[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

“かぼちゃ分子”内で分子内Diels–Alder反応

[スポンサーリンク]

環状水溶性ホスト分子であるククルビット[7]ウリルを用いて生体内酵素Diels–Alderaseの活性を模倣することで、分子内Diels–Alder反応が進行することを見出した。

ホスト-ゲスト化学を用いた人工Diels–Alderaseの設計

ジエンとジエノフィルとのDiels–Alder(DA)反応は、立体特異的に6員環の環状骨格を構築可能であり、医薬品や天然物の合成に頻用されている。

また、生体内においてDA反応は多くの天然有機化合物の生合成経路として知られている[1]。この反応を触媒する酵素Diels–Alderaseは、基質を取り囲む水分子を遮断し基質と特異的に結合することで反応を効率的に進行させる。このようなDiels–Alderaseを模倣した人工分子システム構築にむけ、ホスト–ゲスト化学の活用が注目されている。

これまでにRebekらは自己集合性有機化合物をホスト分子触媒に用いることでDA反応が200倍加速されることを見出した(図1A)[2a]。しかし、天然のDiels–AlderaseやRebekらの報告例では、反応物と生成物との構造が類似しており、生成物がゲスト分子として振る舞うことに起因する反応の生成物阻害が課題として挙げられていた[2]

2006年に藤田らは自己集合性錯体を用い、生成物阻害を受けない触媒的DA反応を進行させることに成功した[3]が、未だこのような報告例は限られている(図1B)。

今回、著者らは環状水溶性ホスト分子の一つであるであるククルビット[7]ウリル(CB[7] )に着目した。CB[7]を用いることで、生体内を模倣した穏和な条件下不活性および無保護のN-アリル-2-フルフリルアミン誘導体の分子内DA反応(図1C)に成功したので紹介する。本手法では、競合的な生成物阻害の存在下でも高収率で反応が進行する。

図1. ホスト–ゲスト化学を用いたDiels–Alder反応

 

Cucurbit[7]uril as a Supramolecular Artificial Enzyme for Diels–Alder Reactions

Palma, A.; Artelsmair, M.; Wu, G.; Lu, X.; Barrow, S. J.; Uddin, N.; Rosta, E.; Masson, E.; Scherman, O. A.Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 15688.

DOI: 10.1002/anie.201706487

論文著者の紹介

研究者:Oren A. Scherman

研究者の経歴:
-1999 B.A., Cornell University (Prof. Dotsevi Y. Sogah)
2004 Ph.D., California Institute of Technology (Prof. Robert H. Grubbs)
2004-2006 Posdoc, Eindhoven University of Technology (Prof. E.W. (Bert) Meijer)
2006- Lecturer and Next Generation Fellow of the Melville Laboratory, University of Cambridge
2011- Reader in Supramolecular and Polymer Chemistry, University of Cambridge
2013- Director of the Melville Laboratory, University of Cambridge
2015- Professor, University of Cambridge
研究内容:超分子、高分子化学

研究者:Eric Masson

研究者の経歴:
-2001 M.S., University of Lausanne
2005 Ph.D., Swiss Federal Institute of Technology Lausanne (Prof. Manfred Schlosser)
2005-2007 Posdoc, Yale University (Prof. Andrew D. Hamilton)
2007-2013 Assistant Professor, Ohio University
2013- Associate Professor, Ohio University
研究内容:超分子、分子認識化学

論文の概要

CB[7]自体は高い水溶性を有する分子でありながら、環内部は疎水性である。そのため、水中では疎水性化合物をCB内部へ取り込むことを好む。本研究ではこの性質を利用し、N-アリル-2-フルフリルアミン誘導体1をCB内部へ取り込み、DA反応を促進することに成功した(図1A)。反応は以下のような機構で進行する。プロトン化された1とCB[7]開口部に存在するカルボニル基との間にイオン-dipole相互作用が働き、疎水性残基(フラン、プロペニル)が内部に取り込まれ、基質のヘアピン誘発配座(HIC)が形成される(図1B)。このHIC形成によりジエンとジエノフィルが適切な位置に配置され反応が進行する。HIC形成にはフランとアルケンとのπ-π相互作用が関与しており、アルケン部位が飽和アルキル鎖のとき、アルキル鎖はCB内部に入ることができずHICは形成できない(図1C)。

本手法において、DA生成物2はCB内に原料より強く取り込まれる性質をもつものの顕著な生成物阻害は起こらず、触媒量のCB[7]を用いても高収率で反応は進む。各種速度論実験を行い、生成物のCB[7]の会合定数が原料のそれより数十倍強くなければ、触媒条件下であっても生成物阻害は問題にならないことがわかった。本研究で得られた知見は、ホスト–ゲスト化学による新規触媒としてはもちろん、Diels–Alderaseのより深い作用機序の理解としても重要なものである。

図2. (A) 基質適用範囲および半減期 (B) 本反応の触媒サイクル (C) ヘアピン誘発配座(HIC)

参考文献

  1. Review: (a) Klas, K.; Tsukamoto, S.; Sherman, D. H.; Williams, R. M. J. Org. Chem. 2015, 80, 11672. DOI: 10.1021/acs.joc.5b01951 A representative report, see: (b) Ose, T.; Watanabe, K.; Mie, T.; Honma, M.; Watanabe, H.; Yao, M.; Oikawa, H.; Tanaka, I. Nature. 2003, 422, 185. DOI: 10.1038/nature01454
  2. (a) Kang, J.; Rebek, Jr., J. Nature, 1997, 385, 50. DOI: 1038/385050a0 (b) Marty, M.; Watson, C-. Z.; Twyman, L. J.; Nakash, M.; Sanders, J. K. M. Chem. Commun. 1998, 2265. DOI: 10.1039/A806070C
  3. (a) Yoshizawa, M.; Tamura, M.; Fujita, M. Science, 2006, 312, 251. DOI: 10.1126/science.1124985 Another example: (b) Howlader, P.; Das, P.; Zangrando, E.; Mukherjee, P. S. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 1668. DOI: 10.1021/jacs.5b12237

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 電子豊富芳香環に対する触媒的芳香族求核置換反応
  2. アルキルラジカルをトリフルオロメチル化する銅錯体
  3. 2010年ノーベル化学賞ーお祭り編
  4. メソポーラスシリカ(3)
  5. 白い器を覆っている透明なガラスってなんだ?
  6. SlideShareで見る美麗な化学プレゼンテーション
  7. 私達の時間スケールでみても、ガラスは固体ではなかった − 7年前…
  8. ワインのコルク臭の原因は?

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. デヒドロアラニン選択的タンパク質修飾反応 Dha-Selective Protein Modification
  2. 反芳香族性を有する拡張型フタロシアニン
  3. 工程フローからみた「どんな会社が?」~タイヤ編 その3
  4. 鉄系超伝導体の臨界温度が4倍に上昇
  5. 結晶構造に基づいた酵素機能の解明ーロバスタチン生合成に関わる還元酵素LovCー
  6. フィルム製造プロセスのスキルアップ【終了】
  7. Pixiv発!秀作化学イラスト集【Part 1】
  8. 結晶作りの2人の巨匠
  9. 米国の博士研究員の最低賃金変更
  10. ドナルド・トゥルーラー Donald G. Truhlar

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年12月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

注目情報

最新記事

国内最大級の研究者向けDeepTech Company Creation Program「BRAVE FRONTIER」 2022年度の受付開始 (7/15 〆切)

Beyond Next Ventures株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社⻑:伊藤毅、以下「…

イミンアニオン型Smiles転位によるオルトヒドロキシフェニルケチミン合成法の開発

第394回のスポットライトリサーチは、東京農工大学 大学院工学府 応用化学専攻 森研究室の神野 峻輝…

マテリアルズ・インフォマティクスで用いられる統計[超入門]-研究者が0から始めるデータの見方・考え方-

開催日:2022/07/06 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

表面酸化した銅ナノ粒子による低温焼結に成功~銀が主流のプリンテッドエレクトロニクスに、銅という選択肢を提示~

第393回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院工学院 材料科学専攻 マテリアル設計講座 先…

高分子材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?

 申込みはこちら■セミナー概要本動画は、20022年5月18日に開催されたセミナー「高分…

元素のふるさと図鑑

2022年も折り返しに差し掛かりました。2022年は皆さんにとってどんな年になり…

Q&A型ウェビナー カーボンニュートラル実現のためのマイクロ波プロセス 〜ケミカルリサイクル・乾燥・濃縮・焼成・剥離〜

<内容>本ウェビナーでは脱炭素化を実現するための手段として、マイクロ波プロセスをご紹介いたします…

カルボン酸、窒素をトスしてアミノ酸へ

カルボン酸誘導体の不斉アミノ化によりキラルα-アミノ酸の合成法が報告された。カルボン酸をヒドロキシル…

海洋シアノバクテリアから超強力な細胞増殖阻害物質を発見!

第 392回のスポットライトリサーチは、慶應義塾大学大学院 理工学研究科 博士後期課…

ポンコツ博士の海外奮闘録⑧〜博士,鍵反応を仕込む②〜

ポンコツシリーズ一覧国内編:1話・2話・3話国内外伝:1話・2話・留学TiPs海外編:1…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP