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一般的な話題

一流の化学雑誌をいかにしてつくるか?

 

Angewandte Chemieの編集長Peter Gölitz(ピーター・グゥーリッツ)氏に対するインタビューがChemstryviewに掲載されていました。

30年間編集長を続けた彼が、現在ドイツ最高で国際的にも有数な化学ハイジャーナルであるAngewandte Chemieを如何にしてつくりあげたのか?その秘訣に迫る興味深い内容でしたので紹介しようと思い、翻訳いたしました。

 

 

一流の化学雑誌を作るために大切なこと

インパクトファクターのせいで我々の仕事は難しくなっている」

Angewandte Chemieはドイツ化学会の論文雑誌のフラッグシップだ。Nachrichten aus der Chemie (化学ニュース、化学と工業にあたる)はAngewandteがその地位にある理由を、Angewandteの編集長Peter Gölitzに尋ねた。

 

Q  Gölitz博士、あなたが編集長になったとき、JACSは世界の化学雑誌をリードしていて、その一方でAngewandteはほとんどドイツだけでしか出版されていませんでしたね。

A  そのころは、本当に多くのドイツ人が、自分の一番の成果をJACSに投稿していました。だからトップの化学者をアメリカから奪い、Angewandteに引き込むことが必要なのは明らかでした。しかし実際に彼らの論文がくるようになるまでには10年かかりました。30年前は、全ての論文のうち海外から投稿されたものは10%で、90%がドイツ国内からでした。今では全く逆で、国内の投稿の倍が海外からです。

 

Q どのようにして成し遂げたのですか?

A 化学者に個人的にアプローチすることが重要でした。私はあらゆる講演会に行って、アメリカの化学者が、優れた成果をAngewandteに載せたくなるよう説得しました。

 

Q  今では「Angewandteは既にJACSを抜き去り、業界のリーダーだ」と言う人がたくさんいます。

A  JACSは素晴らしい雑誌だったし今でもそうです。しかし、80年代には存在しなかったあるものが今は跋扈しています。インパクトファクターです。当時は、個人的な接触をとること以外、現実的には方法がなかったのです。我々は内部に強力な編集者チームを持っていたので、その点で有利でした。私が編集長を始めた頃は、編集「長」という名前とは裏腹に、ドイツ語版には二人の編集者が、また英語版にはさらに二人の編集者がいました。現在では約20人の編集者がいて、全員が化学の博士号を持っています。教授たちが副業として編集の仕事に携わっており、我々にはとても不可能なレベルで彼らは著者に直接接触しています。

 

Q では、著者と雑誌が関係を持つことは必要なんですね?

A  ええ、しかしレフリーと雑誌、そして読者と論文も同様です。読者は著者でもあり、著者はレフリー、レフリーは読者でもあります。誤解を恐れずに言えば、私がAngewandteに来る前、編集者たちは見事なタイトルページの絵を作ることから始めていました。読者が図書館に行ったとき、論文を読むために図書館に行かなければならなかった頃の話ですが、読者は魔法のようにAngewandteを手に取り、読者と雑誌の関係が始まるだろうと。

 

Q Angewandteが得た名声によって仕事は簡単になりましたか?

A  いいえ、実際にはより難しくなりました。編集者は最低でも25年前の倍の論文を処理しなければならなくなっています。当時は1年に500報の論文が投稿されていました。今ではおよそ7000です。

 

インパクトファクターの呪縛

impactfactor.png

Q  論文の著者がAngewandteに投稿する理由の一つに、10を超えるインパクトファクターが間違いなくあります。インパクトファクターを信じていますか?

A  私はインパクトファクターのファンでは全くありません。インパクトファクターは我々の生活を困難にしています。(参考: WILEY-VCH化学雑誌インパクトファクター一覧)

 

Q  困難に?

A  全くそのとおり。高いインパクトファクターを持つ雑誌に論文を載せなければならないと信じる著者がどんどん増えています。低いレベルの方が現実的であってもです。最初の頃、我々は20%の論文をリジェクトしていましたが、2009年は78%です。

 

Q  著者は対象となる読者に目が行かなくなっている?

A  もっと悪い。現実的な自己評価が欠如しています。さらにこのシステムで育ってきた編集者も危険です。馬鹿になるのはやめましょう。インパクトファクターに影響を与え、補正するパラメーターはあります。しかし編集者はそれを用いることは出来ません。幅広い読者に向けて雑誌を発行するとき、Angewandteもそうですが、小さなコミュニティー、例えば無機固体化学の論文も載せなければなりません。しかしそれはインパクトファクターを良くはしません。

 

Q それではAngewandteの読者や著者でインパクトファクターをあげているのは、典型的には合成有機化学者?

A 最も多いのはそうです。しかし典型的な読者や著者は活発に研究する化学者です。Angewandteは20~25年前と比べてより幅広い分野の話題をカバーしています。

 

Q 本当ですか?特に古い研究者が「Angewandteは分野が偏ってきた」と言いますが。

A それは主観的な見方です。しかし有機合成化学者や有機合成を用いる人以外には、有機合成が多すぎると感じるかも知れません。そして有機合成に興味がなくなっているスタッフがかなり多いといえます。

 

Q 分野として不足していて、著者に特に働きかけようとしているところももう特定しているのですか?

A 新たな発展により、さらに注目を集めるというのは十分あり得ます。有機合成の世界から二つの流行語を取り上げてみましょう。金触媒と有機触媒です。あらゆる進展を見逃さないためには、コミュニティーに注目し続けることが重要です。しかし注意も必要です。Angewandteが十分にスペースを割いていると考えているコミュニティーは一つも無いのです。

 

競争

 

Q 化学雑誌のマーケットはどうしても小さい。その上新しい雑誌が目立ちます。Nature Chemistryのような雑誌はライバルでしょうか。

A  トップジャーナル間で、素晴らしい成果に対して競争があるのは自然でしょう。最も熾烈で、かつ友好的な競争はJACSとの間です。Nature Chemistryは1号あたりオリジナル論文を10報以下しか掲載せず、年間ではうちやJACSのCommunicationだけの報数の10分の1にも足りません。

 

Q  しかもAngewandteは、Communication以外にもたくさんの種類の論文があることで知られていると。Highlight、Minireview、Review。それも成功につながっていますか?

A 大きく貢献しています。しかしインパクトファクターへの寄与は皆さんが考えるよりかなり低いです。ある種のものはマイナスの影響で、読者を引きつけるものの、あまりリファーされません。2、3年前から始めた化学者の訃報記事はほとんどリファーされない。けど驚くほどたくさんダウンロードされています。

 

Q 最も大きいのはどこですか?

A トップ50のうち、だいたい8割が、最大の化学の均一コミュニティー、有機合成化学者もしくは有機合成を利用している人たちから来ます。

 

Q より個人的な項目はどれくらい受け取っていますか?例えば昨年始めたAuthor Profilesについては?

A 今では「私は10報の論文を出しました。プロフィール記事には何が要りますか?」と著者の方から来ます。

author_profile.png

Q 批判もありませんか?

A ああいうものには常に多少の批判はあるものです。科学は事実とその解釈のみしか交えてはならないと信じている科学者も多少はいるからです。

 

Q おそらく批判は、あなたの机に全て直接届いているのでは。あなたはAngewandteの編集長という仕事を好きですか、嫌いですか、それとも恐れている?

A  うーん、まず批判は僕の机だけに届いているわけではないんです。全ての編集者が批判を受け取ることが出来るようにしなければならない、賛辞はそんなに来ないので。私たちは賛辞を期待しているということではなく、拒絶が来たときや、何か間違えたときに、批判がすぐに届くようなっているのです。ただ結局のところ、著者、レフリーそして読者の中からは、痛烈な批判者より圧倒的にたくさんの友人を得ましたよ。

 

Q  未だにあなたと話そうとしない人もいますか?

A :私は批判を受け取ったとき、すぐにその人に連絡するようにしていますので、そんなことは起こりません。

 

Q そしてその人は今度Angewandteに論文を出してくる?

A 少し時間がかかることもあります。しかしほとんどの場合Angewandteに戻ってきてくれます。

 

品質第一

 

Q Angewandteに原稿を送付するのは最初の一歩でしかありません。質問はもちろん、私の論文がリジェクトされないためには何をしたらいいのでしょうか?

A それは秘密ではありません。カギは、品質第一、です。基本的な要求として、1年の4分の一かそれ以上の仕事を論文に投資すべき、というのがあります。

 

Q どのようにしてその品質の基準を維持しているのですか?

A レフリーの仕組みによってです。私が編集長になったころ、Angewandteにはピアレビューの仕組みが全くありませんでした。論文が来たら、知り合いにアドバイスを頼んでいました-必要があれば。多くの論文が編集長の裁量でアクセプトもしくはリジェクトされていました。トピックの範囲や内容が正しくなければ、編集だけで成功に近づくことはあり得ないのは明白でした。

 

Q レフリーの報告を雑誌に掲載し、レフリーが科学のプロセスの中でいかに重要かを示すことで、レフリーにやる気を起こさせることができたりはしないんでしょうか。

A 最も有益なレフリーを表彰する方法を、私たちは既に持っています。お金ではなく、年末に表彰状を贈ることです。「あなたは一ヶ月に一回以上のAngewandte Chemieのレフリーを行いました」。これによってたくさんの方が月一以上のレフリーレポートを作成してくれています。そしてそれは量の問題ではありません。我々が最もたくさんレフリーをお願いする方は、最も有益なコメントを頂ける方なのです。

 

Q 査読の過程を完全に公開するというアイデアについては?

A それはうまくいかないでしょう。なぜならレフリーは時々極めて批判的なレポートを送ってくるからです。

 

Q それは匿名だとわかっているからでは?

A しかし厳しく批判されなければならない論文があまりにたくさんあるのです!もしある論文に弱点があり、しかもレフリーがそれを明らかにしたらレポートがひどい書き方をしていなくても論文はボロボロになります。そんな批判を説得力ある、中立的な方法で書くことは可能ですが、それでも強い批判ですし、それを衆人の目に晒すべきではありません。科学は中立で、感情がなく、純粋に事実だけに基づいたものであるというのは幻想です。批判をする能力というのは見せびらかすものではありませんが、効果的に批判する能力でも同じです。批判の本質というのは、それ自体痛ましいのです。

 

有名人の名前は効く?

Q 著名な著者がAngewandteに載せるのは無名な科学者よりも簡単ですか?

A うーん、そういう主張をしょっちゅう耳にします。しかし著名な著者に聞いてみて、「僕もAngewandteに落とされた仕事があるよ」と言うのを確認して下さい。

 

Q でもある著者がいつもAngewandteに載っているのは明らかですよね?

A たとえば最も多い掲載者を考えてみましょう。K. C. Nicolaouは世界中の最高のグループから来た20~25人のポスドクを抱えています。もし彼のグループに高いアウトプットがなければ、何かがおかしくなっているでしょう。

 

Q 若い研究者と2人の学生では、年に2報もいい論文が出たらハッピーだというのに・・・

A 著者が初めての原稿をAngewandteに送ってくれたら、私は本当にうれしい。でもぎりぎりのレベルの場合、自分自身に問いかけるべきです。私たちがこの論文をアクセプトしたら、親切をしたことになるのでしょうか?この段階はあらゆる場合に、やる気と将来のキャリアのためにはとても重要で、編集者として私たちはそれを気にしています。

 

Q 掲載論文の質は過去30年間で良くなっていますか?

A 1980年にも素晴らしい論文がたくさんありました。しかし質の良い論文の範囲が幅広くなってきています。

 

Q それは科学の内容については間違いなく当てはまりますが、書き方についてはいかがですか?

A  化学者は一流の科学者になるために教育されていますし、そのための才能もある。しかし最高の書き手となるためのトレーニングを受けてはいないし、多くの場合は才能があるわけでもありません。それは私にも当てはまります。しかし学ぶことは可能です。私は手紙の書き方や編集のしかたを(自分で)勉強しました。

 

Q 科学の著者に論文のスタイルを改善するアドバイスを頂けませんか。ゴールデンルールはありますか?

A 一つの文に一つの考え。これは一文にあまりにたくさんを詰め込もうとする人以外のほとんどの場合に理解を助けます。

 

「読む」と「ブラウズ」

Q Angewandte以外では何を読むのが一番好きですか?ChemSusChemのような姉妹誌を勘定に入れずに・・・

A  Angewandteが一度出版されたら、私は二度と読みません。代わりに私はたくさん別のものを読みます。朝ご飯の時にはNachrichten、C&E News、NatureやScienceです。またはノベルズを読むのも好きです。Joseph ConradからPhilip Rothまで、Vladimir Nabokovから井上靖まで。

 

Q コンピューターの画面で読むことは全くないんですか?

A 注意深くゆっくり読むこともなければ、コンピューターの画面でブラウジングすることも私はしません。そうはいっても印刷物は明らかに副産物となりつつあります。我々の主要産物は何年も前からAngewandte Chemieのオンライン版となっているのが現状で、全ての論文を最初にEarlyViewに掲載しなくてはなりません。EarlyViewに掲載しないものは全て、たくさんの読者の目にとまりません。結果として私たちは全てをはじめEarlyViewに掲載します。カバーの絵も「Cover of the Week」として。

 

Q だとしたら、印刷版をなぜやめないのですか?結局印刷物はコストのかかる作業ですか?

A 現在のところ、我々の収入の一定の割合が印刷版によるものです。また多くの読者は未だに旅行中や休暇中に雑誌をめくるのを楽しみにしています。一夜にしてすぐに無くすということはしません。

 

Q それは読者を喜ばせるでしょうね。ACSはいくつかの雑誌については別の道に進めています。

A ええ、ACSはほとんどの雑誌について2ページを1ページに縮小して印刷しており、もはや個人的な購読者に印刷物を送付しておりません。

 

Q  もしかしてこういうことでは。印刷版をまず見にくくして、それでやめやすくするとか?

A  私は違う哲学です。印刷品を作って魅力を伝えるか、だれも必要としなくなったり経済的に難しくなったら完全にやめるかです。

 

オープンアクセスは打開策?

Q  もし私たちが10年後の未来を見るなら、どの出版物が印刷品として残っているのでしょうか。

A  10年という時間であれば、Angewandteはまだ印刷体として残っているかも知れない。10年たてば、ほとんどの専門雑誌や、EurJIC, EuRJOC, ChemXChemシリーズあたりまでオンラインのみになっていてもおかしくないでしょう。

 

Q それでは全てをオープンアクセスにするというプレッシャーも強くなっている?

A 全然。オープンアクセスと、出版社が印刷体を存続させることとは何の関係もありません。出版社はずっと昔から雑誌をオンラインにし始めています。

 

Q オープンアクセスは読者の無料アクセスを意味する-それは出版社にとって最大数の読者を獲得する方法として魅力的ではないですか?

A  編集長としては、可能な限りの読者を得ることは何物にも代え難い喜びです。そして無料アクセスにすれば最大の読者を得られるかも知れません。しかしほんとうにそれで読者が主役になるのでしょうか?オープンアクセスによって、私たちが満足させなければならないのは論文掲載にお金を払う人になります。お金を払う人-直接著者か、もしくは間接的に研究費の提供者やファンドか。そうしたら私は読者を集め、内容が理解しやすいこと、つまり印刷品質を保証する仕事をする必要があるのでしょうか。そしてアクセプトがお金を生み、リジェクトがただの無駄となったとき、我々はボーダーラインの仕事をどのように判断したらいいのでしょうか。

 

Q  それでは今のシステムの方がベターだと考えているのですね。

A  現在のところは代案がありません。

 

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