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スポットライトリサーチ

非相溶元素間の原子拡散障壁が未踏結晶相形成に及ぼす影響を解明

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第681回のスポットライトリサーチは、京都大学 化学研究所(寺西研究室)松本憲志 先生にお願いしました。

今回ご紹介するのは、合金ナノ粒子による未踏結晶構造の探索に関する研究です。

複数の金属元素から構成される合金の化学的・物理的性質は、結晶構造に影響されることが知られています。松本先生の所属されるグループでは、Fe, Pd, Inから構成される合金ナノ粒子を開発し、前例のない結晶構造となることを以前報告されています(Nat. Commun. 2022, 13, 1047.)。今回、その新奇結晶構造の形成機構に関して報告されました。本成果は、Chem. Sci. 誌 原著論文およびプレスリリースに公開されています。

“Atomic diffusion barriers and inter-element miscibility guide the development of unexplored crystal phases”
Matsumoto, K.; Kudo, M.; Tatetsu, Y.; Sato, R.; Takahata, R.; Teranishi, T., Chem. Sci., 2025, 16, 18705-18712. DOI: 10.1039/D5SC01754H

研究室を主宰されている寺西利治 教授から、松本先生について以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

松本憲志さん(以下、松憲)は、2014年に修士1年で当研究室に配属されてから、一貫して新規合金ナノ粒子の研究を進めてきました。松憲は化学の実験が大好きなのですが、Z3構造という前例のない結晶構造ができたときは、正直大変驚きました(これが科学者の醍醐味の一つなのですが…)。Z3構造はどのような原子拡散過程で形成するのだろうか?という疑問のもと、さらに研究を深掘りしましたが、実験・理論の両面で大変な苦労がありました。しかし、松憲本来の粘り強さと共同研究者の協力があったからこそ、今回の成果に結びついたのだと思います。このような未踏合金相の研究は他に類を見ないものであり、今後も手探りの状態で新しい研究分野を切り拓いていくことになります。本研究成果が今後の物質科学等の分野に多大な貢献をすることを期待するとともに、松憲のこれからの研究成果を楽しみにしています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

2種類の元素を合金にするときに、原子レベルで混ざることのできる組み合わせ(相溶元素)と、全く混ざらずに相分離する組み合わせ(非相溶元素)があります。最近我々は、FePd3合金系にFeとは非相溶だが、Pdとは高い相溶性をもつInを導入することで、InとFeが一定の原子間距離をとりつつFe、Pd、Inが原子レベルで規則的に配列した前例のないZ3型Fe(Pd, In)3規則合金相が形成することを発見しました(Nat. Commun. 2022, 13, 1047.)(図1)。また、Fe、Pd、Inをナノレベルで混合した前駆体ナノ粒子を加熱することがZ3相の形成を可能にしていることもわかりました。つまり、元素間相溶性とナノ粒子の二つのキーワードによって未踏相の探索が可能になりました。しかし、Fe-In間の非相溶性は、Z3相を形成する際の原子拡散過程を困難にさせる可能性があります。

図1.(a)Z3-Fe(Pd, In)3構造の単位格子、(b)原子分解能EDX元素マップ図(緑: Pd, 赤: In, 青: Fe)、および(c)Fe, Pd, Inの元素間相溶性

本研究では、Z3相が形成するまでの原子拡散過程を調べるために、異なるナノ構造をもつ2種類のナノ粒子-FePd3:Inナノ粒子(FePd3合金へのIn拡散)とPdInx:Feナノ粒子(PdInx合金へのFe拡散)-を合成後(図2)、それぞれを加熱することでZ3相の形成を促しました。その結果、FePd3:Inナノ粒子とPdInx:Feナノ粒子にはZ3相の形成に必要な熱処理温度に200 Kもの違いがあることを見出しました。その原因について調べるために原子レベルでの構造解析を行ったところ、構造変化の過程でのFeとInの隣接の有無に違いがありました。理論計算からもFeとInの隣接によって構造が大きく不安定化することが確認され、非相溶な元素ペアの隣接がZ3相の形成を困難にしていることが明らかになりました。本研究の知見は、非相溶な元素ペアを含む未踏規則合金相の探索の促進に大きく貢献することが期待できます。

図2. 精密ナノ粒子合成により設計したFePd3:Inナノ粒子とPdInx:Feナノ粒子のPd(緑)、In(赤)、Fe(青)、 Si(黄)、Pd/In/Fe、およびPd/In/Fe/SiのEDX元素マップ図。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究のナノ粒子合成のうち、FePd3:Inナノ粒子の合成に思い入れがあります。合成は以下の手順で行いました。

(1) Pdナノ粒子の合成
(2) Pdナノ粒子へのFeOx被覆(Pd@FeOxナノ粒子)
(3) Pd@FeOxへのメソポーラスSiO2被覆(Pd@FeOx@SiO2ナノ粒子)
(4) Pd@FeOx@SiO2の還元熱処理によるL12-FePd3@SiO2ナノ粒子の合成
(5) L12-FePd3@SiO2の溶液分散下でのInとの合金化(FePd3:Inナノ粒子)(図2)

この合成のポイントは、OH基の露出したSiO2保護ナノ粒子の非極性溶媒中での分散と、SiO2保護した状態でのInとFePd3との合金化です。一見難しいように見えますが、界面活性剤としても機能するオレイルアミンを用いることでL12-FePd3@SiO2ナノ粒子が非極性溶媒に分散できるようになり、さらに、SiO2のメソ孔のおかげでFePd3へのIn導入も達成できました。とりわけ難しいことをしているわけではないのですが、SiO2被覆したナノ粒子を極性の低い溶媒に分散させ、さらに合金化させた例は他にありません。じっくり考えることも大事ですが、思いついたことを試してみるといったフットワークの軽さも重要だと感じることのできた思い出のある経験です。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

FeとInの原子拡散過程をどうやって調査するのか?これこそが、本研究の最も重要な点であると同時に一番難しかった点です。In situ およびex situでの粉末XRD測定やXAFS測定を行うことで、原子拡散過程の傾向を見ることはできましたが、FeとInの隣接の有無に関する情報は得られませんでした。様々な試行錯誤の末、原子分解能でのEDX元素マッピングがFeとInの隣接の有無を定性的に説明できることを突き止めました。そこで、構造変化の過程を同じ粒子、同じ領域に対して原子分解能EDX元素マッピングにより追跡するために、像観察→電気炉で加熱→像観察→ …という実験を行いました。TEMグリッド上でのナノ粒子の並びは変化しませんでしたが、加熱するたびに粒子の形状が少しずつ変化してしまうため、同じ領域でのEDX元素マッピングは極めて困難でした。しかし、よくよく原子像を観察したところ粒界の位置関係が変わらないことに気が付きました。これをヒントに、同じ領域での原子分解能EDX元素マッピングを行うことに成功しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

金属の結晶構造はその物理的・化学的な特性を決定する主要因子です。そのため、既知の結晶構造に束縛されない化学が展開できれば、材料科学の飛躍的な発展ができると信じています。しかし、新規結晶構造の形成は手さぐりなところも多くなかなか思うようにいきません。私は、これまで精密なナノ粒子合成技術を用いて新規結晶構造の探索に挑戦してきました。この延長線上ではありますが、今後も引き続き様々な新規結晶構造の開拓とその形成機構や安定化駆動力の解明に従事するとともに、新規相の特異物性を見出していきたいです。こうした研究を通して、「未踏規則合金相の安定化」に関する学理構築を実現したいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

共同研究者のお力添えの下、一番の主張である「FeとInの隣接がZ3相形成の活性化障壁を高くする」を定性的に説明できるところまでいき、Chem. Sci.にアクセプトされました。しかし、定量化できたらもっといい成果になるだろうとか、ほかの元素ペアではどうなるだろとか、気になる点が尽きず思いのほか論文化するまでに時間がかかってしまいました。この経験から感じた皆さんへのメッセージは、今自分ができる最善を尽くしつつも100%である必要はないということです。例えば、このデータが今イメージしている完成型には必要だが少なくとも2年は必要となったときに、果たしてそのデータがないと本当に論文にできないのか?と振り返ることも重要だということです。こういう事象は研究に限りません。私は趣味でハンガリーダンスをしていますが、現状から逆算して本番までに何が必要なのか考える必要があります。なぜなら、自分に足りない技術や肉体は、限られた時間で100%にはもっていくことができないためです。つまり、何事も時間との勝負です(研究にも賞味期限があります(寺西利治 教授の言葉))。ぜひ、現状に真摯に向き合って、何を優先するべきか取捨選択しつつ自分なりの最善を尽くしてください。私もまだまだ修行中の身ですが、この気持ちで精進したいと思います。

最後になりますが、京都大学化学研究所 佐藤良太 特定助教、髙畑遼 助教、寺西利治 教授の鋭い指摘や有意義な助言、九州大学の工藤昌輝 学術研究員(現北海道大学特任助教)の素晴らしい電子顕微鏡像観察技術、名桜大学の立津慶幸 上級准教授の膨大な第一原理計算と様々な計算手法の知識に支えられて、本研究を形にすることができました。SPring-8 BL02B2の河口彰吾 博士、小林慎太郎 博士、森祐紀 博士の多大なるご支援の下、説得力のある粉末XRDパターンを得ることができました。また、九州大学 山内美穂 教授のご協力の下、九州大学での同じ粒子、同じ領域での原子分解能EDX元素マッピングを円滑に行うことができました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。また、このような貴重な紹介の機会を与えてくださったChem-Stationの方々に御礼申し上げます。

研究者の略歴


名前:松本 憲志(まつもと けんし)
所属:京都大学化学研究所
略歴:
2006年4月~2009年3月   大阪桐蔭高等学校
2009年4月~2010年3月   代々木ゼミナール
2010年4月~2014年3月   京都大学理学部(北川宏 教授)
2014年4月~2019年11月 京都大学理学研究科化学専攻(寺西利治 教授)
2019年12月~現在        現職

関連リンク

  1. 寺西研究室ホームページ(リンク)
  2. 論文(リンク)
  3. プレスリリース(リンク, リンク)

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大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

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