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日本人化学者インタビュー

宮田 潔志 Kiyoshi MIYATA

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宮田 潔志(みやた きよし、1986年-)は、日本の物理化学/分析化学者である。九州大学大学院理学研究院化学部門准教授。超高速レーザー分光・時間分解振動分光を駆使し、有機半導体、有機発光材料、有機-無機ハイブリッド半導体、希土類発光材料などの光励起状態における電子・構造・スピンダイナミクスの解明を研究している。近年は、新しい時間分解分光・多段階励起分光法の開発や、フロー系を用いた時空間分解分光へも研究を展開している。第63回ケムステVシンポ講師

経歴

2009年 京都大学理学部 卒業
2011年 京都大学大学院理学研究科化学専攻 修士課程修了
2015年 京都大学大学院理学研究科化学専攻 博士後期課程修了、博士(理学)(松本吉泰 教授)
2015年4月-2018年1月 米国 Columbia University, Department of Chemistry 博士研究員(X.-Y. Zhu 教授)
2016年4月-2018年1月 日本学術振興会 海外特別研究員
2018年2月-2022年12月 九州大学大学院理学研究院化学部門 助教(恩田 健 教授)
2022年12月- 九州大学大学院理学研究院化学部門 准教授

受賞歴

2018年 複合系の光機能研究会 優秀講演賞・JMC A Prize講演賞 「有機-無機ハイブリッド鉛ハライドペロブスカイト半導体の光励起構造ダイナミクスと電子物性」
2020年 第14回 PCCP Prize(Royal Society of Chemistry/日本化学会)「Direct Observation of Ultrafast Electron/Structural Dynamics of Molecule-based Semiconductors for Optoelectronics」
2020年 令和2年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞 「新規有機光機能性材料の光励起ダイナミクスの研究」
2022年 第15回 分子科学会奨励賞「超高速分光を利用した有機光機能性材料の電子・構造ダイナミクスと機能発現メカニズムの研究」
2024年 化学コミュニケーション賞2023(日本化学連合、山口潤一郎・生長幸之助と共同受賞)「化学系バーチャルシンポジウムの開拓と実践」
2025年 Asian Young Scientist Fellowship 2025

研究業績

宮田は、光を吸収した物質の中で電子・分子構造・格子・スピンがどのように時間発展し、それが物質の光機能へどのようにつながるのかを、フェムト秒からミリ秒にわたる時間分解分光から研究している。特に、電子状態だけでなく、分子振動や構造変化を実時間で捉えることによって、光機能材料における「電子-構造ダイナミクスと機能の相関」を明らかにすることを研究の柱としている。

分子振動と協奏する超高速シングレットフィッション[1]

シングレットフィッション(singlet fission)は、一つの一重項励起子から二つの三重項励起子を生成する過程であり、太陽電池の光電変換効率を理論限界以上へ高める手法として注目されている。

宮田らはルブレン単結晶を対象にフェムト秒過渡吸収分光と量子化学計算を組み合わせ、従来知られていた熱活性化型のシングレットフィッションとは別に、100 fs程度の時間スケールで進行するコヒーレントな反応経路を見いだした。この超高速過程では、分子間の対称性を破る特定の振動モードが電子カップリングを活性化し、励起状態ポテンシャル面上の円錐交差へ系を導くことを示した。すなわち、「分子の振動」が単なる熱浴ではなく、電子反応を選択的に駆動する反応座標として働くことを実験的に示した研究である。

ハイブリッドペロブスカイト中のラージポーラロン[2,3]

博士号取得後のコロンビア大学では、有機-無機ハイブリッド鉛ハライドペロブスカイトの優れた光電変換特性の起源を研究した。

鉛ハライドペロブスカイトは結晶性半導体でありながら、非常に柔らかい格子や大きな誘電応答を示す。宮田らは超高速分光を用いて、光励起によって生成した電荷キャリアの周囲で結晶格子が変形し、ラージポーラロンが形成される過程を実時間で観測した。この格子変形に伴う誘電遮蔽によってキャリアが欠陥や他のキャリアとの相互作用から保護されることが、ペロブスカイトの優れた光電子特性の一因であることを示した。

さらに、鉛ハライドペロブスカイトが「結晶としてのバンド輸送」と「液体に近い誘電・格子応答」を併せ持つことに着目し、これをcrystal-liquid dualityとして整理した。この考え方は、電子だけではなく格子ダイナミクスまで含めてペロブスカイトの光物性を理解する枠組みの一つとなっている。

光機能材料の励起状態構造を「実時間で見る」[4–6]

九州大学着任後は、有機EL材料、希土類錯体、分子集合体などを対象に、時間分解赤外分光(TR-IR)や超高速過渡吸収分光を用いて、励起状態における電子状態と分子構造の変化を同時に理解する研究を展開している。

例えば熱活性化遅延蛍光(TADF)材料では、カルバゾール-ベンゾニトリル誘導体についてS₁状態とT₁状態の分子構造を時間分解赤外分光から解析し、S₁-T₁変換に伴う構造変化を小さくすることが効率的な逆項間交差に重要であることを示した。単に一重項-三重項間のエネルギー差ΔE_STだけでなく、励起状態間の構造的な近さがTADF機能を支配することを明らかにした研究である。

希土類発光材料については、Eu(III)錯体などで配位子が吸収した光エネルギーが希土類イオンへ移動する一連の過程を時間分解分光によって追跡し、複数の電子状態を介するエネルギー移動経路を明らかにしている。

さらに2025年には、Al(III)二核三重らせん錯体について10 fsの超高速分光を用い、光励起後にJahn–Teller歪みに伴って励起状態が局在化する過程をコヒーレント分子振動として直接観測した。分子対称性が光励起後に時間発展し、それが電子状態の局在化や発光特性を制御することを示した。

近年はさらに、従来のpump–probe分光だけでは直接測定しにくい素過程の速度定数を取得するため、多段階励起分光、二次元分光、広い時間・空間スケールを統合した新しい分光法の開発へ研究を展開している。特に、フロー化学と分光を統合した研究も展開している。[7]

2026年度からは学術変革領域研究(A)「フォトキネティシズム」において、「マルチスケール時空間分解分光による未計測速度定数の精密計測」を進めている。

コメント&その他

研究活動に加えて、科学コミュニケーションにも積極的に取り組んでいる。2018年よりChem-Stationのコアスタッフを務め、2020年からはオンライン光化学セミナー「“光”機到来!Qコロキウム」を主宰している。また、光化学アウトリーチ団体「ピカリかがく」のコアスタッフとして一般向け・高校生向けの科学イベントにも参加している。コロナ禍に行ったオンライン化学シンポジウムの企画・運営は、山口潤一郎、生長幸之助との共同で2023年度化学コミュニケーション賞を受賞した。

関連論文

  1. Miyata, K.; Kurashige, Y.; Watanabe, K.; Sugimoto, T.; Takahashi, S.; Tanaka, S.; Takeya, J.; Yanai, T.; Matsumoto, Y. “Coherent Singlet Fission Activated by Symmetry Breaking.” Nat. Chem. 2017, 9, 983–989.

  2. Miyata, K.; Meggiolaro, D.; Trinh, M. T.; Joshi, P. P.; Mosconi, E.; Jones, S. C.; De Angelis, F.; Zhu, X.-Y. “Large Polarons in Lead Halide Perovskites.” Sci. Adv. 2017, 3, e1701217.

  3. Miyata, K.; Atallah, T. L.; Zhu, X.-Y. “Lead Halide Perovskites: Crystal-Liquid Duality, Phonon Glass Electron Crystals, and Large Polaron Formation.” Sci. Adv. 2017, 3, e1701469.

  4. Saigo, M.; Miyata, K.; Tanaka, S.; Nakanotani, H.; Adachi, C.; Onda, K. “Suppression of Structural Change upon S₁–T₁ Conversion Assists the Thermally Activated Delayed Fluorescence Process in Carbazole-Benzonitrile Derivatives.” J. Phys. Chem. Lett. 2019, 10, 2475–2480.

  5. Miyazaki, S.; Gotanda, M.; Kitagawa, Y.; Hasegawa, Y.; Miyata, K.; Onda, K. “Full Picture of Energy Transfer in a Trivalent Europium Complex with Bidentate β-Diketonate Ligand.” J. Phys. Chem. Lett. 2024, 15, 10718–10724.

  6. Ehara, T.; Yoneda, Y.; Yoshida, T.; Ogawa, T.; Konishi, Y.; Ono, T.; Muranaka, A.; Kuramochi, H.; Miyata, K.; Onda, K. “Dynamic Excited-State Localization Induced by Jahn–Teller Distortion Observed by Coherent Vibrational Spectroscopy.” J. Am. Chem. Soc. 2025, 147, 26446–26455.

  7. Ishii, Y.; Ogawa, T.; Onda, K,; Miyagishi, H.; Ashikari, Y.; Nagaki, A.; Asano, S.; Miyata, K.; “Real-Time Visualization of Turbulent Micromixing in a T-Mixer: Submillisecond Homogenization Revealed by Chemiluminescence” Anal. Chem. 2026, 98, 17926-17936.

関連リンク

 

spectol21

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ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JKJ。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

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