[スポンサーリンク]

ケムステニュース

宇宙に輝く「鄒承魯星」、中国の生物化学の先駆者が小惑星の名前に

[スポンサーリンク]

「鄒承魯小惑星」の命名セレモニーが2日、中国科学院生物物理研究所で行われた。中央テレビニュースが伝えた。 鄒承魯氏を記念するため、国際天文学連合(IAU)の小天体命名委員会の承認を経て、登録番号「325812」の小惑星が正式に「鄒承魯星」と名付けられた。これは中国科学院紫金山天文台が2008年1月3日に発見したもので、発見当時は地球から1億9000万キロメートル離れていた。鄒承魯星と太陽の間の平均距離は3億5300万キロメートルで、太陽を一周するのに3.65年かかる。軌道上で毎日167万キロメートルの速度で前進している。 (引用:Record China 11月3日)

今回は、中国の有名な生物化学者である鄒承魯(Zou Chenglu)の名前を小惑星に冠したというニュースを紹介します。

まず惑星に名付けられた鄒承魯についてですが、鄒承魯は1923年に中国の山東省青島市に生まれ、1941年に西南聯合大学の化学科に入学しました。卒業後は公費でイギリスのケンブリッジ大学に留学し、生化学者のケイリン教授の指導の下で研究を行い、Natureを含む7つの論文を発表しました。博士号を取得後1951年に帰国し、中国科学院上海生理生化研究所で研究を始めウシインスリンの人工合成に取り組みました。そしてインスリンの正確な折り畳みの分子メカニズムを解明し、さらに「鄒氏公式」と「鄒氏作図法」と呼ばれる有名なモデルを提唱しました。1970年には中国科学院生物物理研究所に移り、1976年にはG3PDHの配位子結合に関する研究結果をNatureに発表しました。

現在の北京市にある中国科学院生物物理研究所

論文では、ウサギの筋肉から取り出し精製したG3PDHに過剰量のNAD+を加えて光を当てると新たな蛍光極大を持つスペクトルが観測されました。他の生体基質を使って同様の実験を行った結果、ニコチンアミド環とカルボキシ基がG3PDHのCys-149の活性点に配位することで新たな蛍光を示していると推測しています。さらに、G3PDHをカルボキシメチル化し、蛍光スペクトルを種々の条件で測定し、蛍光におけるトリプトファンの関与についても言及しています。

1980年以降、鄒承魯は中国科学院の委員ハーバード大学の客員教授米国国立衛生研究所の主任研究員といった要職を歴任し、中国国内だけでなくアメリカでも活躍したそうです。そして2006年11月23日に肺感染症で亡くなりました。

そんな鄒承魯の功績を讃えて、2008年に中国科学院紫金山天文台が発見した登録番号「325812」の小惑星を鄒承魯星と名付けたそうです。11月2日に行われた記念セレモニーでは、娘の鄒宗平さんも参加し小惑星の証明書の他、小惑星の模型などが公開されました。

鄒承魯星の軌道と11月14日UTC0時での位置

では、同様に化学者の名前が小惑星に名付けられた例があるのか調べたところ、10例あり、ノーベル化学賞を受賞した福井 謙一と炭素14による年代測定法の研究を行っていた木越 邦彦の二人は日本人化学者として小惑星の名前になっています。

  1. (3069) ヘイロフスキーヤロスラフ・ヘイロフスキー
  2. (3899) Wichterle(オットー・ウィフテルレ
  3. (4564) Clayton(ロバート・クレイトン)
  4. (4565) Grossman(ローレンス・グロスマン)
  5. (4716) Urey(ハロルド・ユーリー
  6. (5697) Arrhenius(スヴァンテ・アレニウス
  7. (6032) Nobel(アルフレッド・ノーベル
  8. (6826) Lavoisier(アントワーヌ・ラヴォアジエ
  9. (6924) 福井福井謙一
  10. (7202) 木越(木越邦彦)

福井星の軌道と11月14日UTC0時での位置

木越星の軌道と11月14日UTC0時での位置

時々話題になる小惑星への命名ですが、命名の権利は基本的に発見者にあり、命名者が名前を提案し国際天文学連合が承認することで認められます。もちろん命名にルールがあり、アルファベットで16文字以下などの文字の制約に加えて、公序良俗に反しないものといった公共の物に対する常識的なルール、政治や軍事に関する事象や人名の場合には100年以上経過しているといった平和的な制約などがあります。また商業的な理由での命名は認められていません。

話は少しそれましたが、鄒承魯氏については研究以外についてもいろいろなエピソードが残されており、科学界の学問的腐敗に厳しい目を向け、様々な場で学術倫理に違反していることを批判してきたようです。第二次世界大戦や文化大革命といった激動の時代においても研究を真摯に続け様々な功績を残された鄒承魯氏を称えて小惑星に名付けたことは感銘を受けます。小惑星の命名で終わることなく偉大な化学者について広く周知する活動をこれからも続けてほしいと思います。

関連書籍

[amazonjs asin=”B07BTNX4TL” locale=”JP” title=”体验科学(中国科学技术馆化学实践课) 正版 中国科学技术馆 9787110097281″] [amazonjs asin=”7301305915″ locale=”JP” title=”基础有机化学第4版上下册+习题解析 邢其毅 +中国化学奥林匹克竞赛试题解析(第4版)裴坚,卞江,柳晗宇 全4册 北京大学出版社”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 熱を効率的に光に変換するデバイスを研究者が開発、太陽光発電の効率…
  2. ビタミンDで肺ガンの生存率が上がる?
  3. 女優・吉岡里帆さんが、化学大好きキャラ「DIC岡里帆(ディーアイ…
  4. リサイクルが容易な新しいプラスチックを研究者が開発
  5. 米メルク、「バイオックス」回収で第2・四半期は減収減益
  6. エーザイ 巨大市場、抗ガン剤開発でライバルに先行
  7. 2010年化学10大ニュース【Part2】
  8. 黒よりも黒い? 「最も暗い」物質 米大学チーム作製

注目情報

ピックアップ記事

  1. Nature 創刊150周年記念シンポジウム:ポスター発表 募集中!
  2. 「薬学の父」長井博士、半生を映画化へ
  3. なんと!アルカリ金属触媒で進む直接シリル化反応
  4. かさ高い非天然α-アミノ酸の新規合成方法の開発とペプチドへの導入~中分子ペプチド医薬品開発に向けて~
  5. リチウムイオン電池のはなし~1~
  6. 化学研究ライフハック:化学検索ツールをあなたのブラウザに
  7. 究極のナノデバイスへ大きな一歩:分子ワイヤ中の高速電子移動
  8. 不斉アリル位アルキル化反応を利用した有機合成
  9. 光触媒ラジカル付加を鍵とするスポンギアンジテルペン型天然物の全合成
  10. 元素名を名字にお持ちの方〜

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年11月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

ルイス酸性を持つアニオン!?遷移金属触媒の新たなカウンターアニオン”BBcat”

第667回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科 野崎研究室 の萬代遼さんにお願いし…

解毒薬のはなし その1 イントロダクション

Tshozoです。最近、配偶者に対し市販されている自動車用化学品を長期に飲ませて半死半生の目に合…

ビル・モランディ Bill Morandi

ビル・モランディ (Bill Morandi、1983年XX月XX日–)はスイスの有機化学者である。…

《マイナビ主催》第2弾!研究者向け研究シーズの事業化を学べるプログラムの応募を受付中 ★交通費・宿泊費補助あり

2025年10月にマイナビ主催で、研究シーズの事業化を学べるプログラムを開催いたします!将来…

化粧品用マイクロプラスチックビーズ代替素材の市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、化粧品…

分子の形がもたらす”柔軟性”を利用した分子配列制御

第666回のスポットライトリサーチは、東北大学多元物質科学研究所(芥川研究室)笠原遥太郎 助教にお願…

柔粘性結晶相の特異な分子運動が、多段階の電気応答を実現する!

第665回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院工学研究科(芥川研究室)修士2年の小野寺 希望 …

マーク・レビン Mark D. Levin

マーク D. レビン (Mark D. Levin、–年10月14日)は米国の有機化学者である。米国…

もう一歩先へ進みたい人の化学でつかえる線形代数

概要化学分野の諸問題に潜む線形代数の要素を,化学専攻の目線から解体・解説する。(引用:コロナ…

ノーベル賞受賞者と語り合う5日間!「第17回HOPEミーティング」参加者募集!

今年もHOPEミーティングの参加者募集の時期がやって来ました。HOPEミーティングは、博士課…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP