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スポットライトリサーチ

世界最高速度でCO₂からマルチカーボン化合物を合成~電気エネルギーを用いたCO₂の還元資源化~

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第472回のスポットライトリサーチは、大阪大学大学院基礎工学研究科中西研究室)博士前期課程2年の井上 明哲 さんにお願いしました。

電気化学を用いたCO2の還元法は、室温・常圧といったマイルドな条件でも反応を進行させることができることから注目されています。電極でのCO2還元反応はCO2(気体)/電解液(液体)/触媒(固体) から成る三相界面において進行しますが、三相界面は複雑な構造となっています。今回ご紹介するのは、三相界面をマクロスケールで設計することにより、既存の報告を大きく超える電流密度でCO2からマルチカーボン(C2+)化合物を合成したという成果です。
本成果は、英国王立化学会から新しく創刊された
EES Catalysis
誌 原著論文およびプレスリリースに公開されており、EES Catalysis 誌 創刊号の最初のarticleとFront Coverにも選ばれています。さらに日刊工業新聞TECH+日経クロステックと幅広いメディアに取り上げられています。

Ultra-High-Rate CO2 Reduction Reactions to Multicarbon Products with a Current Density of 1.7 A Cm−2 in Neutral Electrolytes
Inoue, A.; Harada, T.; Nakanishi, S.; Kamiya, K. EES Catalysis, 2023, 1, 9–16. DOI: 10.1039/d2ey00035k

研究を指導された神谷和秀 准教授から、井上さんについて楽しいコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

井上君はB4として当研究室に配属されてわずか2年足らずで、世界最高の反応速度で駆動するCO2電解系の開発に成功しました。我々、材料化学者はどうしてもナノレベルでの原子・分子設計で課題解決を図ろうとするのに対して、井上君はよりマクロな三相界面の設計こそが高速化への肝であることを看破しました。多くの化学反応系やエネルギー変換系が時間的・空間的に複数の異なるスケールにまたがって動作していることを考えると、俯瞰的視点で事象をとらえることができるこの能力は井上君にとって大きな武器になると思います。先輩・後輩にも慕われている研究室のムードメーカーで、博士後期課程進学後もたくさんの成果をだして、一流の研究者になってくれるでしょう。

ここまでは褒めちぎってきましたが、これらは井上君の人となりの一側面でしかないのも事実です。本来は大変面白い学生で、この文章を書くにあたっても、持ち上げなくてよいからできるかぎりいじってくれとお願いしてくる始末です。どうしようかと思いながらふと学生の居室を見ると、井上君が後輩からため口で話されています。さては、後輩に慕われていると見せかけて、先輩後輩間の垣根を取り去り、いじってもらいやすくしている、ということでしょうか。さすが、有言実行ですね。でも、私の文章力では、井上君の面白さをこれ以上は表現できそうにありません。百聞は一見に如かずということで、大学や学会で見かけた際はぜひ声をかけてあげてください。きっと、すごく面白い返しをしてくれるはずです。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

持続可能な社会の構築を目指し、CO2資源化技術の発展が強く望まれています。特に再生可能エネルギーを駆動力としたCO2の電解還元は、クリーンかつ常温常圧で進行することから大きな注目を集めています。その社会実装にあたっては、付加価値の高い化合物を高速かつ高選択的に合成できる反応系の確立が不可欠です。近年は銅触媒をガス拡散電極に担持することで、高付加価値なマルチカーボン(C2+)化合物 (エチレン、エタノールなど)を高速(高電流密度)で合成する試みが活発になりつつあります。しかしながらそのCO2変換反応場は、CO2(気体)/電解液(液体)/触媒(固体)からなる三相界面(図1)であり、その構造の複雑さ故に反応速度と選択性の両立には課題が残されていました。

図1. 電気化学CO2還元セルの概略図(右)と反応が進行する三相界面(左)

本研究では、三相界面をマクロスケールで精密に設計することでその構成材料のポテンシャルを最大限に発揮することを試みました。具体的には、金属銅ナノ粒子からなる触媒層の多孔性や厚みを制御して三相界面の面積を拡大することで、高電流密度と高選択性の両立が可能な三相界面を構築しました。その結果、電流密度の上昇に伴ってC2+化合物の選択性が上昇する反応系の確立に成功しました(図2 a)。C2+化合物生成に関わる電流密度は中性電解質中で1.7 A/cm2、アルカリ電解質中で1.8 A/cm2となり、共に世界最高値を示しました(図2 b, c)。

図2. (a)電流密度に依存したC2+化合物生成の選択性 (b)中性および(c)アルカリ電解質中におけるC2+化合物生成の電流密度と選択性ならびに既報との比較

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

CO2の電解還元は世界から大きな注目を集める研究分野ですが、裏を返せば世界中にライバルがたくさんいるということになります。そのような状況の中で、どのように独自性・特異性を見出していくかという点に関してよく考えました。当分野における従来の研究指針は触媒をはじめとしたナノスケールでの新規材料設計でした。もちろん個々の電極材料を精密設計することも重要ではありますが、私はそれらが共存して機能する三相界面の設計が本反応系の活性を大きく左右するのではないかと考えました。そこで私は三相界面の構成材料をマクロな視点から適切に配置することで(触媒層の多孔性やその厚み)、それら電極材料のポテンシャルを最大限に発揮することを目指しました。本研究において、一般的な材料を用いた場合でもそれらを調和的に機能させることで世界最高のC2+生成速度を達成できた点は、当分野の今後の研究指針に新たな視点をもたらすことができたのではないかと感じています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

電極作製過程では幾度となく壁にぶつかりました。本研究で設計した三相界面は極めて絶妙なバランスで成り立っているものであり、触媒の分散状況や触媒を電極に担持する手加減で実験結果が大きく変わってしまうことが多々ありました(うまく電極を作製できない時期には100個近い失敗電極でデスクが満タンになっていました、、、)。そのような状況でも、毎日試行錯誤して電極の作製と実験を繰り返す中でコツを掴み、再現良く電極を作製できるようになりました。もちろん数値的な要素(温度、速度、量など)を正確に設定することは重要なのですが、最終的には自分の感覚・直感的なところが肝心であると感じました。日々の研究生活の中には多様な意見・知見が溢れていますが、その研究に一番精通している自分の感覚・価値観こそ、最も大事にすべき点であると考えています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

今後は博士後期課程に進学して化学をベースに様々な技術や知識を習得し、将来は社会実装に近い立ち位置で研究活動に携わりたいです。科学技術は社会生活に活かされてなんぼだと考えています。また、地球温暖化現象をはじめとしたエネルギー関連問題の解決・打開にあたっては、化学の力が不可欠です。様々な分野に触れることで視野を広げ、どのような技術や戦略がエネルギー・環境問題に対して必要なのかを考えていきたいです。学生という立場である現在においても、「自分の研究がどのように社会で活かされるのか」を意識していることは重要だと感じています。日々の実験は研究室スケールで進んでいきますが、常にその先を見据えて研究を進め、将来は化学を武器に社会生活を豊かにできるような仕事をしたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

自分はまだ研究活動をスタートさせて3年ほどしか経っていない駆け出し者ですが、研究者としての醍醐味は自分の興味・関心を自らの手で開拓できることだと感じています。日々の実験では期待したデータが得られないことが大半ですが、それでも自分の思うように手を動かす・ひとまず挑戦してみる日々はとても楽しいです。これからも楽しく研究に取り組む姿勢を忘れずに、研究活動を遂行していければと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。我々の研究に少しでも興味を持っていただけると幸いです。学会などでお会いした際にはお声がけいただけると嬉しいです!

最後になりましたが、本研究を遂行するにあたって日々ご指導くださった神谷和秀准教授、中西周次教授に深く感謝申し上げます。先生方が自分達学生の意見や挑戦を尊重してくださるおかげで、日々の研究活動を意欲的に遂行することができました。また、このような研究紹介の場をくださったChem-Stationスタッフの方々に御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前:井上 明哲 (いのうえ あさと)
所属:大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻 中西研究室 博士前期課程2年
略歴:
2017年3月 大阪府立北野高等学校 卒業
2021年3月 大阪大学基礎工学部化学応用科学科 卒業
2021年4月-現在 大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻 在学

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大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

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