[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

含ケイ素四員環 -その1-

[スポンサーリンク]

筆者、院生時代に少しだけ高周期をふくむ典型元素化学を学んだことがあります。
この分野では、「効果的な置換基やリガンドを一つ生み出すと、その後10年くらいそれを使っていろいろやっていける」、とそんな気がします。

つまり、「置換基の発展がこの分野の発展をもたらす」と言っても過言ではない気がします。
一度くらいはそのような置換基をデザインしてみたいものですね。

さて、昔から存在していたようですが、ここ数年で効果的な使用方法が発見されつつある「amidinate置換基(配位子)」というものがあります。

このamidinate配位子を持つシリレンからSi2P2四員環化合物ができる、という報告がJACSとAngewに報告されているので紹介したいと思います。
面白いことに、使用している原料が全く同じで、別々のルートから全く同じ生成物を合成しています。

まずはJACSから。ベルリン工科大学のProf. Driessの研究室によるもの。

Shigeyoshi Inoue, Wenyuan Wang, Carsten Prasang, Elisabeth Irran, Matthias Driess, J. Am. Chem. Soc. 2011, ASAP, doi:10.1021/ja200462y.

クロロシリレンとLiP(SiMe3)2の反応からホスフィノシリレンを合成し、さらにCl2PPh3を用いて酸化的に脱シリル化することで(中間体を通ると予想しています)、ジシラジホスファシクロブタジエンを得ています。

rk022011.gif

 

反応から察するにホスファシリンがターゲットだった気がしますが、二量化したが72%と良い収率で得られています。

もう一つ、AngewではProf. Roeskyの研究室によるもの。

Sakya S. Sen, Shabana Khan, Herbert W. Roesky,Daniel Kratzert, Kathrin Meindl, Julian Henn,Dietmar Stalke, Jean-Philippe Demers, Adam Lange. Angew. Chme. Int. Ed. 2011, Early View, DOI: 10.1002/anie.201005866.

先程と同じクロロシリレンとP4の反応から、ワンステップでを得ています(60%)。
ここでは、P4の活性化、という観点から反応を検討していますね。またビスシリレンとP4からでもが得られることも確認してます。


rk022011-2.gif

 

は三つの4員環が連結した珍しい構造をしています(下図)。またはいくつかの共鳴構造を書くことができますが、各種スペクトル及び理論計算から、5aの寄与が一番大きいと結論づけています。

rk022011-4.gif

(図:論文より引用)

 

rk022011-3.gif

 

炭素シクロブタジエンでは環上電子の分極がほとんど無いことを考えると、骨格元素が電子構造に与える影響ってのは改めて面白いですね。もちろん反芳香族性ですが、NICS(0) = -6とπ電子が環上をある程度非局在化していることを示しています(論文中の「~has a somewhat aromatic character」という解釈はちょっと疑問ですが)。

高周期かつ低配位で反芳香族、とまぁ不安定要素満載なのに、存在し得るもんですね。
そもそも高周期においては、芳香族安定化効果よりも他のファクターで安定化するほうが効果的だと言うことかもしれません。
また低配位と言いましたが、双極性イオンの電子構造5aからは、ケイ素もリンも普通のsp3混成と見ることもできます。

実はここなんですよね、このamidinate配位子のポイントって。
このカチオン性二置換型の置換基って低配位元素を形式上低配位じゃなくすることで、分子全体を安定化する特徴を持っているんです。
原料もシリレン(ケイ素二配位化合物)と呼んでいますが、amidinate内にカチオンを持つシリルアニオン(sp3混成)と見れますよね。この特徴を最大限利用すれば、あんな化合物やこんな化合物もできると思います)

また、窒素上の置換基がより嵩高くできれば、ひょっとしたらホスファシリンも合成できそうですが、
tBu基以外だと原料のクロロシリレンがうまく取れないそうです(理由は不明だとか)。
まぁ、改善点の余地はこの配位子をブラッシュアップできる可能性を示唆していると思います。

異なる視点からアプローチした結果、同じ化合物にたどり着いた二つの論文、見事なまでに同時期に出てきましたね。この「amidinate配位子」、まだまだ効果的に利用した化合物が今後出てくることでしょう。

 

一方、純粋な(一置換型の)置換基では、高周期シクロブタジエン類縁体の合成ってできないのでしょうか???おそらく特殊な置換基が必要だと思いますが・・・

 

・・・・つづく

 

外部リンク

 

関連書籍

[amazonjs asin=”478270402X” locale=”JP” title=”構造有機化学―有機化学を新しく理解するためのエッセンス”][amazonjs asin=”4882314754″ locale=”JP” title=”21世紀の有機ケイ素化学―機能性物質科学の宝庫 (新材料シリーズ)”][amazonjs asin=”0471196584″ locale=”JP” title=”Silicon in Organic, Organometallic, and Polymer Chemistry (Wiley-Interscience Publication)”]

 

関連記事

  1. 有機合成化学協会誌2020年9月号:キラルナフタレン多量体・PN…
  2. Arcutine類の全合成
  3. アメリカの研究室はこう違う!研究室内の役割分担と運営の仕組み
  4. Mestre NovaでNMRを解析してみよう
  5. 被引用回数の多い科学論文top100
  6. 次なる新興感染症に備える
  7. イミデートラジカルを用いた多置換アミノアルコール合成
  8. Happy Mole Day to You !!

注目情報

ピックアップ記事

  1. ガンマ線によるpHイメージングに成功 -スピンを用いて化学状態を非侵襲で観測-
  2. NMRの基礎知識【原理編】
  3. 有機合成化学協会誌2020年7月号:APEX反応・テトラアザ[8]サーキュレン・8族金属錯体・フッ素化アミノ酸・フォトアフィニティーラベル
  4. 「元素戦略プロジェクト」に関する研究開発課題の募集について
  5. 配位子が酸化??触媒サイクルに参加!!
  6. 【ワイリー】日本プロセス化学会シンポジウム特典!
  7. 二刀流センサーで細胞を光らせろ!― 合成分子でタンパク質の蛍光を制御する化学遺伝学センサーの開発 ―
  8. KISTECおもちゃレスキュー こども救急隊・こども鑑識隊
  9. ヒト胚研究、ついに未知領域へ
  10. 市川聡 Satoshi ICHIKAWA

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年2月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28  

注目情報

最新記事

CIPイノベーション共創プログラム「有機電解合成の今:最新技術動向と化学品製造への応用の可能性」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「有機電解合…

CIPイノベーション共創プログラム「世界を変えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界を変え…

年会特別企画「XAFSと化学:錯体, 触媒からリュウグウまで –放射光ことはじめ」

放射光施設を利用したX線吸収分光法(XAFS)は、物質の電子状態や局所構造を元素選択的に明らかにでき…

超公聴会 2026 で発表します!!【YouTube 配信】

超公聴会は、今年度博士号を取得する大学院生が公聴会の内容を持ち寄ってオンライン上で発表する会です。主…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part II

さて、Part Iに引き続きPart II!年会をさらに盛り上げる企画として、2011年より…

凍結乾燥の常識を覆す!マイクロ波導入による乾燥時間短縮と効率化

「凍結乾燥は時間がかかるもの」と諦めていませんか?医薬品や食品、新素材開発において、品質を維…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part I

まだ寒い日が続いておりますが、あっという間に3月になりました。今年も日本化学会春季年会の季節です。…

アムホテリシンBのはなし 70年前に開発された奇跡の抗真菌薬

Tshozoです。以前から自身の体調不良を記事にしているのですが、昨今流行りのAIには産み出せな…

反応操作をしなくても、化合物は変化する【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか温度を測ること…

ジチオカーバメートラジカル触媒のデザイン〜三重項ビラジカルの新たな触媒機能を発見〜

第698回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(大井研究室)博士後期課程1年の川口…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP