反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。ところが、フラスコの中で起きる「見た目の変化」だけは、いまも私たちが覗き込み、手でノートに書き留めています。
色が変わった、結晶が出た、泡立った、二層に分かれた。こうした現象は言葉にしづらく、しかも見ていない一瞬に起きることが多いものです。
「あの変化、写真に残しておけばよかった」、そう思った経験は実験をする方なら一度はあるはずです。今回は、その観察を映像として残せる新しい合成ワークステーション、メトラー・トレドの EasyMax 102iを使ってみました。
ラボ自動化の最後の1ピースは「観察」
メトラー・トレドは、合成実験の主要操作を「温度・攪拌・滴下・サンプリング・観察」の5つと定義しています。このうち温度から始まる4つは、これまで着実に自動化・デジタル化が進んできました。
残されていたのが、5つ目の観察です。
反応の見た目は、結局のところ研究者の目と記憶に頼るしかありませんでした。EasyMax 102i は、リアクタを正面から捉える内蔵カメラを搭載することで、この最後の1ピースを埋めにきた製品です。
EasyMax 102i とは

EasyMax 102i は、ルーチンの合成実験を再現性高く、自動化/無人化する卓上型の合成ワークステーションです。
リアクタは以下3種類となります。
- 1ピースタイプ:8 mL・25 mL・50 mL・100 mL
- 2ピースタイプ:50 mL・100 mL・100 mL(high workup volume)
- 100 mLの金属製加圧リアクタ
たとえば、8 mLリアクタなら最低反応容量0.5 mLという少量スケールから検討できます。温度はジャケット温度で−40〜180 ℃をカバーし、温度を含む全パラメータを1秒ごとに自動記録するとのこと。
導入時にうれしいのは、購入済みのアクセサリをほぼそのまま転用できる点です。コネクタ部に専用チップを内蔵するTrセンサとオーバーヘッドスターラーの2点を交換するだけで、従来のEasyMaxで使っていた滴下ポンプ(SP-50)、ガラス器具、攪拌翼、アダプター類はそのまま流用できます。
フル装備を新規にそろえ直す場合と比べれば、導入コストは大きく変わりますし、使い慣れた器具と手順をそのまま持ち込める安心感もあります。
本機には Advanced、Extended というグレードがあり、本記事で紹介する内蔵カメラの真価(実験データとの連携や自動レポート化)は、これらのグレードで発揮されます。
内蔵リアクタカメラを使ってみた
実際にデモを行ってみました。
まず仕様を押さえておくと、カメラは「HD, up to 15 FPS」(HD画質・毎秒最大15コマ)でリアクタ内を連続的にタッチスクリーン上に表示します。このタッチスクリーン上に表示する機能はiControl連携なしで使えます。

見るだけなら手軽に始められるのは、ありがたいところです。
見落とされがちなのは、映像の質を支える照明。本機はリアクタゾーンごとに独立したコントラスト最適化LED照明(CO-LED)を備えています。ドラフト内の照明環境は場所によってまちまちで、手元のスマートフォンで撮ってもうまく写らないことや撮影環境に影響されて微妙に色が異なる事が多いものです。
装置側で一定の照明条件が確保されているおかげで、白濁の立ち上がりや色調の変化といった、コントラストが物を言う現象を安定して捉えられます。実験ごとに写り方が変わらない点は、あとから見比べるうえで効いてきます。
印象的だったのは、「見えなかった瞬間」を後から確かめられるという体験です。デモで観察した反応では、色が切り替わる瞬間は一瞬で、目を離した隙に進んでいました。それでも録画を巻き戻せば、色が変わり始めた時点を落ち着いて確認できます。
録画にはExtended グレードが必要でWindowsのデスクトップ録画の機能を使用して録画を行います。
従来なら「たぶんこのあたりで変化した」と推測で済ませていたところを、記録された映像で辿り直せるわけです。
ただし、本機のカメラは映像を記録する機能であり、画像の変化そのものを自動で認識する機能は搭載していません。つまり、色の変化や相分離が起きた瞬間を、カメラ映像から判断して自動で撮り始める、といったことはできません。
相分離のように見た目でしか分からない現象は、連続録画しておき、後から再生して人の目でその瞬間を確認するのが基本となります。今後のアップデートに期待したい点です。
それでも常時記録されていれば、見逃しても後から遡って確認できます。記録が残っていなかったときの損失は、やり直しの実験時間そのもの。連続記録は、その保険になります。
もうひとつ、撮影した画像は、その時点の測定データと時刻でひも付いて残ります。
ある画像を撮れば、内温・滴下量・攪拌条件がひとまとまりで残るので、単なる録画ではなく「この状態のときの各パラメータ」という文脈込みで振り返れます。画像はピン留めしてタイムスタンプ付きで保存し、そのまま自動作成レポート(Microsoft Wordへ出力可能)に貼り付けて、チームで共有可能です。

実験ノートに「15時20分ごろ、白濁」と書き残すのと、白濁した瞬間の画像に内温と滴下量が添えられて残るのとでは、半年後に見返したときの情報量が違います。
安息香酸の晶析┃決定的瞬間を自動で残す
では、決まった条件で自動撮影したい場合はどうすればよいのでしょうか。
たとえば核化(結晶が生じ始める瞬間)は、追加のPATセンサ「EasyViewer 100」と組み合わせれば自動で捉えられます。EasyViewerが結晶の析出を検知した瞬間に撮影を実行する、という設定ができるためです。
デモでは、これを安息香酸で試してみました。まず昇温していったん完全に溶かし、そこから冷却していきます。しばらくは何も起きません。透明なままの液が、静かに攪拌されているだけです。
変化はある時点で唐突に訪れました。一気に結晶がクラッシュアウトし、視野が白く濁ります。カメラ映像は白濁が広がる様子を映し出し、ほぼ同時にEasyViewerの粒子カウントが跳ね上がりました。そして、その瞬間の画像が、こちらが何もしなくても自動で記録されていたのです。

EasyViewer100が測定に使用する青色レーザーの光でリアクタ内が青白く見えた画像が撮影されました。
晶析の検討をしたことがある方なら、この唐突さに心当たりがあるのではないでしょうか。冷却プロファイルを少し変えるだけで核化のタイミングは動きますし、だからといってそのたびに人が張り付いて見ているわけにもいきません。

夜間や無人運転でも決定的瞬間を逃さずに残せる点は、実務で効いてきます。
なお、現場外からリアルタイムで映像を配信して確認したい場合(HTTPによるカメラストリーミング)は、Extendedグレードで対応します。ラボに張り付かずに反応の様子を居室から追えます。
自動化と拡張性
ここからは、カメラ以外の機能を整理しておきます。
土台の基本性能
新機能ばかりが目立ちますが、土台も堅実です。
直感的なタッチスクリーン操作、設定不要で正確に測れる自動認識のスマート温度センサ、そしてトルク測定に対応したオーバーヘッドスターラー。攪拌では相対トルク(Relative Torque)をトレンドとして取得でき、高粘度で混ざりにくい系の状態変化を追うのに役立ちます。
pH測定には、3点校正に対応し生産現場でも使われるメトラー・トレドのProプローブ(ISM対応)を採用しています。さらに安全性評価・スケールアップ判断に欠かせない反応熱量測定にも対応します。
プラグアンドプレイのCAN周辺機器により、特別な設定無く、数分で構成を拡張できる柔軟性も従来どおりです。
PAT連携とスケールアップ
内蔵カメラの視覚情報は、単体で完結するものではありません。
粒子状態をインラインで捉えるEasyViewerと組み合わせれば、白濁した映像と粒子カウントの立ち上がりを突き合わせて、何が起きたのかを因果で読めます。反応速度論やメカニズムを追うならReactIRのFT-IRスペクトルと重ねるという使い方もあります。
これらに加え、EasySamplerによるサンプリングや、スケールアップシミュレーションソフトウェアDynochemといった解析・モデリングソフトとも連携可能です。映像という定性的な情報が定量データと一体で蓄積されることで、ラボからプラントへのスケールアップ判断の材料が厚くなります。
観察の自動化は、PAT活用とスケールアップという大きな流れの一部として位置づけられています。
グレード比較(Advanced/Extended)
本記事で紹介した主な機能とグレードの対応は次のとおりです。
| 機能 | 対応グレード |
| カメラ映像の確認(タッチスクリーン上、iControl不要) | 全グレードで対応 |
| pH測定/スマート温度センサ/オーバーヘッドスターラー | 全グレードで対応 |
| カメラ画像の保存、iControl連携 | Advanced・Extended |
| 画像とパラメータの自動リンク・自動レポート作成 | Advanced・Extended |
| OPC UAデータストリーム | Advanced・Extended |
| pH制御、反応熱量測定 | Advanced・Extended |
| OPC UAによる外部制御 | Extended |
| HTTPによるカメラストリーミング(遠隔映像配信) | Extended |
※ExtendedはAdvancedからのアップグレードライセンスが必要です。
用途に合わせて、どこまで自動化・遠隔化するかでグレードを選べます。
まとめ
温度・攪拌・滴下・サンプリング、そして観察。合成実験の主要操作が、いよいよすべてデジタルに残せるようになりました。これまで言葉と記憶に頼るしかなかった見た目の情報が、映像として残り、測定データと時刻で結びつき、レポートまで一続きになります。
うれしいのは、これまで使ってきたEasyMaxの資産をそのまま活かせることです。Trセンサとオーバーヘッドスターラーの2点を入れ替えるだけで、いつもの実験が、あとから振り返れて、チームで共有でき、次のスケールアップやデジタルワークフローへ引き継ぐ資産に変わっていきます。
観察が記録になり、記録がデータになり、データが次の一手を後押しする。 EasyMax 102iは、その入り口を、いつもの実験台の上に用意してくれます。
興味があればメトラー・トレド社にお問い合わせください。
お問い合わせはこちら。






























