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粉末 X 線回折の基礎知識【実践·データ解釈編】

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粉末 X 線回折 (powder x-ray diffraction; PXRD) は、固体粉末の試料に X 線を当て、その回折光の強度を回折角ごとにプロットする分析手法です。PXRD により、粉末試料の相、純度、粒子径、格子パラメータなどを知ることができます。この記事では PXRD パターンの解釈の仕方や、固体材料合成研究で PXRD をルーティンワークと使用するための最低限のデータ解析の手法をお話します。

測定装置

粉末 X 線回折の装置は、検出器の種類によって大きく分けて 2 種類あります。1つは、一次元検出器を利用するもので、それは検出器が動きながら回折角での X 線強度を記録する手法です。もう1つは二次元検出器を利用する手法で、 Debye-Sheller 環を直接観測し、その後 X 線強度を円の同じ半径上に積分することで一次元のPXRD データを得るものです。

一般的な研究室にある PXRD 装置は一次元検出器によるものです。一次元検出器は、さまざまな回折角度での X 線の強度を測定するため、1 つの回折データを得るのに少なくとも数分かかります。

二次元検出器の PXRD 装置はシンクロトロン設備などで主に利用されます (ただしシンクロトロン設備でも一次元検出器は使用されます)。二次元検出器を利用した場合には、検出器の大きさに収まる範囲の全ての回折角のデータが同時に得られます 。したがって、二次元検出器は測定条件 (温度やガス雰囲気) を変えたときの試料の構造変化をリアルタイムで分析するのに適しています。

PXRD で何がわかるか

PXRD パターンから粉末試料の相、純度、粒子径、格子パラメータなどを調べることができます。それぞれPXRD のどの特徴からどういった情報が得られるかを次の表にまとめました。

厳密な格子定数の決定や粒子径の見積もりには、特別なソフトウェアが (例えば RIETAN-FP (無料; https://jp-minerals.org/rietan/) や TOPAS (有料, http://www.topas-academic.net/) などが必要になります。それらの使用方法をお話すると記事のボリュームが大きくなりそうなので、今回は固体材料科学者がルーチンワークとして PXRD を利用する際に必要であろう最低限の知識とノウハウをまとめます。

1. 試料中に含まれる相の同定

PXRD の最も基礎的な利用法には、試料中に含まれる相の同定があります。すなわち、参照物質の回折パターンをもとに、試料を同定することになります。代表的な手法として、最も強い3本のピークの位置をデータベースと比較するハナワルト法 (Hanawalt method) があります。しかし、無機合成化学の研究にあたっては、結晶構造が既知の参照物質の回折パターンと直接比較する方がよくあります。これについては、下でさらに詳しくお話しようと思います。

2. 格子定数の算出

ブラッグの式からピークの位置 2θ は面間隔 d に依存することから、観測された回折パターンのピーク位置から結晶の面の間隔を算出することができます。格子定数とは、結晶格子の辺の長さや角度 (a, b, c, α, β, γ) のことで、究極的には格子定数が全ての結晶面の間隔を決定しています。単純な格子 (立方晶など) であれば格子定数は手計算でも算出できます。

 NaCl の回折パターン. 立方晶である NaCl ならば手計算で格子定数 (立方体の単位格子の一辺の長さ) を見積もることができます. 例えば 200 面のピークの位置 (2θ = 32°) からブラッグの式を利用して d200 を計算できれば, その d200 の 2 倍が単位格子の大きさです.

対称性が低い格子などでは上述のソフトウェアが必要となります。定性的に議論するだけであれば以下のルールを覚えておくとよいでしょう。

ピークが参照物質よりも低角度側にシフトした場合、試料の格子定数 (a, b, c) は参照物質と比較して大きい
逆にピークが参照物質よりも高角度側にシフトした場合、試料の格子定数 (a, b, c) は参照物質と比較して小さい

これは Bragg の式から導かれる自然な結論で、面間隔 d が大きくなれば、回折条件を満たすための 2θ が小さくならなければならないという理由です。

LiF と NaCl の PXRD パターンの比較. ピークの位置に注目しましょう. またピークの相対強度が LiF と NaCl で違っていることにも気づきます. ピークの強度は存在する原子に依存します. 

3. 粒子径の見積もり

おおまかには粒子径が小さいほどピークが幅広くなる (broadening) 傾向があります2。例えば、下に示すのは同じ化合物が異なる粒子径で結晶化したときの回折パターンの比較です。粒子径が1 マイクロメートル以下になってくるとピークはブロードになります。

ただしピークのブロードニングは、粒子の歪みに由来する場合もあります。3

4. 構造の精緻化

もし原子配列に関してあらかじめ類似化合物の結晶構造を知っている場合は、リートベルト解析 (Rietveld refinement) によって、試料の結晶構造の格子定数を決定したり、結合長を精緻化することも可能です。なお、ここでいう”精緻化 refinement” とは、モデルや計算で得られた構造を出発として、実際に観測された回折パターンをよりよく再現できるように格子定数や原子の位置などを微調整し、実験結果と辻褄が合うようにモデル構造を修正する過程のことを指します。リートベルト解析によって得られる結合長は、単結晶 X 線解析から得られる結合長よりも誤差範囲が通常大きいです。しかし、PXRD は迅速にほぼリアルタイムで回折パターンが得られることから、温度や圧力、ガス雰囲気を変えたときの構造の応答を調査するのに適しています。例えば、金属–有機構造体のような結晶性多孔性材料におけるガスの吸着位置やその占有率を調べることができます。

PXRD を用いて構造 (特に原子の繋がり) が全く未知の試料の構造を決定することは困難です。ただし、例えば溶液中の NMR 測定などから原子の繋がり方がわかっている試料に対して、固体での分子の充てんの仕方や配座を精緻化することは、高度な解析技術が必要ですが不可能ではありません。単結晶 X 線構造解析と粉末 X 線構造解析の違いについては、前回記事もご覧ください。

回折パターンや解析の実例

ここでは属–有機構造体 (metal–organic frameworks: MOFs) の合成研究を例に、PXRD がどのように使われるかをお話します。

既知の MOF (Zn2(dobdc); MOF-74) の金属置換類似体を合成しようと、次のような反応を試みたとします。

つまり Zn で報告されている MOF について 、同じく 3d 遷移金属のニッケルの類似体を合成したいわけです。Zn 類縁体の回折パターンは既存の単結晶構造から計算できるので、目的の MOF-74 の構造が得られたかどうかを確かめるには、PXRD 分析がもっとも簡単な手段となります。PXRD は全く未知の構造の同定には適していなかったことを思い出しましょう。

実験の結果、晴れて粉末状の生成物が得られ、以下のようなPXRD パターンを得ることができました。

Ni2(dobdc) exp. (赤線) が実験で得られた生成物の PXRD パターン. Zn2(dobdc) calcd. (黒線) は Zn2(dobdc) の単結晶構造から計算された PXRD のパターン. 小さな縦線は様々な hkl 面に対応する Braggs peak の位置. この計算パターンや Braggs peak の位置の取得方法は, 記事の最後を参照.

この図から一応は定性的な分析ができます。確認するべき項目は次の通り。

サンプルで観測されたピークは、reflection table から予想されるピークと関連付けられるか (指数付けできるか)?
サンプルのピーク位置は、参照物質と比べてシフトしているか?

一目見ただけでも、2つの回折パターンが似ていることはわかります。もう少し詳しく分析してみましょう。生成物の PXRD パターンで観測されたピークは、うまく参照物質のピークと対応しています。余計なピークなどは見えません。したがって、目的通りの構造を持った MOF が得られたと考えられます。そして目視で確認しただけでは、ピーク位置もほとんど一致しているように見えます。したがって、単位格子の大きさは Ni2(dobdc) と Zn2(dobdc) でかなり近いと推察されます。

こんなパターンが得られたとき, どう解釈すればよい?

サンプルのピーク位置が参照物質と比べて全体的にシフトしていた
参照物質の回折パターンには観測されない位置に余計なピークが現れていた
参照物質の回折パターンよりもピークの数が少ない
参照物質の回折パターンと比べてピークの相対強度が異なる

それぞれの場合について考えられることをそれぞれ解説してゆきます。

サンプルのピーク位置が参照物質と比べて全体的にシフトしていた

これは試料が、参照物質と似た構造を持つが格子定数がやや異なることを意味します。ピーク位置が低角側にシフトしていたら、格子定数が参照物質よりも大きいことを意味します。Zn と Ni の場合だと、原子半径が比較的似ているので、Zn2(dobdc) と Ni2(dobdc) でピーク位置に大きな違いは見られないかもしれませんが、Zn と Cd の類縁体の比較などでは違いが顕著にみられることがあります。上述の LiF と NaCl の例も参照。

参照物質の回折パターンには観測されない位置に余計なピークが現れていた

このような場合には、試料が結晶性の不純物を含んでいるか、試料の空間群が参照物質の空間群よりも対称性が低い場合があります。ここでいう不純物とは、例えば 「塩NaCl の結晶と砂糖の結晶が混じっている」ような状況を指します。完全に異なる結晶性固体が物理的に混じっているという状況です。

例えば「塩 NaCl の結晶内部のNa の一部が K で置換されている」のような状況は、結晶学的には不純物ではなく結晶の無秩序性 (disorder) として扱われ、そのように結晶内部で一部の原子が置換されたような物質の回折パターンは 元の物質とよく似たものになります。したがって、「塩 NaCl の結晶内部のNa の一部が K で置換されている」ような場合は、余計なピークは観測されず、目視での判断は難しいです。

一方、試料に不純物がなかったとしても試料の空間群と参照物質の空間群が違う場合にも余計なピークは観測されます。具体的には、例えばより対称性が高い空間群では系統的消失 (systematic absence) によって特定のミラー指数の面の回折が観測されなくなり、ピークの数が少なくなります。例えば、下は UiO-67-bpydc という MOF において合成後修飾をすることで対称性が低下して PXRD パターンが変化した例です7。図のキャプションのオレンジ色の説明は、結晶学を学ぶ人向けの高度な専門的な説明です。図中の箇条書きの2点は、研究で PXRD を使う人ならば結果だけ覚えておくと便利だ思います。

UiO-67-bpydc の合成後修飾によって MOF の空間群が変わり回折パターンが変わる例: 修飾前 UiO-67-bpydc = 黒, 修飾後 UiO-67-bpydc-CuCl2.7 合成後修飾でビピリジン部位に金属種がキレートされます. このとき元の MOF にあった一部の鏡面対象などが崩れていることがわかり, 空間群は Fm-3m から Pa-3 に変化しています. 面心であることを示す空間群の頭文字 F はその平行移動の対称性から hkl のすべてが奇数であるか偶数でないような面の回折は観測されないという系統的消失条件を持ちます. そのため (210) や (211) 面は理論的に観測されません. Pa-3 では系統的消失条件が緩和され, より多くのピークが観測されます. つまり (210) や (211) 面は Pa-3 結晶群では理論的に観測される可能性があります. ただし、その強度はやはり原子の配列に依存します. 例えば理論的に観測可能だが回折強度が弱くなっている例として UiO-67-bpydc-CuCl2 (赤線) の (220) 面に注目しましょう.

参照物質の回折パターンを見るだけではなく、reflection table を確認し、そこにピークが現れてもよいのかどうかを先に確認するのは重要です (reflection table の取得方法は記事最後を参照)。Reflection table で示された Bragg ピークは、与えられた空間群と格子定数において観測されうるピークです。その強度は、与えられた単位格子内で原子がどのように分布しているかに依存します。Reflection table からピークが観測されうると予想されても、実際にはピーク強度が著しく小さく実質的にピークが現れないことはあります。なので、ピークの数が予想されるよりも少ないことは、「(結晶性の)不純物の混入していない」という観点では大きな問題ではありません。一方、もし参照物質の回折パターンでは観測されない位置に余計なピークが試料に現れていた場合には、reflection table を確認しそこにピークが現れてもよいのかを確かめる必要があります。Reflection table からは予測されないピークが観測された場合には、不純物の混入をはじめに疑ったほうがよいでしょう。

参照物質の回折パターンよりもピークの数が少ない

試料の回折パターンが参照物質の回折パターンのピークよりも少ない場合、試料の単結晶性が高く (結晶性がよく粒径も大きい)、それらの微結晶に好ましい向きがある場合が考えられます。例えば針状結晶では結晶が地面垂直に立つよりも横たわって配置される方が好ましいことが想像できるかと思います。X線回折の基礎知識の原理編でもお話したように、単結晶 X 線回折では三次元に回折条件をもち回折光が点として観測されるのに対して、粉末 X 線回折では回折データを一次元のデータとして扱う代わりに、微結晶が無秩序に配置して方位角に関する情報を失わせています。もし試料に単結晶性があり、それらが無秩序ではなく何らかの好ましい向きに置かれていると、一部の回折ピークが観測されなかったり、一次元の回折強度は理想的なものからずれてしまいます。このように粉末 X  線回折において単結晶性がある試料の好ましい配置を preferred orientation といいます。これを避けるために、粉末の試料は乳鉢と乳棒でよくすりつぶすことが推奨されます。

もし微結晶をすりつぶして測定をしても参照物質と比較して試料の回折ピークが少ない場合は、そのピークの消失は試料の結晶構造に由来すると考えられます。上述の「参照物質の回折パターンには観測されない位置に余計なピークが現れていた」でお話したように、回折ピークが現れるかどうかは空間群によって決まります。もし試料が参照物質とはやや異なる空間群で対称性が高い場合には一部のピークが消失することはありえるかもしれません。

参照物質の回折パターンと比べてピークの相対強度が異なる

ピークの相対強度は、結晶格子内の原子の種類や数によって変化します。定性的に回折パターンを見比べるだけの場合は、相対強度が異なることを目視で確認してもあまり多くの情報が得られません。ただし Rietveld 解析などをする場合には、ピークの強度が重要となります。

既存の結晶構造から PXRD パターンを計算する方法

PXRD パターンを計算するには次のようなステップを踏みます。

参照物質となる Zn2(dobdc) の結晶構造(cif ファイル)を取得
Zn2(dobdc) の結晶構造から回折パターンを計算
計算された Zn2(dobdc) の回折パターンと反応生成物の回折パターンを比較

参照物質となる Zn2(dobdc) の結晶構造 (cif ファイル) を取得

まずは、文献からZn2(dobdc) の結晶構造を取得します。たいてい、その化合物の結晶構造を報告した論文にアクセスすれば、SI として cif ファイルが添付されているのでそれをダウンロードします。なかには SI に添付されていないこともありますが、そういった場合にも、文献に報告された結晶構造は the Cambridge Crystallographic Data Centre (CCDC) にアップロードされているはずなので CCDC からダウンロードします。このリンク (https://www.ccdc.cam.ac.uk/structures/) から CCDC にアクセスし、DOI の欄に結晶構造を報告している論文の DOI  (10.1021/ja045123o) を入力して検索します (下図)。

ちなみに CCDC にアップロードされているすべての結晶構造には数桁の数字からなる deposition number があり、その番号も論文の SI などに記載されているはずなので deposition number から検索をかけてもよいです。検索して、望みの結晶構造が見つかれば、それをダウンロードします。今回欲しいのは、FIJDOS 265095 です。

ちなみに、単純な金属や簡単な金属塩などであれば The Materials ProjectMaterial Explorer などでも見つかります。この記事での NaCl や LiF などの構造はこちらから取得しました。

Zn2(dobdc) の結晶構造から回折パターンを計算

結晶構造から回折パターンを計算するには Vesta や Mercury などのソフトウェアを使います。どちらも無料のソフトウェアで、以下のリンクからダウンロードできます (Vesta, Mercury)。下のスクリーンショットの手順に従って、回折パターンを計算します。ここでは VESTA を利用する方法を紹介します。Mercury を使っても簡単ですが、VESTA だとピーク位置の回折角 2θ の表を出力できます。

まずはVESTA で cif ファイルを開きます。Utilities のタブから “Powder Diffraction Pattern…” を選択します。

Conditions のタブで計算したい回折パターンの条件を入力します。デフォルトだと No. of λ (number of λ: 波長の数) が 2 で 1.54059 Åと1.54439 Åが 1 : 0.5 の強度比で入力されているかもしれません。これは多くの X 線回折装置で用いられる Cu Kα 線の波長なのですが、Cu Kα は厳密には Cu Kα1 (1.54059 Å) と Cu Kα2  (1.54439 Å) の2 つの波長を含むことを反映しています。ここでは、定性的な簡単な分析を目的としているので、強度が大きい方のCu Kα1 だけを考えることとして、No. of λ は 1 にすることとしましょう (もちろん目的によっては Cu Kα2 を無視してはいけない場合もあります, たとえば Rietveld 解析で格子定数を精緻化する場合は Cu Kα が 2 つの波長を含むことを考慮しなければなりません)。

次に計算する 2θ の範囲を指定します。典型的な固体無機化合物の測定では 2θ = 2–70° くらいで図ることが多いです。MOF に限って言えば、2–50° くらい (場合によっては 2–30°) でも必要なピークは見れるのでその範囲で測定することが多いです。ちなみに MOF の測定の場合に 2θ の範囲が小さいのは、MOF は金属塩などと比べると格子定数が大きく、ピークが低角側に現れるからです。ただしここで計算する範囲は変える必要がないのでデフォルトのままで大丈夫です。

その他にもピークの形や光学的配置などによる位置のずれを補正する項目がありますが、ここでは無視してデフォルトのままとし理想的な回折パターンを計算することとします。

パラメーターを設定出来たら、calculate をクリックします。ぱっと見では何も起こっていないように見えますが、”Plot” のタブに行くと下に示したような回折パターンが見れます。左上の “File” から “Export Data” をクリックすれば、2θ と強度に関する数値のデータが得られるので、この計算結果と実験データを同時にお好みのソフトウェアでプロットすれば、生成物の回折パターンと参照物質の回折パターンを比較できます。

計算された回折データを xy ファイルとして export したときのファイルの中身.

次に”Reflections” のタブに行くと、それぞれのミラー指数の面がどの回折角で観測されるかがまとめられた表 Reflection table が見られます。それぞれのピークはそれぞれのミラー指数の面においてBragg の法則を満たすピークで、 Bragg peakと言います。このとき下の図に示しているように、初めの3列はそのピークに対応する面のミラー指数 hkl, 次の列は面間隔 d, その次の 3 列は構造因子と呼ばれる回折光の強度を決めるもの、次の列は回折角 2θ, そして次の列はそれぞれのピークの相対強度 (一番強いピークを100 としたときの) を表します。構造因子は、単位格子中の各原子から散乱される X 線波の和を表す複素数で、ここでは無視してよいです。この Reflections の表もデータを分析するときに必要なので保存しておくとよいでしょう。 File > “Export reflection table” から保存できます。

Vesta で出力される Reflection Table の見方.

計算された Zn2(dobdc) の回折パターンと反応生成物の回折パターンを比較

上で計算された回折パターンと実験データをプロットして見比べてみましょう。このとき見やすいようにy 軸をスケーリングしたり平行移動します。さらに Reflection table から得た回折角 2θ の値を利用すれば、観測される可能性があるBragg ピークの位置を小さな縦棒や三角の矢印で印付けすることができます。具体的には、Bragg ピークの 2θ を x として、それに対応する y 値に適当な定数例えば -10 などを与えてその (x,y) を散布図としてプロットし、縦棒の記号を与えます。一例として excel を使った場合の PXRD パターンのプロットの仕方を下に示してみました。Excel のデフォルトの設定だと素人感が出てしまいますが、うまく色や線の太さを調整すれば立派な図ができます (下図)。

Excel で図を作る場合の例.

まとめ

PXRD は固体材料研究においては日常的に利用される手法で、目的の構造の固体が得られたかどうかを素早く確かめるのに役立ちます。一方で、放射光設備などを利用して、高い品質のデータを取得することで構造を精緻化して結合長に関する情報を得たり、in situ 分析で試料環境の変化による構造の変化などを追跡したりすることもできる上級な分析も可能です。

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参考文献

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やぶ

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PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

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