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化学者のつぶやき

光触媒反応用途の青色LED光源を比較してみた

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巷で大流行の可視光レドックス触媒反応ですが、筆者のラボでも活用するようになりました。

しかし経験のないところからのセットアップは存外に大変でした。特にランプの選び方は大変悩ましいです。反応開発専用LEDランプは世の中にほとんど無いですので、自作セットアップを工夫したり、別用途品を流用せざるを得ません。どの製品が良いのかも最初はさっぱり分からないですし、実物で反応をかけて初めて気づくことも沢山あるので、結局は手当たり次第に検討する羽目になります。

最初期はそんな状況でしたので、結構な無駄遣い投資を経て、何とかそれらしいセットアップを確立するに至りました。国内ラボの皆さんが同じ苦労と浪費を繰り返さなくて済むよう、この場を借りて比較結果を共有しておきます。光触媒反応に着手する際の参考情報となれば幸いです(追加すべき情報があればコメント欄などでお寄せください!)

青色LEDランプの比較

Aldrich マイクロフォトケミカルリアクター

Aldrich社がウィスコンシン大学マディソン校のTehshik Yoon研究室と共同開発した装置です。

多数のバイアルを一度に仕込め、均一な光照射が出来る形状面で優れています。より短波長(400-410nm)の紫色LEDへの交換も可能です。価格もお手頃なので、力尽くのスクリーニングをしたければ2~3本買っておくといいでしょう。良いことづくめのようですが、欠点は光量がやや弱いことです。そのため、反応によっては不適なケースもありますが、その点に留意しさえすれば便利に使えます。ただし、もともと付属しているACアダプターは日本国内規格と合わないそうで、これだけ別途入手が必要です(適合規格の品物)。

Aldrich商品ページより引用

Kessil  A160WE Tuna Blue 40W

もともとは水槽用の照明ですが、光量面では文句なく、多数の合成系ラボが使っている事実上のスタンダード品です。MacMillan研HPでも良い選択肢として紹介されています。日本国内で入手容易なものは、TunaBlueと呼ばれるタイプです。形状の都合上、光が均質に当たっているかには注意を払わねばならず、光を当てられるバイアル数もかなり少ないという問題があります。別売グースネックを使えば位置を精密に固定できるので、ある程度は対応可能ですが・・・

光量の強いランプを使わないと行かない反応が世の中にあるため、仕込める反応数が少ないと検討が進みません。これは悩ましい・・・と考えていたところ、最近Photoredox Boxという製品が発売されていたことを発見。このKessilランプをセットして、鏡張り構造で多数のバイアルに均一光をまとめて当てられるように工夫したハコです。ファン内蔵なので温度管理も容易です。

HepatoChem社HPより引用

なかなか便利そうではあるのですが、シンプルな構造にしては結構なお値段がします。DIYが得意な方なら、自作するほうがいいかもしれません(笑)

ボルクスジャパン GrassyLeDio RX122 Deep

こちらも水槽用ランプですが、Kessil製と同程度に強力です。価格がお手頃なのが利点です。こちらも形状に由来する照射ムラには注意。別売ソケットが必要です。

グランクリエイト LEDライト24W

水槽用ランプ。ボルクスジャパン製とほぼ同じ形状ですが、こちらの方が光量は強い印象です。価格はかなり安価。ただし、製造メーカーにトラブルが多いらしき情報が入っています。照射ムラ注意。別売ソケットが必要です。

商品ページより引用

青色LEDテープ

工夫次第でいろいろな形状に加工して使えることが魅力です。値段もお手頃。以前紹介したような本格的DIYへの活用もいいですが、大きめビーカーに巻きつけるだけでもそれなりに使えます。中を水orオイルで満たしてホットプレート上で実施すれば、温度制御を行いつつ反応をかけることも可能(光透過性チェックは必要)。反応容器と光源の距離に注意。上記の水槽用ランプに比べると、光量自体はそこまで強くないようです。

MacMillan研HPより引用

マリン商店 集魚灯

その名の通り魚を集める為のランプです。価格も安く、動画・写真で見る限り強力そうだったのですが、実際使ってみると期待はずれ・・・光量はAldrich製リアクターと同じぐらいでした。沢山の反応容器に対し均一に光を当てやすい形状は良いですが、予算が許すなら反応検討用に作られているAldrich製リアクターのほうが良いと思います。

楽天ショップより引用

RELYON社 Twin LED(425 nm)

形状から想像できますが、そもそもは小さな範囲に光を当てる用途(顕微鏡作業など)向けに開発されているようです。試してみた感じ、沢山の反応容器に光を当てる目的には向いていないので、条件スクリーニングにはやや使いづらそうな印象です。価格もやや高価。ですが、実際に有機合成反応について使用実績があるという情報(HPに記載あり)は貴重です。その点を重視するなら、選択肢の一つになっても良いでしょうか。

商品解説ページより引用

ヴァロール社 角形LED VBL-S

もともとは植物生育用途に使われているものです。形状的には良い形をしており光量もそれなりに強いのですが、特注になるため非常に高価なことが難点です。納入にも時間を要します(最近製造元が倒産したとか・・・?)。

商品解説ページより引用

シーシーエス社 TH2-140X105BL

化学会年会でブースを立てていたのを機に、デモをお願いしてみました。なんといっても多数の反応容器に均一に光が当てられる大パネル形状が魅力です。光量も強そう。ただ特注品になるようで、電源込みで購入するとかなり良いお値段がしてしまいます。

商品解説ページより引用

テクノシグマ社 光化学反応用LED PER-AMP

最近テクノシグマ社から発売された、コンパクトなスティック状LEDです。手持ちのガラス容器に温度計さながらに突っ込むだけで事足り、特殊な反応容器や凝ったセットアップが要らないことが利点です。容器内側から照射する設計なので、低温バス・オイルバス・電解セルなどの併用も可能ですし、照射効率向上も期待できます。LED光源もさまざまな波長が用意されています。反応容器一つしか照射できないのは難点ですが、並列光源にすればある程度はカバーできるようです。詳細はカタログPDFをご参照ください。※LED自体の発熱や熱耐性などの問題もありますので、使用環境はメーカーにお問い合わせください。

カタログPDFより引用

PennOC photoreactor m1

MacMillanラボがMerck社と共同開発したphotoreactorです(関連文献参照)。最近になってようやく輸入代理店が取り扱いはじめたので問い合わせて見ましたが、恐ろしく高額だったため導入を断念しました・・・。ですので本製品に関しては使用実績がありません。使用経験のある方は、ぜひ情報をお寄せいただけると幸いです。

以上取り挙げた製品はどれも同じ青色LEDに見えますが、メーカー毎に極大波長が微妙に異なっているようです。特定ランプを除き全く行かない反応があったりもするので、結局は試行錯誤が必要ですね。安くない品物もありますので、可能であれば購入前デモなどでまずは検討してみるのが良いと思います。

悩みたくないなら、初手はKessilランプとAldrichフォトリアクターを一つずつ揃えて始めるのが失敗しないやり方だと思います。

光量を定量比較してみた(2018/11/29追記)

光が強い弱いは感覚的なものだと思えましたので、ちゃんとした光量計(ウシオ電機科学 UIT-201/UVD-405PD)を使って比較してみました。当然ながら光源からの距離によって値は大きく変わりますので、それも付記しておきます。また装置の都合、405nmにおける値となっています。望む波長での値を吸収曲線から見積もっていただくのが良いと思います。

Kessile A160WE Tuna Blue

光源からの距離 0 cm:>2000 mW/cm2, 2 cm:120 mW/cm2, 3 cm:75 mW/cm2, 4 cm:45 mW/cm2

寸評:圧倒的に強力です。

HepatoChem PhotoRedOx Box (光源:Kessile A160WE Tuna Blue)

バイアルを置く位置での光量:6 mW/cm2

寸評:Kessil光源から離れた場所にバイアルが位置し、鏡で反射されて届くので、案外光が逃げていってしまうのかも知れません。

ヴァロール社 VBP-L24-C2

光源からの距離0 cm:平均 40 mW/cm2(場所によって10~80くらいでブレる), 1.5 cm:20 mW/cm2, 3 cm:18 mW/cm2, 4.5 cm:15 mW/cm2, 6 cm:13 mW/cm2

寸評:なかなか強力です。

シーシーエス社 TH2-140X105BL

光源からの距離0 cm:3 mW/cm2, 1 cm:2 mW/cm2
寸評:最大波長が465nmなのでかなり弱めにみつもられていることに注意。これを加味するとさほど悪くないように思います。

Aldrichマイクロフォトケミカルリアクター

光源からの距離0 cm: 5.5 mW/cm2, 1 cm:1.6 mW/cm2
寸評:最初の印象通りで、こんなものかな、というところです。

マリン商店 集魚灯

光源からの距離1 cm:3~6 mW/cm2

寸評:Aldrichのリアクターと同じ程度と考えればさほど悪くないのかも?使い方次第かも知れません。

青色LEDテープ

光源からの距離0 cm:10~20 mW/cm2, 1 cm:5~10 mW/cm2

寸評:思っていたより強い印象です。きっちり光があたる装置をちゃんと設計して使えば十分実用範囲なのでしょう(実際、これを使っている化学者も世界中にたくさんいます)。

おまけ:反応検討に際しての留意事項

光触媒反応のパイオニアであるMacMillan研HPは、光触媒反応の経験が無いラボにとって、セットアップに役立つ情報が満載です。ここから有益なものを抜粋してみましょう。

  • 酸化還元電位を見積もる目的には、Merck社のDr. DiRoccoが作成したチャート高解像度PDF版)が便利です。また、David Nicewicz教授のSynlett論文Synlett 2016, 27, 714.)も化合物レドックスポテンシャルのデータ源として参考になります。

Dr. DiRoccoのチャートより抜粋

  • 室温で行うには扇風機(ファン)が必要です。ファン無しではどのランプを使っても液温が30~40℃程度になるようです。光触媒反応が上手く行かない場合は、温度制御が上手く行ってない可能性も考慮すべきです。
  • 光触媒の多くは酸素でquenchされ、一重項酸素生成へとエネルギーが流れてしまうので、溶媒の脱気は極めて重要です。
  • 攪拌速度も重要です。無機塩を混ぜて行う反応の場合は特に問題になりやすいです。乳鉢などでグラインドして、粒径を細かくしておくことも効果的です。
  • 実験者の視覚保全のため、青色光をカットするゴーグルを用意しておくといいでしょう。下記Uvex社の製品は必要十分に使えます。スクリーン状の遮光板も製品として売られていますが、筆者個人は園芸用遮光ネットで十分だと思っています。
  • 実験装置のセットアップ事例については多くの場合、反応開発論文のSupporting Informationに写真付きで載っています。手っ取り早く事例を参照したい場合は、Google画像検索で「photoredox setup」と検索してみるのも良いと思います。

関連文献

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cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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