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化学者のつぶやき

トップ研究論文を使って学ぶ!非ネイティブ研究者のための科学英語自習ツール『CASPArS』

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皆さん、英語論文の執筆、どのように日々こなされてますか?実際に論文英語を書くに当たっては、文法や語彙力以上に重要なのが「分野に応じた自然な表現力」です。しかしこれは辞書や翻訳だけではなかなか身につきません。そんな課題に対し、ノースカロライナ州立大学・大畠潤先生が提案するのが、CASPArS(キャスパーズ)という自習型英語学習ツールです。
本記事では、大畠先生ご本人が執筆された下記論文にもとづく寄稿をもとに、CASPArSの概要とその活用方法をご紹介します。

“Contextual Analysis of Scientific Publications for Advancing Writing Skills (CASPArS): Self-Learning for Science Writing Using Top Scientists’ Literature”
Jun Ohata,* James D. Martin, Ana Ison, J. Chem. Educ. 2025, 102, 397–403. doi:10.1021/acs.jchemed.4c00781

科学英語には「分野特有の流儀」がある

科学の論文を英語で執筆するためには、分野特有の書き方や言葉の使い方を理解する必要があります。しかし、単語や節などの微妙なニュアンスや適切な使い方を身につけるには、膨大な経験と知識を要することが多いです。

たとえば、比較的シンプルな単語である create(作る、創造する、作り出す)であっても、化学の領域によって使い方が異なります。有機化学では化合物を「つくる」ことが本質的なプロセスですが、化合物を合成したことを表現するには、通常 synthesize および prepare を用います。create は化合物が既知か新規かを問わず、あまり使用されません。一方で、化合物の合成を伴うケミカルバイオロジーの分野では、小分子のセンサーやプローブを create したといった表現がよく見受けられます。また、有機化学の反応を活用するポリマーの合成においても、create という単語が使われることがあります。

論文で使用される単語は、時代とともに変化することもあります。その一例が we(私たちは)という主語です。少なくとも化学系の論文では、数十年前には受動態で書くことが事実上の必須とされていましたが、近年では we を用いた能動態の文が一般的になってきています。

こうした「使える単語」「使いにくい単語」の感覚は、学習書や辞書ではなかなか学べません。分野や時代によっても、適切な英語の使い方は大きく異なります。新たな研究領域が次々と生まれ、学際的な研究が活発化している現代において、英語を母語としない私たちが、特定分野における適切な英語表現を把握する方法が求められています。近年では、人工知能(AI)を活用した手法も登場しており、検索対象の分野や論文といったデータセットをうまく絞り込めば、適切な表現の習得に役立つ可能性がありますが、AIの使用が認められていないケースも依然として多く存在します。

CASPArSとは?

この記事では、全文検索ソフトウェアと数百報の論文を活用した方法「CASPArS(キャスパーズ)」をご紹介します。この方法では、英語を母語とするノーベル賞受賞者など、著名な化学研究者による500報の論文をデータベースとして使用します。これにより、特定の単語や熟語がトップレベルの研究者たちによってどのように使われているかを明確に把握することができます。

500報の論文はPDFファイルで保存されており、全文検索が可能なソフトウェア「探三郎」を使って検索を行います。これにより、対象とする単語や熟語の使用頻度や使用例のプレビューを一覧として確認できます(※「探三郎」は無料でダウンロード可能ですが、Windows PCでのみ動作し、Macでは使用できません)。

前述の「create」の過去形「created」を例に見てみましょう。検索結果は125件であり、500報のうち25%の論文において、この単語が少なくとも一度は使用されたことが分かります。著者(大畠)の経験上、検索ヒット数が全体の5%以上(25報以上)であれば、比較的頻繁に用いられている単語や熟語といえます。一方、1%以下(5報以下)の場合は、特定の研究者が特殊な場面で用いている、限定的表現である場合が多いです。

図1:CASPArSの模式図(冒頭論文より引用・改変)

実例紹介:”created” の使われ方を調べてみる

「created」に関する125件の使用例の中から、代表的な三例をご紹介します。

● Frances Arnold (Caltech). 2017 JACS. DOI: 10.1021/jacs.7b05007
While nature has created a vast repertoire of enzymes that modify Trp through a plethora of transformations, including nitration, halogenation, and alkylation…

● Timothy Swagger (MIT) 2020 ACS Cent. Sci. doi:10.1021/acscentsci.0c00686
When MNPNH2 were attached via imine formation to LC single emulsions with a radial configuration, a magnetic shell was created on the surface of the droplets, allowing translational motions by an external magnetic field in a controlled manner…

● Phil Baran (Scripps). 2016 JACS. DOI: 10.1021/jacs.6b08856.

A perfect storm of shortened timelines, increased regulatory hurdles, and shrinking IP space has created an ideal opportunity for synthesis to make a real difference.

序論で述べたとおり、有機合成化学者が「化合物をcreateした」という表現を用いる例は見られませんでした。一方で、「酵素(enzyme)を作り上げた」や「殻(shell)を形成した」といった場面では使用されていることが確認できます。また、「機会(opportunity)」といった比較的抽象的な概念にも使われていることがわかります。

こうした検索結果の中から、より詳細な使われ方を調べたい場合は、“created opportunities” や “created an opportunity” のように、特定の熟語として検索をかけることで、より具体的な用例を学ぶことが可能です。他にも、hypothetical や enables など、複数の単語・熟語の検索例が冒頭論文に掲載されていますので、ぜひそちらもご参照ください。

CASPArSをより効果的に活用するための”3つのR”

CASPArSは様々な用途に活用できますが、英文ライティングを学ぶ上では”3つのR”――Recalibration(再校正)、Replacement(置換)、Redevelopment(再発展)――の支援において、特に効果的だと考えられます。基本的には、使用方法を知りたい単語を検索し、使用頻度とプレビューを確認しながら、文脈の中でどのように使われているかを分析する(いわゆるcontextual analysis)ことで、英語表現を改善していくやり方です。

  • Recalibration(再校正)
    単語の使い方をより適切なものへと調整します。たとえば、「化合物をcreateする」よりも「synthesizeする」が一般的であることは、CASPArSで確認できます。一方、createは化合物以外の何かを作り出す文脈で使用されます。
  • Replacement(置換)
    同じ単語を繰り返し使ってしまう場合、その一部を同義語に置き換えることを検討します。たとえば、createを何度も使用する必要がある場合には、辞書やGoogleなどを使って同義語(例:craftやfabricate)を調べ、その後、それらの語がどのような文脈で使われているのかをCASPArSで確認します。特定分野で自然な用法かどうかは、辞書だけでは判断できないため、CASPArSによる検証が重要となります。
  • Redevelopment(再発展)
    英語表現をより広い視点で学びたい場合に、論文を読み進めながら、出会った単語をCASPArSで調べ、その使い方を学んでいくアプローチです。たとえ著名な教授が論文中で使用していた単語であっても、それがその分野で常に適切な表現であるとは限りません。文脈と用例の積み重ねによって、判断力を高めていくことが求められます。

図2:CASPArS法が効果的な”3つのR”

まとめ

英語でのコミュニケーションが広く求められる現代において、CASPArSは、適切な単語を適切な文脈で使うことを通じて、自身の科学をより明確に伝えるための一助となります。言語も科学も、時代とともに常に変化し続けるものです。CASPArSの開発は、クリエイティブでユニークな表現を否定することを目的としたものではありません。むしろ、第二言語として英語を使わなければならない私たちが、より明瞭なコミュニケーションを実現するための支援を目的としています。

本記事で紹介した方法は、学生だけでなく、英語で科学的な文書を書くすべての研究者にとって有益です。たとえば、教員など言語指導を行う立場にある方がこの方法を活用すれば、統計的なデータをもとに、説得力をもって言葉の選び方を指導できるようになります。

英語を外国語として用いる私たちは、長年英語で研究活動を行っていても、単語の細かなニュアンスや文脈における適切な使い方を判断するのが難しいのが現実です。CASPArSを用いれば、そうした言葉の使い方の傾向を、ある程度客観的に把握できるようになります。

今回取り上げた500報の論文は、アメリカの研究者による有機化学およびケミカルバイオロジー分野の文献を対象としたものですが、使用者のニーズに応じて論文を集めることで、他の分野やイギリス英語の学習にも応用することが可能です。

是非とも、皆さんの専門分野に応じた活用をいろいろと試してみていただければ幸いです。

参考資料

※本記事はChatGPTによる推敲を経て公開しています。

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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