[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

クリック反応に有用なジベンゾアザシクロオクチンの高効率合成法を開発

[スポンサーリンク]

第483回のスポットライトリサーチは、東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 生命有機化学分野(細谷研究室)の坂田 優希(さかた ゆうき)先生にお願いしました。

細谷研究室では、有機合成化学を基盤として生命科学現象の解明と制御に有用な分子プローブの開発と方法論の開拓を目指して研究を行っています。本プレスリリースは、環状アルキンの合成法についての研究成果です。背景として代表的なクリック反応であるアジドとアルキンの付加環化反応は、二つの分子を信頼性高く連結する手法として、ライフサイエンス・創薬・材料科学といった広範な研究分野で利用されていますことが挙げられます。とくに環状アルキン類は高いクリック反応性を示し、アジドと混合するだけで効率的に反応することから重宝されています。しかし環状アルキンの合成には苛酷な反応条件が必要なことから、機能化の足掛かりとなる修飾用官能基を有する環状アルキンの合成は難しく、拡張性の高い合成法の開発が求められていました。そこで本研究グループは、ジベンゾ縮環型シクロオクチン-コバルト錯体の脱コバルト化法を新たに見出し、これを鍵としたジベンゾアザシクロオクチン(DIBAC)の高効率合成法の開発に成功しました。

この研究成果は、「Organic Letters」誌に掲載され、プレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Synthesis of Functionalized Dibenzoazacyclooctynes by a Decomplexation Method for Dibenzo-Fused Cyclooctyne–Cobalt Complexes

Yuki Sakata*, Ryoto Nabekura, Yuki Hazama, Miho Hanya, Takashi Nishiyama, Isao Kii, and Takamitsu Hosoya*

DOI: doi.org/10.1021/acs.orglett.2c03832

研究室を主宰されている細谷孝充 教授より、坂田先生について以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

坂田さんは工学院大学の南雲紳史先生の研究室出身で、博士の学位を取得後、私どもの研究室に加わっていただきました。体が大きい割に、普段はおとなしい感じですが、実験の腕は確かで信頼できる研究者です。本研究は、私が進めているAMEDプロジェクトを手伝ってもらいながら、なかなかエフォートを割けない中で自ら着想・提案し、主導してくれたものです。とくに、各反応ステップすべてを90%以上の収率で仕上げた執念には頭が下がります。2022年のノーベル化学賞の対象となったクリック反応ですが、私どもはより便利な手法を開発していきたいと考えており、様々な取り組みを行っています。機能性環状アルキンを簡単に合成できるようにした今回の成果は、発展性が高く、今後のさらなる展開を楽しみにしています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

環状アルキン類はクリック反応素子として有用ですが、その合成には厳しい条件下での変換が必要なことから、利用できる機能連結用官能基は限定的で、拡張性の高い合成法の開発が求められています。これに対して、本研究ではジベンゾ縮環型シクロオクチンーコバルト錯体の脱コバルト化反応を鍵としたジベンゾアザシクロオクチンDIBACの高効率合成法を開発しました。具体的には、o-ヨードアニリン(1)から4工程の変換で導いた鎖状アルキンーコバルト錯体2をPictet–Spengler型の反応により環状アルキンーコバルト錯体3とした後、本研究で見出した新規脱コバルト化条件に付すことで、効率的なDIBACの合成を達成しました(6工程、総収率72%)。

本手法により、アジド基のような反応性の高い官能基を持った環状アルキンーコバルト錯体を容易に合成できるようになりました。合成したコバルト錯体4は機能性アルキンとのクリック反応と、続く脱コバルト化反応により、蛍光性化合物やタンパク質が連結した機能性DIBACの簡便合成への応用に成功しています。

現在、本合成法を利用して、これまでほとんど行われていなかった芳香環上の官能基化に取り組んでおり、生命科学研究やバイオ医薬品の開発に役立つ高機能環状アルキンの開発を目指しています。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

テーマ設定に思い入れがあります。細谷研究室に着任してから、研究室独自の「マルチクリックケミストリー」の発展・拡張を目指し、アジドやアルキンの化学に関して研究を進めてきました。例えば、Buchwald–Hartwigアミノ化によるアジドアニリン類の合成法[1]やチオアルキンを用いた異種アジド基選択的トリアゾール形成反応[2]の開発に取り組み、その成果を報告しています。そんな中、より自分らしい研究を行いたいと考えていたところ、博士課程時代の経験から「アルキンといえばコバルト錯体」(博士論文研究において、中員環合成に有効な本錯体を頻繁に使っていた[3])という思いがあり、本研究テーマの着想に至りました。調べてみると、コバルト錯体化されたジベンゾ縮環タイプの環状アルキンから、アルキン部を再生する脱コバルト化法は報告例がなかったのですが、最初の検討で20%ほどの収率で脱コバルト化が進行したことから、「これはいけるぞ!」と浮かれていました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

本合成法の鍵工程である「脱コバルト化」条件の最適化には苦労しました。前述の通り、初期検討の結果がそこそこ良かったものですから、しばらく浮かれていたのですが、なかなか収率が上がりきらずにいました。種々の既存条件を試したところ、ピリジン中空気雰囲気下[4]で攪拌することで、収率良く脱コバルト化が進行することが明らかとなり、これと酸化剤Me3NO)を組み合わせることで新たな脱コバルト化条件を確立するに至りました。本手法はジベンゾ縮環タイプの環状アルキン類に適用可能でしたが、その他のものには適用できない場合もありましたので、今後も脱コバルト化法に関して研究を進めていきたいと考えています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

有機合成化学の力(興味あること)を使って、生命現象の解明・制御に役立つ「分子ツール」の開発(社会に貢献できるような研究)に取り組んでいきたいと考えています。今回でいうと、アルキンーコバルト錯体の化学を使って、生命科学研究等に役立つクリック反応ツールを拡張することができましたので、私の思い描く化学との関わり方として理想的だったと感じています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

ここまで読んでいただきありがとうございます。本研究で利用したアルキンーコバルト錯体は古くから知られているものですが、まだまだ様々な利用可能性を秘めていると考えています。本記事を読んでいただいた皆様も「アルキンといえばコバルト錯体」と思い込んで、私の今後の動向に注目していただければと思います(笑)。

最後になりますが、本研究の遂行に当たり、ご指導くださいました細谷孝充教授、精力的に研究を進めてくれた鍋倉涼斗修士、生物実験を行なっていただきました喜井 勲教授西山尚志博士をはじめ、ご協力いただきました皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。また、本研究を紹介する機会を与えてくださいましたChem-Stationスタッフの皆様にも深く感謝申し上げます。

参考文献

[1] Y. Sakata, S. Yoshida, T. Hosoya, J. Org. Chem. 2021, 86, 15674−15688.

[2] K. Sugiyama, Y. Sakata, T. Niwa, S. Yoshida, T. Hosoya, Chem. Commun. 2022, 58, 6235−6238.

[3] Y. Sakata, E. Yasui, M. Mizukami, S. Nagumo, Tetrahedron Letters 2019, 60, 755−759.

[4] R. Guo, J. R. Green, Chem. Commun. 1999, 2503−2504.

研究者の略歴

名前:坂田 優希(さかた ゆうき)

所属:東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 生命有機化学分野 プロジェクト助教

研究テーマ:有機合成化学、ケミカルバイオロジー

略歴:

2019年3月 博士(工学)取得 工学院大学大学院 工学研究科

2019年4月−2020年3月 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 生命有機化学分野 特任助教

2020年4月−現職

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 二つのCO2を使ってアジピン酸を作る
  2. 神経変性疾患関連凝集タンパク質分解誘導剤の開発
  3. 「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実…
  4. キノリンをLED光でホップさせてインドールに
  5. 高分子ってよく聞くけど、何がすごいの?
  6. 当量と容器サイズでヒドロアミノアルキル化反応を制御する
  7. 【書籍】英文ライティングの基本原則をおさらい:『The Elem…
  8. エチレンをつかまえて

注目情報

ピックアップ記事

  1. 反応がうまくいかないときは冷やしてみてはいかが?
  2. 1-トリフルオロメチル-3,3-ジメチル-1,2-ベンゾヨードキソール:1-Trifluoromethyl-3,3-dimethyl-1,2-benziodoxole
  3. マクマリーを超えてゆけ!”カルボニルクロスメタセシス反応”
  4. サイエンスアゴラ参加辞退のお知らせ
  5. 【経験者に聞く】マテリアルズ・インフォマティクスの事業開発キャリアへの挑戦
  6. シスプラチン しすぷらちん cisplatin
  7. 市販の新解熱鎮痛薬「ロキソニン」って?
  8. 材料費格安、光触媒型の太陽電池 富大教授が開発、シリコン型から脱却
  9. 第96回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part II
  10. 科学雑誌 Newton 2019年6月号は化学特集!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年3月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

条件の「前後」も実験条件である【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

海外ポスドクのオファーをもらう【アメリカで Ph.D. を取る: 進路編】

ポスドクとして海外に留学する場合、希望する研究室の教授に直接連絡を取り、面接などを通して適性を判断さ…

MDで観るトライボロジー 〜原子が擦れるその場をシミュレーション〜

軽くて強いのに摩耗に弱いチタン合金は、航空機や人工関節に広く使われています。原子が擦れ合うその場を分…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP