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ガンマ線によるpHイメージングに成功 -スピンを用いて化学状態を非侵襲で観測-

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東京大学大学院工学系研究科の島添 健次 特任准教授、上ノ町 水紀 博士課程学生(研究当時)らは薬剤集積とpH等の化学環境を同時にイメージング可能な核医学の新しい手法を考案・確立しました。ガンマ線を用いた核医学診断は、悪性腫瘍等の早期検出に臨床で用いられる強力な手段として知られていますが、本手法によりさらに化学環境イメージングの可能性が拓かれ、診断の高精度化が期待されます。これまで用いられてこなかったガンマ線もつれ光子を積極的に利用することで、生体内など薬剤局所の非常に微小な電磁場環境を核スピンの超微細相互作用により、非常に高いエネルギーを有するガンマ線の相関として取り出すことに成功しました。本手法は、微弱局所電磁場を巨大なエネルギー光子の相関として感知する量子センサとみなすことが可能であり、新たな医学診断、センシングプラットフォーム技術となることが想定されます。  (引用:東京大学工学部プレスリリース1月17日)

放射性同位体から放射されるガンマ線を使ってpHを画像化する技術が発表されました。物理系の雑誌である、Communications Physicsに投稿された内容ですが、pHに関する研究ということで詳細を紹介させていただきます。

研究の背景から入りますが核医学イメージングの分野は1950年代に出現し、現在ではPET (positron-emission tomography)SPECT (ingle-photon-emission computed tomography)は広く使われている画像診断となっています。方法としては90Ysや111In, 99mTc, 131I, 177Luといった放射性同位体を含む化合物を体内に投与し、ガンマ線を検出できる装置によって体内のどこにこれらの放射性同位体が集まっているかを確認します。血流やプローブ分子の集中を確認でき、がんや認知症、パーキンソン病の診断、核医学治療の評価に役立てられています。

一方で量子センサーを活用して、局所的な分子の環境に関する情報を計測した結果も近年報告されており、例えばNV(Nitrogen-Vacancy)センターを持つダイヤモンドなどを使って電場や磁場、pHなどの情報を調べる研究が行われています。しかしながらNVセンターは可視光のイメージングとして、細胞レベルでほとんど活用されており、医療診断には貫通性のある光子が好まれます。そこで本研究では、核スピン状態に対する量子センサーとしてガンマ線放射核種の使用を検討しました。

NVセンターを用いた量子センサーのコンセプト(出典:量子科学技術研究開発機構プレスリリース

SPECTでは単一の光子がガンマ崩壊から放出される核種が使われますが、短い時間の中間状態で2つ以上のガンマ線を放出する核種もあり、例えば 111In は、171 keVと245 keVのガンマ線を84.5 nsの中間状態時定数を持って放出されます。そしてこの放射されるガンマ線同士の角度相関は変動し、それは崩壊における核スピン状態に由来することが知られています。この原理を利用したのがγ線摂動角相関法であり、化学的な分析や核物理学の研究に使われています。過去、この原理を利用して様々な研究が行われてきましたが、分子の環境をイメージングする活用は行われてきませんでした。そこで本研究では、リング状に配置した検出器によって多次元のγ線検出によって化学状態をイメージングすることを試みました。

カスケードガンマ線放出核種を用いたセンシング原理(出典:東京大学工学部プレスリリース

では実験のパートに移りますが、初めに111Indium chloride 水溶液に対して水酸化ナトリウムや塩酸、リン酸でpHを変えたサンプルで測定を行いました。ガンマ線を検出する装置は、縦横8×8の検出器の集合体を8方面に配置し、ガンマ線の到達時間、エネルギーと放射方向を調べました。

a: 測定装置 b:111Inのエネルギースペクトル c: 一致時間差の実測値と計算値 (出典:原著論文)

結果、pHが1, 1.9, 3では90度のガンマ線放射が多く、180度では少なくなることが確認され、pHが5から3に低くなると角相関が変化することが確認されました。

a:111Inの崩壊に伴うエネルギー放射 b: pHごとのガンマ線測定結果 (出典:原著論文)

よって、局所的な化学環境の変化に起因する核スピン相互作用をガンマ線放射によって捉え、pHの違いを検出することの実現可能性が示されました。この実験で使用した水溶液の放射能は、約0.8–1.2 MBqであり0.46 pmolから0.69 pmolに相当し、測定時間も30分という臨床での核医学イメージングにおける一般的な時間であることが本文中では強調されています。

次に、キレート剤使用下で同様の実験を行いました。この実験で使用したのは、Psyche-DOTA[111In]という錯体で核医学イメージング向けにデザインされた分子です。このPsyche-DOTA[111In]のpHを測定したところ4.5となり、pHが1.9(無調整)と7の111Indium chloride 水溶液の3つのサンプルで測定を行いました。

a: 111Indium chlorideの構造式 b: Psyche-DOTA[111In]の構造式 c:3つのサンプルのガンマ線測定結果 (出典:原著論文)

結果、Psyche-DOTA[111In]は、pH 7の111Indium chloride水溶液と比べて90度のガンマ線放射において有意差を持って高い値を示しました。これにより放射性同位体がキレート剤に配位しているか否かを判別できることが分かりました。

最後に、pHイメージングを行いました。ガンマ線の検出器は4方向に配置し、その内部で対角線上に2つのサンプルを配置しました。

a:測定装置 b:異方性パラメーター(出典:原著論文)

結果、2つのサンプルのpHが同じ場合には同じIntensityが示され、異なるpHでは異なるIntensityが示されることを確認し、自然に分極したガンマ光子が局所的な環境を高い感度で検出できる量子センサーとなりうることが分かりました。

a: pH 1.9, pH 9のサンプルを測定した時の写真とpHイメージング画像を重ね合わせた図 b: 様々なpHの測定におけるイメージング画像 (出典:原著論文)

まとめると、pHとキレート剤の効果の定量に成功し、またpHセンシングとそのイメージングが実証されました。今回使用した放射性同位体は、SPECTで使用されている111Inであり、追加の機能として放射性同位体周辺の微小環境を調べることが可能になるとしていますが、臨床での応用についてはガンマ線を検出する方法の最適化が必要だそうです。また生物学においては、いくつかの分子がγ線摂動角相関法の測定のために提案されており、加えて181Hfや133Ba, 48Crは異なるエネルギーと減衰時間を持つため、核種を変えることで111Inとは異なるタイムスケールで周辺環境の情報を示すことができると予想されています。さらには調べる対象の環境についても、粘度や温度、電位傾度といった量子センサーが必要とされる特徴についてもこの方法を適用できるだろうと本文中ではコメントされています。

測定原理については物理の専門内容であり表面的な理解にとどまりましたが、単純にγ線でpHのイメージングができたり、錯体の配位を識別できるということは興味深く、いろいろな発展が考えられる成果だと思いました。体内のpHがよく詳しく実測できるようになれば、病気の診断や予防に役立つだけでなく、薬の効きに関することより詳しく判明するかもしれません。今後の発展と測定の実用化に期待します。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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