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スポットライトリサーチ

芳香環をヘテロ芳香環に変える!芳香族ケトンのヘテロ芳香環スワッピング

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第683回のスポットライトリサーチは、早稲田大学 山口潤一郎研究室の中原輝さんにお願いしました!

山口研究室では、革新的分子変換法の開発を目標に、骨格編集反応や高難度結合切断反応を精力的に研究されています。今回の研究では、シンプルな反応条件でエステルとケトンを交換する、新たな芳香族ケトン合成法を開発されました。本研究は、その反応の簡便さや適用範囲の広さから、創薬研究やプロセス化学など様々な場面で活躍するポテンシャルを秘めた反応になると期待されます。

本研究は、Nature Communications誌に掲載され、プレスリリースもされています!

“Heteroaromatic swapping in aromatic ketones”
Hikaru Nakahara, Ryotaro Shirai, Yoshio Nishimoto, Daisuke Yokogawa & Junichiro Yamaguchi
Nature Communications 2025, 16, 8998.
プレスリリース「ベンゼン環の一発変換で創薬加速

中原さん(写真:最下部)を見たことがある人が多いと思いますが、研究器具等の「実験器具・用品を試してみたシリーズ」など、ケムステYouTubeチャンネルでご活躍されています。今回の論文で、その素晴らしい仕事を世の中に出すことができたということで、私(Macy)もうれしく思っております。今後のご活躍に期待しております。

中原さんについて、指導教員である山口潤一郎先生から以下のコメントをいただいています。

これまでのキャリアでも最もシンプルな反応です。中原くんがこの反応を見つけたときは、最初は「何か間違っているのではないか」と思いました。クライゼン縮合は、1,3-ジカルボニル化合物のα位が脱プロトン化され、その生成物が安定であるために縮合が進行する。これは教科書にも載っている常識です。それを、こんな単純な条件で覆すことはできないだろうと考えていました。しかし、古典的な反応であっても、いまだに分かっていないことが多いということを改めて実感しました。

論文は上位誌に審査を回していただいたものの、「反応がシンプルすぎる」という理由で却下され、日の目を見るまで本当に苦労しました。第一著者の中原くんの粘り強い努力、第二著者の白井くんのサポート、さらに西本さん・横川さんによる機構解明実験のおかげで、ようやく発表に至りました。

中原くんは製薬会社に就職予定ですが、発想が自由でアイデアに富んだタイプなので、本来はアカデミアのほうが向いていると思っています。実は、この反応をさらに拡張した研究も現在準備中です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

それでは、スポットライトリサーチインタビューをお楽しみください!

 

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください】

本研究では、医薬品開発で重要な「芳香環をヘテロ芳香環に置き換える反応(ヘテロ芳香環スワッピング)」を一工程で実現しました。芳香環をヘテロ芳香環に変えると、水溶性や代謝安定性、薬理活性に好影響を与えることがあります。そのため、芳香環をヘテロ芳香環に一工程で変える反応の開発は創薬におけるリード最適化へ貢献できます。最近、このような手法として骨格編集や官能基交換反応が開発されていますが、未だ報告例には限りがあります。

私たちは塩基存在下、芳香族ケトンに対してヘテロ芳香族エステルを反応させると古典的なクライゼン縮合/レトロクライゼン縮合が進行し、ヘテロ芳香族ケトンが得られることを見いだしました。本反応は様々なヘテロ芳香環の導入が可能で、医薬品などの複雑な分子も適用可能です。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください】

自分なりに力を入れたのは、アプリケーションにおけるヘテロ芳香環から芳香環への逆変換の実現です。中間体である1,3-ジケトンにNaOMeを作用させるコントロール実験を行っていた際、偶然、古い溶媒瓶のMeOHから調製したNaOMeを用いると生成物の選択性が大きく変化することに気づきました。原因を追究したところ、そのNaOMeには水分が混入しており、NaOHが混ざっていることがわかりました。この結果から、本反応はNaOMe存在下では熱力学支配的に、NaOH存在下では速度論支配的に進行することを明らかにしました。私はどうしても逆変換を実現させたかったので、この知見を利用し、反応系中で1,3-ジケトンを生成させたのちにNaOHを作用させることで、通常とは逆の選択性を示す生成物の合成に成功しました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?】

最も苦労したのは、時間との戦いでした。私は昨年10月から3か月間、シカゴ大学のLevin研究室に留学していたのですが、どうしても出発前に論文を完成させる必要がありました。当時は一人で実験を進めており、60種類以上の化合物データを収集する作業は非常に過酷でした。約2か月間、夜通し実験を続け、まさに血のにじむような日々でした。大津会議に出発する直前、ようやく全てのデータを取り終えたときに見た朝日は、まるで私を祝福してくれる女神のように感じたのを今でも覚えています。

その後、留学中に直属の後輩である白井くんがブラッシュアップを手伝ってくれたおかげで、無事に論文を投稿することができました。

また、反応機構の解明にも大変苦労しました。なぜジケトン中間体が安定ではないのかなど、実験結果だけでは説明しきれない部分については、京都大学の西本助教と東京大学の横川教授に計算化学の協力をお願いし、何度も議論を重ねました。こうして、実験と理論の両面から納得のいく形で論文を完成させることができました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?】

将来は有機合成化学の専門性を武器に新しい化学に積極的に挑戦していきたいと考えています。「いつも楽しそう」というのが僕の強みなので、どんな時でも化学を楽しむことだけは大事にしていきたいと考えています。また、まだ卒業まであと半年あるので、まだまだ面白い反応を見つけ続けたいと思います!次回作はもっと自信がある反応なので、ぜひ楽しみにしていてください。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします

ケムステチャンネルの「実験器具・用品を試してみた」シリーズでお馴染みのひかるです。スポットライトリサーチに二回目の登場です。動画ではポンコツキャラ?を演じていましたが、ポンコツはキャラであって研究は真摯に取り組んでいると皆さんに実感していただけたかなと思います。研究もケムステチャンネルもそうですが、何事にも挑戦してきたことが様々な場面で活きてきました。ぜひ皆さんも挑戦を忘れずに化学を楽しみましょう。(チャンネル登録まだの方はぜひ)

 

最後になりますが、本研究に限らず日々様々なことをご指導いただいている潤さん、共同研究者である白井くん、計算化学をお願いいたしました京都大学の西本助教、東京大学の横川教授に感謝申し上げます。また、本研究成果を取り上げてくださったChem-Stationのスタッフの皆様にも感謝申し上げます。

【研究者の略歴】

名前:中原輝
所属:早稲田大学大学院先進理工学研究科応用化学専攻 山口潤一郎研究室
博士課程三年 日本学術振興会特別研究員(DC2)
研究テーマ:ヘテロ芳香族化合物を用いた変わった反応の開発

 

【関連リンク】

山口潤一郎(ケムステ研究者データベース)
プレスリリース「ベンゼン環の一発変換で創薬加速」
報告論文 (Nature Communications)

Macy

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有機合成を専門とする教員。将来取り組む研究分野を探し求める「なんでも屋」。若いうちに色々なケミストリーに触れようと邁進中。

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