TEMPO⁺BF₄⁻を用いたラクトン化および[3 + 2]付加環化反応による骨格構築と酸素官能基の導入により、cis–クレロダン型ジテルペノイド類の発散的不斉全合成が達成された。
Scaparvins B–D、Parvitexins B and Cの不斉全合成
クレロダン型ジテルペノイドは、デカリン骨格上の立体化学およびC9位側鎖の酸化様式により多様な構造と生物活性を示す天然物群であり、現在までに1300種類を超える類縁体が報告されている[1]。その中でcis-クレロダン型ジテルペノイドに分類されるscaparvinsおよびparvitexinsは、苔類Scapania属から単離され[2]、cis-デカリン骨格上に架橋型ケタール構造を含むビシクロ[3.2.1]オクタン骨格とC12位にフラン環を有する (図1a)。このような複雑な縮環骨格を立体選択的に構築する必要があることから、その合成難易度は高く、効率的な合成手法は未だ確立されていない。
2017年にSnyderらは、22工程のラセミ合成ならびに24工程の形式的不斉全合成によりscaparvins B–D (1–3)の初の全合成を報告した(図1b)[3]。彼らはcis-デカリン骨格を構築した後、6に対しヨウ化サマリウムを作用させることで、C6–11位が架橋したビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格を構築したのち、C11位の増炭と酸化によりカルボン酸 7を合成した。続いて鉄触媒–過酸化水素を用いた後期段階のC10位のC–H官能基化により、望みのラクトン8を与えた。この際、8に加えて三置換アルケンが酸化されたエポキシドが副生した。このように、cis-デカリン骨格上でC10位選択的な酸化が困難であり、ビシクロ[3.2.1]オクタン骨格構築の課題が残されていた。
一方Gaichらは、岩渕らのTEMPO⁺BF₄⁻を用いた第三級アリルアルコール9の酸化的転位条件下において[4]、予想外にもtert-ブチルエステルとヒドロキシ基がtrans配置の基質からcis-5/6縮環ラクトンが生成することを見いだした。著者らは本手法を鍵として以下の合成計画を立案した (図1c)。すなわち、9からcis-5/6縮環ラクトンへ導き、側鎖をニトリルオキシドへ変換したのち、分子内[3 + 2]付加環化反応によりcis-デカリン骨格を含む四環性イソオキサゾリン10が得られると考えた。続くStilleカップリングによるフラン環の導入とケタール化によって、cis-デカリン上のビシクロ[3.2.1]オクタン骨格を構築できると考えた。また、イソオキサゾリン11の還元的開環と、続くC6位のエピ化を利用することで、scaparvinsからparvitexinsへ分岐可能な発散的合成経路を計画した。その結果、14–16工程と短工程でscaparvins B–D (1–3)および、C6位の異性体であるparvitexins B/C (4 and 5)の初の不斉全合成を達成した。
“Divergent Asymmetric Total Synthesis of the cis-Clerodane Diterpenoids”
H.-X. Zhao and T. Gaich. J. Am. Chem. Soc. 2026, 148, 18638–18642. DOI: 10.1021/jacs.6c05761.
論文著者の紹介
研究者:Tanja Gaich (研究室HP)

研究者の経歴:
2005–2009 Ph.D., University of Vienna, Austria (Prof. J. Mulzer)
2009–2010 Postdoc, The Scripps Research Institute, USA (Prof. P. S. Baran)
2010–2015 Independent Researcher, LUH, Germany (Prof. M. Kalesse)
2015– Full Professor, University of Konstanz, Germany
研究内容:天然物の全合成, 合成方法論の開発
論文の概要
以下に合成経路を示す (図2)。まず、(S)-(+)-carvoneから三工程で調製した第三級アリルアルコール9に対し、TEMPO⁺BF₄⁻を作用させると、tert-ブチルエステルの隣接基関与により進行したと考えられるcis-5/6縮環ラクトン12を良好な収率で与えた。続いて、末端アルケン12を酸化的開裂によりアルデヒドへ変換した。次にオキシム形成および次亜塩素酸ナトリウムによる酸化を経てニトリルオキシド13が得られ、この際、C10位の立体化学に基づく立体制御のもと、convex面から分子内[3 + 2]付加環化反応が進行することで、cis-デカリン骨格を有するイソオキサゾリン10を合成した。さらに、Stilleカップリングによるフラン環導入後、14を酸性条件に付すとMOM基の除去とケタール化が同時に進行し、ビシクロ[3.2.1]オクタン骨格を有する11が得られた。続いて、イソオキサゾリンの還元的開裂を試みたところ、b-ヒドロキシケトン15が主生成物として得られ、一部C6位がエピ化したepi–15も副生した。さらに、15のヒドロキシ基をTES基で保護し、Wittig反応によりアルケン16を与え、酸性条件下でTES基の除去およびオレフィンの異性化を経て2へ導き、続くDMP酸化により1を、2のヒドロキシ基をアセチル化により3をそれぞれ合成した。他方で、15を塩基性条件下に付し、retro-アルドール/アルドール反応が進行することでC6位の選択的なエピ化により、epi–15へ高い収率で変換することに成功した。そしてepi–15は同様の官能基変換を経て4および5を合成した。

図2. cis-クレロダン型ジテルペノイド類の発散的不斉全合成
以上、TEMPO⁺BF₄⁻を用いたラクトン化、分子内[3 + 2]付加環化反応によりビシクロ[3.2.1]オクタン骨格を鮮やかに合成し、cis-クレロダン型ジテルペノイド類の発散的不斉全合成を達成した。本骨格構築戦略により、cis-クレロダン型ジテルペノイド類の活性評価にも期待したい。
参考文献
- (a) Li, R.; Morris-Natschke, S. L.; Lee, K.-H. Clerodane Diterpenes: Sources, Structures, and Biological Activities. Nat. Prod. Rep. 2016, 33, 1166–1226.DOI: 10.1039/c5np00137d. (b) Merritt, A. T.; Ley, S. V. Clerodane Diterpenoids. Nat. Prod. Rep. 1992, 9, 243. DOI: 10.1039/np9920900243.
- Katayama, K.; Shimazaki, K.; Tazaki, H.; Hasa, Y.; Miyoshi, M.; Koshino, H.; Furuki, T.; Nabeta, K. Parvitexins A−E, Clerodane-Type Diterpenes Isolated from the in Vitro-Cultured Liverwort, Scapania parvitexta. Biosci., Biotechnol., Biochem. 2007, 71, 2751–2758. DOI: 10.1271/bbb.70360.
- Ye, Q.; Qu, P.; Snyder, S. A. Total Syntheses of Scaparvins B, C, and D Enabled by a Key C–H Functionalization. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 18428–18431.DOI: 10.1021/jacs.7b06185.
- Shibuya, M.; Tomizawa, M.; Iwabuchi, Y. Oxidative Rearrangement of Tertiary Allylic Alcohols Employing Oxoammonium Salts. J. Org. Chem. 2008, 73, 4750–4752. DOI: 10.1021/jo800634r.





























