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一般的な話題

始めよう!3Dプリンターを使った実験器具DIY:3Dスキャナー活用編

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前回は、念願のフラスコホルダーを作成しましたが、まだまだ物足りないのでより複雑なガラス器具のホルダー作りに挑戦しました。

復習

この3Dプリンターを使った実験器具DIYシリーズでは、他の人のモデルを流用するところから始まり、Fusion 360をある程度使いこなすところまでを紹介しました。良い具合の三ツ口フラスコのホルダーを完成させて当初の目的は達成しましたが、もう少し何かできないかと思い、より複雑なガラス器具のホルダーを作ることとしました。

題材

立てて置くことがナスフラスコより難しいガラス器具として思い浮かんだのは梨フラスコでしたが、前回の習得した技術でホルダーを作ることは可能だと考え、より複雑な下のガラス器具を題材としました。

題材のガラス器具

こちら、梨フラスコにU字形連結管と分留管、ト字形連結管が接続された器具のようです。某海外サイトでインパクト重視で購入しましたため、正直どんな時にこれを使うのか分かりません。器具については不明な点が多いですが、こちらをを自立させる台の製作にチャレンジしました。

3Dスキャナーについて

ナスフラスコのホルダーでは、写真を撮影してそれをFusion 360に取り込み、形を合わせて造形物を作りましたが、今回は対象物がやや複雑な形状をしていることから、3Dスキャナーを使用してガラス器具丸ごとFusion 360に取り込むことを行いました。

今回はRevopoint MINIという機種の3Dスキャナーを使用しました。3Dスキャナーは、3Dプリンターほど一般的ではなく機種もたくさんあるわけではありません。スキャン精度や価格などでこちらの機種を選択しました。

フラスコの3Dスキャン

フラスコの3Dスキャンに関して2点ほど工夫した点があります。1点目はガラスのスキャンする方法で、3Dスキャナーはレーザー光を使って表面の形状を読み取りますが、ガラス器具はレーザー光を透過してしまうため上手くスキャンすることができません。そこで、クラフトテープを巻いて不透明にしてスキャンしました。

クラフトテープを巻いた様子

3Dスキャナー用の反射防止スプレーも販売されていますが、ガラス器具は実験で使用する物であるため、テープを巻く方法を採用しました。

工夫した2点目は立たせる方法であり、3Dスキャンでは上記のデモ動画の通り、360度全方向から撮影する必要があります。しかし、こちらのフラスコは単体では立たせることができないため、スキャンすることが難しくなっています。テープで貼り付けたり空箱に載せたり、吊るして自分が360度回って撮影したりといろいろ試しましたが、中々うまくいかず最終的にはラップの芯を口に差し込み2点でステージに固定する方法をとりました。

回るステージの上に立たせた様子、ゴムの粘着物質が付属していてモデルを貼り付けることができる。

スキャン操作は簡単でスタートボタンをクリックすると、スキャンが始まり画面上に対象物がスキャンされていきます。小型の物体をスキャンする場合には、回転するステージにおいてスキャナーを三脚で固定すれば撮影ができますが、フラスコは位置固定でスキャンすることができないので、手で持って360度撮影したら少しZ方向の位置をずらして撮影を続けます。動き幅が大きいと物体の位置関係をシステムが追跡できなくなるのでゆっくり動かす必要があります。。

苦労しながらもフラスコが画面上に組みあがったときは感動しました

撮影の様子、青い光が照射しているレーザー光

Fusion360を用いたホルダーの作成

フラスコのモデルが出来たのでFusion360に取り込んでホルダーのデザインに取り掛かりますが、オリジナルのモデルデータは70 MB以上ありそのまま取り込むと動作が不安定になるので、3Dスキャナーに付属しているソフトで圧縮してから取り込みました。

モデルを編集できるRevo Studio、Simplifyでポイントを減らしてファイルサイズを低くできる。10%に減らしても画面上では変化が見えなかった。フラスコ上部は、必要ないのでスキャンしなかったため不完全な構造となっている。

取り込み後に移動と回転でフラスコを原点に移動させます。

「アップロード」でモデルを取り込み、「現在のデザインに挿入」別作業シートに置くことができる。

フラスコの3DモデルをFusion 360の編集画面に乗せた様子

ここからいよいよホルダーを作っていきますが、戦略としてはナシフラスコに受け部を作り、その右にU字形連結管の折れ曲がったところを下から支える部分を加えることで安定させようとしました。

まずナシフラスコの受け部から作っていきますが、ナスフラスコと同じように輪郭をスケッチでトレースし回転でフラスコ全体を支える構造を作りました。

スケッチでナシフラスコの形に合わせてフィット点スプラインで線を引く(ここではまだサイズがおかしいことに気づいていない。)

スケッチの回転で作ったフラスコ部の受け

次に折れ曲がった所の支えですが、フォームという技法を使用しました。これは3Dモデルを点と線で表しそれを編集する方法で、これまで紹介してきたソリッドよりも自由にモデルを作ることができます。

(フォームでは操作一つ一つが記録されないので記事のためにモデルを作り直しました。そのため細部が異なる場合があります。)

まずスケッチで折れ曲がった部分をトレースします。

スケッチでのガラス管の曲がりのトレース

つぎにスケッチの線を押し出して曲がった所を支える面を作ります。

フォームでの押し出し

出来た面や線を部分的に動かすことできるので、フラスコに合わせて微調整します。

端の線を動かして面の拡張する

フォームの面がフラスコのモデルとぶつかるとはみ出して表示されるのでギリギリを攻めるのも簡単です。

形をガラス器具に合わせる。

次に管に合わせて折り曲げるので、エッジの挿入でフォームを三分割にします。

エッジの挿入で折り返すための線を追加する

端の線を上に押し上げてガラス管を包むようにし、再度位置を微調整します。

端を上に引っ張りガラス管を包むようにする。

両面を上に引っ張ったことでガラス管の面が露出した。

さらに作った曲線に厚みを付けます。

厚みの編集

宙に浮いているので底面に長方形の面を作り、ブリッジと呼ばれる方法で面と面を結合します。これにより曲がった部分を支える土台が出来上がりました。

XY面に作った長方形のフォーム

ブリッジによる面と面の接続

最後に底面にフラスコ部と曲がったところを支える土台を一緒にするための円形を作り完成です。

底面に円の土台を作った様子

慣性モデル

では印刷するためにCuraで作成したモデルのファイルを開いたところ。。。。

中東の直方体が印刷可能サイズ、左下にこのモデルの大きさが表示されている。

モデルが巨大すぎる・・・・

実はよくあるエラーの様で、3DデータをFusion 360で読み込むとmmがcmになってしまい、10倍大きくなってしまいました。

もう一度、Fusion 360にフラスコのモデルを読み込み単位をmmとすると正しいサイズとなりました。モデルを作り直すのは面倒なので尺度という機能で書くモデルを10%の大きさに縮小し、位置を合わせて完成させました。

尺度によってモデル全体の大きさを変える

実際に印刷してフラスコを乗せてみるとバッチリフィットしました!

完成品

欲を言えば、もう少し曲がったところをタイトにしても良かったかもしれませんが、揺らしてもフラスコが落ちることはありません。

別角度での写真

今回は、3Dスキャナーを使ってフラスコをパソコンに取り込み、パソコン上で形を合わせてホルダーを作りました。写真を複数撮って合わせることもできたかもしれませんが、3次元で合わせることができ手間を省けたと思います。

これでひとまず、3DプリンターのDIYシリーズは終わりです。3Dプリンターでの自作はコスパが良いとは思いませんが、世界に一つだけの器具を作る楽しさがあります。Fusion 360も少し技術を習得すれば、応用が効いて幅広いモデルを作ることができます。器具のDIYについてご相談がありましたらSlackにてお気軽にご連絡ください。

関連書籍

3Dプリンターを使った実験器具DIYシリーズの過去記事

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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