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スポットライトリサーチ

シャープな蛍光色変化を示すメカノフォアの開発

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第674回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の清水翔平 さんにお願いしました。

今回ご紹介するのは、「力」に応答する蝶番構造の分子に関する研究です。

機械刺激に応答する分子骨格はメカノフォアと呼ばれ、その中には色変化や蛍光特性変化を示すものが知られています。今回、蛍光団となる分子2つを[2.2]パラシクロファンを用いて蝶番構造にした超分子メカノフォアを開発され、機械刺激に対してより明瞭な蛍光特性変化を示すことを報告されました。蝶番構造によって蛍光団となる分子を強制的に近接させる本戦略は、蛍光団同士の相互作用が弱いために従来では利用が難しかった化合物へも展開できると考えられます。

本成果は、Angew. Chem. Int. Ed. 誌およびプレスリリースに公開されており、Outside Back Coverにも選出されています。

“Hinge-like Mechanochromic Mechanophores Based on [2.2]Paracyclophane”
Shimizu, S.; Clough, J. M.; Weder, C.; Sagara, Y. Angew. Chem. Int. Ed., 2025, 64, e202510114. DOI: 10.1002/anie.202510114

研究を指導された相良剛光 准教授から、清水さんについて以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

清水翔平君は、実は学部生で相良研に配属された最初の学生です。当研究室に配属されたときは、相良が東京工業大学(当時)に着任し、研究室を立ち上げた直後でした。研究室構成メンバーがほぼゼロの研究室によく来てくれたものだ、と感動しました。今回の研究は、清水君が博士課程に入ってから始めたもので、私は清水君が合成の途中で躓くのではないかと思って当初は身構えていましたが、あれよあれよといううちに清水君が目的物を合成してしまい驚嘆しました。清水君には、今後も化学の面白さと奥深さを堪能してくれると期待しています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

力に応答して見た目の色や発光色が変化するポリマー材料は、受けた力を評価・可視化することができるため大変有益です。私が所属する研究室では、蛍光団や消光団間の相互作用によって形成される集積構造を力により1分子レベルで制御し、蛍光特性変化を誘起する “超分子メカノフォア”という分子骨格の開発に取り組んでいます。超分子メカノフォアが共有結合を介して導入されたポリマー材料は、伸縮すると瞬時かつ可逆的な蛍光特性変化を示します。

本研究では、剛直な分子骨格である[2.2]パラシクロファンに、通常の液中条件下ではそこまで会合定数が高くない同じ蛍光団2つを導入することで、新しいヒンジ型のメカノフォアをデザインしました(下図)。[2.2]パラシクロファンに導入した2つの蛍光団は、[2.2]パラシクロファンの剛直な骨格により常に近接し、効率的にエキシマーを形成します。その特性はポリウレタンエラストマーに導入した後も維持され、得られたフィルムは初期状態でエキシマー蛍光が支配的な黄色蛍光を示します。フィルムを延伸すると、近接した蛍光団同士が離れてエキシマーを形成しなくなり、モノマーが支配的なターコイズ色の蛍光色に変化します。力を除荷すると、再び初期状態の黄色蛍光に瞬時に回復します。同じ蛍光団を用いた既報のシクロファン型超分子メカノフォア(下図)では、2つの蛍光団が柔軟なトリエチレングリコール鎖で連結されており、蛍光団間の相互作用が弱いためにポリウレタンエラストマー内では多くの蛍光団がエキシマーを形成しない状態に速度論的にトラップされてしまいます。そのため、フィルム伸縮時に明瞭な蛍光色変化が観察されませんでした。本研究の「無理やり近接させる」コンセプトを用いれば、相互作用の弱い蛍光団や消光団を用いたとしても、切れ味の良い光学特性変化を示す超分子メカノフォアを幅広く開発できることが期待できます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

修士課程の頃から、本研究で用いた1,6-bis(phenylethynyl)pyreneを蛍光団として用いたシクロファン型超分子メカノフォアの開発に取り組んでいました。当時から、この蛍光団には大きな蛍光特性変化を示すポテンシャルがあると認識していました。しかし、柔軟なリンカーで2つの蛍光団を連結したシクロファン型メカノフォアをポリウレタンに導入して伸縮しても、わずかな蛍光色変化しか達成できず、常に目を凝らして色変化を観察していました。そのため、本研究で明瞭な蛍光色変化が観察されたときは、これ以上視力を落とさなくてよいと安堵しました。また、[2.2]パラシクロファンの剛直性がメカノクロミック特性に寄与していることを明確に評価できたことも重要な点です。研究の初期段階では、メインのメカノフォアを導入したポリウレタンフィルムがメカノクロミック特性を示したことで、まずはコンセプトが機能することがわかり安堵しました。しかし学術論文としてまとめる際、本当に骨格の剛直性が効果を発揮しているのか判断できないと思い至りました。そこで、剛直性の影響が小さいリファレンスメカノフォアの検討や量子化学計算を取り入れて各種実験を行ったところ、当初描いていたコンセプトを支持する結果が得られ、最終的に満足のいく論文としてまとめることができました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

正直に言うと、初めのメカノフォアの合成とメカノクロミック特性を調査するところまでは、とんとん拍子に進みました。しかし、蛍光団の非対称性からキラリティが発現し得ることに後から気づき、蛍光団が回転することでキラル反転が断続的に生じているかの確証を得る必要がありました。そこで、キラルカラムを用いたキラル分割と単結晶の作製を試みました。しかし、業者に依頼してもキラル分割できず、単結晶作製は結晶化しやすいと期待したモデル化合物を用いても目的の単結晶が得られませんでした。最終的には、2次元NMRの組み合わせから、溶液中で蛍光団が断続的に回転していると結論づけましたが、NMRの解析手法にたどり着くまでにかなりの時間と労力を費やしました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

今回の研究を通して、研究の一番のやりがいは自分自身で創造した研究デザインを実現することだと強く実感し、化学は知的好奇心を満たす対象としてこれ以上ない学問だと感じました。また、化学は全てのものづくりの基盤となる技術であり、今後もその根幹は決して揺るがないと考えています。私自身が一生を通して研究者を続けるかはわからないですが、今後、化学技術を通して次代に繋げられる社会づくりに貢献し続けることができれば嬉しいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

実社会での要求に囚われず、自由に研究をデザインして実行に移せるのは学生期間の特権で、創造性を育み実践する貴重な期間だと感じています。指導教員は学生から持ち込まれるアイデアに興味津々なはずなので、常に新しいことを考えることを欠かさず続けるのが肝要かなと思います。

最後になりますが、ご指導いただきました相良剛光先生、また留学の受け入れ含め多大なサポートしていただいたFribourg大学Adolphe Merkle InstituteのJ. M. Clough助教とChristoph Weder教授はじめ、研究室のメンバーに深く御礼申し上げます。また、本記事執筆の機会を頂きましたChem-Station関係者に、深く御礼申し上げます。

研究者の略歴


名前:清水 翔平(しみず しょうへい)
所属:東京科学大学 物質理工学院 材料系 材料コース
略歴:
2021年 東京工業大学 物質理工学院 材料系 卒業
2023年 東京工業大学 物質理工学院 材料系 材料コース 修士課程修了
2023年~現在 東京科学大学 物質理工学院 材料系 材料コース 博士課程
2023年~2024年 次世代研究者挑戦的研究プログラム
2024年~現在 日本学術振興会特別研究員(DC1)

参考文献

  1. Y. Sagara, M. Karman, E. Verde-Sesto, K. Matsuo, Y. Kim, N. Tamaoki, C. Weder
    Rotaxanes as Mechanochromic Fluorescent Force Transducers in Polymers
    J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 1584–1587. DOI: 10.1021/jacs.7b12405
  2. Y. Sagara, H. Traeger, J. Li, Y. Okado, S. Schrettl, N. Tamaoki, C. Weder
    Mechanically Responsive Luminescent Polymers Based on Supramolecular Cyclophane Mechanophores
    J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 5519–5525. DOI: 10.1021/jacs.1c01328
  3. S. Shimizu, H. Yoshida, K. Mayumi, H. Ajiro, Y. Sagara
    Mechanochromic luminescence of phase-separated hydrogels that contain cyclophane mechanophores
    Mater. Chem. Front. 2023, 7, 4073–4079. DOI: 10.1039/D3QM00579H

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大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

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