立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や医薬化学を学ぶうえで欠かすことができない.しかし,平面の構造式から分子の立体的なかたちをイメージすることは,多くの初学者にとって大きな壁となる.
本書は,立体化学および関連する有機化学の基礎知識を分かりやすく解説した入門書である.基礎的な事項に加え,立体化学の視点から見た反応機構や生体分子との関連などについても理解を深めることができる.さらに,随所に分子模型の組み立て写真を掲載.本書を読み進めながら,実際に分子模型を組み立て,動かすことで,立体配置や立体配座に関する知識を体得することができる.
構造式を三次元的に読み解く力を身につけ,立体化学の基礎を固めるための一冊.
書誌情報
| 著者 | 忍足 鉄太 著 高橋 秀依 著 夏苅 英昭 著 |
|---|---|
| 発行元 | 丸善出版 |
| ジャンル | 化学・化学工学 > 有機化学 > 基礎有機化学 |
| 出版年月日 | 2026/07/27 |
| ISBN | 9784621312995 |
| 判型 | A5 210 × 148 |
| ページ数 | 144ページ |
対象
大学1・2年生 程度 (初学者向け)
目次
はじめに
第1章 立体化学トピック小史
第2章 異性体と立体化学
2-1 異性体とは
2-1-1 構造異性体
2-1-2 立体異性体
2-2 光学活性
2-3 軸不斉と面不斉
第3章 アルカン・シクロアルカンの立体配座
3-1 立体配座異性体
3-1-1 エタンの立体配座
3-1-2 ブタンの立体配座
3-2 シクロアルカンの立体配座
3-2-1 ひずみのあるシクロアルカン
3-2-2 シクロヘキサンの立体配座
3-2-3 一置換シクロヘキサンの立体配座
3-2-4 二置換シクロヘキサンの立体配座
第4章 立体配置を理解する
4-1 絶対配置の表示法
4-1-1 Cahn-Ingold-Prelog則(CIP則)
4-1-2 R,S表示法による絶対配置の決定法
4-1-3 フィッシャー投影式
4-2 不斉中心が複数ある分子
4-2-1 ジアステレオマー
4-2-2 メソ体
4-3 その他のジアステレオマー
4-3-1 シス形とトランス形
4-3-2 E, Z表示法
第5章 置換反応
5-1 有機化学反応の分類
5-2 求核置換反応の分類:SN2反応とSN1反応
5-3 SN2反応と立体化学
5-4 SN1反応と立体化学
5-5 SN1反応のエネルギー図
5-6 SN2反応とSN1反応の起こりやすさと競争反応
第6章 付加反応
6-1 アルケンへの求電子付加反応の三つの類型
6-2 カルボカチオン中間体を経由する付加反応
6-3 syn付加
6-3-1 接触水素化反応
6-3-2 ヒドロホウ素化反応
6-3-3 酸化オスミウム(Ⅷ)によるジヒドロキシル化反応
6-3-4 ペルオキシカルボン酸によるエポキシ化反応
6-3-5 syn付加に分類されるその他の反応
6-4 anti付加
第7章 脱離反応
7-1 脱離反応の類型
7-2 E1反応
7-3 E2反応
7-4 E1cB反応
7-5 置換シクロヘキサン誘導体の脱離反応
第8章 糖の立体化学
8-1 単糖類と構造式の表記法
8-2 二糖類
8-3 多糖類
第9章 アミノ酸・タンパク質の立体化学
9-1 アミノ酸と構造式の表記法
9-2 ペプチド結合とペプチドの立体構造
概要
立体化学に関する項目はマクマリーやウォーレンなど有機化学の教科書でも扱われているが、本書はそれら教科書の立体化学に関する部分の初歩にフォーカスし、初学者にも分かりやすくまとめたものである。理系の大学 1・2 年生や、CBT・国家試験を控えた薬学生などに読んでもらいたい1冊。化学部の高校生にもオススメできる。
A5 版で全体 144 ページとコンパクトであり、でかくて分厚い有機化学の教科書と異なり電車内などでも読みやすい。
第1章〜第4章までは立体化学の基礎、第5章〜第7章は立体化学が関与する有機反応について、第8・9章は立体化学の理解が外せない生体分子 (糖・アミノ酸・タンパク質) についての概略がそれぞれ書かれており、立体化学の学習がいかに有機化学の理解へ繋がるかを段階的に理解することができる構成となっている。
参考ページ1: シクロヘキサンの立体化学 |
分子模型を活用しよう!
本書を読み解く上で確実に役立つアイテムが、HGSの分子模型セットである (関連ケムステ記事も参照されたい)。
3次元構造を二次元の媒体上で理解することはやはり相当な慣れが伴う。文章と絵で理屈は理解できても、まさに百聞は一見に如かずであり、どの結合が空間的にどの位置に配置されているか、どんな異性体が存在するのかなど、分子模型を組み立てれば瞬時に理解できることであろう。丸善出版からは目的や学習度に応じた各種分子模型が発売されているが、本書のお供としては上記リンクにあるHGS立体化学学生用セットをお勧めする。分子模型は初学者のみならず、有機系の研究室でも必須のアイテムであり、本記事の筆者も研究室で日々にらめっこしている。学生にとってそれなりに値段は張るが、価格以上の価値があると思ってぜひ用意してもらいたい。本書の練習問題にも分子模型を組み立てるものが多く登場する。
参考ページ2: 分子模型を活用する練習問題 |
重点学習ポイント
本書の肝は第2章〜第4章に集約されると感じた。置換反応、付加反応、脱離反応など各種反応は、まず立体化学の基礎をしっかりと理解した上で学習するのが望ましいからである。基礎的な有機化学の定期試験や薬剤師国家試験で出題される立体化学に関する問題は、CIP則やR,S 配置の基礎が分かっていれば難なく解けるものである。そのためには基本事項をバッチリ叩き込む必要がある。分子模型を活用しつつ、立体化学の感触に慣れていってほしい。
本書では軸不斉や面不斉などにも軽く触れられているが、あくまでメインは基礎的な立体配座や投影式、絶対配置などに割かれている。それらを反復学習することによって立体化学の基礎を身につけ、そして上位の教科書や専門書に進むことを推奨する。
感想
初学者が躓きがちな立体化学に関する重点ポイントを要領良くまとめ、読み返しやすい構成にしてある点が良い。「はじめの一歩」と銘打っているが、化学を教える側に立っていても、要点が集約されており教材や試験問題を作る上で参考になる一冊である。一方で、演習問題の数にはやや物足りなさも感じた。その辺りは分子模型を活用して、さまざまな分子を組み立てながら自身で工夫して補ってほしい。
立体は有機化学の本質でありながらも、独立したトピックであり、応用のための理解には相当な学習量を有する。ぜひ、本書と分子模型を手に取り3次元的な有機化学に親しんでいってほしい。





























