第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されました。
自分の研究は、専門の異なる研究者の目にどう映るのか。数年後、独立した研究者として何を成し遂げたいのか。
こうした問いに真正面から向き合い、同世代の仲間や第一線で活躍する研究者と本気で議論を交わす場が、大津会議です。「有機合成化学と日本の将来をどのように創造していくのか」という命題を掲げ、将来のリーダー候補となる若手研究者「金の卵」を育ててきました。
大津会議とは
「真のリーダーを早期から養成する」という理念を掲げ、2010年に設立されました。有機合成を基盤として研究を行う博士課程学生・博士研究員から、厳正な書類選考を経て毎年十数名がフェローとして選抜され、膝を突き合わせて議論を交わします。プログラムの柱となるのは「Current Research Session」と「Research Proposal Session」という二つのセッションで、これに「Round Table Discussion」、MBLA講演や組織委員による特別講演が加わります。さらに4年に1度は、歴代フェローが一堂に会する「大津会議合同研究発表会」も開かれています。
創設当初から掲げられ続けている「有機合成の夢を語る」という副題の精神は17年間変わることなく、本年加わった第17期生15名を合わせると、大津会議フェローの累計は270名に達しました。その7割以上が、現在もアカデミアの第一線で活躍しており、有機化学分野を担う研究者の一大ネットワークを形成しています。
開催概要
会期:2026年9月28日(月)〜9月29日(火)
会場:びわ湖大津プリンスホテル
主催:大津会議組織委員会(組織委員長:丸岡啓二/京都大学特任教授、組織委員:大井貴史/名古屋大学教授、金井求/東京大学教授)
共催:公益社団法人日本化学会 有機化学若手育成部会
協賛:株式会社島津製作所、中外製薬株式会社
賛助会員:塩野義製薬、旭化成、東レ、住友化学、天野エンザイム、出光興産、エーザイ、AGC、花王、関東化学、キシダ化学、広栄化学、神戸天然物化学、三洋化成工業、JSR、積水化学工業、第一三共、高砂香料工業、東ソー、東ソー・ファインケム、日産化学、日本曹達、富士フイルム、マナックの計24社(2026年9月18日現在)
参加:有機合成化学およびその関連分野の博士課程学生・博士研究員 第17期生15名、組織委員3名、MBLA講演者、ファシリテーター3名、協賛企業等
構成:Current Research Session、企業講演、MBLA受賞者特別講演、Round Table Discussion、Research Proposal Session、特別講演(組織委員)
「節目の回」を支えるもの
第17回大津会議は、運営の土台から大きく生まれ変わった回でした。創設以来16年にわたり大津会議を支えてきた公益財団法人MSD生命科学財団の協賛が前回をもって終了し、今回からは公益社団法人日本化学会有機化学若手育成部会 (リンク: https://ocyrd.csj.jp/) との共催という新体制でのスタートとなりました。あわせて、創設当初から会議を牽引してこられた山本尚先生、柴崎正勝先生が名誉組織委員としての参加をご勇退され、新たに大井貴史先生(名古屋大学)と金井求先生(東京大学)が加わりました。1日目の開会式では、丸岡先生から山本先生、柴崎先生、元MSD生命科学財団の鈴木國夫博士への謝辞が述べられ、これまでの貢献への敬意が示されました。時代の変化に伴って支える仕組みが変化しても、16年間積み重ねてきた理念を次の世代に確かに引き継いでいく「継承と刷新」が今回の大津会議を特徴づけていました。
Current Research Session
9月28日、開会に続いて第17期生15名による現在の研究発表が行われました。例年同様、発表・質疑応答はすべて英語で行われ、グローバルな環境での真剣な議論の経験を積む貴重な機会となりました。1日目の日中を丸々使った長丁場のセッションでしたが、休憩を挟みながら15名全員が自身の現在の研究成果を英語で発表しきりました。
大津会議は有機合成化学を軸としながらも、反応開発、構造有機化学、天然物合成、ケミカルバイオロジーなど、フェローの専門は年々多岐にわたっています。専門を異にするフェロー同士でも、研究の意義を問うものも含めて鋭い質問が飛び交い、ディスカッションの時間が足りない場面も少なくありませんでした。休憩時間に入ってもなお、あちこちで議論の続きに興じる姿が見られ、寸暇を惜しんで語り合う熱量がうかがえました。質問を受ける側も意図を理解しながら自分の言葉で的確に切り返す姿が印象的で、普段から研究にプライドを持ち、日々深掘りしながら、言語を問わずに議論を重ねていることがにじみ出ていました。発表を終えたフェローの表情もさまざまで、肩の荷が下りたように緊張が解けた顔を見せる者もいれば、伝えきれなかった悔しさからか、どこか消化不良気味の表情を浮かべる者もいました。いずれにしても、研究への情熱がほとばしる発表ばかりで、ファシリテーターの私たちも自然と背筋が伸びる思いでした。

企業講演
研究発表の合間、ランチョンセミナー形式にて、協賛企業からの話題提供として企業講演が組まれました。株式会社島津製作所の廣田章太郎氏からは、ものづくりの現場では精製工程が律速となりがちであり、LCを用いた精製条件の最適化が合成化学者にとって大きな負担になっているという課題提起に続き、そのソリューションとなるNexera ASAPrepが紹介されました。日頃から精製に頭を悩ませているフェローも多いのか、頷きながら聞き入る姿があちこちで見られました。あわせて、大津会議終了後には島津製作所の最新の機器や施設を間近に見学できる工場見学ツアーも企画いただき、貴重な機会をご提供くださいました。
中外製薬株式会社からは、同社でプロセス研究に従事する野木馨介博士(第5期大津会議フェロー)にご登壇いただきました。ご自身が手がける中分子創薬の最新研究を紹介されるとともに、一見確立されたペプチド合成にも、合成化学の観点からはなお改良すべき課題が山積しており、学術的に探求しがいのある領域であることを示されました。アカデミアに限らず幅広いフィールドで活躍を続ける先輩フェローの言葉は、参加者にとって自らのキャリアや研究の位置づけを考える上でも示唆に富むものだったのではないでしょうか。こうした企業講演は、アカデミアと産業界それぞれの視点から研究と向き合うきっかけを与えてくれる時間となりました。
MBLA受賞者特別講演
1日目の締めくくりとなる基調講演には、2024年度 Lectureship Award MBLA を受賞した久保田浩司先生(北海道大学)を迎え、「Frontiers in Synthetic Mechanochemistry」と題したご講演をいただきました。久保田先生は2015年の第6回大津会議でも優秀賞を受賞されたフェローの先輩であり、かつての受賞者が今度は招待講演者として古巣に戻ってくるという巡り合わせは、大津会議が17年にわたり積み重ねてきた歴史の厚みを感じさせるものでした。
久保田先生のご講演は、明快な語り口が印象的でした。切り拓いてこられたメカノケミストリーについて、実践的な内容から最新の成果までを丁寧に紹介され、当時はまだメジャーとはいえなかった分野に飛び込んだ際の不安についても率直に語られました。その先にしか見えてこない新たな化学の地平を示すようなご講演は、時には先の見えない道に飛び込む勇気の大切さを伝えるものでもあり、これから新たな挑戦に踏み出し、世界へと羽ばたいていく大津フェローたち (そして少し後輩にあたるファシリテーターの私たち) を大いに鼓舞する時間となりました。

Round Table Discussion
夕食をともにしながら場の空気にも慣れてきた頃、夜には「過去を振り返り、現在を把握し、未来を創造する」をテーマとしたRound Table Discussion(RTD)が行われました。普段とは異なる視点に立ち、大きな社会的課題を有機化学の目でどう捉えられるかを問うのが、このセッションの肝です。参加者は事前に4つのグループに分かれ、何度かの打ち合わせを重ねながら資料を作り込んだ上で本番に臨みました。ファシリテーターは谷藤涼(第9期生・東京大学)、松本晃(第9期生・金沢大学)、安井孝介(第10期生・大阪大学)の3名が務めました。
各グループから20〜30年後の化学や世界を見据えた意欲的な提案が相次ぎ、中には学術変革領域研究(A)への申請を意識したものも見られました。どの班もまったく異なる課題に対し、有機化学で解決していこうという気概にあふれており、ファシリテーターを務めた私たちも思わず引き込まれました。どうすれば実現できるのか、実装するとどんな形になるのか、思いもよらなかったような提案に触れ、物事を柔軟に捉えることの大切さを改めて思い出させられたような心持ちでした。提案そのものは研究構想に関わる内容のため詳細はここでは伏せますが、議論に立ち会った組織委員の先生方からは「荒削りで詰めるべき部分はもちろんある」が「総じてワクワクする提案だった」、「なぜそれをやる必要があるのかも常に考えて伝えてほしい」との講評をいただきました。
議論はその後のフリーディスカッションへと引き継がれ、夜半まで熱気が絶えませんでした。

Research Proposal Session
2日目は、3〜5年後に独自の研究を展開するポジションを得た際に取り組みたい、具体的な研究計画を提案する「研究プロポーザル」セッションから始まりました。前日のRTDが30年後を見据えた大きな夢を語るセッションだったのに対し、こちらはぐっと現実的な時間軸となり、実現可能性や計画性が問われます。夢を語るだけでは研究の遂行は難しく、独創的でありながら地に足の着いた研究提案が求められる場といえます。提案の前提となるのは、フェロー自身が掲げる独自のテーマです。その分、独自性そのものを問う厳しい意見が組織委員やファシリテーターから投げかけられる場面もあり、他のセッションとは一味違う緊張感が漂いました。
本セッションで大きく変わったのが使用言語です。これまで英語で行われてきた研究プロポーザルは、今回から日本語での実施に改められました。母国語だからこそ踏み込める議論の深さを最優先した結果であり、3〜5年後の研究計画という、ニュアンスや行間が物を言う繊細なテーマだからこそ、組織委員やファシリテーターとの間で妥協のない議論を交わせるよう、言語の壁を取り払った形といえます。化学的な議論は臆することなく重ねられ、フェローたちが真の意味で独自の研究を考え抜くための、実践的な視点やアドバイスを得られる貴重な機会となりました。
特別講演(組織委員)
大津会議の締めには、組織委員である丸岡啓二先生、金井求先生、大井貴史先生による特別講演が行われました。研究者としての歩みを振り返り、第一線に立ち続けるための心構えを語るという組織委員ならではの内容でありながら、三者三様の語り口が印象的でした。丸岡先生は、なぜ大津会議を創設するに至ったかという原点に立ち返りつつ、「金魚鉢で育った金魚は小さいままだが、大きな池に放てば大きく育つ」という例え話を交えながら、フェローたちに国際競争力を身につけてほしいと呼びかけました。金井先生はスライドを使わず、研究者の若い頃はよく「カミソリ」と評されるという話から入り、人との繋がりがいかに研究を生み出してきたかを語られ、その重みを改めて実感させる内容でした。大井先生は、ご自身のこれまでの研究を振り返りながら、有機化学が普遍的な基幹学問であるからこそ、その在り方自体を変えていきたいという思いを語り、「なぜそれをやるのか」を研究哲学の軸として一貫して語られました。切り口は三者三様でありながら、研究者としての歩み方を次世代に継承しようとする思いは共通しており、フェローたちの背中を押す、心強い時間となりました。

閉会式では、研究発表・研究プロポーザル優秀賞の発表が行われました。Current Research Session優秀賞には千崎大誠さん(東京大学)、Research Proposal Session優秀賞には髙木周さん(京都大学)が選ばれ、協賛企業である株式会社島津製作所よりそれぞれに記念の盾が贈られました。

栄えある賞に選ばれたフェローの晴れやかな笑顔が印象的でした。丸岡先生からは、どのフェローも高いレベルで僅差であり、選考には最後まで頭を悩ませたとの講評があり、15名全員の水準の高さと健闘を物語っていました。こうして2日間にわたる第17回大津会議は幕を閉じました。
おわりに
大津会議は、新体制の組織委員会と日本化学会有機化学若手育成部会による新たな運営体制のもと、島津製作所・中外製薬の協賛、そして塩野義製薬をはじめとする賛助会員24社の支えを得て、次の10年、20年に向けて新たな一歩を踏み出しました。若き研究者たちの夢と挑戦を育み、未来を担うリーダーを育てる大津会議の継続と発展は、有機化学の未来を築く大きな力となるでしょう。
ここで育つ「金の卵」たちがこれからも大きく羽ばたいていくこと、そして本稿を読んで大津会議に関心を持った次世代のリーダーたちと、いつの日かこの場で出会えることを心より楽しみにしています。
第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 参加者(第17期生)

| No. | 氏名 | 所属 | No. | 氏名 | 所属 |
| 256 | 阿部 玲士 | 京都大学 | 264 | 下里 絢平 | 北海道大学 |
| 257 | 安藤 大雅 | 名古屋大学 | 265 | 周 裕洋 | 東京大学 |
| 258 | 井上 丈司 | 東京大学 | 266 | 千崎 大誠 | 東京大学 |
| 259 | 井上 健 | 大阪大学 | 267 | 髙木 周 | 京都大学 |
| 260 | 大西 克知 | 京都大学 | 268 | 谷口 大真 | 九州大学 |
| 261 | 河合 勇弥 | 東京科学大学 | 269 | 本田 麻里子 | 横浜国立大学 |
| 262 | 川村 聡太 | 北海道大学 | 270 | ロー ニコラスイービン | 東京大学 |
| 263 | 清水 達斗 | 東北大学 |
大津会議ファシリテーター
谷藤 涼(第9期生・東京大学)
松本 晃(第9期生・金沢大学)
安井 孝介(第10期生・大阪大学)






























