みなさんこんにちは。ケムステ代表です。久々にまともに記事を書きます。
さて、表題の通り、6月後半から7月前半にかけてエストニアの首都・タリンに行ってきました。
「え? タリンってどこ?」と思われる方も多いでしょう。バルト三国の一つ、エストニアの首都です。Skypeや電子政府などで知られるIT立国として有名な都市ですね。
今回は、そこで開催されたBOS2026という国際学会で招待講演をしてきました。主催者からも「ぜひ日本の化学者にこの会議を紹介してください」とお願いされたので、その魅力も含めて紹介したいと思います。
BOS2026とは
「BOS」と聞いて、「ああ、BOSSね」と思った方もいるかもしれません。
それはおそらくBelgian Organic Synthesis Symposium(BOSS)の方です。ベルギーで2年に1回開催される有機合成化学の国際会議ですね。BOSの主催者もいつもBOSSと日程が被らないようにして、意識しているらしいのでその認識は間違っていないと思います。
今回参加したのはそちらではなく、BOS(Balticum Organicum Syntheticum)。バルト三国(エストニア・ラトビア・リトアニア)が主催する有機合成化学の国際シンポジウムです。2年ごとに開催され、タリン、リガ、ビリニュスの3都市を持ち回りで開催されています。
昨年の春に、「ぜひ講演に来てほしい」という招待をいただきました。もともとタリンには一度行ってみたいと思っていたので、二つ返事でOKしました。
……はい、実は僕も最初はBOSSと勘違いしていました(笑)。
ホームページを見て、「なんだか雰囲気が違うな?」とは思っていたのですが、深く気にしていませんでした。ところが調べてみると、実はとても歴史があり、由緒正しい国際会議であることが分かりました。
この会議は、有機リチウム化学などで世界的に知られる故Victor Snieckus教授の提唱により2000年に始まりました。Snieckus先生はリトアニア生まれで、幼少期にカナダへ移住していますが、「故郷の有機化学を世界につなげたい」という思いから、この会議の創設を後押ししたそうです。
また、今回私と綿密に連絡を取ってくださったJaan Pesti氏も、長年BOSの運営を支えてきた中心人物です。Merck & Co.、Bristol-Myers Squibb、AstraZenecaなど世界的な製薬企業で、プロセス化学や医薬品開発に長年携わってきたベテランの有機化学者です。
さて、「これまで日本から誰が講演していたのか」を調べてみたところ、少し驚きました。実際に講演で使ったスライドがこちらです。

このメンバーを見て「おっ」と思えた人は、かなり有機化学に詳しい方ですね。
スライドにもある通り、日本からの招待講演者は2014年以来おらず、実に12年ぶりでした。
正直なところ、「なんで僕?」という気持ちは最後までありました(笑)。
まあ、その理由については後ほど書きます。
タリン到着から講演まで
出発は6月27日。
実は前日にしこたま飲んでいたので(笑)、20時間を超える長旅でしたが、ビジネスクラスだったこともあり、ほとんど寝て過ごしました。
今回は羽田 → フランクフルト → タリンというルート。
フランクフルトに着いた瞬間、「なんだこの暑さは!?」と思ったら、ちょうどヨーロッパ恒例の熱波が到来しており、外は40 ℃を超えていたそうです。空港内までかなり暑く、「本当にドイツか?」と思うほどでした。
そこから乗り継いで約2時間。ようやくタリンに到着です。ホテルに着いたのは夜1時頃。ドア・ツー・ドアでは20時間以上の移動でした。
空港には、タリン工科大学の研究員である、Aleksandra Murreさんが迎えに来てくれていました。夜中に女性スタッフが一人で空港まで迎えに来てくれるあたり、「タリンは本当に安全な街なんだな」と実感しました。空港からホテルまではタクシーでわずか10分ほどです。実は当初、私は学会当日の深夜に到着する予定でした。しかし主催者から「前日に来てほしい」とお願いされたため、翌日は完全にフリー。スライドでも作ろうと思っていたのですが、はやめに完成したので、せっかくなら街を歩こうということで旧市街(Old Town)へ向かいました。
ホテルから歩いて20分ほどで到着します。
石畳の道、中世の建物、教会の塔……まさに「ザ・ヨーロッパ」といった街並みで、歩いているだけでも十分楽しめます。
「一人で夕飯でも食べようかな」と思っていたところ、Aleksandraさんが「時間があるなら案内しますよ」と合流してくれることになりました。
連れて行ってもらったのはTexasというレストラン。
「ヨーロッパでTexas?」と思いましたが、その名の通りアメリカ料理のお店でした(笑)。エストニアのビールを飲みながら、その後はコロナとミックスしたフローズンマルガリータまで飲み始め、すっかり旅行モードです。
さらに、「これは絶対全部は食べられないよ」と勧められた激辛チキンウィングにも挑戦。
……確かに全部は無理でした(笑)。
- コロナ+フローズンマルガリータ
- めちゃ辛いチキンウィング
- なぜかテキサススタイル
Aleksandraさんは5月に日本を旅行したそうで、日本の話やエストニアの話で盛り上がりました。公衆トイレが印象的でたくさんまわったと笑、とても気さくで面白い方で、初日から楽しい時間を過ごすことができました。
ホテルへ戻ったのは23時過ぎ。部屋の窓から外を見ると、この景色です。

そう、ここは北欧。
夏は白夜に近く、朝4時頃にはもう明るくなり、日が完全に沈むのは24時近くです。時間の感覚がおかしくなりますが、外を歩ける時間がとても長いので、夏の北欧は本当に魅力的だと感じました。
こうして、20時間を超える移動と観光を終え、タリンでの最初の一日は終了。ベッドに入ると、さすがにぐっすり眠ることができました。
講師のセレクションと講演当日
シンポジウム初日は午後からスタートでした。講演前に、今回座長を務めてくださった Prof. Edvinas Orentas と話す機会があり、「なぜ私を招待してくれたのですか?」と聞いてみました。
私はてっきり過去の招待講演者からの推薦だと思っていたのですが、返ってきた答えは意外でした。
「最近は日本から講演者を招待していなかったこと」と、「論文がとてもユニークで面白かったこと」が大きな理由だったそうです。
海外で招待講演を目指している方の参考になるかもしれないので、話を聞いて感じたことをまとめてみます。
- 国際プレスリリースは意外と見られている。
私たちからすると「この図で本当に伝わるのかな?」と思うような、イラスト中心の国際プレスリリースがありますが、実際にはそうした記事をきっかけに講演者を探しているようでした。 - 国際的な賞の受賞歴もプラスになる。
私は Mukaiyama Award を受賞していますが、今回の招待講演者である Christina、Martin、Richmond も同じ賞の受賞者でした。もちろん受賞歴だけで決まるわけではありませんが、一つの指標として見られている印象を受けました。 - もちろん人的ネットワークも重要。
今回はそうではありませんでしたが、これまでの海外招待講演を振り返ると、「知り合いが呼んでくれる」というケースはやはり多いです。研究内容に加えて、国際学会で継続的に交流することの大切さを改めて感じました。
というわけで、自分がこれまで意識してきた方向性は大きく間違っていなかったようで、少し安心しました(笑)。
開会式の後、いよいよ私の講演です。
驚いたのは、座長が5分近くかけて非常に丁寧に紹介してくださったこと。研究だけでなく、なんと Chem-Station の活動まで紹介してくださいました(笑)。
最近は自動翻訳の精度もかなり高くなっているので、日本語で発信していても海外の研究者が目を通す機会は以前よりずっと増えているのかもしれません。
約1時間の講演は無事終了。内容としては「ぼちぼち」といったところでしょうか。
その後、Oliver の講演が終わるとウェルカムレセプションへ。
講演直後だったこともあり、30人以上の研究者が話しかけに来てくれました。初対面ばかりの国際会議では、初日や早い時間帯に講演すると一気に顔を覚えてもらえるので、本当に有利だと実感しました。
そんなこんなで、シンポジウム1日目は終了。
その後のディナーやポスターセッション、合間の観光や、バンケットなどについては、後編で紹介したいと思います(そういって後編はいつになるかわかりませんが)。
































