップリング反応、、アミナール化によって合成できると考えました。アルキンセグメント2012より、12はトリエン10の分子内Diels-Alder反応によって3つの不斉点を立体選択的に構築します。また重要中間体となるトリエン10は、3とビニル銅試薬とフラン環との3成分連結反応により得られた生成物より合成できると考えました。さて、この合成においては、10の分子内Diels-Alder反応の立体選択性、また、残った9位のメチル基をいかに立体選択的に導入するかが検討課題となると考えられます。それでは実際の合成を簡単に説明します。

 

▼ Synthesis of ABC ring system of Norzoanthamine(1) by intramolecular Diels-Alder Reaction



 Scheme 2. ABC環の合成

 

(R)-5-メチルシクロヘキセノン3を出発物質とし3成分連結反応を試みました。すなわち、ビニル銅試薬の立体選択的Michael反応、多置換フラルアルデヒドとのアルドール反応を行い、1:1のジアステレオマーとして5を合成しました。3段階を経て3置換シクロヘキサノンを立体選択的に構築した後、LiBEt3Hを作用させβアルコールを単一のジアステレオマーとして得ています。

 数段階を経て、Katsumuraらにより報告されているフランの光増感酸素酸化反応によりフラン環を開環し、シリルエノールエーテルへ変換することでDiels-Alder前躯体であるトリエン10を合成することができました。


トリエン10の分子内Diels-Alder反応はtoluene還流下12時間で75%の収率、endo/exo=24/76の選択性で得られましたが再現性が乏しかったようです。そこで、詳細な検討を行った結果、240度に加熱したクロロベンゼン中に10を滴下することによって98%という高収率(edo/exo=24/76)で生成物を得ることに成功しました。Diels-Alder環化体は二重結合の異性体混合物として得られますが、TBS基を除去ことにより10より51%の収率で単一のジアステレオマーとして12を得ることができています・
以上により、ABC環部の立体選択的な構築に成功しました。 収率は16段階で29%と非常に効率的です。残ったのはC環のC9位の不斉点です。この不斉点の導入を次に説明しましょう。
 

 

▼ Construction of asymmetric carbon center at the C9 position

 


Scheme 3. C9位の不斉点構築

(訂正:2行目化合物15171518です。)

 

C9位の不斉点導入には非常に苦労しています。

まず12のケトンを立体選択的に還元し、ラクトン13に変換しました。

Wittig反応(Ph3P=CD2)、ヒドロホウ素化反応によりジオール15を合成し、さらにTrost酸化によりケトアルコール16に高収率で変換し ました。ここで、重水素置換したWittig試薬を用いたことは後々説明します。

16から分子内アシル化を行い17、さらにMe基の立体選択的導入により18とし ました。ここでようやくC9位の不斉点を導入することができました。


アルキンへの変換は、重水素化したことによって収率の向上が見られました。すなわち重水素置換していない場合は21'のような1,5ヒドリドシフトが優先し副生成物21が増加します(重水素化していない場合は収率66%、副生成物30%)。しかし、重水素同位体効果により21の生成を抑えることに成功し ました。
 

▼ Total Synthesis of Norzoanthamine (1)

 

Scheme 4. ノルゾアンタミンの全合成

 

最後は2つのアミノアセタール部位の構築によるノルゾアンタミンの全合成です。


20のアセチリドとアルデヒド22のカップリング反応を行い、アルキンの還元、アミノアセタールの構築により24を合成し ました。

2425へ変換し25のアルコールの酸化によりカルボン酸26を得た。メチルエステル化、伊藤-三枝酸化により望みのエノン27を合成することができ ました。

 最後のビスアミノアセタール化によるDEFG環部の構築を行いました。はじめに酢酸、水中100℃で過熱することによりイミニウムイオン28とし、さらにトリフルオロ酢酸を作用させることによりアンモニウム塩29を得 ました。最後に、アルミナを通すことによりビスアミノアセタールの構築を81%という高収率で進行させることができ、ノルゾアンタミン(1)の全合成を達成し ました。

 

 以上のように骨粗鬆症の治療薬のリード化合物となりうるノルゾアンタミン(1)41段階総収率3.5%(1段階 92%)という効率的なルートで不斉全合成を達成することができた。

 

(2005..1. 2 ブレビコミン)

 

参考、関連文献

 

天然物の全合成―Total synthesis of natural products

約50人の日本の研究者を選び、各人の自薦した天然物の全合成の構造図を収録。本文は構造図、化学式、英文で構成。

 

 

先端化学シリーズ〈5〉海洋天然物/錯体/コンビナトリアル/全合成先端化学シリーズ〈5〉海洋天然物/錯体/コンビナトリアル/全合成

化学関連各分野の世界最先端研究の現状と課題および将来動向についてまとめ、21世紀の化学研究の潮流を探り、将来の化学研究のシーズを浮き彫りにする。

 

 

 

Classics in Total Synthesis IIClassics in Total Synthesis II

前書のClassics in Total Synthesis : Targets, Strategies, Methods同様全合成の興味深い論文を詳しく、反応から合成法まで解説。Classicsと名前はついているが、最近合成された天然物ばかりで最新の全合成、合成戦略を体系的に学習できる。研究室のゼミの題材等にも最適であるため、ぜひもっておきたい1冊である。

 

Dead Ends And DetoursDead Ends And Detours

 

 

 


 

関連リンク

 

Diels-Alder反応

Wittig反応

ヒドロホウ素化反応

Trost酸化

伊藤-三枝酸化

重水素同位体効果

【用語ミニ解説】

 

逆合成解析

 

retrosynthetic analysis。合成ターゲットの一部分を切断していき、反応前の化合物を導き出して行くこと。ノーベル化学賞受賞者E.J.Coreyが提唱した考え方。

 

 有機合成の戦略―逆合成のノウハウ
有機合成の戦略―逆合成のノウハウ

 

単純な一置換分子あるいは二置換分子からもっと複雑な分子までを含む、幅広い分子の効率的な有機合成戦略の設計ができるように、逆合成解析を基盤として解説した明解なテキスト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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