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化学者のつぶやき

最近のwebから〜固体の水素水?・化合物名の商標登録〜

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皆様夏休みはいかがお過ごしでしたでしょうか。大学はそろそろ後学期が始まってきたところです。

小学生の娘が夏休みの自由研究に化学っぽいことを選んでくれて少し嬉しかったですが、娘も忖度する年頃なのでしょうか。さて、この夏休み期間にwebで拾った化学に関係するようなネタについて自由研究(単に調べただけ)してみましたので報告させていただきます。

化合物名を商標登録するのはOK?

まずは小ネタから。最近FaceBookの広告がうざいのですが、私が中年であることが奴らに知られているため、加齢臭に対応した石鹸の広告が入ってきます。確かに嫁から臭いと言われているため、思わずクリックしてしまったんです。ありきたりな商品ですので、特に購入意欲は湧かないのですが、そこで一つ気になる一文がありました。

「ノネナールは登録商標です」
2-ノネナールは少し前に加齢臭の原因物質の一つであることが明らかになっており、[1]私も有機化学の講義でアルデヒドを教える際はそれを紹介しています。これは普通に炭素数が9で、二重結合が1つある化合物の名称となっており、それが登録商標とは本当かいな?と思いました。

2-ノネナールの構造

早速データベースを調べてみると、確かに資生堂によって登録されておりました(登録4375390, 登録4454255両者とも論文より前の出願)。化学品としてや、化粧用具、また繊維の製品の役務としての登録もあります。

一般的な化合物名を、特にデザインもしていないフォントで商標を登録するというのはいかがなものなんでしょう?

他にも悪臭成分がいくつか知られていますので、調べたのですが、それらはヒットしませんでした。ではサプリメントなんかに含まれていそうな化合物はどうかと思い調べたところ、カテキンオイゲニンコラーゲンが登録されていました。他にもあるかもしれませんが、デザインされたロゴでもない化合物名が登録されてしまうと、何か困ったことが起こるかもしれませんので、節操の無い登録は下品だなと感じました(筆者の個人的な感想です。効果には個人差があります)。

余談ですが、キチンを調べたらヒットしなかったのですが、「キチンラーメン」が日清食品により登録されていました。「チキンラーメン」の類似品を作らせないための措置ですかね。

粉末の水素水!

水素水というのが少し前に大流行したことは記憶に新しいかと思います。どんなに頑張っても水には水素を数ppmしか溶かすことができませんので、飽和水素水を飲んで果たして何か効果があるのかはよく分からないところです(水素分子が生体に何らかの作用を及ぼすという論文はあるようです)。

しかーし、なんとこの水素水を粉末にしたという商品が発売されたとしてこの夏一部webを騒がせました(発端は岐阜新聞の8月22日の記事かと思われます)。こういった商品にありがちなのですが、〜大学との共同研究とか、特許を取得とかがうたわれております。〜大学の具体的な人物は挙げられないことも多いのですが、この商品は顔写真入りで2名の方が実名で登場しております。

では、この方達はどのような役割を果たしていたのかが気になるところです。Webで調べてみると、お一方(国立G大学、M教授)は未利用の天然物資源(熱帯薬用樹木抽出成分や、木材の香り成分)を利用するというテーマに関わる研究者です。最近の論文を拝見しても、天然有機化合物の単離や、成分の生物活性に関するものばかりで、水素は無関係に思えます。

もう一方は触媒化学の分野の方(私立T-K大学(国立のT-K大学ではありません)、H教授)で、固体触媒を用いた酸化反応や、触媒反応場を精密に構築して高機能触媒の設計を行うというテーマが挙げられていました。

いずれの方も水素水を粉末にするという画期的な案件には無関係の研究者に思えます。実際、どのようなことをやったのかは不明ですが、前者は植物エキスを保存するために必要な凍結乾燥の手法を、後者は水素水粉末を水に溶かした時に発生する水素の量の測定に関する手法を提供したのではないかと推察されます(商品のHPを参照.あえてリンクは付けません)。

この商品の開発にどれくらい関与したのかは不明ですが、〜大学との共同研究という権威を与えてしまい、かつ顔写真もばっちり使われてしまうというのは少々脇が甘いと指摘されても仕方ないのでは。さらに、とあるミスコンのグランプリの方と一緒に写っているものがあるので不自然だなと思ったのですが、なんのことはない、この商品を販売している企業がそのミスコンのスポンサーだからなんですね。そのミスコンのファイナリストたちに水素水のセミナーを施して洗脳する教育するイベントもあったようで、用意周到です。リンク先にある彼女たちのコメントが泣かせます。

肝心の粉末を溶かすと何故水素がでるのかというところですが、H教授のコメントを信じるのであれば、実際にそれなりの量の水素が出てくることが確認されておりますので、何らかの方法で水素が出ているようです。水に溶かすと水素が出る固体はいくつか思いつきますが、成分を確認すると

ブドウ糖、難消化性デキストリン、マルトース/二酸化ケイ素、水酸化カリウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、L-トリプトファン、L-グルタミン

となっており、どれも水に溶かすと水素を出すものではありません。水酸化カリウム入れてんのかよ!というつっこみは置いておきまして(製造工程で使用しても最終的に中和処理してあれば食品添加物としてはOK)、どれは主役なのか見当もつきませんでした。そこで、宣伝に使われている特許をあたってみることにします。

どうやらpHを調整してからコロイド溶液(特許ではカルシウムまたはマグネシウムのリン酸塩となっているが、この商品の成分にリン酸は無い)を作成し、それを電気分解すると、発生した水素がコロイド粒子に捕まるということらしいです。これを水素のタマゴと呼んでいるのでしょうか。

商品説明にある水素のタマゴのイメージ図を元に筆者が作成(水素(しかも原子)がマグネシウムやカルシウムよりも大きいのはご愛敬)

それを乾固すると水素が逃げてしまうから、M教授の力を借りて(?)フリーズドライにでもしたのでしょうか。デキストリンやマルトース/二酸化ケイ素は粉末の嵩を上げるためなのかもしれませんし、固体触媒がご専門のH教授のアドバイスで入れたのかもしれません。ブドウ糖やアミノ酸を入れておけば、飲んだときに風味がでるでしょうね。

まとめると、

水素は出るのか?→出るらしい

どうやって出るのか→固体の水素を入れたり、化学反応で水素を出すのではなく、ある種の粒子に水素を吸着させておいてそこから徐々に放出するらしい

普通の水より飲んだら美味しいが?→味付けしたからでしょう

健康にいいのか?→水素は入っているが、健康にいいとは一言も言ってませんよ

ということでまとめさせていただきたいと思います。1日1包の1月分が税込み9000円程度ですから、安いもんでしょう!?

以上夏休みの自由研究でした(これ出したらきっと先生に怒られるな・・)。

参考文献

  1. 2-Nonenal Newly Found in Human Body Odor Tends to Increase with Aging. Haze, S.; Gozu, Y.; Nakamura, S.; Kohno, Y.; Sawano, K.; Ohta, H.; Yamazaki, K. J. Investig. Dermatol. 116, 520 (2001). DOI: 10.1046/j.0022-202x.2001.01287.x

関連書籍

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有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

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