今回は設定温度と系内実温度の違いについて取り上げたいと思います。
これは分野としてはプロセス化学にあたり、スケールアップの際などに影響が出るお話です。
スケールアップに関しては以前gakushiさんが「スケールアップで失敗しないために 反応前の注意点」という記事で網羅的に解説されており、
非常に有用であるため実務者は一度は目を通しておくべき内容です。
設定温度と系内実温度の違いについて
有機合成の論文では、
反応温度としてオイルバスや冷却機器の設定温度が記載されることが一般的です。
一方で、設定温度と実際の反応系内の温度が一致しない、
あるいは一致しにくくなる場面があります。
例えば、反応スケールを変えた場合や、加温・冷却機器を変更した場合などです。
その状況下では実験条件としては同じ設定温度であっても、
実際には異なる温度環境で反応が進行している事態が生じます。
その結果として、
- 論文の通りに操作しているにもかかわらず収率が出ない
- 原料や生成物が想定と異なる化合物になっている
- 反応が進行しない
といった現象が起きます。
小スケールでは問題が顕在化しにくい理由
プロセス化学の分野では、設定温度はジャケット温度(熱媒温度)と言うことが多く、
系内の温度とは区別して扱われます。
一方、先端研究の領域では反応スケールが数 mg〜数 g 程度であることが多く、
設定温度と系内の温度がほぼ等しくなります。
これは小スケールでは液の比表面積が大きく、
熱移動が速いため、系が速やかに熱的平衡に達することが理由です。
そのため、設定温度と系内温度は区別してなくとも問題が顕在化されにくいです。
ただし下記に示す通り、温度追従が不足するケースは機器的要因で起こりえます。
スケールが上がると何が起きやすいか
設定温度と系内の実温度が異なるという考え方は、
反応操作だけでなく、蒸留などの分離操作にも当てはまります。
工業スケールはもちろん、1L程度のスケールであっても、
系内部の温度が設定温度と同等になるまでには一定の時間を要する場合があります。
オイルバスや冷媒のように表面に密着する加温・冷却方式では比較的熱が伝わりやすいため極端な差は生じることが少ないです。
しかしマントルヒーターやアルミブロックヒーターのように密着しきらないような装置では、
設定温度と系内温度の間に数 ℃ 程度の差が生じることがあります。
例えば、ヒーターで 50 ℃ に設定して反応を行っていても、
- 反応器をセットした直後では系内温度が 35 ℃ 程度にとどまる(温度追従の遅れ)
- 長時間加温していても系内温度が 45 ℃ 程度に留まる(温度追従の不足)
という挙動が見られることがあります。

※参考イメージ:生成AIで作成
また、装置によっては温度制御が電源の ON/OFF によって行われており、
設定温度を 50 ℃ としていてもジャケットの実温度自体が ±5〜10 ℃ 程度で変動する場合があります。
このような挙動は、蒸留操作にて発生蒸気量の変動として現れることもあります。
まとめ
このように、「50℃で反応を行った」と言う表現の多くは
加熱冷却器の設定温度の条件が50℃ということであり、反応系内の実温度とは異なります。
小スケールでは比表面積の兼ね合いで熱移動が早く設定値≒実温度になります。
スケールの大きい系では内部の温度を把握することで、
- 両者の差の乖離がどの程度なのか
- その差がどこに影響するのか
- その差がどの程度許容されるのか
といった判断材料を得ることができます。
これは反応や分離操作のレシピを作る上で重要な情報となります。
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