内容
化学を学び、研究するうえで必要になる数学の知識を懇切丁寧に教えるテキスト。化学の実例を用い、化学系の基礎科目で教えられる抽象的な数学とのギャップを埋める。解説に図を活用し、視覚的にも理解できる一方で、練習問題を豊富に用意し、知識の定着を促す。評判の高い化学系のための数学テキストが待望の邦訳。
概要
化学同人 版
| 著者 | John E. Straub 著 永井 哲郎 訳 吉田 亨次 訳 藤崎 弘士 訳 |
|---|---|
| ジャンル | 自然科学 > 化学一般 自然科学 > 化学一般 > 参考書 |
| 出版年月日 | 2026/08/20 |
| 書店発売日 | 2026/08/26 |
| ISBN | 9784759825725 |
| 判型・ページ数 | A4変・360ページ |
| 定価 | 8,800円(税込) |
| 在庫 | 在庫あり |
目次
1章 関数と座標系
2章 複素数と対数
3章 一次元および多次元の微分
4章 スカラーとベクトル,ベクトルの代数
5章 スカラーとベクトルの演算子
6章 多変数の関数の極値化
7章 一次元と多次元における積分
8章 数列,級数,展開
9章 確率と統計の基礎
10章 常微分方程式
11章 その他の常微分方程式
12章 偏微分方程式
13章 フーリエ級数,フーリエ変換,および調和解析
14章 行列と行列代数
15章 固有値と固有ベクトル
16章 幾何学的変換と分子の対称性
対象の目安
大学生・大学院生、若手研究者などで、数学的思考を用いて化学を学びたい方向け。
高校数学 III・C 程度の予備知識が必要。
感想
著者の John E. Straub は、かのノーベル化学賞受賞者 Martin Karplus の教え子 (ポスドクとして在籍) であり、ボストン大学へ異動後も Karplus と共同研究を続け、Karplus 学派の計算生物物理・タンパク質ダイナミクス研究を発展させた人物である。
本書は 2022 年に発刊された Straub の原著 “Mathematical Methods for Molecular Science: Theory and Applications, Visualizations and Narrative” の邦訳版である。物理化学、計算化学、統計、フーリエ変換など、化学に関する数学を学ぶための橋渡しとなる教科書である。丁寧で段階的な数式による解説に加え、イメージしやすいグラフや図がふんだんに使用されている。本書評を書いている私は数学が専門ではないので本書の記述が他の教科書と比べどれくらいのレベルかは量りかねるのだが、それでも化学徒にとっては理解を促すよう親切に記述され、また平素な訳文であると感じた。
![]() |
章末問題も充実しており、「ウォームアップ」と「宿題の演習」に分けて、習熟度に合わせて問題に挑戦できる。惜しむらくは解説がほとんどなく解答のみが与えられている点であるが、ページの都合上すべての解説の掲載は難しいのだろう。現在の所、原著でも解答解説集などは発売されていない様である。だが少なくとも「ウォームアップ」レベルの問題は私でも本文を読みながらある程度は解くことができたので、理解できるまで読み返しながらチャレンジすることをおすすめする。
なお「化学数学」と銘打たれているが、印象は化学に繋がる事項を解説した「数学の教科書」であり、いわゆる有機化学や物理化学を直接扱った本ではないので、注意が必要ではある。一方、数学的視点から化学を学習・研究したい方へはうってつけの教科書だろう。また、普段あまり数式に触れていない (私のような) 有機化学者の頭の体操にも良いのではないだろうか。
序文では、本書の哲学についても記述されている。
数学者はシンプルな関数を含んだ抽象的な数学の問題を好む。しかし自然科学では、われわれのチャレンジは非常に異なる。われわれは多くの変数と物理定数をもつ複雑な関数を含む具体的な数学の問題を取り扱うのだ。問題の解は標準的な代数演算で得られるが、それを注意深く適用しなければならない。そうでなければ、われわれはお終いである!
このように、化学という具体的な出口に向けた数学をしっかり学ぶための教科書として本書は構成されており、1冊を熟読し問題に挑むことでかなりの力がつくだろう。もちろん、既に化学数学を学んだ方々や学習中の方々にも、併読書として役に立つであろう。
なお、ケムステにおいても 「【化学者だって数学するっつーの!】シリーズ」のように数学的側面からの解説記事は幾つかあり、それらを読んで興味を持った方にもぜひ本書をおすすめしたい。購入検討前に一度、以下の記事に目を通していただければ幸いである。
・化学者だって数学するっつーの! :シュレディンガー方程式と複素数
・化学者だって数学するっつーの! :定常状態と変数分離
・なぜ電子が非局在化すると安定化するの?【化学者だって数学するっつーの!: 井戸型ポテンシャルと曲率】
・分子の対称性が高いってどういうこと ?【化学者だって数学するっつーの!: 対称操作】
・群ってなに?【化学者だって数学するっつーの!】
・分子の点群を帰属する
総評
以上の通り、興味の範囲がバッチリはまればこれ以上ないほどの良い教科書であろう。本書評を執筆した私もまだしっかりと全ての内容を理解できたわけではないが、ミクロな化学の世界を支配する数学の重要さを垣間見ることができた。これから化学数学を学習する学生、数学に浸りたい化学徒の皆様にぜひともお薦めしたい一冊である。































