第 721 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合成化学研究室 (土肥研究室) 博士課程 4 年の 要藤 友佑(ようとう ゆうすけ)さんにお願いしました!
土肥研究室では、超原子価ヨウ素をはじめとする有機ハロゲン化学を武器に、環境にやさしくユニークな有機合成反応の開発に取り組んでいます。特に、ハロゲン元素ならではの反応性を活かした結合形成・結合切断や、天然資源を出発点とする新たな分子変換を開拓し、医薬品・機能性分子の創製につながる合成化学を展開されています。
今回のご研究では、天然物クマリンを出発点に、ハロゲン化を鍵としてエステル部位の強固な結合を切断し、骨格を再構築する「Cut-to-Fuse」戦略を開発されました。本手法により、遷移金属を用いず温和な条件で、クマリン類からクマラノン類への脱カルボニル型環縮小反応を実現しています。天然物骨格をそのまま利用する従来法とは異なり、天然資源を新たな医薬品・機能性材料原料へ変換する骨格編集法としての展開が期待されます。
Halogen-Guided Reconstructive Transformation of Hydroxycoumarin to Coumaranone
Yusuke YotoYusei MatsumotoKotaro KikushimaMihoyo FujitakeHideyasu ChinaToshifumi Dohi.
JACS Au 2026; https://doi.org/10.1021/jacsau.6c00801.
研究を統括された、精密合成化学研究室 教授の 土肥 寿文 先生より、要藤についてのコメントを頂戴しております!
要藤さんは、研究が本当に好きな学生だと思います。実験がうまくいかない時も粘り強く取り組み、自分で考えながら何度も挑戦を続けてきました。「こんな反応ができたら面白い」という発想を大切にしており、その好奇心と行動力が今回の成果につながりました。研究室では周囲との議論にも積極的で、後輩へのアドバイスもよく行ってくれています。これからも持ち前の探究心を生かして、さらに大きく成長してくれることを期待しています。
それでは、インタビューをお楽しみください!
Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。
天然物は、種ごとに特徴的な分子骨格を有し、パセリやアシタバ、柑橘類などにはクマリン骨格を含む成分が数多く含まれています (図1A)。従来、これら天然物骨格は化学的に安定であるため、骨格を保持したまま誘導する利用法が中心でした。これらの骨格を構成しているエステル結合を選択的に切断できれば、天然物の利用価値を大きく広げることができます。
近年、エステル部位から一部の炭素 (カルボニル基) を取り除く脱カルボニル化反応が報告されています。強固なエステル炭素-炭素結合と炭素-酸素結合の2つの結合切断が必要となるため、多くの場合、遷移金属触媒と厳しい反応条件を要し、適用できる基質に制限が残されていました。一方、生体内では酵素の働きによって、室温・中性条件といった温和な条件でも脱カルボニル化反応が進行することが知られています。とりわけハロゲン化酵素はユニークな分子変換を行うことが知られており、基質へハロゲン原子を導入するだけでカルボニル化合物の結合切断を可能にし、生物活性物質の合成を制御しています (図1B)。このように、生体内ではハロゲン原子の導入が駆動力となり、結合切断を行う反応形式をとり、室温・中性条件で強固な結合を切断します。当研究室ではこのユニークな結合切断の反応様式に着想を得た、「Cut-to-Fuse (切断と再環化)」戦略を開発しました (図1C)。この手法は、分子骨格を一度切断 (Cut) した後、新たな骨格へと再構築 (Fuse) することで、従来困難であった骨格変換を可能にします。今回、この戦略を「クマリン類」に適用し、ハロゲン化を鍵とする脱カルボニル型環縮小反応の構築を目指しました (図1D)。本法は、天然骨格資源を石油化学原料に代わる合成起点として位置付ける新たな選択肢を提示するものになります。
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Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
本研究テーマで工夫したところは、ヒドロキシクマリンの骨格に着目し、基質設計を行った部分になります。私は以前、1,3-シクロヘキサジオン誘導体のフッ素化/結合切断反応について研究していました(H. China, Y. Yoto, T. Dohi et al. Adv. Synth. Catal. 2025, 367, e202401037, DOI: 10.1002/adsc.202401037)。この研究では、非対称なジケトンを用いると立体障害を避けた生成物が優先して得られるものの、結合切断の選択性は中程度にとどまっていました (図2A)。この論文の投稿を終えた後、「もっと選択的に結合切断できないか」と考えながら過去の文献を遡っていたところ、Gupta は、メチレンが塩素化されたβ-ケトエステル類ではケトン基側で選択的に結合切断が進行すると報告していました(図2B、S. K. Gupta J. Org. Chem. 1973, 38, 4081, DOI: 10.1021/jo00987a034)。この知見を利用できるのではないかと考え、当研究室が掲げる「天然に豊富に存在する資源にハロゲンを導入することで高機能化合物へ変換する」というコンセプトに立ち返り、①環状β-ケトエステル構造を有する点、②天然に豊富に存在する骨格である点に着目して基質の選定を進めた結果、ヒドロキシクマリンに行き着きました。
当初の想定では過去の報告例と同様に、炭素-炭素結合のみが切断されると考えていました。実際にフッ素化/結合切断反応を行ったところ、切れないと考えていた炭素-酸素結合まで切断されるという予想外の結果が得られてきました。また、2つの分子に断片化したため、再度骨格を構築し高機能化合物へ誘導化することは困難であると考えました。そこで、切断反応をコントロールするために電子求引効果の弱い塩素原子に変更し、求核剤として水を用いたところ、フッ素原子を用いた場合とは異なる結合が切断され、脱カルボニル化した生成物が得られ、本反応が見つかったという経緯があります。詳細な反応機構の実験をしているのでぜひ論文に目を通していただけると幸いです。
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Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
「ハロゲン化酵素の働き」と「骨格編集」という異なる分野の概念を結び付け、論文としてまとめた点が難しかったところです。私は合成化学を専門としてきたため、酵素については授業で触れた程度の知識しかなく、まずは数多くのレビューを読むところから勉強を始めました。また、ハロゲン化酵素の反応様式に着目し、そこから得た知見を実際の反応開発に取り入れている研究グループは見当たらず、参考にできる先行研究がない状態でした。そのため、膨大なレビューの中からハロゲン化を起点として結合切断が進行している例を網羅的に調べ、従来の結合切断手法とは異なる新たな着想として提示できる形に整理することに苦労しました。最終的には、「ハロゲン化酵素の働きに着想を得た骨格編集」という、他に類を見ない研究コンセプトとしてまとめ上げることができました。こうした過程では、先生方に何度も添削をしていただき、その都度ご助言を頂くことで、納得のいく論文に仕上げることができました。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
修了後は研究職として化学メーカーの研究職に就く予定です。新たな環境で企業の研究にチャレンジしたいと思っています。研究室で培ってきた有機化学の知識や経験を生かし、自分の手を動かして研究に取り組みながら、研究者が「あっ」と驚くようなものを作ることを目標にしています。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします!
最後までお読みいただきありがとうございます。本成果は、日々の研究における課題意識の積み重ねと日々のディスカッションを通じて生まれたものです。このことから、日々の実験結果に対し、常に疑問を持ち、些細な変化も見逃さない姿勢こそが、思いがけない発見をつかみ取る鍵になるのだと感じています。
私は現在、大学院博士課程の最終学年に在籍しており、卒業まで残り半年程度になりました。学生生活を振り返ると、飲み会や化学に関する話に付き合ってくれた後輩や同期、そして研究室外の友人など様々な人に支えられていると感じています。また、日頃からご指導頂いている土肥先生、同志社女子大助教 知名先生には心より感謝申し上げます。また、論文執筆にあたりご助言を頂きました近畿大学講師 菊嶌先生、化合物の分析測定をしていただきました大阪医科薬科大学 藤嶽先生にこの場を借りて御礼申し上げます。さらに、このような貴重な経験を頂きました Chem-Station スタッフの皆様にも心より感謝申し上げます。
研究者の略歴

名前:要藤 友佑(ようとう ゆうすけ)
所属:立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合成化学研究室(土肥研究室)博士課程4年
略歴:
2023年3月 立命館大学薬学部薬学科卒業
2023年4月 立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 博士課程
要藤さん、土肥先生、インタビューにご協力いただき誠にありがとうございました!
それでは、次回のスポットライトリサーチもお楽しみに!

































