[スポンサーリンク]

一般的な話題

脳を透明化する手法をまとめてみた

[スポンサーリンク]

読者の皆さまこんにちは。少し今回の記事はテイストが違うな?とお思いの方も多いでしょう。

アレ待チろまん

というブログをご存知でしょうか。生物系の研究者であるぱんつさんが運営しているもので、そのハンドルネームからは想像できない文章力とトピックの面白さで最近大変人気を博しています。かくいう私も最近チェックをし始めた一人です。

今回、ケムステ用に化学に少しよせた記事を特別に寄稿して頂きましたので紹介させていただきたいと思います。

その、トピックは

脳を透明化する

です。ではどうぞ。

以下寄稿記事になります

 

先日Natureに「電気泳動で脳を透明化する」という論文が出て大きな話題になりました。実は脳を透明化する手法はこれが初めてではなく、以前から化学処理をすることで脳の透明化を達成化した論文がいくつ報告されています。一目瞭然、上図にあげた、3DISCO, Sca/e、そしてごく最近報告されたCLARITYという技術が現在の最先端技術です。

今回ここ2、3年で脚光を浴びている研究を振り返り、電気泳動手法の意義について再考してみたいと思います。

 

化学物質で処理をして組織を透明化させる研究が行われてきた

生物試料は水、脂質、タンパク質と言った屈折率が異なる化学物質の集合体です。生体試料を脱水して屈折率の高い化合物に置換することで試料内部での光の散乱を減少させ、それによって組織を透明化する研究が古くから進められてきました。 これまで様々な透明化試薬が報告されましたが、透明化技術は蛍光タンパク質による細胞の可視化技術と組み合わせることで有用性が非常に高まるため、蛍光を褪色させずに組織を透明化させる試薬が求められました。

 

1.3DISCO(脱水→高屈折率化合物への置換)

ウィーン大学の研究グループが樹立した透明化手法は3DISCO(3D imaging of solvent-cleared organs)法と呼ばれます。 蛍光タンパク質の体色を最小限に抑えて脳を透明化する試薬として、tetrahydrofuran(THF)による脱水とdibenzyl ether(DBE)またはbenzyl alchol+benzyl benzoate(BABB)処理の組み合わせが報告されました (Nature Protocols 2012)。

 

 

しかし3DISCO法を用いても蛍光タンパク質の褪色は少なからず起こります。そこで2011年に発表されたSca/e法は褪色を起こさない脳を透明化を達成したことから注目されました。

 

2.Sca/e(尿素処理による親水性の向上)

理化学研究所のグループが樹立した透明化手法はSca/e法と呼ばれます。

PVDF膜を尿素に浸すと透明化する現象を発見した研究グループは、生物試料も尿素で処理をすることにより親水性が高まって透明化出来るのではないかという発想に至りました。 組織に尿素を浸透しやすくさせるためにglycerolやtritonXを加えてSca/eという試薬を開発しました。このSca/e試薬で脳を2週間ほど処理すると、蛍光タンパク質をほとんど褪色させずに透明化することが出来ました (Nature Neuroscience 2011)

 

 

3DISCOの欠点を解決したSca/eですが、透明化にかかる時間が2週間程度と比較的長いこと、また処理によって125%程度の脳の膨大が起こるという僅かな欠点が残りました。 最近になってNature誌に報告されたCLARITY法はこれらの欠点を全て克服しており、大きなインパクトを与えました。

 

3.CLARITY(電気泳動による脂質の除去)

 

スタンフォード大学のグループが樹立した透明化手法はCLARITY法と呼ばれます。 この手法は脳をアクリルアミドの単量体に浸し、アクリルアミドを重合させてタンパク質と核酸を架橋し、その後電気泳動して膜脂質を除去することで透明化を達成しました(Nature 2013)。

 

 

CLARITYは組織の膨大を引き起こさず、また蛍光タンパク質もほとんど褪色しません。さらに膜を除去したために組織丸ごとの免疫染色が可能になりました。

 

終わりに

 

脳以外の組織も透明化できれば、発生学や組織学に新たな知見を与えると予想されます。しかし組織によって含む脂質やタンパク質が異なることから、脳の透明化を可能にした上記3つの手法が単純に適用出来ない組織があるかもしれません。また膜脂質を変化させる処理をした組織標本は電子顕微鏡での観察が難しいという問題は依然として残ります。

この文章を読まれた化学者の皆様がこれまでにない利点を加えた新たな透明化手法を開発し、何時の日か新たな生物現象が発見されることを願っております。

ここまで寄稿記事

 

どうでしたか。化学者の目から見れば脳の完全透明化を達成できるもっと面白く特徴のある分子をもってこれると思いませんか?このように文化が異なると意外にも面白いネタが眠っているものです。ぜひ化学、生物云々言わず君たちの武器を新しい分野に適用してみてください!ぱんつさんありがとうございました!

 

関連リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 「つける」と「はがす」の新技術|分子接合と表面制御 R4
  2. 東京化成工業より 春の学会年会に参加予定だったケムステ読者の皆様…
  3. カーボン系固体酸触媒
  4. UCLA研究員死亡事故・その後
  5. 光有機触媒で開環メタセシス重合
  6. イオンペアによるラジカルアニオン種の認識と立体制御法
  7. “見た目はそっくり、中身は違う”C-グリコシド型擬糖鎖/複合糖質…
  8. マテリアルズ・インフォマティクスを実践するためのベイズ最適化入門…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ビナミジニウム塩 Vinamidinium Salt
  2. ソモライ教授2008年プリーストリー賞受賞
  3. スルホキシドの立体化学で1,4-ジカルボニル骨格合成を制す
  4. 2007年度ノーベル化学賞を予想!(4)
  5. 化学者が麻薬を合成する?:Breaking Bad
  6. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(7年目)(留学後編)
  7. レフォルマトスキー反応 Reformatsky Reaction
  8. 医療用酸素と工業用酸素の違い
  9. 最長のヘリセンをつくった
  10. 佐伯 昭紀 Akinori Saeki

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

アンモニウム構造によりラジカル種の発生位置を完全に制御!

第710回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の榊原 陽太(さかきばら …

化学つれづれ草【ある研究者の回想】

概要物理化学者で量子機能材料を専門とする著者によるエッセイ集.化学者としての研究,教育,人生…

第60回有機反応若手の会

開催概要有機反応若手の会は、有機化学分野で研究を行う全国の大学院生を中心とした若手研究者が集い、…

ノーベル賞受賞者と語り合う5日間!「第18回HOPEミーティング」参加者募集!

申し込みはこちら概要主催:独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)開催地:神奈川…

光触媒による高効率なCO2還元の実現―まさかの光を弱く当てることが重要だった―

第709回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 理学院(前田研究室)博士後期課程2年の仲田竜一 …

「π-πスタッキング」という言葉が生む誤解【芳香環の相互作用を見直す: 前編】

芳香環が平行に並んで近接しているとき、その構造を「π–π スタッキング」と表されることがよくあります…

一重項酸素によるC(sp2)−P結合切断を用いた長波長光によるリン化合物のアンケージング

第 708 回のスポットライトリサーチは、同志社女子大学 薬学部 医療薬学科 5…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける画像解析の活用ガイド

開催概要材料開発において、電子顕微鏡やX線トモグラフィーを用いて材料の微細構造を観察するために画…

世界初のPROTAC医薬、ついに承認 ―「タンパク質を阻害する」から「分解する」時代へ

2026年5月、創薬化学の歴史に残る大きな出来事が起きました。米国 FDA は、…

有機蛍光とは異なる新しい有機りん光の分子設計指針の発見

第707回のスポットライトリサーチは、電気通信大学 情報理工学研究科(牧昌次郎研究室)の林希久也 助…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP