[スポンサーリンク]

一般的な話題

「無機化学」とはなにか?

[スポンサーリンク]

初めて投稿するみねと申します。無機化学系の数少ないブロガーとして記事を書かせて頂きたいと思いますのでよろしくお願いします。

さて、「無機系」と申しましたが、これがえらい問題でして、「無機化学ってなに?」と聞かれると、説明するのに困ってしまうのです。

まず自己紹介代わりに、この「無機化学」について、区画整理をしたいと思います。

無機化学とは何か

wikipediaでは、無機化学は

「無機化学(むきかがく、英語:inorganic chemistry)とは、研究対象として元素、単体および無機化合物を研究する化学の一分野である。通常有機化学の対概念として無機化学が定義されている為、非有機化合物を研究対象とする化学と考えて差し支えない。」

「無機化学では炭素以外の全周期表の元素を取り扱い、炭素を含む化合物であっても有機化合物とは見なされない炭素の同素体や一酸化炭素などの化合物も含まれる。有機化合物はおよそ地表にのみ存在するのに対して、地球はほとんどが無機物質で構成されているといっても過言ではない。工業的にも鉄鋼やセメント、ガラスなどの無機工業製品は生産トン数で考えた場合には有機工業製品を圧倒している。しかし、その多様性と複雑性のため、すべての元素の性質を簡単な理論で説明できるわけではない。」

とありますが、これでは何が何やらわかりません。

これは、現実には「有機化学」「計算化学」は研究分野も表しているのに比べて、「無機化学」というのは研究分野を表している言葉ではない、というか広すぎる言葉なためです。

ということで、私から見る「無機化学」とは、次の9分野に当てはまる材料を扱う学問を指します。

無機化学の扱う「材料」

1, 酸化物・窒化物・ハロゲン化物などの「無機固体」

2, ホウ素化合物、ヘテロポリ酸などの「ディスクリートな無機物」(無機分子)

3, 有機との境界領域「有機金属」

4, 金属錯体を扱う「ディスクリートな錯体」(錯体分子)

5, 配位高分子などを扱う「固体錯体」

6, モノはなんでもよいがそれを小さくした「ナノ粒子」

7, 物質の表面での現象を追いかける「表面化学」

8, ポリマーの動き、配列、相転移を扱う「ソフトマテリアル」

9, フラーレン、カーボンナノチューブなどを扱う「カーボン材料」

無機物というと、どうしても上記の1をイメージしがちですが、実際にはそれは無機物の中のごくごく一部なのです。

補足が大量に必要ですが・・・

補足1) ディスクリートとは、「バラバラな」という意味です。例えばNaClは分子として考えるのは難しく、四方八方の大量のイオンとの相互作用を考慮する必要があります。一方、CO2は固体にもなりますが、気体状態では隣の分子との相互作用をとりあえず無視することもできますし、NaCl水溶液においては、Naイオンは隣のNaイオンの影響をとりあえず無視して、周りの水との相互作用だけ考えることもできます。こういう、隣の分子の影響を無視して、分子・イオンだけを考えてよいものを「ディスクリート」といいます。

補足2) この定義もいい加減で、たとえばディスクリートな物質はほとんどナノ粒子と呼んでもよいですが、研究者の間では、今は分離して考えています。フラーレンを2に、カーボンナノチューブを1や8に加えることも可能でしょう。

補足3) 有機金属とは「金属-炭素結合」を持つもの。それ以外の結合だけでできるものを「錯体」と呼びます。しかしこれも近年では曖昧になっており、金属炭素結合をもつもので錯体と呼ばれているものもいっぱいあります。

補足4)ここに述べたものからは、地球科学分野などを除いております。あくまで「化学科・応用化学科の研究者から見た無機化学」について分類しました。

 超分子化学について

超分子化学は、現在は極めて重要な分野になっていますが、物質としてみると、ソフトマテリアル、ディスクリートな錯体、有機金属化学の3つに分けてしまうことが可能です。超分子はトポロジー、もしくはホスト-ゲスト化学という物性だと考えます。

他にも「自分は磁性屋だ」「光化学屋だ」「X線屋だ」と思っている人はたくさんいます。また物性に興味ない「合成屋」もたくさんいます。これら「物性」は、無機化学の「横軸」としてとらえ、下表の「横軸」にしました(分類上、合成も「物性」に含めています)。超分子の方、気を悪くなさらないでください。

 無機化学の縦軸と横軸

ということで、無機化学の研究を、材料と、物性で分けると、結局下の表のようになります。研究者はいずれかの材料の、いずれかの物性の研究をしております。

 

合成 構造解析 伝導性 磁性 触媒 反応解析 光化学 電気化学 生物化学 計算化学 ホストゲスト トポロジー
無機固体
無機分子
有機金属○
錯体分子
固体錯体
ナノ粒子
表面
ソフトマター
カーボン材料

 

丸がついているところは、良くやられている研究分野です。見て気づくのは

  •  合成と構造解析は化学の基本で常に重要。
  • 計算化学もあらゆる分野で重要になっている。
  • 無機物の華は伝導性と磁性。
  • 有機金属化合物は有機分野の研究者が入ってきており、触媒の研究が盛ん。
  • ホストゲスト化学、超分子はあらゆる材料において流行分野になっている。

といったところです。

 まとめ

というわけで、3年生や他分野の方に向けて、今の「無機化学」とは何か、説明してみました。この記事は正確な記述を書いた「辞書」ではなく、「流行を追いかけた週刊誌」としてとらえていただきたいと思います。現実にはwikipediaの定義通り、何でもあり、ということですが、これを読んでからwikipediaをもう一度見ると、行間が見えてくるのではないかと思います。

また、異論・反論いっぱいあると思いますので、ご指摘お待ちしております。

さて、私は個人ブログもやっており、そちらのアクセスを増やすべく日夜(研究の合間に)頑張っております。そちらも是非ご来訪下さい。

関連記事

  1. 【第11回Vシンポ特別企画】講師紹介③:大内 誠 先生
  2. インフルエンザ対策最前線
  3. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解めっきの還元剤編~
  4. 【12月開催】第十四回 マツモトファインケミカル技術セミナー  …
  5. 2つの触媒反応を”孤立空間”で連続的に行う
  6. 文献管理ソフトを徹底比較!
  7. 「決断できる人」がしている3つのこと
  8. 日本化学会 第100春季年会 市民公開講座 夢をかなえる科学

注目情報

ピックアップ記事

  1. 『ほるもん-植物ホルモン擬人化まとめ-』管理人にインタビュー!
  2. 僕がケムステスタッフになった三つの理由
  3. MAC試薬 MAC Reagent
  4. 海底にレアアース資源!ランタノイドは太平洋の夢を見るか
  5. 「株式会社未来創薬研究所」を設立
  6. 4つの異なる配位結合を持つ不斉金属原子でキラル錯体を組み上げる!!
  7. 単一細胞レベルで集団を解析
  8. 塩化ラジウム223
  9. ブンテ塩~無臭の含硫黄ビルディングブロック~
  10. 有機機能性色素におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP