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一般的な話題

アムホテリシンBのはなし 70年前に開発された奇跡の抗真菌薬

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Tshozoです。以前から自身の体調不良を記事にしているのですが、昨今流行りのAIには産み出せないであろう体験をもとにしているだけに継続していきたい所存です。ただそれには筆者の体調が悪くなることが大前提で、最初から大敗北が明白な点はいかにも筆者好みです。

そうした中、今回一般の方々はめったに罹患しないであろう疾患にかかりました。同様の症状がみられたケースを100件と仮定して、そのうち特定のお薬を飲んでいる方々や糖尿病などを併発している方々を除くと数件程度のごく限られた人にしか発生しないであろうレア疾患、いわば厳選茶葉。つまり書かざるを得ない。以下フィクションを多分に含んでいますがだいたい本当のことなのでお付き合いください。

発端と経緯

筆者は骨髄異形成症候群の記事(こちらこちら)を書いたあたりから心労徒労甚だしく、あらゆる事がうまく進まない、関係者に迷惑をかけつつ針の穴を通すような形で業務を進める必要がある、等々が理由で体調を崩すことが増えていました。デルコシチニブのはなしを書いたあたりがダメージ最高潮で、筆者のように繊細で優しく優柔不断で精神が細くデリケートな人間はこういう職に向いてなかったのだ、と思っていたのと同時期でした。寺田寅彦先生がエッセイ『科学者とあたま』で「一身の利害に対して頭がよい人は戦士にはなりにくい」と言われているのはつくづく身につまされます。痛がりで被虐気質のある末っ子には向いてなかったのでしょう。

で、この時(まだ記事にしていない)ある疾患にかかったのですが今回はおそらくその余波によるもの。具体的には上記の徒労により身体の免疫力/抵抗力、特に皮膚の抵抗力が猛烈に下がったらしく、全身にある疾患が出ていたのです。皮膚は一意的には内臓も含みますが、おそらくこの時に外皮同様内皮も抵抗力が下がりダメージを受けたと推定しています。

上記の全身疾患の時に助けてもらったあるメーカーのあるお薬
本当に感謝しています 別途ちゃんと書きます

最初に、上記の全身疾患前後から心臓の左横くらいがチクチク痛むようになりました。筆者は学生時代既に胃炎と十二指腸潰瘍にかかり、またしばらくしてピロリ菌の感染が発覚し同時に逆流性食道炎を発症したりしていたため胃については経験豊富、つまり胃疾患ソムリエとして自立しているため、胃が病むと連携してどこが痛むかが経験的にわかる能力があります。この時もだいたい慢性胃炎だろう、くらいの認識は持てていたわけです。当然民間療法的な胃薬を飲んで格好よく毎日仕事に行っていたのですね。

・・・ところが1年経っても回復しない。というか痛みが強くなってきたか? あと痛む範囲が腰と首と肩の方まで至ってきた。年齢を考えると確実に胃カメラコースですがあの苦しさを考えると飲みたくない。絶対に飲みたくない。せめてレントゲンで済ませてくれる都合のいいお医者さんは居ないものか。当然そんなものはないので胃薬を飲んで微妙に痛みが走るのをごまかし続け、症状が出だしてからだいたい1年半たちました。当然医者には行っていません。

そしてこの正月。何気なく冷えたお茶を飲んだところ、液体が食道を滑り落ちるのを人生初のレベルで強烈に実感しました。誇張なく、一飲みごとに流れがわかるほどで思わず身体がくねるぐらい。この瞬間以前書いた通り前後の一時間を脳内録画してしまいます。せっかく初詣でここ20年で1回だけの大吉を引いたのにそれ以降脳内再生ばっかり。その後も食事のたびに熱いものなら熱いなりに、冷たいものなら冷たいなりにメシが食道を通り抜けるのを嫌というほど実感する。そしてこの年齢でそういうことが起きるというと、、、最悪ケースばかり頭によぎるわけです。当然医者に行きたくないので胃薬をさらに倍飲んでごまかし続ける。

ところがその1週間後、ふと体重計に乗ったところ、年末の身体測定から特に食事量を変えてないのに3kgの体重減が。これはただ事ではない。更に1週間後、体重がさらに3kg減。やや太り気味だったので嬉しいと言えば嘘になりますがこんな形での減量は嫌だ。特筆すべきはこの週に胸付近の痛みが更に酷くなり、前かがみになった瞬間腰に激痛が走る始末。何かと思って思わず指で押さえた腰の横の部分が猛烈に痛い。いわゆる経絡のツボにあたる部分が異常に凝っている感覚があり、それがコリを通り越し猛烈に痛いのにこの時点で初めて気づいたのです。

そしてもう1週間。腰痛、胸痛、腹部膨満感がひどくなり夜も眠れないほど悪化。あと体重がまだ減ってる。途中で胃薬などを飲みましたが効果ゼロ。不眠と不安とで精神状態が最悪に向かうのは人の常で、きっとその系統の疾患なんだろう、遺言とかどうしようか、何もしないまま死ぬのは辛いからお世話になった人には一筆書いておかないと、とかばかり考えながら布団でウンウンうなり、1日1食でもしんどい程に食欲が無くなっていました。・・・「愚か」の一言ですが、とにかく胃カメラを飲みたくなかったのです。人生で一番最初に飲んだ胃カメラは直径が25mmくらいあり、それを少量の鎮痛剤だけで飲まされたので地獄もいいところ。たださすがに一睡もできなくなった時点でギブアップ。隣町の消化器内科さんに朝一番で駆け込み、(やっぱり)胃カメラを飲むことになりました。

胃カメラの現場

胃カメラはよほどの急患や大規模病院でない限り病院に行った当日使用されるということはありません。胃が綺麗な状態でないと正しく観察できませんから前日夜から絶食、飲料等も最小限で水か茶のみ(もちろん直前は不可)。その状態で病院に行くのですから心境はほぼお通夜(注:鎮静剤を利用し眠くなった状態で実施するケースあり・筆者は病状を見たかったため鎮静剤を使いませんでした)。

ただ今回は有難いことに鼻から通す形での検査で、かつ最近は胃カメラも非常に進化していて、筆者が一番最初に飲んだ頃の1/3くらいまで直径が細くなっていて多少は呼吸が楽と聞いていたため救いを求めながら病院のドアをくぐりました。女性看護師の方が元気におはようございます、体調大丈夫ですかと言ってくださったので、爽やかに返事をしたつもりなのですが呪詛っぽい掠れ声しか出ませんでした。

そこで状況を察したのかすぐ「処置室にどうぞ」と、心の準備をする間もなく部屋へ移動を促されると入室後衣服と荷物を籠に置かされ、処置台に座らされます。先生が処置室の隣の診察室で大声で何か言っているのがこの時点で聞こえます。靴をどこに置けばいいでしょうか、とか言いながら処刑までの時間を延ばそうとしましたが5秒くらいしか延びませんでした。ここまで来院から3分くらい。観念していると無駄に元気な先生がニコニコしながらやってこられます。そのテンションにイラっとしながらも、渋々深々と頭を下げてご挨拶。この時点で目の前にヤツ(胃カメラ・製造元を確認する余裕はありませんでしたが確かコレでした)があって先生が無駄に動作を確認するわけですよ。先端が先生の操作で柔軟に動くんですよ、胃カメラ。こんなもんを今から鼻から通して胃にいれるんかと思うとなぜか頭の中で「太陽を盗んだ男」のBGMが流れてきて沢田研二の演技が脳内に再生されるという奇妙な現象が発生しました。

この状態で看護師さんから説明を受けながら点鼻型の麻酔(鎮痛剤)が打たれます。今回は鼻からカメラファイバーを通すので鼻に2回、喉に1回鎮痛剤を施すわけで、シリンジから鼻に打ち込むのですがこれがまたメチャクチャ苦い! 胃カメラも入れてない時点で涙にまみれながら2回に分け打ち込まれ、5分くらいすると感覚がなくなり、鼻孔が広がったような状態に。そこで喉へもう一押し鎮痛剤で、これも執拗に苦い、、、もうこの時点で心理的にはボロボロで、鼻に投入された鎮痛剤のせいか涙が止まらなくなっていて、それを見た看護師さんが哀れに思ったのか優しく肩をさすってくれました。沢田研二はもうどこかに行ってしまっていました。

ここから横臥位に寝かされいよいよ鼻にカメラを突っ込みます。俺は俎板の鯉という体現をしているのだ、孤独のグルメの独り語りみたいなことをしている場合じゃないとか思っているとすぐさま先生が「じゃあいきますよー」とその言葉から覚悟も何も準備できず5秒待たずに黒いファイバー管が右側の鼻から押し込まれ、抵抗する間もなくゴリゴリ入っていったのですが、、、えっ、っと思った瞬間もう喉を通り抜けてすっと喉奥の方にカメラが入り、目の前のディスプレイの画像が切り替わります。まさか、思ったよりあまり苦しくない! 先生が事前に「1000人以上胃カメラ検査は経験してますから安心してください」と言われていたのは伊達ではなかったわけです・・・

いや、やっぱそれなりに苦しい! 喉に筒が入っていると思った瞬間に涙と鼻水と唾液が凄い勢いで顔面の穴から一気に噴き出します。鎮痛剤がかかっているのに出てくる強烈なエヅキ波でオゲェー、オゲェーーと吐こうとしますが胃の中がスッカラカンなので何も出てこず辛いのだけ続く。事前のご指示通り出てきた唾液と胃液だかなんだかが混じったものは全て口元にあるステンレス製の皿へ垂れす流すよう試みるおかげでオロロロローーーーとかいうオノマトペが合うような有様。こんなだから結構大きな画面に映し出されていたはずの自分の内臓映像は涙で滲んでほとんど見えず、鎮静剤飲んでゆっくりやってもらえばよかったとここらへんで後悔しだしましたが後の祭り。背中に手を当てて支えてくれた看護師さんには本当に感謝です。

と、食道にカメラが入ってすぐ先生が「ありゃあ?」とすごい嫌な驚き方をされます。あぁ、なんかあったのか、ついに俺も終わりか…と思って涙と鼻水まみれの顔面を↑の方の画面に向けると、どうも食道の壁が映っている画面がやたら白い。・・・白い? そうこうしているうちにもう少し胃の方に向かうのですが、やっぱり全体的に白い。涙でモヤモヤとしか見えないのとファイバーからの光反射のせいかとも思ったのですが、確かになんかおかしい感じに食道の上から下まで白い。先生は黙って光の色を変えながらその状態を撮影している。これは一体なんだ、と思っている間に胃の方までたどり着き、撮影のため時々ガスを入れながら胃を膨らませるたび筆者がえづいてゴヘェっと口からガスが抜け、を繰り返してまた口から色々漏れ出る。ただ昔の胃カメラよりだいぶ楽だったのは筆者が年齢を重ねたせいか、先生がうまく調整をして頂いたかの両方だったとは思います。

その後は十二指腸あたりまで見ていたようですが特に先生からコメントもなく万遍無く写真を撮影して、地獄は思ったより短く10分もかからず完了し胃カメラが抜かれることになりました。正直今までで一番楽だったのは間違いないのですが、この間流れ出た涙と鼻水と涎でステンレスの皿に池が出来ていたのは以前の経験と同じでしたね。あと胃の中で管がうねるのは何度経験しても気持ちのいいもんではないのは書き留めておくとします。

診断結果とお世話になった薬

上記のように散々な状態ではあったものの、終わった後に以前ほど苦しくなく鎮痛剤が切れてもほとんど痛みを感じなかったのは先生の腕と機器の進歩とによるものでしょう。人生初の胃カメラの時はファイバーが太すぎて喉が切れたらしく、撮影後しばらくは痰に血が混じっていましたから、それに比べると圧倒的に楽で色々な方々の技術とその進歩に感謝しかありません。

・・・で、どういう疾患だったかというとメインは食道が白くなっていたことで「カンジダ性食道炎(食道カンジダ症)」でした。要は食道にカビ(真菌)が生えたに等しい。白く見えていたのはコロニーとなったり広がっていたりしたカンジダ真菌で、そのせいで食道に炎症が起きていたわけです。伝説のバンド、Queenのボーカル フレディ・マーキュリーの死因はHIV感染による免疫不全に伴うカリニ肺炎(ニューモシスチス肺炎)だったわけですが、自身の抵抗力が下がった結果体内の日和見型真菌属が臓器を侵食するという意味では同種の構成の病気に罹ったと言えるかもしれません。なお逆流性食道炎と十二指腸の萎縮性炎症も確定診断項目にありましたので胃ソムリエとしての直感は一部正しかったわけです。

筆者の食道 内臓を人前に晒すのはどうかと思うがネタなので仕方がない
白く点状に見えるのとモヤっと白く広がっていたのがカンジダのコロニー
喉の入り口付近にもう少し見た目がひどいエリアがあったはずなのだが…

胸部不快感を伴う消化器疾患としては一般に逆流性食道炎があり、だいたい比率でいうと8割がたこれ。一方で今回のカンジダ性食道炎で、しかも筆者のようにかなり白い部分が多く、食道の上から下まで広がっているのは相当珍しかったもよう。先生が驚いていたのは手術後とか大怪我後とか何らかの基礎疾患を持っているわけでもない健康そうな青年男子がまさか、というのが理由で、撮影後の診察時の開口一番に「珍しいねぇ」と言われたのはそういうことでしょう。ネットで検索してみると過労の結果同様の症状が出た方はそこそこの数いるようですが、気になる症状の認識から1年半もほったらかしたアホンダラはそうそういないもようです。

このカンジダ真菌は人間の体内のどこにでも存在する”日和見”常在真菌で、一番著名なものがCandida albicans(下図)。人間自体が健康で抵抗力を維持している状態であればそうそう害を及ぼすことにはなりません。ところが筆者のように自身が死んで当然だとか本当にどうすればよかったんだろうかとか朝から晩まで毎日思っていたりすると精神も身体の調子も弱ってくるわけで、その結果体内バランスが徐々に崩れカンジダ真菌が勢力を伸ばすようになってしまった、と。おそらく症状の出だしの1年半くらい前から食道への定着が始まっていたと思われます。総じて胸部不快感が相当長いこと継続し、中期には食欲不振、食事時の食道不快感、最後には吐き気、極めて強い膨満感と腹部不快感に至り、確かに逆流性食道炎とかなり似ていましたが胃のむかつきや灼熱感がほとんどなかったのは特徴的な違いでした(個人差があるでしょうけど)

Candida albicansの顔 英語版Wikiより引用  意外と小さい

さて処方箋。結論から言うと今回は胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬のやや強力なものと一般的な粘膜保護剤に加え、食道などに住み着いたカンジダを駆逐する抗真菌薬を処方されました。その名も日本語名”ファンギゾン”、英語でFungizone、ドイツの製薬メーカ チェプラファームによる製品で、”アムホテリシンB“(Amphotericin-B)という材料を含みます。ようやくタイトルが出てきましたね,,,なおチェプラファームは一般にジェネリック品を多く扱っているのですがこのファンギゾン溶液は製造法にノウハウがあるらしく、ジェネリック品は存在していなかったところも興味深かったです。

日本語名”ファンギゾン” 最初聞いた時聞き違いかと思って聞き直してしまった
大陸系の人の名前かなにかかと思ったが、真菌を英語で示す”Fungi”を入れているだけの話でした 
都合により画像は加工してあります

ファンギゾンはドレッシング状の明るいレンガのようなオレンジ色の液体、味は甘く(おいしくない)、朝昼晩と寝る前の1日4回、付属スポイトで1mlずつ吸い上げ薄めず飲むのですが、正直使い勝手があんまり、、、。高粘性でかつ予想以上に早く液分離するため摂取前によく振らなければならないほか、液切れが悪くて正確に秤量しにくく、またスポイトから口内に落としているうち喉奥に入ってむせて盛大に液をぶちまけてしまったりする(しました)。後述通り効能は素晴らしいのと下痢や便秘などの副作用もないためもう少し使いやすいと嬉しいなとは思った次第です。

しかしながらこのファンギゾン、効果絶大でおよそ二日目くらいで背中経絡部の疼痛が大きく軽減。その後胃不快感がスーっと減り何より食欲が改善。体重が1週間で約3kg元に戻り、顔色もずっとよくなり、筆者が気づいていなかったのですが奇妙な口臭が減ったと同居者から言われるなど著しく回復。色々覚悟していたのが杞憂に終わった点は先生に感謝しかありません。あと状態が好転してから初めて気づいたのですが、声の掠れがみごとに治りました。おそらく声を出す器官付近までカンジダが接近していたのでしょう、胃カメラを撮影頂く朝に声が呪詛のようになっていたのは偶然ではなかったわけです。

アムホテリシンBの歴史と最新の成果の紹介

ここから、(文献1)(文献2)(文献3)に多くを頼ります。また、下記のように病原体を分類し、それぞれに対抗する材料を下記のように定義いたします。

以下で使う分類とことばの定義 今回は真菌の部分が対象
時々抗菌剤と抗生物質と抗真菌剤とをごっちゃに使うケースがあって色々ややこしい
(近畿大学資料(文献4)より筆者が編集して引用しました)

今回筆者を救ってくれたファンギゾンに含まれるアムホテリシンBという抗真菌剤、これは約70年も前に現ブリストルマイヤーズ・スクイブの源流のひとつスクイブ社の研究所で見出された材料。驚くべきは医薬品としての寿命の長さで今も現役、つまり製品寿命が60年以上に至る点、筆者と同期の桜。一般的に真菌における耐性真菌の発生はその細胞構造や増殖メカニズムの違いから細菌類に比べかなり遅い傾向があるのですが(文献2/耐性真菌の発生に関するイントロ文献として非常にお勧め)、そうは言っても例えば農業用だと1996年くらいにBASFが生み出した大型抗真菌製剤 Strobilurinグループ(文献5)に対しては商品化から10年もたたず耐性真菌が発生したという事態が発生する(文献6)など、その製品寿命の短さが問題になるケースは十分にあり得るわけです。

これに対しこのアムホテリシンBに対する耐性真菌は今のところ一般的にはほとんどみられない(文献2/注:2017年あたりにCDCが警告した特定の種に対しては注意が必要/後述)。耐性真菌が発生しにくい正確なメカニズムは(文献2)の各項目に加えて、おそらく①”非ノックアウト型”であること(その割に効能がかなり早かった) ②作用点にピンポイントで効くタイプではない(アムホテリシンの分子量が比較的高い)こともポイントであると考えられます。まずその歴史から。

アムホテリシンBはスクイブ社で1956年 Donovick, Gold, Pagano, Stoutら研究員が中心となり、ベネズエラ(!)のオリノコ川領域で採取・単離されたストレプトマイセス属放線菌の培養中に発見された物質です(文献1/”The drug was discovered in 1956 by Donovick, Gold, Pagano, and Stout following the fermentation of the actinomycete Streptomyces nodosus, originally identified as M-4575, isolated from a soil sample collected in the Orinoco River region, in Venezuela.”)。両社ともにもともと抗菌薬ペニシリンの大型生産手であったわけですが、当時既に耐性菌が発生していることがわかっていてその対策のために様々な手法で次の飯の種を探していました。抗生剤の父 アレクサンダー・フレミング博士は真菌(不完全菌)アオカビからペニシリンを作ったわけで、それを把握している両社は人工合成系の抗菌剤、抗真菌剤を検討するのと並行し世界中から微生物や菌類を取り寄せ生合成ルートも開拓していたわけで、アムホテリシンBはその一環での発見だったわけです。ちなみにアムホテリシンAも見つかっていたのですが効能が圧倒的にBの方がよく、結局薬になったのはこちらだけという話でした。

アムホテリシンB 分子構造と立体イメージ Wikipediaより引用
なんでこんなもんを、というのとどうやってこんなもんを、という疑問しか湧かない

その環状ポリエンとしての分子構造は特徴的であるの一言で、長い疎水ブロック、長い親水ブロックを併せ持ちながらヘッド(図右側)とテール(図左側)に極性基と親水基を持つ4ブロックから成ります。脂質二重膜に干渉することを前提とするようなこの構造がなぜ真菌を攻撃するのに効くのか、を(文献1)(文献3)では極めてわかりやすく記述しており、特に今回非常に読み込んだ(文献1)からほぼ全てを引用すると、

(文献1)より編集して引用 アムホテリシンBの分子構造における各役割の図
溶解度がコロコロ変わりそうで全合成は相当難しそうだが
1987年にはご存知 K.C. Nicolauが達成したらしい

同じく(文献1)より編集して引用 真菌の細胞壁への
潜り方の模式図 M-4575が真菌専属の殺し屋なんじゃないかとも思える機構である

・・・このように、真菌の細胞膜の主要構造分子であるエルゴステロールにフィットして、しかも穴を開ける形で突き刺さるという素晴らしい作用を示します。この結果真菌は人間に例えたら常時出血する穴が全身にできたような状態となり弱って死滅してしまう。いやー凄い。ちなみにこの正確なもぐりこみ後のメカニズムは最近初めて明らかになっていて、大阪大学の梅川雄一先生による分析の粋を尽くした論文(文献7)により、どのように細胞膜に潜り込んで自己組織化し、その後にさらにクラスター化して強い薬理作用を編み出しているのかという、詳細な動作機構が示されていました。個人的にはアムホテリシンBがただ平面状に膜に潜り込んで貫通孔を形成しているのではなく、ちょっとアムホテリシン分子が傾いて螺旋状になって潜り込んでいるという点がかなりそそる。Science Advanceに掲載されておりフリーで読めますので是非ご覧ください。

(文献7)より筆者が編集して引用 固体NMRと分子シミュレーション(MD法)を
駆使して推定される構造 またなぜ人間に対して腎毒性を示し得るかまで

極めて詳細な分析に基づき推定されている素晴らしい内容

ただ個人的に気になるのが、ポリオール部はノニオン構造なのにナトリウムイオンやカルシウムイオン等正電荷をもつ物質がそうそう簡単に移動できるのかな、という点。みたところ孔の径がイオン径に比べて十分に広いので濃度差が十分ならまぁ通るんでしょうけど、生体内でこうしたノニオン系がどうやってイオンを通しやすくしているのかは昔から興味があるところではあります。加えて螺旋構造が透過の促進をしていたら個人的にうれしいのですけどどうでしょうね。違いますかそうですか。

で、こんなものがずーっとこの世に残留していたらそこらじゅうの真菌が死んでしまうのじゃないか、または耐性菌が多数出来てしまうのじゃないかとも思ったのですがそこはそれ、このアムホテリシンBは紫外線が当たるとペロッと壊れてしまう特徴があり、よく出来すぎている材料である気がします。ただいいところばかりではなく、エルゴステロールのようなステロイド状構造を持つところに潜り込めるということは、似たような生体膜(人体だとコレステロール)へもぐりこんでその機能を混乱させたり最悪破壊してしまいかねないわけで、人体ではそのダメになる対象臓器が腎臓。全身症状が出るような真菌症を起こした際に血液中に滴下して使うような場合はその腎毒性に十分注意して使わなければならないという注意書きがあります(今回かかったカンジダ性食道炎の場合は、ほとんど体内に吸収されないので基本的に無視してよい)。なお梅川先生の(文献7)にもその人体への影響に関する機構が明らかにされていますのでご興味があればご覧ください。

耐性菌の発生と恐ろしい現実

・・・と、ここまでアムホテリシンが無敵みたいなことを書いてきてしまいましたが実は2016年に米国CDCから恐ろしい警告が出てきております(下図・文献8)。

具体的には”Candida auris”という、2009年に日本、韓国の慢性中耳炎の患者からそれぞれ1件、15件という妙な件数で見つかった真菌の1グループについての警告(文献8)(文献9)。これが恐ろしいのが真菌類では今まであまり見つからなかった多剤耐性を持ちしかも感染力が強く高速度で拡散するというおまけつき。どのくらいの感染力かというと、患者間で使いまわしていた接触式体温計でほとんどの患者が感染し、しかも血液感染症まで至り多数が死亡(文献10)してしまうという…結局2026年時点でアメリカ、欧州、ロシア、インド、中国、日本、オーストラリア、と主要国のほとんどでその存在が確認されています。

恐怖のCandida auris(文献11) 何の変哲もない酵母のように見えるが、、、
なお今回は詳細は省略するが他のカンジダ類と簡便に見分ける方法が無く
PCRとかMALDIなどで同定しなければ見極められない厄介な奴

そしてその多剤耐性の特徴ですが、下図。今回筆者がお世話になったアムホテリシンBのsusceptibility(感受性/薬の”有効性”と思えばいいかと)が実質半分程度まで下がっている(文献12)。しかももう一つの重要な抗真菌剤グループであるカンディン系に対しても耐性が確認されている。あと詳細未確認ですが現存する全ての抗真菌剤に対し耐性があるaurisグループも存在するらしい。こんなもんが世界中に広がって院内感染が爆発的に広がってしまったら、と思うと恐怖でございます(実際に世界中で散発的に起きてる)。なのでCDCはその危機感を共有する意味で2016年に警告という形で世界に発信したわけですね。

Candida aurisの抗真菌剤に対する耐性具合 (文献12)より引用 
FLU=Fluconazole, AMB=Amphotericin B, ECH=Echinocandin

FLUはもうほぼ使用不可 AMBは地域によっては辛うじてだが半分以上アウト
特にECHは承認を受けて20年程度しか経ってないのに
耐性菌が確認されている地域が既に存在し非常によろしくない

こうした恐ろしい真菌に対し武器がほぼないことが如何に危機的なことか、、、。日本ではまだこの”Candida auris”の極端な多剤耐性株は発見されておらず死者もごくわずかしか確認されていないようですが、この感染速度に加えて昨今の人の出入りの速さを考えると時間の問題でしょう。正直、今回筆者が食らったのがこのaurisでなくて本当に幸運だったと思います。

なお(かなり冗長で申し訳ないのですが)そもそもこのauris種がなぜここまで耐性を保持しているのか? これについてはまだ研究中ですが、(文献11)の例を挙げるとこのaurisは細胞膜のエルゴステロールの構造を変えてしまっているためのようで、通常のエルゴステロールから2種類の構造に切り替えたそうです。具体的には、エルゴステロールのアルカンをアルキンに1か所だけ変えた構造のものと、水酸基の位置を変えつつアルキンをアルカンに変えた構造のものの2個。たったこれだけの変更でアムホテリシンBに対し耐性を大きく伸ばした、としています。水酸基位置の影響は結構大きそうですがアルカン⇔アルキンで相互作用がこんなに変わるもんなんですね…。

では対策はあるのか。今のところ一番期待されているのがPfizerの子会社Amplyxが開発を進めている”Fosmanogepix”。第二相まで終わっていて(文献13/第三相も始まっている模様)、安全性、効果いずれも非常に優れている結果が出ているようです。特にこれまでの抗真菌剤に対し作用機序が異なり(細胞の核を包む細胞壁に効く)しかも最低投与量が少なくても相当効く点から、Candida auris(現時点では臨床では未トライ)についてもおそらく大きな武器になるのではないかと期待されています。これは是非とも治験を成功させて当面の強力な武器にしてもらいたい。またこの調査の経緯で”Olorofim“, “Rezafungin“,  “ibrexafungerp“という抗真菌剤の治験が進んでいることもわかり、しかもそれぞれ作用機序が異なるということがわかったため、別機会に採り上げてみたいところです。

“Fosmanogepix” 治験ではManogepixという名前にしている
細胞膜ではなく細胞「壁」がターゲット、しかも壁を作る酵素に直接作用するので
細胞核が形成できず異常な構造しかできなくなる作用を発揮する

またアムホテリシンBについても、耐性真菌に対する感受性を向上するという切り口で北里大学の供田洋先生が中心になって発見・研究されてきた微生物由来の”アドオン”的な材料探索に成功されているケースがあります(後任の大城先生のHPはこちら)(文献14)。この新規材料ネクトリアタイドは述べたエルゴステロールへ取り付いて相互作用を強めているらしく、もし上記のように変性エルゴステロールを細胞膜に用いて耐性を高めてしまったCandida aurisに対し特異的に感受性を高められるネクトリアタイド類体を作ることが出来れば、アムホテリシンの復権があり得るかもしれません。

ということで、真菌類は細菌類と異なり(文献2)に記載されているような特徴がある(特に細胞壁が発達していて菌同士のコミュニケーションとなる遺伝子のやり取りが発生しないという)関係で一般的に薬剤耐性を獲得しづらい、というのが専門家間での認識のようですが人やモノの移動の問題が激しくなっている昨今の状況やCandida aurisの発生と急速な拡散を考えると、そうも言ってられないのかもしれません。筆者も今回なんとかアムホテリシンB単剤で無事に回復しましたが、いつ”Candida auris”のような強力な抵抗性を持つものに感染するかわからない状況でもあると言え、上記のような新薬類や感受性向上といった新規コンセプトに基づく対策強化が望まれるものであります。

現状と反省とこの後と

今回のことはほとほと堪えました。毎日力一杯ネガティブ全開後ろ向きにやってたら体調も崩すってわかってたんですが、まさか内臓にカビが生えるとは。幸いにも何とか復帰できつつありますが少しずつバチの報いを受けているとも言えるので次はどんな疾患が来るのか不安に苛まれてもいます。ただ、新しいネタのためには体調が悪くならなければならない。まぁこりゃもう因果応報なので仕方ないでしょう。筆者に出来ることは毎回毎度書き連ね、何かを記録として残すくらい。割り切って次のトラブルに備えるしかないと思っております。

ちなみに反省はあんまりしていないのですが、行動を改めるとすればせめて1か月~3か月続くような体調異常を経験したら強制的にお医者様にかかることくらいでしょうか。診せぬは一生の恥、とはどなたかが言われていたと思いますが、その診てもらうのが同じくらい恥ずかしくて辛くて嫌、というケースがあり得るのじゃないかと思っています。ともかくこの後も色々逡巡しながらグズグズ迷いつつ過ごしていくのが性に合っているのでそうしていくことにしましょう。・・・とか言いながら多剤耐性菌には感染したくないとか思っている時点で覚悟も何も決まってないところがつくづくお子様で困ったもんです。

それでは今回はこんなところで。次回も非常に恥ずかしいのですが今回のおおもとになったトラブルのことをちゃんと書いてまいります。

参考文献

1. “Sixty years of Amphotericin B: An Overview of the Main Antifungal Agent Used to Treat Invasive Fungal Infections”, Infect Dis Ther (2021) 10:115–147, リンク

2. “真菌の薬剤耐性化の現状は? そして今後は?” モダンメディア 56 巻6 号2010[真菌] 119, リンク

3. “Amphotericin B, the Wonder of Today’s Pharmacology Science: Persisting Usage for More Than Seven Decades”, Pharm Biomed Res 2020, 6(3): 173-180, リンク

4. “血液疾患と深在性真菌症”, 近畿大学病院資料, リンク

5. “Strobilurins: Evolution of a New Class of Active Substances”, Angew. Chem. Int. Ed. 1999, 38, 1328 – 1349

6. “Strobilurin resistance is now in 5 states”, Crops, Prairie Farmer www.FarmProgress.com, June 2012 19

7. “抗生物質が効く仕組みを解明”, 2022年6月18日 大阪大学プレスリリース 理学研究科 梅川雄一助教による リンク 及び pdfリンク , 及び 論文リンク

8. “Clinical Alert to U.S. Healthcare Facilities – June 2016”,  2016, US CDC, リンク

9. “Candida auris Clinical Isolates from South Korea: Identification, Antifungal Susceptibility, and Genotyping”, J Clin Microbiol57:10.1128, リンク

10. “Candida auris 感染症の最近の話題について”, 栄研化学 モダンメディア 71 巻 2 号 2025, リンク 

11. “The Use of WGS Surveillance of C. auris Reveals the Evolution of Novel Amphotericin B Non-susceptibility and a Potential Pan-resistant Isolate”,  2025 APHL Lab-Con, Dr. David Hess, Chief Genomics Officer, NV State Public Health Lab

12. “Combined Antifungal Resistance and Biofilm Tolerance: the Global Threat of Candida auris”, herapeutics and Prevention
July/August 2019 Volume 4 Issue 4, リンク

13. “Clinical safety and efficacy of novel antifungal, fosmanogepix, for the treatment of candidaemia: results from a Phase 2 trial”, J Antimicrob Chemother 2023; 78: 2471–2480

14. “抗真菌薬アムホテリシンBの活性増強剤の開発”, 北里大学約学研究科資料, リンク

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メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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