[スポンサーリンク]

chemglossary

陽電子放射断層撮影 Positron Emmision Tomography

[スポンサーリンク]

特定の分子性プローブを用い、生物学的過程を分子または細胞レベルで可視化する分子イメージングは、疾病の早期発見/早期検出、評価、疾病のリアルタイムモニタリング、薬効研究にとって強力なツールとなる。

現在最も高感度とされるイメージング法の一つに、陽電子放射断層撮影法 (positron emission tomography, PET)がある。これは陽電子放出核種でラベル化された分子を用い、この対消滅で放出されるγ線を検出することで、分子の3次元局在を見積もる手法である。

PETは臨床診断研究や基礎研究、ラットや霊長類を用いた前臨床試験に使われてきた。近年は、個別化医療を最終目的とした研究に用いられている。

原理

陽電子は核から放出されると、周辺の物質/細胞組織内を浮遊して、電子と対消滅する。対消滅では511 keVのエネルギーを持つ、2つのγ線が同時に正反対の方向に放出される。これをサンプル周囲に並べておいた検出器で検出する(図1)。2つの検出器が同時にガンマ線を検出した場合、対消滅はその2点を結ぶ線上で起こったことになる。これら情報蓄積から、放射線の分布を時間の関数として得ることでイメージングする。PETでは絶対単位(Bq/mL)で観測結果が得られるのも利点の一つである。

図1:PET装置の概要(Wikipediaより引用)

図1:PET装置の概要(Wikipediaより引用)

ちなみにこの陽電子浮遊距離をpositron rangeとよび、放射性核種によって異なる(図2)。これが短いほど陽電子がプローブ近傍に留まることとなり、結果としてPETの分解能は向上する。

図1:PETの原理(文献[1]より)

図2:PETの原理(文献[1]より)

PETに使用される放射性核種

PETでは、C, N, Oなど生体分子の主成分である原子を放射性核種として用いることができる(図3)。このため、ラベル化の有無で物理学的・生物学的性質に差が無い分子プローブの創製が可能となる。

PETで使用される核種の中では18Fが最も優れた物理学的性質を有している。陽電子エネルギーが最も小さく分解能が高いこと、半減期が110分と長いため、製造・運搬しやすいという利点がある。

PET_2

図3:PETに汎用される放射性核種とその物理化学的性質(文献[1]より)

18Fの分子導入の際には、オリジナル分子のHやOHをFで置き換えることが多い。原子半径がHと似ているために分子サイズの点ではほぼ同様だが、電子求引性に起因して性質が異なることがほとんどである。このようなプローブの代表例としては、[18F]6-Fluoro-L-DOPA、[18F]フルオロデオキシグルコースなどがある。

11Cは半減期が20.3 minなので、体内半減期が短い化合物のラベリングに適しており、短い間隔をあけながら連続して調査する目的に使用できる。欠点はサイクロトロンのある施設でしか使用できないことである。

分子プローブの合成戦略

PETプローブは、人体用・動物用、共に高い放射化学的純度(通常>95%)が求められ、HPLCによる生成を経て使用される。

陽電子放出核種には半減期が存在するため、高速に終了する化学反応を用い、かつ分子合成の終盤で導入を行う必要がある。理想的には、半減期の2〜3倍以内の時間で合成が完結することが望ましい。近年ではマイクロリアクターを用いることで反応速度の向上と、試薬/溶媒の減量が試みられている。

11Cラベル化では、11CH3Iを製造し、メチル化、または11C-Cカップリングを経てプローブに導入される。

18Fラベル化では、18F2に由来する18F-求電子的フッ素化が用いられる。F2は反応性が高すぎるため、求電子試薬に誘導化して用いることが多い。また、 18Fアニオンの生成を利用した求核的フッ素化も用いられる。18Fアニオンの水中での求核性は低く、求核置換反応に適さないため、アルカリ金属クリプタンド塩、または4級アンモニウム塩に変換して用いられる。

近年では陽電子を放出しない19Fを一旦ホウ素置換し、その後18Fに置き換えるという経路を実現する新しい方法論も開発されている(図4)。

sr_T_Niwa_2

図4:PETプローブ合成簡便化を指向した脱フッ素ホウ素化

 

関連書籍

[amazonjs asin=”0387403590″ locale=”JP” title=”PET: Molecular Imaging and Its Biological Applications”][amazonjs asin=”4320057937″ locale=”JP” title=”脳のイメージング (ブレインサイエンス・レクチャー)”]

関連文献

  1. “Molecular Imaging with PET” Ametamey, S. M.; Honer, M.; Schubiger, P. A.  Chem. Rev. 2008, 108, 1501. DOI: 10.1021/cr0782426

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 研究のための取引用語
  2. アルカロイド alkaloid
  3. 核酸合成試薬(ホスホロアミダイト法)
  4. UiO-66: 堅牢なジルコニウムクラスターの面心立方格子
  5. 生物学的等価体 Bioisostere
  6. 非リボソームペプチド Non-Ribosomal Peptide…
  7. リチャード・ロブソン Richard Robson
  8. mRNAワクチン(メッセンジャーRNAワクチン)

注目情報

ピックアップ記事

  1. 書物から学ぶ有機化学 2
  2. トップ研究論文を使って学ぶ!非ネイティブ研究者のための科学英語自習ツール『CASPArS』
  3. スナップタグ SNAP-tag
  4. ナノ合金の結晶構造制御法の開発に成功 -革新的材料の創製へ-
  5. 化学でカードバトル!『Elementeo』
  6. ニトリル手袋は有機溶媒に弱い?
  7. ポルフィリン中心金属の違いが薄膜構造を変える~配位結合を利用した新たな分子配向制御法の開発~
  8. pre-MIBSK ~Dess-Martin試薬と比べ低コスト・安全なアルコール酸化触媒~
  9. 最近の有機化学注目論文3
  10. 自励振動ポリマーブラシ表面の創製

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年3月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

条件の「前後」も実験条件である【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

海外ポスドクのオファーをもらう【アメリカで Ph.D. を取る: 進路編】

ポスドクとして海外に留学する場合、希望する研究室の教授に直接連絡を取り、面接などを通して適性を判断さ…

MDで観るトライボロジー 〜原子が擦れるその場をシミュレーション〜

軽くて強いのに摩耗に弱いチタン合金は、航空機や人工関節に広く使われています。原子が擦れ合うその場を分…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP