bergです。夏休みのお出かけ先を探している方も多い頃合いでしょうか。猛暑を乗り切る避暑地で化学にどっぷり浸れる隠れスポットとして個人的におすすめしたいのが、長野県にある国立天文台 野辺山宇宙電波観測所です。一見すると化学とはやや縁遠そうな電波天文学ですが、実は密接な関係があることは過去記事でも紹介しました。
この度は2025年7月26日(土)にオンラインにて開催された特別公開に参加してきましたので、会の模様を簡単に振り返ってみたいと思います。
演題と講師の先生は以下の通りです。
・開催時間:7月26日(土)10:00 – 16:30
10:00 オープニング
10:10 講演者インタビュー: 西村淳さん
10:20 講演会 西村淳 (国立天文台 野辺山宇宙電波観測所・所長)
野辺山天文台ツアー
10:40 Gather 仮想会場・中継
11:00 講演者インタビュー: 中西康一郎さん
11:10 講演会 中西康一郎 (国立天文台 アルマプロジェクト・講師)
野辺山ミリ波干渉計とアンテナ移動台車
11:30 講演者インタビュー: 美濃和陽典さん
11:40 講演会 美濃和陽典 (国立天文台ハワイ観測所・准教授)
星を作って星を見る技術「レーザーガイド星補償光学」とは?
12:00 〜 お昼休み 〜
13:00 講演者インタビュー: 下井倉ともみさん
13:10 講演会 下井倉ともみ (大妻女子大学・准教授)
1000光年彼方の分子が奏でる星誕生の『前奏曲』
13:40 ヨンゴー アンテナツアー
14:00 講演者インタビュー: 竹川俊也さん
14:10 講演会 竹川俊也 (神奈川大学・特別助教)
天の川銀河中心に刻まれた巨大な爆発の痕跡
14:40 研究室紹介:
鹿児島大学 星間・星周物理学チーム (今井研究室)
明星大学理工学部 天文学研究室
東京大学 木曽観測所
15:10 講演者インタビュー: 辻直美さん
15:20 講演会 辻直美 (東京大学・助教)
天の川銀河にある最強の加速器の正体とは?
16:00 閉会
公式サイト:https://www.nro.nao.ac.jp/visit/open2025/online/
まず野辺山天文台を訪れたことのない視聴者向けに、所長の西村先生より天文台の簡単な紹介をいただきました。中央高地、八ヶ岳山麓の標高1350 m地点に位置する野辺山天文台は冷涼。乾燥した気候で、周囲には軽井沢や清里、蓼科高原といった避暑地・ペンション街に囲まれています。当日、東京の最高気温は36℃、京都は37℃とうだるような暑さでしたが、現地は27℃と過ごしやすい気温、朝晩は17℃まで下がったとのこと。うらやましい限りですね。冬場は一転、氷点下20℃近い厳しい冷え込みとなることもあるそうです。私も過去、夏と冬に一度ずつ訪れましたが、北海道のような風光明媚なところで感動したのをよく覚えています。
また、天体からの微弱な電波を観測する施設である関係上、入口でスマホを機内モードにしないといけないことなどを注意点としてご紹介されていました。現地見学の際には頭の片隅に置いておきたいですね。
約30年前に世界で初めて銀河中心のブラックホールからのビームを直接観測した施設最大の目玉である、45mのパラボラアンテナをはじめ、各観測施設もご紹介いただきました。巨大なアンテナを0.1mmの精度で制御できるというお話にはコメント欄でも多くの反響が寄せられていました。
続く中西先生のご講演では複数のアンテナを組み合わせて観測することで巨大なアンテナで観測したのと同じ解像度を得ることが特徴の、ミリ波干渉計についてご説明いただきました。直観に反して、アンテナ間隔を狭めると全体像が、広げると細かい像が得られるとのお話に、多くの驚きの声が上がっていました。

続いての美野和生成のご講演では、レーザーガイド星補償光学についてお話しいただきました。野辺山天文台の高精度な観測機器の数々ですが、地上からの観測では地球大気による揺らぎの影響を受けてしまい、せっかくの望遠鏡の性能を引き出せません。それを補正してより正確な像を得るために必要なのが補償光学で、具体的には大気上層のNa原子の多い層を高出力レーザーで励起することで仮想的な天体(レーザーガイド星)を作り、その位置をもとに正確な天体の位置関係を求めているそうです。こうして解像度が高まることで、たとえば恒星の移動の状況がつまびらかに分かり、直接観測することのできないブラックホールの存在が浮かび上がるなどの事例をご紹介されており、非常に印象的でした。
お昼休憩をはさんで午後の部のトップバッター、下井倉先生のお話では、私たちの暮らす太陽系の起源を解き明かすかもしれないご研究について伺うことができました。今まさに恒星系が生まれようとしている、北極星近傍の「ポラリス分子雲」を観測すると、水素原子の量に対する水素分子の量の多い領域では星の材料となる物質の総量が多いことが明らかになったそうです。これは、超新星爆発後の高温のガスが冷却されて縮むことで密度が上がり、恒星系ができるわけですが、振動や回転のモードの多い水素分子のほうが水素原子より冷えやすいことに起因しているとのことで、物理化学の知見がこんなところに活きてくるのかと驚きました。
最後の竹川先生のご講演では、ブラックホールについての興味深いお話を伺うことができました。ブラックホールそれ自体は電波も飲み込んでしまいますが、多くの物質を吸い込んでいる活動銀河核では周辺円盤が強い電波を放つため、観測可能になります。一方、私たちの天の川銀河の中心に位置するいて座A*は超大質量ブラックホールでありながら、あまり多くの物質を吸い込んでいないため比較的暗い天体です。ですが、不安定なため衝撃波を受けるなどしないと生成されず、半減期の短いSiO分子からの放射を観測すると、いて座A*の周囲には衝撃波面が存在していることがわかり、過去に爆発が起こったことを示唆しているとのことです。これは、現在静穏な天の川銀河の中心ブラックホールが、かつては活動銀河核だったことを意味しているとのことで、量子化学や反応速度論がこんなところに役立っているのかと感銘を受けました。
夏休み期間ということもあり、多くの方がライブ視聴されており、大盛況でした。
また、8/30(土)には現地での特別公開も予定されています。一般向けということもあり非常に敷居は低くなっておりますので、みなさんもご興味があればぜひご参加されてみてはいかがでしょうか?
なお、国立天文台では財政難のためクラウドファンディングを募集しているとのことです。みなさまの募金が日本の誇る先端科学研究をぜひ支えることになるかもしれません!
最後となりましたが、ご講演くださった先生方、今回の特別公開をセッティングしてくださったすべての方々に心よりお礼申し上げます。





























