高酸化度シキミセスキテルペン類の発散的全合成が報告された。容易な酸化度調整を可能とする中間体の設計と生合成を模倣した骨格構築が本合成の鍵である。
高酸化度シキミセスキテルペンの合成
稠密に官能基化された天然物は、多数のヘテロ原子官能基を介して生体分子と特異的に相互作用することから顕著な生物活性を示すことが多く、創薬におけるリード化合物として重要視されている[1]。その代表例であるシキミセスキテルペン類は、共通して5/6縮環骨格を有し、当該骨格上に多様な酸素官能基を有する100種類以上の類縁体が単離されている (1–4, 図1A)[2]。
酸素官能基が密集した骨格を有する天然物の合成においては様々な手法が開発されてきたが、発散的合成の観点からは、Baranらの提唱した炭素骨格構築と酸素官能基の導入を段階的に行う、二相系合成が有用な戦略として知られている[3]。当該手法は、シキミセスキテルペン類の合成にも用いられ、2016年にMaimoneらは、(+)-cedrol(5)を原料とし、5工程で主骨格を構築したのち、続く7工程の酸化度の調整を経て(+)-pseudoanisatin(6)の合成を達成した(図1B)[4]。その後には同中間体から11-O-debenzoyl tashironin(7)など複数の類縁体の合成を報告した[5]。しかしながら、5/6縮環構造という比較的小さな骨格上に密集した酸素官能基を有する本化合物群へ二相系合成戦略を適用する場合、酸化相における位置選択性の制御という観点から依然として挑戦的である。
本論文においてYangらは、二相系合成戦略に基づき、環化相における生合成を模倣した効率的な骨格構築と、酸化相の起点に位置選択的な酸素官能基導入が容易な中間体8の設定により、1, 2の短工程合成および3, 4の初の全合成を達成した(図1C)。1–4の合成において課題となるのはC14位のヒドロキシ基の導入である。著者らは以前、C2対称化合物9の分子内Heck反応による非対称化により中間体10aに導くことで、illisimonine A(11)の全合成を達成している[6]。この知見をもとに著者らは、9から10aの変換においてホウ素源を添加することで、分子内Heck反応に続く宮浦ホウ素化ののち、過酸処理によってC14位ヒドロキシ基が導入できると考えた。すなわち、9の分子内Heck–宮浦ボリル化による非対称化により10bを合成し、生合成を模倣した10bの14位ヒドロキシ基の11位カルボニル基への求核攻撃を起点とするretro-Dieckmann縮合により8に導いた。最後に、8から対応する位置への酸素官能基の導入により1–4を合成した。

図1. A) シキミセスキテルペン B) Maimoneらによるシキミセスキテルペンの合成 C) YangらによるIllisimonine A の合成と本研究
“Programmed Oxidation-Guided Divergent Total Syntheses of (±)-Anisatin, (±)-Neoanisatin, (±)-Majusanols A and B”
Huang, J.; Wei, X.; Chen, Z.; Yang, M. J. Am. Chem. Soc. 2026, 148, 13530–13535 DOI: 10.1021/jacs.6c02820
論文著者の紹介
研究者:Ming Yang (阳铭)
研究者の経歴:
2008 B.Sc., Hubei University, China
2013 Ph.D., Lanzhou University, China (Prof. Y.-Q. Tu)
2013–2015 Postdoc, Shanghai Institute of Organic Chemistry (SIOC), China (Prof. A. Li)
2015–2019 Postdoc, The University of Chicago, USA (Prof. S. A. Snyder)
2019– Professor, Lanzhou University, China
研究内容:複雑天然物の合成、合成方法論の開発、医薬品化学
論文の概要
以下に実際の合成経路を示す(図2)。1,3-cyclopentanedioneから9工程で合成できる9に対し、Pd2(dba)3、P(Mes)3存在下、(Bpin)2を作用させることで、分子内Heck反応により中間体Int-Iが生成したのち、宮浦ホウ素化により中間体Int-IIを与えた。系中に過ホウ素酸ナトリウムを添加することでC14位にヒドロキシ基が導入された10bを得た。10bをシリカ上に吸着させるとretro-Dieckmann縮合が進行し、8が得られた。続いて、8をビスシリルエノールエーテル12としたのち、Rubbotom酸化によりC6位とC10位にヒドロキシ基が導入された13を合成した。TMSOTfを用いたシリルエノール化では、C6位からC11位へのDieckmann縮合も同時に進行し、10bのC14位のヒドロキシ基へのシリル化などが12の生成と競合するため、8から13への変換は低収率にとどまった。
続いて、水素化ホウ素ナトリウムを用いた13のC7位のケトンの選択的還元により、14が得られた。本変換では、紙面裏側からの還元により生じたC7位ヒドロキシ基がC11位のエステルに求核攻撃をし、エステル交換が進行することで14が生成する。さらに、14から8工程で1と2へそれぞれ導いた。一方、13に対しNaBH(OAc)3を作用させると、C10位のヒドロキシ基を配向基としたC11位のラクトンの部分還元が進行し、続くC11位ヒドロキシ基のC7位ケトンへの求核攻撃により15が得られた。最後に、15から6工程で3を、7工程で4をそれぞれ合成することに成功した。

図2. Anisatin (1), Neoanisatin (2), Majusanol A, B (3, 4)の全合成
参考文献
- (a) Wang, Y.; Qi, X. Total Syntheses of Highly Oxidized Natural Products. Chin. J. Chem. 2025, 43, 650–714. DOI: 10.1002/cjoc.202400898 (b) Kenny, P. W. Hydrogen-Bond Donors in Drug Design. J. Med. Chem. 2022, 65, 14261–14275. DOI: 10.1021/acs.jmedchem.2c01147
- Urabe, D.; Inoue, M. Total Syntheses of Sesquiterpenes from Illicium Species. Tetrahedron 2009, 65, 6271–6289. DOI: 10.1016/j.tet.2009.06.010
- Mendoza, A.; Ishihara, Y.; Baran, P. S. Scalable Enantioselective Total Synthesis of Taxanes. Nat. Chem. 2011, 4, 21–25. DOI: 10.1038/nchem.1196
- Hung, K.; Condakes, M. L.; Morikawa, T.; Maimone, T. J. Oxidative Entry into the Illicium Sesquiterpenes: Enantiospecific Synthesis of (+)-Pseudoanisatin. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 16616–16619. DOI: 10.1021/jacs.6b11739
- (a) (1) Condakes, M. L.; Hung, K.; Harwood, S. J.; Maimone, T. J. Total Syntheses of (-)-Majucin and (-)-Jiadifenoxolane A, Complex Majucin-Type Illicium Sesquiterpenes. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 17783–17786, DOI: 10.1021/jacs.7b11493 (b) Hung, K.; Condakes, M. L.; Novaes, L. F. T.; Harwood, S. J.; Morikawa, T.; Yang, Z.; Maimone, T. J. Development of a Terpene Feedstock-Based Oxidative Synthetic Approach to the Illicium Sesquiterpenes. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 3083–3099. DOI: 10.1021/jacs.8b12247
- Gong, X.; Huang, J.; Sun, X.; Chen, Z.; Yang, M. Total Synthesis of Illisimonin A and Merrilactone A. Angew. Chem., Int. Ed. 2023, 62. DOI: 10.1002/anie.202306367





























