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論文〜全合成〜

 

 ある程度知識がついてきたり、研究を始めることになると、論文を読む機会も多くなるだろう。

 「論文」とは goo大辞林 によると

(1)ある事物について理論的な筋道を立てて説かれた文章。
(2)学術的な研究成果を理論的に述べた文章。「卒業―」「博士―」

である。論文は世の中に星の数ほどあり、それを収録する雑誌もゴマンとある。

 

だから、今回は有機化学、合成の特に個人的意見だが、初めてでも読みやすく面白いと思われる「天然物の全合成の論文」に絞ってちょっと説明してみることにする。まずは論文を掲載している雑誌の注目度から確認してみよう。

 

雑誌の注目度

 

 先ほども書いたが、論文を収録した雑誌は山ほどある。しかし、有機化学系の方が法律系の論文の収録してある雑誌を読むことは少ないだろう。また、読むのだったら有用な研究成果が載っているものを読んだ方が勉強になる。もちろん有用な研究結果が載っている雑誌は注目されますよね。だから、有機化学系の話が入っている雑誌、また「注目されているもの」と考えればある程度絞られてくる。それでは「注目されているもの」とはどうやってわかるものだろうか?

 

 その指標としてIF(Impact factor)がある。これは、過去2年間に当該雑誌に掲載された論文が、その年1年間に発行されたすべての学術誌に引用された数を調べ、当該雑誌の2年間の掲載論文数で割った数値である。IF値が高いほど、よく読まれ、影響も大きく、他の研究に貢献していることになる。

 

 2000年Impact factorより化学の総合誌と、有機化学関連の雑誌を数誌ピックアップしてみた。表1に雑誌名とIE値を示す。

 

雑誌名

IE値

雑誌名

IE値

Nature

28.417

Eur. J. Org. Chem.

1.549

J.Am.Chem.Soc

5.948

J. Org. Chem.

3.722

Angew. Chem. Int. Ed.

8.184

Tetrahedron Lett.

2.497

Chem. Commun

3.107

Organometallics

3.134

Chem. Lett.

1.631

Synthesis

2.245

化学総合誌と有機化学関連雑誌のIE値

 

  Natureは世界最高位に位置する自然科学の専門誌と、自然科学を専攻する人が掲載を夢見ている雑誌と言われるだけあってIF値は高い。J.Am.Chem.SocAngew. Chem. Int. Ed.Chem. Communはそれぞれアメリカ、ドイツ、イギリスの化学総合誌で評価も高い。Chem. Lett.は日本化学会の速報誌である。

 

 有機化学の専門誌となると代表例として、アメリカ化学会のJ. Org. Chem.、Org.Lett., ヨーロッパのEur. J. Org. Chem.があり、その他Tetrahedron Lett.や有機金属関連のOrganometallics、合成関連のSynthesisなどがあり、それぞれ評価が高いジャーナルである。

 

 IF値は雑誌を評価するための指標にはなるが、それぞれの雑誌の掲載範囲や、その分野の雑誌の数によって変わってくるので、その値がそのまま雑誌の権威になるわけではないことを理解して欲しい。

 

 それでは、本題の天然物の全合成の論文の特徴を見てみよう。

 

全合成論文の構成

 

  技術論文の構成は次のような形式を取ることが多い。

1.論題(subject)

2.要約(Abstract)
3.序文(Introduction)
4.方法や材料(Experimental)

5. 結果(Result)
6. 考察(Discussion)
7. 結論(Conclusion)
8. 謝辞や参考文献(Acknowledgement,Reference)

 

 1、論題(Subject) 

 全合成の論文の場合、大抵「Total synthesis〜」で始まり、合成する物質名が入っている。

 

 2、要約(Abstract)

 合成方法の要約、合成過程でのキー反応が記述されている。

 

 3、序文(Introduction)

 以前のその化合物に対しての研究内容、天然物ならば単離した年、有用性等が記述されている。

 

 4、方法や材料(Experimental)

 実験方法。論文の最後にある場合が多い。

 

 5、結果(Result) 6、考察(Discussion)

 結果と考察が一緒の場合が多い。逆合成解析、各段階の反応スキームやそれに対しての結果、考察が書いてある。

 

 7、結論(Conclusion)

 その化合物がどのような新しい方法で何段階で合成できたか、全収率は何%かを記述している。

 

 8、謝辞や参考文献(Acknowledgement,Reference)

 論文や実験を行う際の参考文献を挙げる。参考文献を必要とする文章には上付きで番号がふられている。
 

 

全合成論文によく出てくる反応

 

 よく出てくる反応を下記に示す。

Dess-Martin酸化

 

Diels-Alder反応

 

 

Grignard反応

 

 

 

 

 

Horner-Wadsworth-Emmons反応

 

 

Kishi-Nozakiカップリング

 

Michael付加

 

Stilleクロスカップリング

 

Swern酸化

Wittig反応

 

アルドール反応

 

 

 

 

エステル、アミド、ニトリルの金属水素化物による還元

オレフィンメタセシス

 

ケトン、アルデヒドへの有機金属試薬の付加

 

 

 

 

 

 

鈴木ビニルカップリング反応

 

 

光延反応

 

 ここにあげた反応を最低限理解していることが望ましい。

 

全合成論文によく出てくる英語

 

・activity 

・analysis

・antifungal

・antitumor

・asymmetric 

・analogue

・base 

・biological

・byprduct

・catalyst

・cell

・condensation

・compound

・configuration

・co-warker

・cleavage

・clinical

・cycloaddition

・cyclization

・decomposition

・derivative

・deprotect

・diastereoselective

・elimination

・enantioselective

・epimerization

・exposure

・fragment

・group

活性

分析

抗真菌性の

抗腫瘍の

不斉(非対称的な)

類似物

塩基

生物学の

副生成物

触媒

細胞

縮合

化合物

(立体)配置

共同研究者

開裂

臨床の

環化付加

環化

(化合物が)壊れる

誘導体

脱保護

ジアステレオ選択性

脱離

エナンチオ選択的

エピマー化

露光、露出

断片、フラグメント

・hydrolysis

・isolate

・inhibit

・intramolecular

・intercalate

・intermolecular

・mechanisum

・methodology

・modify

・nucleophilic

・natural product

・oxidative

・pharmacology

・procedure

・protonation

・reaction

・reagent

・reduction

・reflux

・remove

・retrosynthesis

・skeleton

・spectra

・solvent

・strategy

・tautomerization

・thermolysis

・transition state

・treatment

加水分解

分離する、単離する

抑制する、阻害する

分子内の

挿入する

分子間の

機構

方法論、方法

修正する、改良する求核の

天然物

酸化的、酸化の

薬理学

方法、手順

プロトン化

反応

試薬

還元

還流

除去

逆合成

骨格

スペクトル

溶媒

戦略、作戦

互変異性

熱分解

遷移状態

処理

 

 以上、簡単に全合成の論文の特徴について説明してみたのだが、保護基や専門用語の略号の知識もあるとさらに読みやすくなると思う。まだ論文を読んだことがない人は、この機会にぜひ読んでみてください。

 

(2000.1.29 by ブレビコミン)

 

関連リンク

 

goo大辞林

Journal Inpact factor(2000)

・ジャーナル

Nature/J.Am.Chem.Soc/Angew. Chem. Int. Ed./Chem. Commun/Chem. Lett./Eur. J. Org. Chem./J. Org. Chem. /Tetrahedron Lett./Organometallics/Synthesis

・反応

Dess−Martin酸化/Diels−Alder反応/Grignard反応/Horner-Wadsworth-Emmons反応/Kishi-Nozakiカップリング/Michael付加/PCC(PDC)酸化を用いる第1級アルコールの酸化/Stilleクロスカップリング/Swern酸化/Wittig反応/アルドール反応/エステル、アミド、ニトリルの金属水素化物による還元/オレフィンメタセシス/ケトン、アルデヒドへの有機金属試薬の付加/鈴木ビニルカップリング反応/光延反応

有機略号データベース

【用語ミニ解説】

 

全合成

 

最小単位の原料から天然生理活性物質(天然物)を合成することを意味します。英語ではTotal Synthesis。

 

 天然物の全合成―Total synthesis of natural products

 

 

 

IF、引用数

 

全合成は有名な化合物でない限り基本的に引用数は少ない。

また、ノーベル賞を受賞した白川先生の研究が載っている論文のIFは3.695 (2000年)であり、そんなに高くない。さらに、研究分野が小さい場合、引用も減り、相対的にIFも小さくなります。ですから直接IFが研究者の能力を測れるものとは限りません。

 

ちなみに最近引用数が多い化学の研究者は

ホストゲスト化学の藤田誠東大教授、計算化学の諸熊奎治エモリー大教授、2001年度ノーベル化学賞を受賞した野依良治、現理化学研究所理事長、光触媒の藤嶋昭先生、鈴木-宮浦カップリングの宮浦先生など、非常に有名人が多いことから、引用数は重要であることはわかる。

 

しかし、ノーベル賞をとるような研究は、あたりまえすぎて引用されなくなってからと言われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Classics in Total Synthesis
Classics in Total Synthesis

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Classics in Total Synthesis II
Classics in Total Synthesis II

 

 

 Total Synthesis
Total Synthesis

 

 

 

有機人名反応
有機人名反応 

 

発見者・発明者の名前がつけられた有機合成化学反応には重要なものが多く、系統的に学ぶことが重要である。最近開発された役立つ反応も含め、有機人名反応の基礎を、多くの実験例をもとに解説。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保護基

 

Protecting group。選択的に反応を進行させ、化学的安定性を幅広く調節することができる。例えば複数の官能基を持っている有機化合物のある官能基のみ選択的に反応場合用いる。その他にも様々な利点がある。

 

 

 

 Protective Groups in Organic Synthesis
Protective Groups in Organic Synthesis